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「うわ!」
横にジャンプして間一髪、男の襲撃を交わす。
男は体勢を崩し前のめりにふらつくが、足で踏ん張り持ちこたえる。体勢を立て直した男はこちらに振り向き、再び私の方に近づいてこようとする。
こいつは森の中にいた、私を追ってきた男だ。どうしてこんな所にいるんだろう?い、いやそれより、どうして私を狙っているんだろうか?
男のほうを向いたまま出入り口のドアの方へじりじりと後ずさりし、ドアノブをつかみながら聞いてみた。
「ちょ、ちょっと!あなた、森で追って来た奴でしょ!?あなたは誰なの!?何でこんなことするの!」
男はゆっくり歩みながら私の目を見つめる。
「お・・・俺は・・・山田悪夫・・・」
や、やまだ・・・あくお・・・?
私の知り合いにそんな名前の人間はいない。それに命を狙われるような覚えもまったくない。
「お前を・・・殺す・・・!」
2撃目が来る!
そう直感し、私は急いでトイレのドアを開け廊下へ出る。
来た方向に向かって猛ダッシュで長い廊下を走ると、向こうから良くんがこちらへ走ってきた。
「良くん!」
教室のときといい、今といい、不気味なほどグッドタイミングである。
私の血相を変えた表情を見て、彼は不思議そうな顔をする。
「どうしたの京子ちゃん。ゴキブリでも出たの?」
「そんな生やさしいもんじゃないわよ!大ゴキブリよ!トイレで変な男に襲われたの!良くん一緒に逃げよ!」
「変な男?・・・あ!危ない!」
良くんは私の腕を掴み、壁側に思いっきり引っ張る。私は引っ張られた勢いで床にすっ転んでしまった。
どうやらさっきの男は、私の背後から突進していたらしい。良くんは私を庇ったため、男の突進をかわしきれず―――――。
「うわああぁああぁぁああぁあああぁぁああっ!」
彼の体は目が眩むほどのビカビカした光を放つ。
「りょ、良くん!」
私の叫びも空しく、良くんは廊下を真っ白にするほど強烈な光を放射し、そのまま彼は輝きながら紙吹雪のように粉々になって空中に四方八方へと砂のように細かく散っていった。
良くんが消えたあと、キラキラとした光の残骸が空中を漂ったが、しばらくしてそれもどこかへ消えてしまった。
山田悪夫なる人物の持っていた謎の武器で、良くんは私の目の前から完全に消滅してしまった。
「な・・・何だったの今の・・・。りょ・・・良くんは・・・どこへ消えちゃったの・・・?」
私が聞いてみても男は何も答えず、床で寝転んでいる私のほうにすぐに目を向ける。
来るっ!
男はナイフを突き刺すかのように、例の光る武器を振り下ろしてくる。
「わわわ!」
寝転んでいる私は体を反転させ、当たる直前で攻撃を交わす。
武器が床を直撃するとドオッ!と音を出して眩しい光を放って床が円形にめり込んだ。どうやらこの武器は人間だけでなく、床まで破壊できるらしい。
私はすぐに起き上がりこの場から一刻も早く逃げ出そうとしたが、逃がすまいとして男もすぐに攻撃を仕掛けてくる。武器が一直線に私の顔面に向かってくる。が、髪をかすっただけで当たらない。
空振りした男は勢い余って、私のうしろに並んでいた自動販売機に武器を突き刺してしまった。自販機は光を放ちながら壊れ、中から炭酸飲料やコーヒーの缶がなだれのごとく転がり出してくる。
山田悪夫は起き上がって尚も私に向かってこようとするが、転がっている缶を踏みつけてすっ転んだ。
ゴトッ。
鈍い音がしたので床を見ると、あの謎の武器が落ちている。私は男に拾われる前に素早く男が落としたものを拾った。この得体の知れない光を放ち続けるスタンガンのようなものは、軽そうな見た目とは違いズッシリと重量感があった。
・・・こんなものは今まで見たことが無い。
「それを・・・よこせ・・・!」
山田悪夫は立ち上がり、私の方に近づいてくる。マズイ・・・来る!
私はこの謎の武器を両手で持ち、彼の方に向けた。
「それ以上近づかないで!」
私の迫力に威圧されたのかこの武器に恐れをなしたのか、男は歩みをすぐに止めた。
「良くんは!?良くんはどうなったの!?彼に何が起きたか説明して!」
男は少しのあいだ沈黙したが、ゆっくりとした口調で語り始めた。
「あいつの体は・・・補正できずにこの世界から消えた・・・。あいつは・・・プログラムだからな・・・」
意味不明なことを言いおる。
「プ、プログラムって・・・何を言ってるの?」
「こ・・・この世界は・・・コンピュータによって制御されている仮想空間だ・・・。この世界の人間は皆・・・予め決められたプログラムに従い・・・生きている・・・。町も・・・空気も・・・物質すべてな・・・。それは京子・・・お前も同じことだ・・・」
「あ、あたしがプログラムに従って生きている?」
「そうだ・・・。お前がいまの学校に通うのも・・・良とバスで会うことも・・・すべて予め決められていたことだ・・・」
「すべて決まっていた?バ、バカなこと言わないで。良くんとの思い出はどうなの?これはあたしの中にあるものよ」
「・・・お前は良と一緒にいて・・・不思議に思ったことはないか・・・?遠くにいても何故か心が通じ合っているような・・・そんな事はなかったか・・・?」
心が通じ合うようなこと・・・。
うっ・・・。
そういえば・・・ある。思い当たることがたくさんある。
さっき助けに来たのもそう。
学校で助けに来たのもそう。
ヒマワリ畑で私を見つけたのもそう。
・・・すべて心が通じていると言えるような事ばかりだ・・・。
「その顔はあったって顔だな・・・」
山田悪夫は私の顔を見つめ、目を細める。
「で、でもそれが何だって言うの!?助けに来てくれたのは、良くんがあたしの事をいつも1番に心配してくれてるからよ!」
「いや違う・・・。あくまでも良は・・・与えられたプログラムに従ったんだ・・・。お前を守るためのシステムが作動し・・・それを実行した・・・。ただそれだけの事だ・・・。つまり京子・・・。お前は今日までずっと・・・作り物を好きになっていたんだ・・・ク・・・クク・・・」
良くんが・・・作り物・・・。
そ・・・そんな・・・。
「さあ・・・それをこっちに渡せ・・・」
男はゆっくり近づきながら、私の持っている武器に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待って!まだ話して無いことがあるわ!何であたしを狙うの!?理由を聞かせて!ねえ、どうして!?」
「・・・いいから・・・よこせ!」
男は手を伸ばして迫ってきた。武器を奪われると思い、私は男の胴体へ1撃を加える!
「ぐおおぉおおおぉおぉおおぉおおおお!」
山田悪夫と名乗る化け物は良くんと同じようにビカビカと眩しい光りを放ちながら断末魔の悲鳴をあげる。
しばらく周囲は目が眩むほど明るくなったが、光が失われていくと共に化け物の肉体は跡形も無く消え去ってしまった。廊下に残されたのは壊れた自販機と私だけ・・・。あっけない最後である・・・。
・・・しかし敵に勝ったというのに、まったく嬉しく無い。私の心の中に、モヤモヤとしたものだけが残る。
この世界がコンピュータで・・・?みんなプログラムに従って生きている・・・?
遥ちゃんも貴志くんもお母さんも、そして良くんも・・・。みんな・・・みんな作り物なの・・・?
じゃあ私は・・・私は何なの・・・?何でこの世界にいるの・・・?
私は・・・。
「私はいったい、何者なの!」




