尾行と継承と狭山雫
久しぶりに書いた気がするなあと思ったら本当に久しぶりでした。
キャラの性格とか忘れてて困った。
あらすじを忘れた人のために(本当はもう一度読んでほしいけど)前回までのあらすじ
『瞳を見つめるだけで人を殺せる通り魔』に襲われ死の淵を彷徨った主人公有宮涼。
彼は一度死の淵を彷徨ったことにより、『幽罪』と呼ばれる超能力を手にした。そしてその能力『干渉』の効果、自分が口にしたことが現実に起こる。により、幽霊(狭山雪)を召還してしまった涼。
興味本位で死因を聞くと、どうやら瞳を見つめるだけで人を殺せる能力『殺意』が深く関係しているらしい……
『殺意』による、殺人。
この場合殺人犯……ストーカーや雫は罪に問われるのだろうか。
「当然あたしはこのとき、『殺意』のことも、それが継承されるということも何も知らなかった。でも何か異常なことが起きている、ということだけはしっかり理解した。だからあたしは、姉から逃げた。」
「逃げた、というのは? 」
「文字通りよ。幸い雫はあたしの存在に気が付いていなかったみたいで、帰宅した後も何も言われなかったの。」
それから、と雪は言葉を続ける。
「あたしも信じたくなかったのよ。姉と向かい合っていた人が、姉のせいで死んだなんて。赤い瞳はきっとあたしの見間違い、倒れたのは不慮の事故であってあのあと雫はしっかり看病してあげた、って思いたかった。でも、次の日あたしは現実を知ったわ。」
「ニュースにでもなっていたのかしら。」
「はい。次の日の夕刊に載っていました。例の場所で人が倒れていた、心臓麻痺だった。って。」
「でも心臓麻痺だったのよね? 」
「ええ。だからあたしはまだ全然姉が何かをした、など考えていませんでした。ただ、その新聞記事の最後の一文を読んで少し考えが変わりました。」
「なんて書いてあったんだよ。」
「『最近、道端にて心臓麻痺で死ぬ事案が増えている。対策をしっかり取ってほしい』こんな感じの末文だった。」
心臓麻痺が流行っている、だって?
それはまるで
「今この辺りで起きている連続怪死事件と似たような状況じゃない……」
ハルが俺の思っていたことを代弁した。
そう、その通りだ。今俺たちの高校の校区内付近で、二日に一回路地裏にて死体が発見されている。死因は心臓麻痺。世間では偶然、と処理されているが俺は身を以てその原因が何であるかを知ったので、たまたま二日に一人人間が死ぬのではないということを知っている。
「ねえ、天原さん。」
ハルが千綾先輩に声をかけた。
「僕の仮説なんですけど、これ、『殺意』の副作用じゃないですか? 」
殺意の、副作用?
「人を見つめるだけで殺すことのできる能力の代償として、人を殺さないといけない。という制約。このルールがあるのならいろいろなことに納得いきます。」
人を殺さないといけないという制約、だと?
確かにそう考えれば、二日に一人死ぬ例の法則も説明が付きやすくなる。
四十八時間に一人殺さないと発動者が死ぬ、というルールがあったら納得いく部分も多い。
「……ハルくん。」
「なんでしょう? 」
「私も確かに同じことを考え付いたのだけれど、なんで私に聞いたの? きっと雪さんは憶測じゃなくて真相を知っているわよ。」
「ああ、すいません。いつも天原さんに聞いていたのでつい。」
「……」
「ハルくん、千綾さん。正解です。順序がややこしくなっちゃうから詳しくは今はなさないけど、『殺意』の能力者は四十八時間に一人、誰かを『殺意』によって殺さなければならない。さもないと」
「能力者本人が、死ぬ? 」
「最終的には同じことだけど、もっと恐ろしいハメに会うわ。実際あたしが経験したことだから、あとで話すよ。」
「わかった。」
質問タイムは終了し、雪の自分語りが再開される。
「新聞記事より、心臓麻痺が流行っていることを知ったあたしは、少し詳しく調べてみたの。いつどこでどんな人が死んだのか、ってことを。」
そういえば雪は先ほど、『それに、電車で遠い街まで行くこともしばしばあった。』と言っていた。
「被害者は県内が多かったけど、たまに県外にもいて、同じ県内にしてもいろいろな場所で死んでいた。少なくともいまみたいに、この辺り周辺だけで起きているわけではなかったの。だから今みたいに怪死事件などとは言われてなかったけど、あたしは絶望した。だって、姉が遠出した日に、その場所で人が死んでいたんだもの。」
「雪さんはこの時点でどこまで推測していたの? 」
「あたしはこの時点で二通りの仮説を立てていました。一つ目は希望。『ただの偶然』もう一つは信じたくない現実。『姉が何らかの方法で人間を死に至らしている。』そしてあたしは確認するために、とある方法をとりました。」
「とある、方法?」
「姉に直接聞きました。」
なんだって。姉に直接問い詰めた? お前は人を殺しているのか、って?
