買い物
前までは一人分のごはんだったから買いだめしてたけれど、二人になるとそうもいかない。ちょっと、量の把握もできないし…なにより、冷蔵庫に入る量を買わないといけない。「冷蔵庫、何が入ってたっけ?」まだあるものを買ってしまうことも多々あるが、それに気をつけつつカゴに入れてゆく。「ん…と、とーふと…揚げはあった」カゴを持つ彼、黒音くんからの助言で豆腐と揚げは除外する。一緒に住むことになってから、彼と買い物によく行くようになった。その時は絶対にカゴを持ってくれるので、有り難い。「晩ご飯なんにする?昨日は、麻婆茄子だったから…」「あ、……あれ食べたい。」こうやって、彼にリクエストして貰うことも日常になってきた。
「にわとり」と、呟いた彼に「……うん、鳥ね」とかえす。アバウトすぎだよ、黒音くん。「チキンのソテーにしよう!」さっそく、決めて材料を買う。あとは、安くて新鮮な野菜とお弁当のおかずになるようなもの、晩ご飯のおかずになるようなものを選んでゆく。
「あら、新婚さん?若いわねぇ」と、ウィンナー試食のおばちゃんに話しかけられる。おおっと、新婚に見えたのか?私と黒音くんが?「……ええっと、ウィンナー…食べる?」黒音くんを振り返り、ウィンナーを指差す。「「美味しいよ、どう?旦那さんも!」ちょっと、違うから!でも、見えちゃうのかなぁ…たしかに、ご飯の相談しちゃってるし…いや、見えてカレカノかな。この若さ?なら。
「食べる。お弁当、入れよう?」「そうだね」いい思いつきだ、と微笑む。「あらあら、仲いいわねぇ!思い出すわぁ、旦那との新婚生活!」ちょっと、ちょっと、勘違いしてますからね!!
居心地悪くて黒音くんに視線を向けた。「……ん?帰る?」「うん、アイス買って帰ろ」お風呂上がりに2人で食べてるアイスを選び、レジへと並ぶ。………っと、なんでいるわけ?!私と同じように気づいた黒音くんは眉根を寄せて不機嫌になる。嫌いなのね、黒音くんってばわかりやすすぎる。クラス1可愛い彼女、そして今日黒音くんのお弁当に気づいた河合さんだ。「ねぇ…雹…、先にでて待ってて?」はい?思わず口にだしそうになるのをこらえて、瞬きを数回する。「俺がならんでるから。雹、たしか本屋に寄りたいって言ってたよね…先に行ってて」そう言われると、行かなきゃだめだ。ひとりだけさせるのもなんだか気が引ける、後ろ髪を引かれつつ黒音くんがそういうのだから行こうと決めた。「ごめん、デザート黒音くんの好きなものつくるね!」と残して私は本屋へと急ぐ。さっさと買ってしまおう、そう決めて。
きっと、黒音くんは河合さんに見られるのを防ぐためにそう言ってくれたのだと思う。困る、今の私たちの関係が知られちゃうのは。黒音くんが一番、そうだろう。今の所彼の住む家は、私の所だけだから。
────いつかは、離れちゃうんだ。そうか、と今頃気づいた。この生活がずっと続くわけなんてないのに。
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「………あ、黒音くん?」
薄手のパーカーを羽織ったあの長めの黒髪、あれは黒音くんだ。レジに並び、大量の食材を持ってる。重そう…ってことは、ここらへんに住んでいるのかなぁ。
支払いも終わり、袋へ詰め込んでいく彼に近づく。「黒音くん!晩ご飯のおかず?」
ちらりと、一瞥しただけですぐにふいっと逸らす。
「ねぇ!」「……………うるさい」
え??今、うるさいって言った?
「………あ、えっと?」
総無視して、大きな荷物を掴むと去っていく。すると、ウィンナー試食担当のおばさんが、「あら、さっき奥さんは出て行ったわよ?」と黒音くんに話しかける。
「うん、さきに行ってもらった。重いものは持たせられないから」私には全く答えを返さなかったのに、…………え?お、奥さん?!
「……あら、いい旦那さんね!!」「…そうでもないよ」
そう返して、帰って行く。
「………奥さん?ええ?!」
私は、黒音くんに本当のことを聞こうとして飛び出しかけた…が、「愛梨ー?なにしてるの、ほらカゴもって頂戴!」お母さんに言われ、渋々諦めた。
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