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『・・・あの』
遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。
これは・・・。この聞き覚えのある声はもしや・・・。
呼ばれた方を見ると、そこには私の幼なじみの良くんがいた。
良くん!?
ど・・・どうしたの・・・?消えちゃったんじゃなかった?・・・何で・・・いるの?
そうだ!それより大丈夫?ケガはなかった?
よかった・・・生きててくれて本当によかった・・・って、あれ?
声を出そうにも・・・出せない。コレは・・・なんじゃらほい・・・。
それによく見たらここは、いつも私と良くんが電車を乗り換えるときに降りている駅のホームである。 それも人のあまりいないホームの端っこ。
さらに言うと良くんは私ではなく、彼のすぐ隣りで電車を待っている女の子に声をかけていた。女の子は呼びかけられて、良くんの方に振り向く。私はその子の姿を見て驚く。
それは、『もう一人の私』だった。
良くんは照れた様子で、頭をポリポリかく。
『その・・・いつも朝、一緒の電車だよね』
良くんがもう1人の私に声をかけると、その子は顔を赤くしながら狼狽えた。
『同じ学校の子でしょ?俺は良。キミは?』
私のそっくりさんは顔を真っ赤にし、必死に目をキョロキョロとさせた。
しばらく目を泳がせたあと、自分の足元を見つめながらようやく自分の名前を恥ずかしそうに口にした。
『・・・京子』
『そっか、京子ちゃんって言うんだ』
彼女の名前を聞けて、良くんは満足そうな顔をする。
・・・うーむ。いったいこれは何の冗談だろうか?
私と良くんは、保育園からの幼なじみのはずである。今日も朝も早よからバスに乗って、一緒に住んでる町から学校に通ったのである。それがどうして初対面のような感じで話してるのだろうか。
そうか・・・これは夢か。
人は皆、年に1回ぐらいはこういうワケの分からん夢を見るものである。これもその類であろう。
良くんと私のそっくりさんが見つめ合っていると、2人の後ろから別の女の子の声が聞こえてくる。
『何してんだ、良』
『え』
急に声をかけられ、良くんは驚いた表情でうしろを振り向く。するとそこには女の子がニヤついて立っていた。
緑色の髪に緑色のリボン。制服を見る限り、どうやらこの子も私と同じ学校の生徒のようである。
彼女を見るや、良くんはかなり動揺した。
『な、なんだ、お前もこの電車にしたのか・・・亜規』
あき・・・?
はて。良くんにそんな名前の友達がいたっけか。
亜規と呼ばれた女生徒は、ニヤニヤしながら良くんに近づく。
彼女は良くんの肩に手をかけ、べったりと体を密着させて彼のほっぺたを人差し指でプニプニと突っついた。
『おいおい良~?もしかして朝っぱらからナンパしてたのか~?』
亜規ちゃんは、妙に男っぽいしゃべり口調で良くんを冷やかした。
『ち、違うって!俺の知り合いに後ろ姿がよく似てたから、間違って声かけちゃっただけだよ!』
良くんは顔から火が出んばかりに真っ赤になって慌てふためく。
その様子を見た亜規ちゃんは彼の嘘を見破ったのかニヤニヤしながら目を細め、疑いの視線を彼に送る。
『へぇ~知り合いにねぇ~?そんじゃ、今度その知り合いとやらに会ってみようかな~?本当にいるのかな~、その知り合~い?』
『うぐっ・・・』
『おやおや~?もしかして良~。この女の子に会うために毎日わざとこの時間に通学してるんじゃないだろうな~?いや~、マジメな良がそんな事するわけないよな~?』
『むぐぐっ・・・!』
『まさか良~、1ヶ月も前からこの女の子の登校時間と下校時間をチェックしてたわけじゃないよな~?まさかな~?まさか良がそこまでするわけないよな~?そんな気持ちの悪いやつ聞いたことないもんな~!?良はそんな最低な人間じゃないよな~~~~~~~!?』
『うぎゃああぁああぁぁ!』
良くんはついに何かが崩壊した。 どうやら、すべて図星だったようである。
『そ、それより亜規!何でお前がこの時間にいんだよ!いつも1本遅らせて行くんだろ!?』
亜規ちゃんは良くんの肩から手を離し、自分の腰に手を当てる。
『良と一緒に行こうと思ってさ。このあと俺、駅前で唐揚げ弁当買ってくからちょっと付き合ってくれよ』
『弁当ぐらい1人で買えって!』
『いいじゃんか。付き合ってくれたら、俺の弁当の食い残しあげるからさ』
『いらねぇよ!何でお前の残飯を俺が処理しなきゃならねんだよ!』
亜規ちゃんにぶちギレたあと、良くんは京子と名乗る子に向き直る。
『はは・・・ごめん京子ちゃん。こいつは中村亜規って言って、俺と同じ教室にいる奴なんだ。こいつさ、こんなんで大学に行こうとしてるんだよ。笑っちゃうでしょ』
『そうなの?』
驚く私。
亜規ちゃんはチッチッチッと言いながら、人差し指を左右に振る。
『人は見かけによらないんだぜ良。しかも俺、こう見えて理工系を目指してんだもんね!』
彼女は腕を組み、自慢げにフンッ!と鼻息を鳴らす。
そのとき構内のアナウンスが聞こえてくる。
『電車が参ります。白線の内側まで下がってお待ちください』
電車が来ると思われる方向に目をやる良くん。
『お、もう来るみたいだな。どう京子ちゃん、俺たちと一緒に学校に行かない?』
『え・・・』
突然の誘いに、私のそっくりさんは少し躊躇った。
亜規ちゃんはその様子を見て、すぐさま彼女に声をかける。
『初対面のやつにそんなこと言われても迷惑だよな、京子。いいんだぜ?別に無理に付き合わなくたって』
私は首を横に振る。
『あ・・・ううん。あたしは別に構わないけど・・・。どうせいつも1人で本読んでくだけだし・・・』
『え、本当!?』
良くんは、今にも飛び上がらんばかりの嬉しそうな表情をする。
『よし!じゃあ今日は3人で一緒に学校に行こうか!』
『え・・・。あ、あぁ・・・』
嬉しそうな良くんの声とは対照的に、亜規ちゃんはチカラの抜けたような返事をする。
やがて3人の前に、電車がゆっくりと速度を落として停車する。開閉のドアが開くと、良くんは私に何か冗談を言って笑わしながら一緒に乗車した。もうすっかり2人は意気投合しているようである。
2人が乗り込んだあと、亜規ちゃんはこの私に似た女の子を後ろからずっと見続けていた。




