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「夢の続きは・・・」ミニミニ番外編  ある日のメス投げ同好会

作者: 花香院初音

「夢の続きは・・・」登場人物の中で最強なのは、実は瑞生なのではという気がします。そして最弱はやはり、ダの付くお方かも。

「だぁーっ!」

 日本外科大学の第一校舎にある『メス投げ同好会』の部室に、今日も瑞生(みずき)の妙な気合(きあい)が響きわたる。

 「れぇーっ!」

 掛け声と同時に投げられた外科手術用のメスが、(まと)に描かれた心臓を少し(はず)して、そのすぐ真上に突き刺さった。

 「いぃーっ」

 今度のメスもまた、心臓から(わず)かにそれる。

 横で見ていてじれったくなった浩道(ひろみち)が、(かたわ)らから口をはさんで来た。

 「瑞生、もっと肩の力を抜いたらどうだ。全然心臓に当たっていないじゃないか」

 そう言いながら力強く投げた彼のメスは、同じく的に描かれた心臓の中央に、真直ぐに突き刺さる。

 「うわあ、さすが。相当(そうとう)(うら)みがこもって・・・いや、気合が入っているよねぇ」

 「ははは、何しろ的がいいからな」

 実は彼の的には、ほぼ実物大の陸人(りくと)の顔が付いているのだ。

 浩道の露骨(ろこつ)意図(いと)を嫌というほど理解している陸人が、目に見えないプレッシャーを感じながら、部屋の窓際で黙々(もくもく)と自分の的に向ってメスを投げ続ける。

 「ぼくも負けずにがんばろうっと。おぉーっ!」

 またしても瑞生のメスは心臓からそれて、そのすぐ斜め下に突き刺さった。

 「おいおい、また外したじゃないか」

 (あき)れて見ている浩道に向って、瑞生が言う。

 「ふふっ。だってぼくは、敵を一気に仕留(しと)めるよりも、じわじわと苦しめながら地獄に突き落とす方が好きなタイプなんだ。『ぼくの大事な妹に手を出すなんて、百万年早いよ!』とかってね。すぅーっ!」

 またしても奇妙な気合とともに投げられたメスが、今度は心臓の右下に突き刺さった。

 なぜだか陸人がものすご~く嫌そうな顔をしながら、瑞生を横目で見ている。

 瑞生のメスは綺麗に(とう)間隔(かんかく)で心臓を囲んでいた。(はた)から見ればどう考えても、意図的に狙って投げたとしか思えない腕前だ。

 その瑞生の的だが、実際に近付いて良く見てみると、心臓には小さく古代ギリシャの文字で「ダレイオス」と書いてあるということを、少なくとも当の陸人は気付いている。

 「ふふふ。今度は心臓周りじゃなくて、もっと敏感な指先とかを(ねら)おうかなあ」

 瑞生がまるでショッピングでもしているかのように、ウキウキと聞えよがしにそう(つぶや)いた。

 人形の的の指には一本ずつに書き込みがしてあることも、陸人だけはちゃんと知っている。

 そして、左から順に読むと、これにもまた「ダ・レ・イ・オ・ス」と書かれてあるということも。

 (・・・万が一、自分が的にされる日が来たとしたら、絶対に瑞生よりも浩道を選ぶ!)

そう心の中で(ちか)いながら、今日も茉莉(まり)()に声をかける勇気が出ない陸人は、瑞生と浩道の悪意を一身に引き受けながらも、ただひたすらにメス投げの腕に(みが)きをかけ続けるのであった。


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