「そしたら、なんて? 」
「聞いたとたんに驚愕の表情を浮かべました。そして、なんで知っているの? という風にこっちが逆に問い詰められたの。ヒステリックに。姉はなかなかキレない人だったから、あたしもびっくりした。その頃は正直自分の仮説をいまいち信じ切れていなくて、偶然だと思っていたのよ。でも姉は、過去にあたしが姉の彼氏に告白されたときのように…いや、それ以上に狂乱したわ。なんで知っているのよ!私は悪くないじゃない!仕方ないでしょ! って」
「仕方ない……そうよね。仕方ないことよね。」
千綾先輩が狭山雫に同意する。
「そこであたしは、『あたしは何も知らない。でも、お姉ちゃんが何に巻き込まれていても、あたしは味方。たとえお姉ちゃんが完全悪だったとしても、あたしだけは味方だから。だから話してみて。お姉ちゃんは今、何に巻き込まれているの? 』って言ったの。これは本心からの言葉で。」
「それで雫さんはすべてをあなたに打ち明けたの? 」
「はい。相当姉もまいっていたようで、大嫌いだったはずのあたしに泣きついてきました。正直彼女の言うことは支離滅裂で話が終わって部屋に帰ってきっちりと整理するまで何を言っているのかいまいちわからなかったけど、なんとか理解したの。狭山雫が何に巻き込まれたのか。」
いよいよ話は佳境を迎えそうである。俺たち三人は息をのみ、続きの言葉を待った。
「もう皆さんが推理して導かれた答えも多いけど、一応あたしが姉から聞いたことを全部話すね。」
「おう。」
「事の発端は、姉をストーキングしていた人物が、姉の前で人を殺したこと。」
最近、私のことストーキングしている人……今日もいるのかな。
この頃、狭山雫は男性にあとをつけられていた。相手は見たことのない人であり、特に雫本人に危害を加えるわけでなく、ただあとをつけてくるだけだったので、警察にも相談できずにいた。
「でも、やっぱりそろそろ警察に行ったほうがいいのかな……怖いし。いつ襲われるかわからないしね。」
あと三日続いたら警察に行こう。狭山雫がそう決断した日の夜のことだった。
「うわ、やっぱり今日もいるよ。」
数十メートル後ろにきっちりと張り付く黒い影。
「どうしよう、走って逃げようかな。でもそれであの人を刺激してなにかされたらもっといやだな。」
何度目かになるこの自問自答を終え、今日も彼女は足早に帰宅する、はずだった。
ドサッ。
背後で何かが倒れる音がした。静寂の闇夜の中には合わない無機質な音。人が倒れたような音がして、狭山雫は振り返る。
否。人が倒れたような音、ではない。人が倒れていた。
「っ…」
上がりそうになる悲鳴をすんでのところで抑える。
倒れていたのはストーカーではなかった。ストーカーは倒れている人間を見下ろしている。
そしてその瞳は、真っ赤に染まっていた。
もう彼女の頭の中に、先ほどの自問自答の答えなどなく、全力疾走で家まで帰った。
あいつが何かをしたんだ。頭の中はその気持ちでいっぱいになっていた。そして予想通り、翌日の新聞記事から昨夜の場所に倒れて死亡している人間が見つかった、とわかった。
しかし、一つだけ不可解な点があった。
「心臓麻痺……? 」
そう、昨晩倒れていた人の死因は、心臓麻痺だった。
「じゃ、じゃあ、ストーカーさんは何もしていないというの…? 」
彼は偶然、人が死ぬ現場に居合わせただけで、昨日の真っ赤な瞳は見間違いだったのだろうか。
そんな自問自答を繰り返したが、答えは出なかった。
そして数日がたった。
「慣れって恐ろしいね。もうあの人が後をつけているのが自然になっちゃったわ……」
数日前、三日続いたら警察に行こうと思ったことや、赤い瞳のことは彼女の頭からすっかり消え去っていた。
「ああ、もうこんな時間。」
時刻は夜の八時半。狭山雫は大学生ではあるが九時ごろには家に着くのが日課であった。駅の本屋で目当ての本を購入したのち、帰路についた彼女はやはり後ろにあとをつける人物の気配を感じていた。
「うーん、でも慣れたとはいえやっぱり警察には行った方が良いよね。今のところ実害はないけれど。赤い瞳の件もあるし。」
