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 廊下に何者かが立っている。

 ドアを破壊した犯人は、無言のまま廊下からヒタヒタと歩いて私たちの教室に入ってきた。

 目の前に現れた同級生の姿に一同絶句する。

 顔には防じんマスク。首には太いゴムホース。胴体は2本のライトのようなものが取り付けてあり、さらにその体には開閉用の赤いバルブハンドルがついている。

 な、なんじゃこれは・・・。人間・・・ではない。

 よく見るとこのバケモノ、吉楽由美と同じ髪型をしている。・・・ちゅうことは、これは由美ちゃんなんだろうか。と、とりあえずファーストコンタクトを試みてみるか。

「もしかしてあなた・・・ゆ、由美ちゃん?」

 恐る恐る聞いてみる。するとモンスターは不機嫌そうに私を睨み付けた。

「ええ、あたしよ京子ちゃん」

 やっぱり由美ちゃんだったか・・・。意地の悪そうな目つきがよう似とる。由美ちゃんは首の部分にある太いホースのようなものをググッと上に曲げ、嬉しそうな目をする。

 彼女のこの醜い姿は、やっぱりあのDr.ボマーとかいう奴のせいなんだろうか。

「京子ちゃん、あんまりあたしを怒らせない方がいいわよ。今あたし、体の芯からパワーが漲って来るの。今のあたしなら、あなたを一瞬でこの世から消す事だってできるわ」

「い、一瞬で?」

「ええそうよ、一瞬よ。・・・いえ、3分ぐらいかしらね」

 どっちなんだ、はっきりしろ。

「何なら今ここでその力をお見せしましょうか?ふふふ」

 由美ちゃんは目を細める。笑っているようである。

「な・・・なぁお前・・・誰なんだ?」

 隣りにいた貴志くんが気味悪がりながら聞く。由美ちゃんは非常にめんどくさそうに、彼を汚物でも見るかのような目で見る。

「あんた誰だっけ?」

「俺か?俺はサッカー部の・・・」

「あ、いいわいいわ。それもう聞いたから」

 彼女の体に取り付けてある2本のライトがピカッ!と黄色く光り、目がくらむほど勢いよくフラッシュする。フラッシュと同時に、貴志くんは気持ちいいぐらいに後方へ吹っ飛んだ。

「んぎゃ!」

 彼は教室のうしろの壁に背中から激突し、そのままバウンドして床に倒れ込んで顔をぶつける。

 貴志くんが吹っ飛ばされたのを見て、弁当を食べていた他の生徒はみんな叫びながら教室を出て逃げていった。

「ぐっ・・・、な、何だ・・・今の・・・」

 貴志くんは鼻から血を流しながら、必死に起き上がろうとしている。だがダメージが大きすぎたのか腕にチカラが入らずなかなか起き上がれないでいる。

「ふふ、さっきドアを吹き飛ばしたのもこのチカラを使ったの。今度はその頭を吹っ飛ばしてやろうかしら。もうちょっと出力を上げるからそこで待ってなさい」

 由美ちゃんの2本のライトが、また妖しく光る。

 ん・・・?今度の色はさっきのと違う。黄色かった色が徐々にオレンジ色に変わっていく。

 色が変わり出すにつれ由美ちゃんを中心に風が吹き荒れ始め、私たちがさっきまで突いていた弁当箱が風の勢いで机から落っこちる。さらに強風で髪が乱れ、目が開けていられなくなる。

 風はどんどん強さを増していき、教室全体が暴風域に入り机も椅子も次々に倒れていく。

「ど、どうなってんだこりゃ!目を開けてられねぇ!」

 貴志くんが絶叫する。確かに凄まじい風である!とてもじゃないが立ってられん!まさか教室の中で台風が起きるとは・・・!

 台風の目となった由美ちゃんは平然とした様子でこちらを見る。

「ふふ。京子ちゃん、死ぬ覚悟はできた?」

 くっ・・・!このままでは・・・殺される・・・!ど、どうする・・・?

 そうだ!こんなときこそ良くんに助けを求めてみよう!彼は言っていた、私の近くにいると・・・!

 まだ良くんは死んではいない。目には見えないが、私は彼がずっと近くにいるのを感じる。必ず私のシグナルを受け取って緊急事態である事を察知してくれるに違いない。

 良くんは見えない世界に消えただけで、まだどこかにいる。私はそれを感じる・・・。

「お祈りは済んだの京子ちゃん?それじゃいくわよ」

 由美ちゃんが目の眩むようなオレンジ色の光をフラッシュさせる。

 来る!

 私は目を閉じ、幼なじみに向けて強く念じてみた。

「良くんお願い!助けに来てっ・・・!」

 無駄だと思いながらも、私は反射的に防御の姿勢をとる。と同時に彼女の体から強烈な衝撃波が放出される。

 あまりに強力な風圧のため机も椅子もすべて吹き飛び、蛍光灯も窓ガラスもすべて割れ、教室の壁や天井、さらに床までもが亀裂が入る。

 ・・・。

 ・・・。

 ・・・。

 ・・・あれ?

 これほどの破壊力のある攻撃を受けたにも関わらず、私の体はピンピンしている。どうしてだろ・・・。

 そうだ、私のすぐ隣にいた2人は・・・?

