お弁当
「んん」
最近の私は、重みで目が覚める。重み、それは彼の腕がのっかってるからだ。「……重たい」ぽつり、呟いてのそりと動きだすと「…どこいくの?」起きてたんかーい!
「朝ごはん作るの」「やだ」
黒音くんは、甘えん坊だ。まさか、こんな人だとは思ってもいなかった。人が嫌いらしいんだが?
「………ゲームの命…」ぱちくり、目を瞬き視線を逸らした。ふふん、君の弱点は心得てますよ。「…手伝う」のそりと起き上がると、いつも通りの猫背のまま寝室を出て行く。「ゲーム好きだねぇ…ほんと」
私の朝は、何が何でもお味噌汁は作ります。具材はお豆腐だったりワカメだったりと様々です。私はお揚げが好きです。「切れた」ずいっとまな板を差し出してくる黒音くん。その上には、お揚げを短冊切りされてる。
「黒音くんって、料理うまいよね」何気に零す言葉は、本当のこと。私がバイトの夜はごはんを作って待ってるのだ。それがすごく美味しい。「雹が作る方がおいしい」「ありがと」嬉しくて思わず微笑む。待ってなくていいのに、といつも言うが待っててもらうと嬉しい。さり気なく、私の嬉しい所をついてくる黒音くんだ。
「雹……」いつもは一人の黒音くん。しかし、我が家ではなにかとくっついてくる。両脇の下から腕をまわし、やんわりと背中に張り付く。「どうしたの?」と聞いても、黙る。ただ、ゲームをしたり気づけば寝てたりする。こちら的には、面倒だが微笑ましい姿に許してしまうわけだ。
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「雹子、今日のお弁当は豪華だね。今日というか、最近?」
そう言われ、下に視線を向けた。
「………そっかなぁ」ちょっととぼけてみせるが、きっと早希はお見通しだ。内容は分からないと思うが。
「ふふん、まぁいいわ。玉子焼もーらいっ!」
「ああっ!」二切れ入れてあった、玉子焼。もぉー、ちょっと楽しみにしてたのに!!まあ、一切れあるからいいけど。もう、とられないように口に入れる。ふんわりと甘い玉子焼、私の好きな味。私は、ここまで上手く作れない……これは、黒音くんお手製の玉子焼だ。「美味しい…」「甘くて、美味しい!」早希もお気に召したようだ、でも内緒。
最近、豪華になったこのお弁当。その理由は、黒音くんと一緒に作るから。なにより、私が黒音くんの好物を作っちゃうからってのもある。彼の好物は、小さい子とかが好きそうなものばかりで、豪華になる。前までは、晩御飯の残りとかだったのになぁと振り返る。
好きなもの食べると顔が僅かに綻ぶ彼を見たくて、作っちゃうんだけどな。
「あれー?黒音くんお弁当??」
クラスでも可愛いと人気の女子が、彼の弁当の存在にきづいた。あちゃぁ、なんでああいった女子って声が大きいのかなぁ?目敏く見つけちゃって…ほらぁ、黒音くんってば不機嫌になっちゃってるよ。ちょっと、こっち見る?黒音くんの視線に逃れる為に視線を弁当に戻した。
「あれ、黒音くんって弁当だったけ?」早希がぽつりと呟く。いいえ、違います。というより、教室で食べてるのも珍しいんだけどね。今日は、風強いからね。
「……知らないよ。というか、黒音くんって教室で食べてたっけ?」「……それもそうか」
私と住むようになる前から知ってはいた、彼は一人静かに屋上で食べてる。たまたま早希が休みの日、ふらりと訪れた屋上に座り込んでパンを貪る彼を見つけた。そっと、扉をしめて私は別の場所に向かったけれど。
「わぁー美味しそう!!お母さんが作ってくれるの?」
「………ちがう」そっと、食べかけのそれを片づけると立ち上がる。「あ、黒音…くん」彼女の声を無視して彼は去ってゆく。「ねぇ、チラッと見えたんだけど…」早希は私の弁当を見て「具が一緒だったよ、雹子と」ぎくりとした。おおう、早希は勘も鋭いから怖いなぁ。早希には、話した方がいいのかもしれない…な。
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