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ムー大陸の彼方へ  作者: ずん
エピソード3 新たな6人
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逃避行

 景斗、緑帆、錬の三人はサルートが手配した馬車に乗り、東のムドル自治区を目指していた。

 緑帆が御者となり、錬が隣に座った。

 景斗は荷車の上に腰掛けて、読書をしている。

 緑帆と錬をやきもきさせながらも、なんとか10冊ほどの本を盗み出すことに成功した。

 いずれも魔法や歴史に関する本だった。

 他にも剣や盾、弓などの武器と、食料も3日分ぐらいは確保できた。

 これだけ首尾よく逃げ切れたのもサルートという支援者のおかげだ。

 彼が脱出ルートの手引きをしてくれなければ、到底逃げ切れなかったであろう。


 今回の件に関して、景斗には腑に落ちないことがあった。

 錬の元に現れたという少女が、一体どうやって牢の中に入り込んだのかということである。

《断魔(マナの断絶)》がなされている牢獄エリアに入り込むことは、いかなる魔道士といえども不可能なはずだ。

 彼女が牢の中へ入り込むことができたのは、ひとえにサルートが牢獄エリアへ《送魔(マナの供給)》をしたおかげであろう。

 だとすれば、少女とサルートは通じていたと考えるのが自然である。

 さらに、サルートがシーナスの懐刀だということを考えれば、シーナス、サルート、少女の3人は連携していたと想像できる。


 そこまではまぁいい。

 だが、サルートは、牢獄エリアへ《送魔》するために制御室へ侵入したと言っていた。

 制御室は景斗が一回制圧した部屋だ。

 それ故、その後の警備は相当強化されたに違いない。

 クーデター失敗後の厳戒態勢の中、そうすんなりと制御室に侵入できるものだろうか?


 この点に関して、考えられる可能性は二つある。


 一つは、サルートがシーナス側の人間ではなく、実はミューダ王側の人間であるという可能性。

 そしてもう一つは、サルートの行動が故意に見過ごされた可能性だ。


 どちらの場合でも、重要なことは一つ。


 ――俺達は泳がされたのではないか?


 計画前、シーナスとは万が一作戦が失敗した時の取り決めを行っていた。

 ムドル自治区に亡命し、現地で落ち合おうと決めていたのだ。

 そのことは、当然我々しか知らされていない。

 となると、シーナスの足取りを追うために、敢えて我々が逃がされたとは考えられないか?


 だとすれば、尾行されていると考えるのが妥当である。

 だが、回りは見晴らしの良い草原だ。

 尾行されているのならば、すぐにわかるはずだ。

 この時代に探知機などは存在しない。

 しかし、魔法を使えば尾行は可能なのかもしれない。


 景斗は魔法の書を取り出し、そのような魔法が存在するのかを調べ始めた。

 もしかしたら我々の動向を常に監視できるような魔法があるかもしれない。

 景斗は魔法の書をペラペラめくるうちに、それらしい魔法を一つ発見した。


 ――投影魔法


 景斗は魔法の概要を読み上げた。


 ――この魔法を詠唱することにより、詠唱者は観測対象の様子を身近な物に投影させることができる。投影させる対象は光を反射するものであれば何でもよい。水晶玉や鏡、あるいは桶に水を溜めたものでも代用が可能である。


 続けて、魔法詠唱の手順が書かれてある。


 ――観測対象に十分近づいて詠唱を行う。この魔法は観測を続けている間、微量だがマナを継続的に消費する。また、詠唱者と観測対象の双方は《帯魔》していなければならない。もし、いずれかのマナが切れれば、魔法の効力は失われる。再び効力を得ようとすれば、詠唱を最初からやり直す必要がある。


 如何にも、尾行に向いた魔法である。

 この魔法が使われているとすれば、我々は目の前でこの魔法が詠唱されるのを見ているということだ。

 景斗は捕まってから今までのことを振り返った。

 確かに思い当たることがあった。

 牢に入れられる直前に魔道士が我々の肩に手をあてて呪文をかけたのだ。

 あれがそうだったのだろうか?

 この本によると観測対象者は《帯魔》、すなわちマナを帯びていることが条件だという。

 今、この場で全員が身につけているマナといえば翻訳用の指輪だ。

(指輪を捨てるべきか?)

 しかし、それでは大陸の言葉が一切判らなくなってしまう。

 本も読めない。

 それは個人的にも耐えられないことだった。


 顔を上げて、錬と緑帆を見た。

 緑帆は手綱を引きながら、隣の錬と何やら話をしている。

 それを見て、景斗は大事なことを思い出した。

 錬の体そのものがマナを帯びた伝導体なのだ。

 つまりは、指輪を捨てたところで、錬自体がアンテナとなってしまうのだ。

 それにこの馬車にも探知機となる魔法石か何かが仕掛けられていないとも限らない。

 結局、アンテナを除去するという案は非現実的だという結論に至った。

(アンテナか……)

 ふと景斗にある別のアイディアが浮かんだ。

 地図を取り出し、現在地を確認する。

 ムドル自治区はここから東へさらに進んだ先の森の向こうだ。

「なぁ、矢島。ちょっと進路を変えてもらいたいんだが」

「えっ? まっすぐ森を抜けるのが近道なんじゃなかったっけ?」

「まぁ、そうなんだけど。よく考えたら、まっすぐ行くのは危険だとわかったんだ。南東に進んでもらえないか?」

 そう言うと景斗は黙り込んだ。

 盗聴の危険性があるため、どうもまどろっこしい言い方になってしまう。

 緑帆は錬と顔を見合わせた。

「片倉さんがそう言うのなら」

 緑帆は進路を南東に変更した。

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