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 猛ダッシュで住宅街を駆け抜ける。

 昨日と同じようにゴミ出しのおばさんをフェイントでかわし、犬の遠吠えにビクッとする。

 走りながら、ふとおやつのポテトチップがちゃんと鞄に入っているか気になり、中を覗いて確認する。

 うむ、どうやら入ってるようである。遥ちゃんに食べられないように今度はうまく隠さねば・・・!

 確認作業のため途中で失速したものの、今日は少し余裕を持ってバス停の見える道路沿いに出た。が、停留所には昨日と同じようにすでにバスが着いており、列の最後尾のOLがちょうど乗車するところだった。

 また昨日と同じシチュエーション・・・。単なる偶然であってほしいが、これも山田悪夫の言う「決まっていたこと」なんだろうか。今日私がこのバスに乗り込むのは、初めからプログラムにあった事。そういう事なのだろうか。

 ・・・でもそこで疑問に思うことがある。

 そもそも、そのプログラムって何?家から出てバスに乗って学校に行って、そんなものプログラムして何の意味があるんだろうか?

 そうだ、よくよく考えてみればこれほどバカバカしいことはない。この世界が仮に作られたものだったとしても、その内容はごく普通の日常生活をプログラムされているにすぎないのだ。

 バスに乗る。良くんが私に声をかけて席を譲る。2人で仲良く学校に通う。それがこの世界のプログラム。なんて事はない。ただそれだけの話なのだ。

 そう、だからここがどんな世界でも何も悩むことはない。このバスに乗れば、きっとまた良くんに会える。それでまた2人で仲良く学校に通うのだ。そうすれば私はまたいつもの日々に戻ることができる。このバスに乗れば・・・。

 そう自分に言い聞かせながら、開閉ドアが閉まらないうちに私は駆け足でバスに乗車した。私が乗り込むとすぐにドアは閉まり、ゆっくりとバスは発進する。

「・・・ふぅ、間に合った」

 体を休めるため、とりあえずひと呼吸をおく。ずっと走ってきたから、ちと疲れたわい。

 さて、良くんはどこかな。いつもならすぐに彼の声が聞こえてくるはずなんだけど・・・今日はまったく反応が無い。・・・嫌な予感がする。

 周囲を見渡すと、毎度のことながら車内は学生と会社員がわんさかいる。この中で良くんを見つけるのは困難であるが・・・しょうがない、今日は自分の方から彼を見つけよう。

 まず後ろの席。・・・いない。それじゃ、前の席はどうだろう?

 私は吊り革に掴まっている乗客を掻き分けながら、バスの前の方へと移動する。1番前の席には年寄りが座っているだけで、やはりここにもいない。

 どこを捜してみても結局、バスの車内に彼の姿はどこにもなかった。

「そんな・・・じゃあ昨日のことは・・・良くんは・・・本当に消えてしまった・・・?」

 体中から気力がどんどん無くなっていく。フラフラしながら、空いている吊り革に何とか掴まる。

 放心状態のまま、1人寂しく窓の外の移り行く景色をぼーっと眺める。

 そういえばこの景色を見ながら良くんと話してたんだよな・・・。この景色を見ていると、だんだんこの世界に私だけが取り残されたような、言いようの無い孤独感に襲われてくる。

 ・・・山田悪夫が言っていた。この世界はすべてコンピュータによって制御されている、と。それは、私も例外ではない・・・。

「まさか・・・。まさかそんなことって・・・」

 悪い考えがグルグルと頭の中を巡る。血の気が引いていくのがわかる。足が震え、額にじんわりと嫌な汗が出る。

 突然、自分の人生が真っ暗になる。暗くなったと同時に、自分の人生の一番重要なことに気づいてしまった。

 それは、この世に存在していることの理由・・・。

 私はいったい何のために存在してるんだろう。どうしてこの世界にいるんだろう。どうして良くんと通学してたんだろう。どうして・・・。

 疑問を感じてから、急にこの世界に存在していることの不安と恐怖が私を襲ってきた。

 この世界に生きている人間は、おそらくこの問題に関心を持っていない。皆、この世界に存在していることに何の疑問を感じていないのである。私は孤独感から、しばらくの間この世界で自分が1人ぼっちになってしまった気がしてくる。

「良くん、今どこにいるの?良くん、もう2度と会えないの……?良くん・・・お願いだからあたしのこと1人にしないで・・・」

 悲しくて涙が溢れてくる。それも大量に。ポケットからハンカチを取り出して涙と鼻水をふく。

 そのとき誰かが私の耳元で囁く。

≪・・・子・・・ちゃん・・・≫

「ほえ・・・?」

 急に呼びかけられたので驚いてしまう。でもすぐにわかった、良くんの声だ。

「良くん?」

 私は泣き腫らした目で、辺りをキョロキョロさせる。

「もしかして・・・良くんなの・・・?」

 私が呼びかけても、何の返事も無い。

 どんなに捜してみても、車内は学生とサラリーマン、それに一般客がチラホラいるだけ。彼の姿はどこにも見つからなかった。

 目の前に座っている中年のおっさんが不審そうに私の顔を見てるので、それ以上キョロキョロするのをやめることにした。

「声が聞こえたの・・・私の気のせい・・・かな?」

 不可解に思いながら、私はまた窓の外を眺めることにした。

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