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≪京子ちゃん、起きて……≫
どこからか私を呼ぶ声が聞こえる。
「この声は・・・良くん?」
声がしたので気になって目を開けると、私は映画館の中にいた。
館内の壁には『シアタースピリット』と書かれた看板がある。そう、ここは良くんと一緒に遊びに行ったあの映画館だ。
≪京子ちゃん、キミはここにいてはいけない・・・≫
ここってどこだろ?それより・・・、
「良くん、どこにいるの?あたしならここよ、ここにいるわ」
どこを見渡しても私以外に誰もいない。どこから声が聞こえているのだろう?
私は誰もいない灰色の映画館の館内を歩き回る。あちこちにスキップしているゾンビの宣伝ポスターが貼られている。
フロントにも廊下にも客が誰もいない。いるのは私1人。明かりも無く、とても薄気味悪い。
上映室を見つけたので、その大きな扉を開けて中に入る。すると、ずっと奥に巨大なスクリーンが見える。ふむ、ここから声が聞こえてくるような気がする。
上映室の上部に取り付けられた映画用のスピーカーから声が聞こえてくる。
≪京子ちゃん、目を覚まして。でないとこの世界はやがて・・・≫
目を覚ませとはどういう意味なんだろうか。私はもうとっくに目を覚ましておる。
「良くんお願い、いるなら姿を見せて!」
私は上映室のいろんな方向に向かって大きな声で呼びかける。
私に答えるように、巨大スクリーンに人間の姿が映し出された。だがその姿は、良くんでは無かった。
顔に奇妙なマスクを被った、ネクタイを締めたサラリーマンが立っている。しかもメガネまでしている。
「あ、あなたは・・・?」
私がスクリーンの中の人物に呼びかけようとすると、上映室の照明が一つ一つ消えていく。
ついに最後の照明が落ちてしまい、残っていたスクリーンの映像も消えてしまう。どうやら上映時間が終わってしまったらしい。
急に辺りが真っ暗になり何も見えなくなってしまった。闇の中に私も飲み込まれ、自分がどこにいるのかも分からなくなってしまう。
・・・非常に短い映画鑑賞であった。
「京子ちゃん起きて~」
「おーい起きろー」
・・・?
この聞き覚えのある声はもしかすると・・・。
目を薄っすらと開けてみると、そこには遥ちゃんと貴志くんの姿があった。
「もうお昼だよ~、一緒にお弁当食べよ~」
「おう、一緒に食おうぜぇ」
2人とも・・・。どういう事?
周りを見ると元の教室に戻っていて、私は自分の席に座っていた。
他の生徒はみんなお弁当を食べており、何人かは食堂に行ってしまっていた。そうか、もうそんな時間か。
「京子ちゃん、もしかしてずっと寝てたの~?」
「ははは、いい根性してんなぁ」
貴志くんが豪快に笑う。2人とも昨日と同じセリフである。
遥ちゃんと貴志くんは使っていない椅子を引っ張ってきて、私の机を囲んで弁当を広げる。これまた昨日とまったく同じ行動である。
てことは、やっぱりこの2人もコンピュータプログラムによって動いてたのか。・・・ショックである。
貴志くんが鼻歌まじりで弁当のフタを開ける。いい匂いがするわい。さっそく私も鞄の中からお弁当を取り出し、一緒に食べることにした。
・・・それにしても、さっきの夢は何だったんだろう?頭にヘルメットみたいなものを被ってたのが現れたけど、あれは良くんだったんだろうか。
いや、ヘルメットというより何かの装置だったような気がする。それにメガネまでかけてたし。あれはいったい・・・。
「モグモグ、なぁ京子ちゃん」
からあげを食べながら貴志くんが聞いてくる。
「なに貴志くん?」
「モグモグ、さっきの休み時間のとき良の教室を見に行ったんだけどよ、教室にいたやつが、モグモグ、良は今日来てないって言うんだよ。あいつ風邪でもひいたのか?」
それを聞いて、隣りで箸をつついていた遥ちゃんが目をぱちくりさせる。
「え、そうなの~?おへそ出して寝てたのかな~良く~ん」
お、2人とも昨日とは少し違うことを言い出したな。何から何まで同じことを言うようにプログラムされてると思ったのに。
・・・そうか。
この電子世界の人間は、状況が変わるとそれに合わせてリアクションも柔軟に対応するようになっているのか。私が思っているほどそう単純ではないようだな、この世界は。
「貴志くんの言うとおり、良くんはたぶん風邪じゃないかな」
と、面倒なので適当に言っておく。
「そうなのか。今日は部活が終わったら良も誘って、みんなでカラオケにでも行こうかと思ったんだけどな」
「カラオケ~?遥は歌ヘタだから行きたくな~い。クレーンゲームなら行ってもいいよ~」
「クレーンゲームか。そうか、おし!じゃ、学校が終わったらゲーセンに直行するか!遥の欲しい人形全部ゲットしてやるよ!」
「やった~!遥が欲しいの、ウサギのお人形さんだよ~。他のお人形さんは取ってもダメだからね~」
おいおい、結局また昨日と同じ話に戻るのか。やっぱり与えられたプログラムには逆らえないということか。
む・・・。
お母さんといいこの2人といい、ここまで昨日と同じことが続くとなると、今日もまた由美ちゃんがチケットがどうのこうのと言ってキレながら教室に入ってくるんじゃなかろうな。
やめてくれ。もうあんな目に遭うのは2度とごめんでござる。
いや待て。由美ちゃんはD r.ボマーとかいう、何だかよくわからん者によって玉っころにされてしまったのだ。彼女が教室に来ることは無いと思う。
それに今日は良くんと映画を見に行く約束はしていない。由美ちゃんはその事に腹が立ってこの教室に来たのだから、彼女がこの教室に来る理由が今日はまったく無い。おそらく今回は、安心してお弁当が食べられるはずだ。
そう思い、私はお弁当の卵焼きを口にほおばる。
次の瞬間―――――――、ボンッ!
破裂するような爆音と共に教室のドアが吹き飛ばされた。吹き飛んだドアは教卓にぶつかり、当たった衝撃でグニャリと凹んだ教卓は大きな音を立てて床にぶっ倒れる。
椅子に座って弁当を突いていた私たち3人は、驚いて箸を止めてドアの方に振り向く。




