心理描写を括弧で囲って良いか。
しばらく見ないうちに、感想欄にたくさんの感想が書かれていました。ありがとうございます。その中で、今回取り上げるのは、心理描写を括弧()で囲って良いか、悪いか、という話です。
なんだか壮絶な議論が繰り広げられそうな話題ですが、2つも指摘の感想がついたからには、作者として書かないわけにはいかないでしょう。というわけで以下に書きます。
一般に、古典的な小説は、地の文と台詞から成ります。そして、台詞には「」を使うのがとても一般的です。ここまでは前提条件として問題ないと仮定します。
で、問題は()のほうです。これは地の文でも台詞でもない、第三の要素です。主人公やキャラクターが思ったこと、口に出さなかった気持ちを書くために使われることが多いです。プロの作家の方でも、この表現を使う方はたくさんおられます。
さて、この発祥をどこに求めることができるかというと、作者は国語の専門家ではないため正確なルーツは分かりませんが、2つの原点があると思います。それは、お気づきの方もいるかと思いますが、漫画とゲームです。
漫画には、吹き出しと呼ばれる、突起のついた台詞の書かれた箱がたくさん浮かんでいます。これが小説でいうところの台詞「」です。
それとは別の吹き出しもあります。小さい丸から大きな丸へと大きくなっていき、心の中で思ったこと、口に出さなかった気持ちを書く箱となります。これが小説でいうところの括弧()です。
またゲームでも、主人公は~と思った。という表現はほとんど使われません。それだと冗長すぎるため、ダイレクトに()を使って心理描写するほうが一般的です。
これを小説に当てはめると、なんだ小説にも()を使って良いのじゃないかという結論になりそうですが、ちょっとだけ思い出すべきことがあります。小説には、人称という問題があるということです。
漫画では、吹き出しの位置等で、誰が思ったことなのかはっきり分かります。ゲームでも、名前や顔などが表示され、誰が思ったことなのかはっきり分かります。しかし小説ではそこのところが非常に特定しづらいという人称の問題が、()の使い方の難しさに直結します。
(別に括弧を使ってもいいじゃないか)
と書くこと自体に問題は無いですし、主人公が一人きりで考えているような時には誰が思ったのかはほとんど自明なのですが。複数人が混在するような場面でこの書き方をすると、誰が何を思ったのかが不明になります。つまり漫画で言えば、突起の無い吹き出しのようになってしまいます。
漫画で言う、突起の無い吹き出し。一般的には、これは説明書きです。小説の書き方風に言うならば、これはナレーター型の三人称神視点になりますので、確かに理屈の上では何でも書けるのですが、あまりにそれが多すぎると、漫画や小説として成立させることが難しくなります。
(そうさ。ここには何でも書ける。でも誰が思っているのか分からないんじゃあ読み手が困るだろう。主人公をはっきりさせ、前後を地の文で挟み、語尾を特徴的にするなどして、誰が思考しているのかを明確にする。そうでなくては――小説として成り立たない)
などというのは良くない例の一つです。前後に地の文が無いので、誰の思っていることなのか分からず、何のことだかさっぱりという状態になっています。これを例えば、
時は早朝。茶色のカーテンの端から漏れる光が、部屋を少し明るく照らし出している。この作者は――それは小説書きとしての禁忌なのだが――文章を使いまわして文字数を稼ぐことを覚えた。コピーアンドペースト。再び繰り返される思考。
(そうさ。ここには何でも書ける。でも誰が思っているのか分からないんじゃあ読み手が困るだろう。主人公をはっきりさせ、前後を地の文で挟み、語尾を特徴的にするなどして、誰が思考しているのかを明確にする。そうでなくては――小説として成り立たない)
作者はこうやって文字数を稼ぐ。しかしまだ1500文字台だ。できれば一話2000字は欲しい。一体どうすれば?
(もう一度同じ文章をコピペするか? いや、しかし三度はさすがにやりすぎなんじゃないか? コピペ厨乙とか言われたくないし……)
というような書き方なら、特に問題は無いのではないでしょうか。
その他に、()使いの方には、物語を語り部口調で紡ぐ方もいます。物事のなりゆきを全部知っている弁士が、あらゆる物事を語って語って語りつくす。このタイプの小説は、一人称とか三人称とかにとらわれず、誰が思ったことなのか明確にしてあれば、()を連打しても問題ありません。
しかし、小説を書く基礎ができてないうちから、()を連打して使って小説を書くことに慣れてしまうと、一人称では決して知りえない情報をうっかり書いてしまったりするミスが起こるでしょう。なのでまず、一人称に慣れてから、()に手を出したほうが良いと思います。
なお、括弧の多用が始まったのは、漫画やゲームよりずっと前だよ、という指摘もあるかもしれません。ただ、分かりやすく説明するために、ここでは例として漫画やゲームを取り上げさせてもらいました。
では、また後日。
 