「2人とも大丈夫?」

 モヤモヤした煙の中で声をかけると、貴志くんは顔を抑えながら返事をする。

「あ、ああ・・・なんとかな。京子ちゃんは?」

「あたしも大丈夫。遥ちゃんは?」

「ムシャムシャ、大丈夫だよ~」

 え、ムシャムシャ?

 遥ちゃんを見てみると彼女はお菓子の袋を持ちながら、口をクッチャクッチャさせている。

「ちょっと遥ちゃん・・・いま食べてるのって・・・」

「ポテトチップ~!京子ちゃんのカバンの中に捨ててあったんだよこれ~!」

「だからそれあたしのだってば!何でこの状況で普通にお菓子食べてんのよ!」

 あの強風の中、どさくさにまぎれて私の鞄を漁っていたというのか。恐るべき食への執念である・・・。

「3人とも無事か?」

 お、この声は・・・。

 上を見ると駅で私を助けてくれたダウンロード型ヒューマノイドなる良くんの贈り物が空中にフワフワと浮かんでいた。彼はお椀形のバリアを張って私たち3人を包み込むようにラップして、衝撃波から守ってくれたようだった。

 どうやら私は衝撃波を受けるギリギリのとこで彼を呼び出す事ができたらしい。ということは遠くの場所にいる良くんに私の想念が届いたという事である。やはり自分には本当に特殊な能力が備わってるみたいである。

「もしかして・・・良?」

 由美ちゃんが空中に浮かぶ彼の姿に驚く。

「由美、お前は悪霊のようなものに憑りつかれている。今のお前は自分の意志で動いているわけではないはずだ。目を覚ませ!」

「あたしが悪霊に憑りつかれてるって?ふん。あなただって存在が幽霊みたいなもんじゃない。まぁいいわ。それじゃあ、あなたに除霊でもしてもらおうかしら。ふふ、できる?そんな事あなたに」

「いいだろう。俺がお祓いしてやる」

 宙に浮かんだまま、彼は右手を由美ちゃんの方にかざす。

 ドンッ!という鈍い音と共に由美ちゃんは弾丸のように吹っ飛び、黒板を貫通して隣りの教室にある机や椅子を薙ぎ倒していく。由美ちゃんが教室に飛び込んできたので隣りの教室にいた生徒たちは一斉に廊下へ逃げて行った。

 破壊された黒板は大きな穴がぽっかり開き、パラパラとコンクリの粉がこぼれ落ちる。

 片手でこれほどまでの威力とは・・・。彼はこれだけのパワーを発揮できるのか。これはなかなか頼りになるわい。

 ・・・む!開いた穴から隣りの教室を伺うと、由美ちゃんが何事もなかったようにまた立ち上がるのが見える。どこにも傷を負った様子はない。

 隣りで一緒に見ていた鼻血の垂れた貴志くんが青ざめる。

「み、見ろよ・・・あいつピンピンしてるぜ。・・・まったく効いた様子がねぇぞ」

「じゃあ、ムシャムシャ、きっと丈夫な子なんだね~」

 遥ちゃんはお菓子を食べながらしゃべる。耳元でクッチャクッチャする音が非常に不快である。こやつ全部食う気じゃなかろうか。

 完全に立ち上がった由美ちゃんはこちらに向き直る。

「これがあなたの除霊の仕方?ふふ、面白いわね。じゃあ今度はあたしの番よ」

 彼女は2本のライトをまた光らせ始めた。

「お、おい!また何かやろうとしてるぞ!何をする気なんだ次は!」

 貴志くんが焦っている間に、光はオレンジ色から徐々に赤色になっていき、色の変化と共に床がグラグラと揺れ出す。こ・・・この地震のような揺れはいったい・・・?

 天井から、コンクリの小さな塊がゴトッゴトッと落ちてくる。それを見て貴志くんはえらく動揺する。

「何だ・・・。何なんだ・・・。何なんだこれは・・・。なあ!何だ!何なんだこれは!」

 お前が何なんだ。黙らないと窓から落とすぞ貴志。

 私は天井を見上げる。

「崩れるのかしら・・・?ここから逃げた方がよさそうね」

 私が提案すると、後ろにいたダウンロード型ヒューマノイドは両手を差し出す。

「よし!みんな、死にたくなかったら俺に掴まれ!」

 何をするのかはわからないが、非常に頼もしい言葉である。ひょっとしたら彼はこの電子世界で唯一頼れる存在なのかもしれない。あとは役立たずの残りカスばかりなので非常に助かるわい。

「うん、わかった!」

 私は命を預けるつもりで急いで彼の左腕を掴む。

 遥ちゃんはお菓子の粉がついた手を、いったんダウンロード型ヒューマノイドの青マントで綺麗に拭いてから彼の右腕を掴んだ。そしてさも当たり前のような顔をして、私のお菓子の袋を持ってムシャムシャ言わせている。・・・ふてぶてしい輩である。

 2人が掴まったのを確認すると、ダウンロード型ヒューマノイドの体が輝き出す。

「しっかりつかまってろ!」

「ま、待て待て!まだ俺が掴まってないって!」

 置いてきぼりにされそうになっていた貴志くんは、急いでダウンロード型ヒューマノイドの足にしがみついた。ぷぷ。貴志くん、完全に忘れられとるわい。

 みんなが彼の体に掴まると、だんだん目の前が真っ白になっていく。騒々しかった音が消え、静寂に包み込まれる。

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