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Tiria of Story  作者: 藤巻 祥
序章
3/10

 無事、杖を購入した後は大通りに戻る。教科書は支給され、調合道具は学院の備品を使用するので購入は必要ない。

 時刻は既にお昼の十二時を過ぎていた。

 どうりで先程からリタのお腹の音が鳴っていたのね。うんうん。


「頷くのやめて!?」


 ……どうやら私に会うのに前日、興奮して寝れなかったらしい。

 結果、寝坊して朝食を抜いてしまったとか。リタは、どこかおっちょこちょいである。

 だからか、前世含めて回りにいなかったタイプに好意を抱いた要素の一つなんだけれど。


 つまるところ、彼女は和み系なのだ。


「どこかレストランはありませんの? 屋台でもいいわよ」

「いや、オススメの店がある。そこにいこう」

「食文化は違うのかしら?」

「似ているようで似ていないかな。少なくともアメリカ人の口には合うんじゃないかな」

「……む」


 生まれてからこのかた、おじさまと従兄弟のデブ具合にさほど驚かなくなりつつあるけど。

 肥満大国アメリカにおいて、私が前世と同じくスタイルを維持できているのは家庭環境にも起因している。


 食事抜きは当たり前、時にベーコン一枚にジャガイモの皮、きちんとした食事なんて稀。

 世間体から見たら虐待にも等しい扱い。家の外ではそれなりに扱われるが、路頭に捨てられずに養ってくれたのだから、それだけでも感謝はすべき。


 おかげで見苦しくない体型を維持できている。ここ重要ね。


「ヘルシーな料理が良いわ」

「りょーかい」




 時計台の隣にあるアンティーク風の店の前に着き、木製プレートの看板に書かれた店名に視線を向ける。

 Empty Stone Ship──? 


「空の石船?」

「このクレセントの街自体が空飛ぶ街に(ちな)んでいるのよ」


 この島は浮遊石により浮いる。空に浮かぶ小島も同じ原理なのだが、一定の距離を保っているから不思議だ。

 店内へ入るために扉に手をかけたリタだが、内側から引かれドアノブから手を離す。


「……ぁ、」


 中から出てこようとした一人の男性にリタの視線は少し険しいものへと変わる。


 漆黒のローブを纏い黄金の杖をコツンと地にならし、短髪の黒髪にグレーの瞳、視線は鷹のように鋭く射ぬき、ただの子供なら泣いて逃げ出すだろう顔。

 表情は厳格そのもの、恐ろしい男だとティリアは思った。前世の兄に似ている。

 その男性の後ろに隠れるように黒髪黒目の少年が見えた。親子かしら。


「おやおや、これはこれは」

「……ごきげんよう、ウラヌディウス卿」


 ウラヌディウス卿の、どこか疎む視線にリタは苦い顔をした。

 これはどうやら一波乱ありそうな雰囲気ね……────なんてことは無く。あれ以上の会話は続かなかった。



「あー、腹立つ」

「リタ、マナーが悪いわ。その男性とリタが因縁の関係みたいなのは察したから」

「詮索しないのね……」

「リタが教えてくれるまで待ちますわ」

「ティリアって不思議よね。そのマナーまるで貴族みたい。そのナイフとフォークの手捌き」

「……」


 付き合いは長い方だけれどお互い、まだまだ知らないことが多いのは致し方ない事ね。


 リタ・メティシュ。

 アヴェニュー・オウシャン魔法学院、焔学科担当教授。

 適性属性は焔で私と同じ四月生まれ。学院生活が始まれば、ほぼ毎日顔を会わせるだろう。

 リタの話は時々、面白いから授業がどんなものか楽しみである。

 

「こほん。では、魔法国について云々しますかね」


 リタは鞄から古い洋紙をテーブルの上に広げた。

  

挿絵(By みてみん)


「これは、魔法世界の一部の地図。右下にあるのが今いるルゥナ国が、この鳥みたいな形の国。その右下辺りがクレセントの街……海の上の逆算三角がクレセントの街であり大きな浮島なの。そして、ここから北西へいくとポツンと島だけがあるじゃない? ここがアヴェニュー・オウシャン魔法学院がある島よ」

「こんなところに……」

「島といっても、とても広いわよ。それこそ何百人の生徒が魔法試合をしたって、全然余裕よ」

「生徒数はどれくらいなの?」

「今年度の新入生含めて全六学年だから……三百人くらいね」


 三百人……通っていたジュニアスクールの六学年と比べると少ない方だ。

 魔法族人口は世界人口の、ほんの一握り程度という事になる。


「人間世界と比べると魔法族は稀少なのね」

「一般的に見るとそうかもしれないけれど、普通の人間として生活している変わり者も少なくはないわよ」

「へぇ~」


 驚きだ。

 まぁ、私の場合は例外なのだろうけど。


◇◆◇


 現実世界に戻ってから、また日々は戻る。魔法世界で過ごした、あの一日がまるで一時の夢のようで本当に夢だったんじゃないかと思う。

 帰ってきた私をロッサム一家は当たらず触らずという態度をとってきた。

 

 今、私の手にはあの日出会ったダークレッドの杖が握られている。

 夢ではない。

 ここにあるものは、あの日の証明でありこれからの道しるべだ。


 これから学院で学び、入寮する。


 大丈夫、昔とは違うのよ。令嬢でも、王子の婚約者でもない。

 ただのティリア。ティリア・エスカフォーネなのよ。

 勇気を持ちなさい!

 人生をやり直すと決めたのだから。




 小さな小窓から差し込む月の光がいつも以上に輝いていた気がした。

ご通読ありがとうございました。


次は学院編を始めたい(・ω・)


登場人物3

リタ・メティシュ

ハニーブラウンのゆるふわ長髪グリーンの瞳。

基本前向きだが、時々憂いを漂わせている。ティリアのセリフにちょいちょいツッコミを入れる係。

魔法学院焔科教授。

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