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しばらくすると目的の『多野椎駅』に着いた。
私は遥ちゃんと貴志くんに別れの挨拶をして、良くんと2人で電車を降り改札口を抜け、だだっ広いロータリーに出る。辺りはもう暗くなり始めている。
映画館のある場所までは少し距離があるようなので、テクテクと道路わきの歩道を歩いていくことにした。歩きながらも頭に浮かぶのはやはり由美ちゃんのことだった。
「ねぇ良くん。由美ちゃんに友達がいないっていうのは本当なの?」
「みたいだよ。俺も詳しくは聞いてないけど、たぶんいつも1人で学校に来てるんじゃないかな。家に帰っても親の帰りが遅いから夕飯も1人で食べてるって言ってたよ」
「そうなんだ・・・」
きっと由美ちゃんにとって良くんは、唯一の心のよりどころだったのかも知れない。そんなこと知らずに私、彼女に怒鳴ったりしちゃった・・・。
私の暗い表情を見て、良くんは気遣ってくれたのか優しく声をかけてくれる。
「京子ちゃんが悲観することないよ。これは由美個人の問題だからさ。・・・もう由美の話をするのやめにしよう」
「・・・うん」
コンビニやらファミレスやらを通り過ぎると、目の前に横断歩道が見えてくる。信号はすぐ赤になり、私たちは横断歩道の前で立ち止まった。
良くんは隣りにいる私を見て、躊躇いながら聞いてきた。
「手・・・つなぐ?」
思わずドキッとしてしまうセリフである。
「え・・・うん」
良くんは私の右手を優しく握った。・・・暖かい。
こうして手を握っていると恥ずかしさよりも、懐かしい気持ちになる。
「小さい頃、よくこうして一緒に歩いたよな」
良くんも覚えているようだ、2人だけのずっと遠い日の思い出を。
「うん。初めて手を繋いだのって、たしか保育園の遠足だったよね」
「あぁ。黄色い帽子かぶって、肩から水筒ぶら下げて・・・懐かしいな」
「よく保育園の近くにある花畑を歩いたわよね。夏にはヒマワリがたくさんなってて・・・」
「ビックリするぐらい無数にあったな、ヒマワリ」
「あたし、あのヒマワリ畑の中で迷子になったのよね」
「あったなそんなこと。自由時間が終わっても京子ちゃんがなかなか帰ってこないから、俺、心配になって1人で捜しに行ったんだよ。すぐに見つけたの、今でも覚えてるよ」
「よく見つけられたわね。あたし、ものスゴイ深いところまで入って行ったのよ?」
「何となくこっちかな?って掻き分けて進んでったら、泣き声が聞こえてきたからさ。京子ちゃんに声をかけたら抱きついてきてさらに号泣するから、慰めるの大変だったよ」
「そこでもあたし泣いてるのね・・・」
「昔から泣き虫だったもんな、京子ちゃんは」
「今は違うわよ。もう泣いたりなんかしないもん」
「ははは。じゃあもう、俺が慰める必要もなくなるかな」
「必要ないわよ」
信号が青になる。
小学校、中学校、そして高校と進んだが、あの頃から2人の仲は何も変わっていない。
今も私たちの記憶の奥底には、あの夏の照りつける太陽がギラギラと輝いているのだ。あの夏の日から、私たちは何も変わらない。これからもずっとこの仲のよさが変わらずにいてほしい・・・。
そう願いながら、私は良くんと手をつないだまま再び歩き出した。