そう思いながら細い道に差し掛かった瞬間のことである。
背後で。
人の倒れる音がした。
「……」
あわてて振り返る雫。
また? 誰が倒れたの? そう思いながら見た後ろには、倒れた男とそれを見下ろすストーカーがいた。
そしてその瞳は、真紅に染まっていた。
「ひっ…」
「あはは、あはははははは、見られてしまったね、雫さん!」
「あ、あなた…何なんですか!今、その人。え? その人死んで……」
「見られてしまったら仕方がない、僕は君のことが好きだったけれど次は君を殺すことにするよ、ごめんね。」
「な、なにを言って……」
「見たでしょ? 僕は人を見つめるだけで殺すことができる。でもね、その代償として二日に一人人間を殺さないといけないんだよ。だから明後日は君の番にする。」
「え、え? 本気ですか、警察に行きますよ。」
「あはははは、面白いことを言うねえ。この殺害方法をきみはどう立証するつもりだい?」
「う……」
「おとなしく明後日を待ちな。なんならここで殺してあげてもいいけれど、猶予をあげるよ。せいぜい楽しんでね。あと二日の命。」
その後、妹の雪が遊びからの帰りに通ったときに震えてうずくまっている狭山雫を発見した。
翌日は、心配している妹に洗いざらい話し、二人で家に引きこもっていた。
そしてその次の日。
狭山雫の命日となる予定の日。
彼女は人生最後の日を、家で過ごしたら妹にまで危害が及ぶと思い、外で過ごすことにした。
夜。
両親には友達の家に泊まるといい、狭山雫は町をさまよっていた。
「彼と会わなければ死ぬことは、ないよね。」
そう言って市外にいこうとした彼女だが、ここで彼女の人生は大きな転機を迎えた。
「……あの後姿って。」
彼を発見したのだ。
「彼に見つからないように彼を見張っておけば……今日死ぬことは、ない!」
そう思い至った彼女は、彼のあとをつけることにした。
着実に自分の家に向かっているストーカー。そしてそれのあとをつける狭山雫。
幸い、彼は背後に気を配ってはいなかった。
そして例の細い道に差し掛かった瞬間のことである。
ドサッ。
彼が、倒れた。
彼の目の前にいた人が、ではない。細道には狭山雫とストーカーしかいなかった。倒れたのはストーカー本人である。
「え……? し、死んだ? 」
十分ほど見張っていたが、彼は二度と動くことはなかった。
こうして彼女は、泣きながら生きて、家に帰ることに成功したのである。
次は自分の番だとは知らずに。
「これが狭山雫の物語の前編です。バカな質問をしたあたしに、姉は、こう答えてくれました。」
回想を終え、雪が言葉を区切った。
「……壮絶な、話だな。」
俺はそうとしか言えなかった。俺を『殺意』によって殺そうとした相手は、少なくとも申し訳なさそうだったように思える。
「そうして姉がストーカーを看取ったことにより、『殺意』が姉に継承され、次は姉が人を殺すようになりました。ここはさっき話した通りね。」
二日に一日外出したり、人をものと同価値であるかのように見たり、か。
「この話を聞いて、あたしは姉を許したんです。」
「許した?それは、どういう意味? 」
ハルが尋ねる。
「言葉通りよ。姉が生きるためなら、人を殺すのは仕方がない、って思ったってこと。」
「……」
考えてみる。もしも千綾先輩がこの能力を持ってしまっていたら、俺はどうするか。
……殺人を許容するだろうな。
「雫さんに継承された経緯はわかったわ。次は、あなたに継承される番よね。」
そう聞かれた雪はあっさりとこう答えた。
「この後三か月ほどして、あたしの目の前で雫が死ぬんですよ。操り人形の糸が切れたかのようにパタリと倒れて、そのまま絶命。こうして『殺意』は、狭山雪に継承されました。」
ありがとうございました。
このRELATE、ストーリーはしっかり練っているので、時間ができれば続編は書けます。
時間頑張って作ります、過去編はすぐ完結させます。
『殺意』継承から、雪が死ぬまでを書ききったら、日常を挟んで、伏線回収という名の本番が始まる予定です。
もうしばらくおつきあいください……