意思共同
学校ではあまり関わらないようにしている。
なにせ、人気者の黒音くんである…彼は不本意だけれど。うん。
「…、どうしたの雹子?」
ぼんやりしていたらしく、早紀が心配の眼差しで見ていた。慌てて、頭を振ってなんでもないよ、と伝える。
「なら、いいけど…ねぇ」
訝しんで、見ていてちょっとだけ居心地が悪い。
「なんか、隠してない?雹子」
ドキリとする、うん…隠してるけれど、言えないよね。
だって、ねぇ?あの黒音くんと同棲しているなんて。
同棲、なんかいやらしいから同居にしとこう!
「雹子、隠してるでしょ?」
ポツリ、言った早紀の言葉に気づかずに次の授業の準備をする。
「何かいった?早紀ぃー」
「んーん、何にもない」
いつもと違った雰囲気の早紀に疑問符を浮かべつつ、席へと戻る彼女の後ろ姿を眺めた。どうしたんだろう?
すると、黒音くんと目が合う。どうしたの?って顔をしてる、心配させちゃった?大丈夫と僅か微笑むと、微笑み返してくれる。
なんだか、安心する。あんまり、目を合わせていたら勘違いされてしまう気がしてそっと逸らした。
家でたくさん話せるし、ほっとした。だから大丈夫。
****
今日はバイトがない、冷蔵庫の中身がないことに思い出して足早に校門へと向かう。
「雹子、慌ててどうしたの?」
「卵、今日卵のセールだったの!」
「なるほどね、早く行かないとね」
早紀が慌てる私に不思議そうに訊ねて理由を聞いて納得顔をした。「もしかして、お昼もそれのこと考えてたの?」
「今晩の献立!久々のバイト休みだし、私が作ろうかなって………」
ヤバい!早紀は私が1人暮らしってことも、毎日料理してたことも知ってるのに!
「あれ、雹子は毎日ご飯作ってたんじゃないの?」
「あーえーとー、最近は疲れちゃって作る気力がなくて、」
「ふーん、そう…ほら、いきなよ。卵、なくなっちゃうよ?」
「あぁ、そうだったー!」「卵焼き期待しとくねー」
早紀は走る私の背中にそういった。でも、その卵焼き私作じゃないんだよ。って言えなくて、「考えとくー!」
早く、早く!
もうなんで、こんな日に先生ってば頼み事をするんだろう?間に合いそうもなくて、制服のままスーパーへ。いつもなら着替えるんだけど、だって争奪戦だもの。ぐちゃぐちゃになったら嫌じゃない?制服だし!
「…………終わってた…」
卵が陳列されていたであろう棚には一つもない。嘘でしょう?有り得ないよー!もう!まぁ、今日はお一人様一個限定とかじゃなかったし?!しかたないなぁ、諦めよう。
「あらあら、奥さんじゃないの?」
試食コーナーのおばさんがにこやかに話しかけてきた。
「って、学生さん?!あらあら、奥さんじゃないの?あれ、でも旦那さんは否定しなかったわよねぇ?」
「………」ヤバいなぁ、捕まりたくなかったー!
「まあ、今のご時世なにがあるか分からないものね?学校の許可がおりてれば結婚できたのかしら…あらあら、ごめんなさい!お夕飯の支度あるでしょう?引き止めてごめんなさいね!」
と、通りすがった男性客にウインナーをすすめ始めた。
うん、最初から最後まで1人で喋ってくれたありがたいことだ。
そのまま、何も買う予定はなかったので手ぶらでスーパーをでる。意気消沈とはきっとこのことだろうと思いながら。
***
「ただいま」「お帰り、……おそかったね」
じゅうじゅうと音を立てつつ、黒音くんがキッチンから声をかけてくる。あ、今日は私が作ろうと思ったのに!
「く、黒音くん!今日は私が作るよ?」
「…いい、一緒につくろ」
ぴょこん、と結ってある長い前髪が跳ねた。
「うん、わかった」結構頑固っぽい黒音くんに反抗してたらキリがない。素直に応じて部屋着に着替えエプロンをつける。
「後ろ、結ってあげる」
首の後ろの紐を指差してそういうので、素直に後ろを向いた。
「…ん、」吐息がかかってこそばゆい。こんなに近くなくてよくないですか?!
「できた…はい」ついでに髪まで結わえられている。器用すぎる、黒音くん。「ありがと」
…………あれ、この大量の卵は?
「ねぇ、卵…どうしたの?」
「今日、安かったから。スーパー一緒に行こうって思ってたけど、雹…先生に引き留められてたから…1人でいってきた」
にしては、多いよ!5パックとか、多いよ!
「なんか、争奪戦になってて行こうと思ったらいけなくて。気付いたらなくなってて…困ってたら知らないおばさん達がわけてくれた」
うん、君のそのフェイスで勝ち取ったんだね!
「ありがと、黒音くん」
「…よかった、雹が喜んで…くれて」
なんとなくだけど、思ってることが同じになってきている気がする。まあ、買い物とかご飯のおかずとか…
なんだか嬉しいみたいです、私。
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