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 ピピピピピピピピピピピ

 すぐ近くからやかましい音が聞こえてくる。この音は・・・私の長年愛用している目覚まし時計の音である。

 布団の中から手を伸ばし、頭上にある目覚まし時計のスイッチを押すと、うるさく鳴っていた音はピタッと止まる。

 そのまま目覚ましを掴んで顔の前まで持っていき、時計の針を見るとAM6時を指している。

 ムクッと布団から起き上がり、辺りを見渡す。

 制服をだらしなくかけてあるクローゼット。小説や漫画本が乱雑に置かれた本棚。コントローラーの線がこんがらがったゲーム機。この不衛生な環境・・・ふむ。どうやら私の部屋のようでござる。

 外からチュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる。ベッドから降り、部屋の窓にかかっているピンク色のカーテンを引くと、気持ちのいい朝日が差し込んでくる。窓の外を見ると、ご近所さんが家のドアを開けて出勤していくのが見える。普段と何ら変わりのない、いつもの朝だ。

 大きく背伸びをし、自分に気合を入れる。

「よし!今日も頑張るぞ!」

 ・・・って、待て待て。何で私は自分の部屋にいるんだ?確か映画館にいたはずである・・・。

 それにさっきの変な夢。あれはいったい何だったんだろうか。亜規なんて名前の子、今まで1度も会ったことなんてない。誰だったんだろ、あの子・・・。

 おっと、そんな事をのんびり考えとる場合じゃない。今は6時過ぎ、バスに間に合わなくなる、こうしちゃおれん。

 私はすぐに制服に着替え、床に放りっぱなしの鞄を持ってドタドタと1階へ降りていく。

 1階のリビングにはテレビを見るお母さんの姿があった。テレビ画面には2人の芸能人が記者会見に答えている。

『以心伝心という言葉がありますが、出会った頃から心が通じ合っていたように思います』

『プロポーズはどちらからされたんですか?』

 あれ?これ昨日もやんなかったっけ。連日報道するって事はそんなに話題なのかこの2人。私はあんまり知らない芸能人なんだけどな。・・・というか本当に芸あんのかこいつら。

 テーブルには朝食がちゃんと並べられているので椅子に座る。さ、食べまひょ食べまひょ。

「ん・・・?」

 何か昨日とおんなじような朝食だなこれ。・・・手抜きか、母上。

 ふりかけをご飯にかけようとしつつ、目の前に座っているお母さんの顔をチラッと伺う。お母さんは目をギラギラさせて、食い入るようにテレビを見ている。昨日やったニュースを見てよく何度も熱中できるな、母よ。

 テレビを見ていたお母さんは、うっとりしながら語り始めた。

「京子も良くんと、いつかこうして結婚するのかしらね・・・」

 ・・・何か聞いたようなセリフだな、それ。昨日も言ってなかったかこのセリフ。・・・気のせいかな。

 続いてお母さんは、急に顔を不機嫌にさせる。

「それに比べてうちのバカ亭主ときたら!あたしのこともう2年もほったらかしにしてんだから!あぁ腹立つ!」

お母さんはテーブルを思いっきりぶっ叩き、その衝撃で飲んでいたホットコーヒーが倒れ、手に中身丸ごとかかる。

「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!」

 ・・・これも昨日と同じ。いったい何なの・・・これ・・・?

「ね、ねぇお母さん・・・」

 お母さんは涙目で自分の手をフーフーと冷ましている。

「んもう!何よぉ!ったくほんとロクなこと無いわね!あたしの人生って!」

「お母さん・・・昨日とおんなじ事やってるわよ、さっきから・・・」

「昨日と同じこと?いったい何のことよ」

「気づいてないの?」

「だから何をよ」

 お母さんは不思議そうに私の顔を見る。しかしすぐに顔をハッとさせた。

「そうだ!それより京子、時間は大丈夫なの!?良くんと同じバスに乗るんでしょ!?」

 良くん・・・。そうだ、良くんはどうしたんだろう。私と一緒で、良くんも家に戻ってるのかな。

 昨日のあの映画館で起きたことは、もしかしたら全部ただの夢なのかもしれない。だとすれば、良くんはきっといつも通りバスに乗って登校してくるはず。

 私は確認したくなり、テーブルの上に置いてあるお弁当を鞄の中に入れてすぐにリビングを出る。

 そのとき、ふと昨日の映画館のことを思い出しお母さんの方に振り返った。

「あ、ねぇ・・・お母さん」

 私の不安そうな声に、お母さんは心配そうな顔をする。

「どうしたの京子?」

「お母さんはあたしの・・・本当にあたしのお母さん・・・だよね・・・?」

「なにバカなこと言ってるの京子?私は京子の母親に決まってるでしょ?」

「そ、そうだよね。・・・それじゃ、行ってくるね」

 私が笑顔でそう言うと、安心したのかお母さんも同じように笑顔で返した。

「うん、行ってらっしゃい。早くしなさい、良くんの乗ってるバスに乗り遅れちゃうわよ」

「・・・う、うん」

 別れを告げたあと、私は玄関のドアを開けて家の門を出る。でも不安になって、また立ち止まる。

 何を怖れているんだ、私。もしかして、この世界で生きていくのが少し怖くなっている・・・?

 ・・・自分でも認めたくはないが、・・・もしかしたらそうなのかもしれない。私はこの世界で生きていく事に、どこか恐怖を感じているのである。

 こんな弱気な感じは私らしくない。私じゃない。

 ・・・どうしたらこの恐怖心を払拭できるんだろうか。どうしたらこの弱さを消す事ができるんだろうか・・・。

 そうだ、1人でいるから怖いのだ。良くんに会おう。良くんが無事かどうか早く確かめよう。

 心強い良くんと一緒なら、ここがどんな世界だろうと怖くは無い。良くんと一緒なら、ここがどんな世界でも乗り越えられるかもしれない。うん、そうしよう。彼に会おう。

 恐怖心に打ちひしがれそうになった私は良くんに会いたくなり、バス停へと急ぐ事にした。


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