2
ブクマ、評価ありがとうございます。
制服専門店を後にしたリタと私は、左斜め向かいの店に入る。
店内は私たちの他に客はおらず、店主も不在だ。開いているから、いるとは思うけれど。
魔法使いが必要とする杖を買うためだ。いったいどんな物なのだろうか。
棒切れなのか、はたまたアニメの魔法少女が使うようなデコデコキラキラなステッキなのか。想像は膨らむばかりである。
まあ、そんなイメージは数分後に崩れ去るんだけど。
「まあ、魔法使い皆がデコキラな杖を使ってるわけないよね」
「なんの話!?」
「気にしないで。リタの杖ってどんなの?」
「あ、ああ」
ローブの内側から五十センチ程の銀の棒を取り出した。
棒に絡むように銀の装飾がなされ、先端には五センチ大の球状のクリスタルが淡い光を放っている。その風貌にシンプルなからも高級感が漂う。
「まぁ」
裕福だった前世で幾度も見た宝石類よりも、それは美しく煌めき見る者を魅了するように吸い込まれるよう。
「杖って基本いくらなの?」
「基本というより、ピンからキリかな。私の、これは二十万ドル相当だったな」
「にッ……!?」
高い!
とてもじゃないが、そんな大金を出して買いたいとは思わない。
そんな私の不安を悟ったのかリタは微笑む。
「安心しろ、私のは特注だ。学生用は大体、安くて百ドルからだな」
「そ、それくらいなら買えるわね」
安心したところで、カウンターの奥の扉から物音がし店主と思わしき人物が顔を覗かせる。八十代くらいの男性で白髪の長い髭を三つ網にし赤いリボンで縛られた姿は、どこか可愛らしい。前頭部のツルツル頭は寂しげだけれど。
「いらっしゃい、すみませんねぇ。遅くなりまして」
「じぃさん。この子の、学生用の杖を買いに来たわ。四月の赤よ」
「ふむ、ちぃと待っとれ」
そう言って店主は再び店の奥へ行った。
「リタ、学生用の杖って?」
「初心者用の杖ってことだね」
リタの説明によれば、魔法の素質を持つ者が初めて自分用に使える杖のことだ。持つ為には魔法学院に入ることが条件となる。これは、貴族庶民問わず必ず守らなければならず、魔法省機関が定めたものだ。
魔法省魔機関とは、魔法世界の政治的中核を担う。十二人の大臣で構成され、大抵の法律など其処で決められる。
アヴェニュー・オウシャン魔法学院も約三百年前に設立された政府機関の一部である。
設立される前は、家庭教育のみだったが稀に外界——地球——から魔法の素質を持つ子供が生まれるようになったことから魔法世界は決断した。
そうした子供の多くは、十になる前に恐れを抱いた親に捨てられることがあった。そういう子供たちを保護し導く必要があったため政府機関と世界政府は連携した次第だという。
非力な人間が、未知なるものに恐れを抱くのは普通のことだと思う。
「あ、四月の赤ってどういう意味なの?」
「生まれた月によって、その魔法使いの属性が変わるんだ。四月の朱は、名の通り焔属性に特化している。十二の月に十二の属性。それぞれを補う十二色の杖だね」
「一人一つの属性という事ね」
「そうだ」
四月の赤は焔。
五月の緑は楓。
六月の橙は樹。
七月の黄は雷。
八月の青は水。
九月の槐は妖。
十月の暁は美。
十一月の焦は地。
十二月の黒は闇。
一月の白は光。
二月の紫は髑。
三月の許は音。
生まれ月によって属性が決まるという原理は謎で、今もわかっていない真理の一つ。稀に生まれ月とは違う属性を持つ人もいる。更に稀として、二つの属性を持つ者もいるが、そういったものは貴族などの古い魔法族だという。
閑話休題。
店の奥から、三つの箱の赤系色の古びた箱を両手に持った店主が戻って来た。
「すみませんねぇ。学生用の、焔属性の在庫がこれだけしかなくて」
「見せてもらいます」
箱から杖を出しカウンターに並べる。どれも木製で安価だろうがダサくはない。持ち手には細やかなデザインがされ、まあまあ美しい。
それぞれ長さは違うが悪くはない。
「ブーゲンビリアにシュリンプ、ダークレッドか」
リタが聞きなれない言葉を言う。かろうじて、ダークレッドは分かったけれども。赤系だが、それぞれ微妙に違う配色だ。
「何か違いがあるんですの?」
「焔属性は火の魔法を得意とする、杖の色が濃ければ濃いほど攻撃に特化し、逆に淡色に近ければ近いほど防御に特化している。そうでない中間色はどちらともない普通、かな」
「でしたら、これにするわ」
右側に置かれた赤黒い色の杖を持つ。長さは十五センチ、太さはJapaneseが食事に使う箸くらいだろうか。なるほど、しっくりくる。
「そ、それにするのか?」
「何か問題がありますの?」
「いや、フィリアが選んだのなら構わないが。なるほど、二人の娘だ」
「……」
魔法世界に来てからリタが、ちょっと変である。
「お代は、こちらの洋紙に親指を当て、魔力を流しくだされ」
ススッとカウンターに置かれた五センチ正方形の洋紙に、親指を当てれば洋紙の色が変化し赤く染まる。
「なんですの?」
「この洋紙に、フィリア個人の流した魔力を銀行に提出すれば引き落とされるってわけ。魔法族は生まれた時に、魔力を銀行に提出しなければ口座は使えないからね。一人一人持つ魔素は違うから悪用はされないし、偽造することも出来ない」
「指紋機能付きキャッシュカードのようなものなのね」
「あはは、あながち間違ってはいないね」
魔法って便利である。
ご通読ありがとうございました!
登場人物2
ロッサム家
主人ハマン、夫人ベリテ
ティリアの母の弟。魔法族生まれだが魔力を持たず、影のように暮らしていた。力仕事に自信があったため十五歳で家を出、地球で暮らす。夫人と出会い結婚し一人息子のデヴィッドが生まれ可愛がるが、ティリアが預けられてからは更にデビーの可愛がりに拍車がかかる。
姉を嫌い、ティリアに辛く八当たる。
従兄弟デヴィッド
愛称はデビー。ティリアをいつもいじめているつもりだが、毎回かわされカウンターされる。ちょっと抜けている所がある。