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バスが駅に着き、電車に乗った後しばらくしていつもの乗り換えの駅に着いた。
・・・あれは確かに良くんの声・・・私に呼びかける声だった。でもどうして声が聞こえたんだろうか・・・?良くんは映画館で消えてしまったはず・・・。
良くんはまだどこかにいるんだろうか・・・?
私は電車から降りて別のホームに続く陸橋の階段を上る。そのときふと昨日のことが頭によぎる。
「そういえば昨日はここで良くんがアメ玉をくれたんだっけ・・・」
昨日のことが蘇り、何だか急にまた悲しくなってしまう。
するとまた耳元で何者かが私に囁く。
≪・・・俺ならここだ・・・すぐ近くにいる・・・≫
え・・・?バスで聞こえたのと同じ声だ。
今度はハッキリと聞き取れた。あれは確かに良くんの声!
「良くん!やっぱり良くんなんでしょ!?」
嬉しくなり、周りを気にせず大きな声で聞き返す。
「ねぇ良くんどこにいるの?いるなら返事をして!」
声が聞こえた天井の方を向いて必死に呼びかけてみる。誰もいなくなった駅の構内に、私の大声が響き渡る。
しかしこれだけの大声にも関わらず、良くんは私の問いかけに答えてくれない。またも構内を静寂が包み込む。
「良くんどうしたの?私の声が聞こえないの?何で答えてくれないの?あたしならここよ!」
答えてくれるまで何度も呼びかけてみる。何度も何度も。そのあと私がいくら頑張って呼びかけても、良くんが反応を示すことはなかった。
でも確かに、私は彼の存在を感じた。良くんは私に呼びかけている。自分が近くにいると、意思表示している。
きっと良くんは完全に消えたわけではなく、まだどこかにいるのかもしれない。
・・・でもどこに?
私がこの容量の少ない脳みそであれこれ考えていると、階段の上の方から聞き覚えのある女の子の声が聞こえてくる。
「良がどうかしたの?」
こ・・・この声は・・・。
声のした方を振り向くと、階段を上った先に由美ちゃんがいた。
彼女はゆっくりとこっちに歩いてくる。私の目の前まで来ると彼女は周囲に目をやってしきりに何かを捜している。
「お、おはよう由美ちゃん」
私が挨拶すると、彼女はようやく私の方に目を向ける。
「おはよう、京子ちゃん。良はどうしたの?今日は一緒じゃなかったの?何でいないの?」
どうやら彼女は、良くんがいないことに少し動揺しているようである。
「京子ちゃん。良は今日、休みなの?」
由美ちゃんはまだ良くんが消えてしまったことを知らないようである。とりあえず休んだことにしておいた方が面倒なことにならなそうな気がする。
「え・・・うん。良くんは休みよ」
私がそう答えると由美ちゃんはニヤリと笑みを浮かべる。
「そう・・・なら、丁度いいわ」
「・・・何が丁度いいの?」
「今日は邪魔が入らないから丁度いいってこと」
彼女はいきなり、教室でしたように私の胸ぐらを片手で締め上げてきた。しかもチカラいっぱい!
「ぐっ・・・!く、苦しい・・・!」
彼女は私をにらみつけながらグイグイ締め上げる。締め上げながら、由美ちゃんは私のことをジッと見つめる。
「・・・間近で見ると、意外と可愛い顔してるわね・・・京子ちゃんて」
思わぬセリフに拍子抜けする。
「へ?・・・そ・・・そう?」
「ええ」
ジロジロ。ジロジロ。由美ちゃんは舐めまわすように私の顔を見ている。
そんなに見るでない。・・・照れるわい。
しばらく見たあと何かを決断したらしく、由美ちゃんは口を開いた。
「やっぱり目を潰す必要があるわね。昨日は良が邪魔してできなかったけど」
なぬっ!
彼女は人差し指を伸ばして、ゆっくりと私の目に近づける。
「この目を潰せば、良はきっとあたしに振り向くはず・・・。でしょ?」
でしょ?じゃない!
そんな訳のわからん理由で、人様の大事なお目めを潰すんじゃない!
「ちょ、ちょっと由美ちゃん・・・冗談よね?本当にするわけないわよね、そんなこと?」
「ふふふ」
由美ちゃんは笑いながら、指を近づけてくる。
いかん!何とかせねば!ええいチクショウ!胸倉をつかまれている以上、身動きが取れん!
ぐぬぬ・・・!なんちゅうチカラだ。ビクともせん!
由美ちゃんの指がもう私のまつ毛に触れかかっている。
あぁ・・・もうダメだ・・・!
諦めかけたその時、頭上に小さな青白い発光体が現れ浮遊する。
「・・・?なによこれ?」
由美ちゃんは不思議そうにその発光体を見上げる。すると急に、胸ぐらをつかんでいた彼女の手がブルブルと震え出す。
「くっ・・・!て、手が言うことをきかない・・・!」
彼女は震えている手を、もう片方の手で押さえる。
由美ちゃんが手をかばっていると、今度は彼女の体がゆっくりと浮上し始めた。
「ちょ、ちょっとなに!?何なのこれ!」
彼女は天井まで一気に浮き上がり、空中で停止する。
ど、どうなってるんだこりゃ・・・。な、何はともあれ、助かったわい……。
「ちょ!ちょっと!下ろしなさい!!」
彼女は宙に浮いた状態のまま、ホームに響き渡るほどの大きな声でわめき散らす。
「しばらくそうしてろ」
その声は・・・良くん?
浮かんでいた謎の発光体はどんどん形を変化させていき、人間の形になった。フワフワと宙に浮いていたその得体の知れない人間は、ゆっくりと地面に着地する。
全身が青く発光して透けており、青いマントをヒラヒラさせている。その見た目は、良くんにそっくりである。
でも髪も着ている服もまったく違う。しかも体に実体感のようなものが無い。死んだ人が幽霊になって化けて出てきたような、そんな感じだ。うしろの景色が薄っすらと体から透けて見える。
「あ、あなたもしかして・・・良くん?」
良くんに似た人物は首を横に振る。
「いや、俺は良じゃない。俺は『ダウンロード型ヒューマノイド』だ」




