セミの一生
「おい、聞いたか?昨日みっちゃんが成虫の階段を上ったらしいぞ?」
「え?マジで?」
我が友人の言葉を耳に疑った。
ミンミンゼミのみっちゃんがもう成虫に?
「マジマジ、俺昨日朝にさ外界に行くの見たもん」
そうか、みっちゃんは成虫になっちまったのか……。
もう二度と会うことは出来ないだろうなぁ……。
さらば、みっちゃん。
「ツトム?お前はどうする?」
「俺か?そうだなぁ、みっちゃんが昨日上がったなら俺もそろそろ成虫にならなちゃかな?」
俺こと、ツクツクボウシのツトムは友人のクマゼミのクマ太郎といつ成虫になるかを話している。セミの一生のほとんどは幼虫期であり、成虫になってしまえばわずか7日程度である。
つまり成虫の階段を上るということは死を覚悟するということと同義なのである。まさに背水の陣。
翌日。
「クマ太郎、俺は行くよ」
俺は土の穴を抜け木に登り成虫になろうとしていた。
「そうか、寂しくなるな」
「あばよ!」
穴を抜けて、木に登る。
そして体内で脱皮を繰り返し、そして成虫へと羽化する。
そう、遂に俺も成虫になったのだ。
1日目。
「よう!ツトムじゃねえか!お前も外界に来たのか?」
「みっちゃん!」
成虫になった途端にみっちゃんに出会うことが出来た。
意外に幸先いいかもしれない。
「再会を懐かしんでる暇はないぞ?一日でも長く鳴き続けないと相手が見つからずに死ぬか、もしくはアレだ」
「アレ?」
みっちゃんが指した方を見てみる。
そこには巨大な網を持った人間の子供が数人居た。
「カブト虫~♪クワガタ虫~♪」
人間の子供たちはなにやら奇怪な歌を歌っているようだ。
「気をつけろ、人間の前で鳴き続けるとあの持っている網で捕まえられて死ぬまで監禁されるって話だ」
「え?マジで」
「あぁ、噂だと高温の油で揚げられて食べるらしい」
「食べる!?セミを!?人間が!?」
「真偽は分からねえが、そう聞いた。人間ってのはイカれてやがるぜ」
どうやら外界は噂以上に危険な世界らしい。
3日目。
「よぉ、ツトム。調子はどうだ?」
「あんまり良くないね」
「そんなだから……」
そう呟きながらみっちゃんは人間の男の子に捕まえられた。
「みっちゃん!?」
「悪い……俺はここまでっぽい……」
「みっちゃん!!」
「俺の分まで生きろよ……」
7日目。
「う……あ、あぁ……」
どうやらこの辺りで寿命が来てしまったらしい。
「なぁ、あの爺さんはそろそろ逝くんじゃねぇか?」
「あぁ、ぽっくり逝きそうだな」
「あんな風にならないように俺達はがんばろうぜ」
「だな」
後輩が何か言っているようだが、もはや何も分からない……。
分かるのは俺はもうダメだってことだけだ……。
交尾して子孫を残したかった……。
BADEND