これ一つ?
バイト、そうだ今日はバイトだった。でも、チラリと視線を向けた先には彼、黒音くん。学校でゲームをしていいのか?否、しかし彼は平気でするところがある意味すごいと思う。……話がそれた、そうだ…今日から彼は正式に家で飼育…間違った。同居人となるわけで、たしか追い出されたと言ってたなぁと思いつつ思い出したバイトの存在。
「あ、もしもし…はい、白井です。はい、すみません用事が…はい」
バイトの休みを貰うことに成功した。次は、家にまず帰ろう。そそくさと帰路につくと、後ろからマイペースにしかし足が長いため追いつかれた私。ぎょっとして、一段と足早になると「ねぇ、…なんで逃げるの」悲しそうな声が後ろから聞こえ、居たたまれなくなる。「ねぇ、……なんで?」「……分かった、」本当に居たたまれなくて歩くペースを落とした。「目立つからやだったの」「目立つ、どこが?」一番目立つのが苦手で、前髪を伸ばしたりしてる彼だが世間的には目立つ部類の彼は自分が目立っていることに気づいていない。
「……いや、なんでもないよ」言ってないことにした。
よかった、こっちの方向は生徒が少なくて。見られたらオワタだよ。「雹、……おなかすいた」アンタは、マイペースすぎだ!今日だって、お弁当しっかり渡したからよかったけどきっと学食も売店でも買うお金ないんだろう。「分かった、帰ったらすぐ支度する。今日、バイトは休んだし」「……バイト、してるの?休んで、良かったの?」「してるよ、仕送りだけじゃ心許ないし。休んだのは、………」気づけばマンションに到着しており、エレベーターに乗り込む。「うちに住むんでしょ?前の家追い出されたって言ってたけど、私物とか家財道具とかは?」「…家財道具は、据え置きの。私物は、」
部屋に入り、昨日持っていたカバンを掲げ「コレだけ」と言う。私は、びっくりして固まった。……え、その小さいカバン?!「これ一つ?」迷いなく頷く、彼。「少ない!」それよりも驚くことに、開けて中を取り出していくモノを見たら…「ゲームばっかりじゃん!ちょっと、服少ないって!」「え、必要ない。」出てきた服は、Tシャツが数枚とジーンズ、あとは少しの下着。……アンタ、ゲームばっかり買ってるでしょ?!
「ねぇ、まさかと思うけど……仕送りでゲーム買ってたんじゃないよね」ギクリ、そんな効果音が似合う反応をしたな…今。図星か、そうかそうなのね!
「……まずは、浪費グセを治しなさい!」
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そういえば、昨日兄の服貸さなくてもあったんかい!自分の服。でも、少なすぎだよねぇ。
ご飯を食べて、お風呂に浸かりながら考える。ゲームバカって、黒音くんのことを言うのかな。彼は野放しにしちゃだめだ、死ぬ…確実にね。それを、両親がやっちゃってる所がなんで出きると判断したんだろう?と疑問に思う。
私が、見るしかないのか。知っちゃったし、同居も許した。なにより、猫っぽくてほっとけない。
お風呂をあがると、リビングで熱心にゲームをする姿が見受けられた。本当に、ゲームバカか。
先にお風呂に入って貰ったし、片付けも終わった。よし、寝ようと決めてベッド横に布団を敷く。完璧、呟いて私はふかふかキングサイズベッドに潜り込む。
「なんで、先に寝ちゃうの?」ぼんやり思考が夢の世界に旅立ち始めた時、のそりとベッドに入り込んできた黒音くんにびっくりして目が覚める。「ちょっ、なんで入ってくるの?!」隣の布団を指差して、いうも一瞥しただけで潜り込んでくる。「こっちがいい」腕を伸ばして私を自身へと寄せる。ちょっと、なにしてるの?
ぎゅむっと抱きしめて、寝息が聞こえてくる。まじかよ!!私、この状況で寝られないから!!
……とかいって、人の温もりは心地良くてすぐ寝ちゃうんだけどね。
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