2013年を終えて。
1800pt到達記念。作者の近況とスランプ脱出法
12月になってふと見ると、半年以上更新していないのにポイントが増え続け、1800ptを達成していた。また、感想も何件かついている。ありがたいことだ。
エッセイというジャンルの特性で、一度ランキングに載ると読者が途切れなく来てくれるというのがある。そういうのを割り引いても、ユニアクとポイントは作者にとって非常にうれしいものだ。読者様様である。これは記念に何か書くべきなんじゃないか。書こう。書くしかない。でも何を書こう? そんな気持ちで今テキストエディタに向かっている。誰かお題をくれ。割と切実にそう思っている作者である。
作者の近況
2013年という年が終わろうとしているので、ひとまず作者の近況を書こう。思えば、仕事に趣味に、いろいろあった年であった。
名は伏すが某アプリの開発にちょっとだけ携わったり、NEET有志でタロットゲー「アーガーデュエル」を作って11/04のゲームマーケット2013秋で頒布したり、NEET株式会社に参加して全員取締役になったり、いろいろと忙しい状態が続いた。ニートでひきこもりな作者にしてはよくやったほうだろう。
無論反省点もある。
一つ目は、忙しくて小説が書けなかったことだ。6月のNEET株式会社の説明会以降、NEET株式会社のメンバーとなるべく精力的に活動してきたが、これが想像を絶するブラック企業っぷりで、昼夜を問わずSkype会議が開かれ、全く休む暇がなかった。
二つ目は、忙しくて小説が読めなかったことだ。まず辞書を毎日4ページずつ読んでいくという計画が5月ごろ破綻し、次に設定したニンジャスレイヤー4巻までを年内に読破するという計画もまた、3巻目半ばで読む気力が無くなって失敗した。WEB小説の、テキスト読み上げソフトによる音読にいたっては、全くできていないというのが現状である。
つまりインプットが全く無い期間が半年ほど続いた。そのため、書けるものも書けなくなってしまった。これは非常に痛い。普通の小説家ならここで絶望して筆を折るところかもしれない。しかし、作者には執筆ノウハウのバックアップがある。このエッセイ「誰でも分かる!小説の書き方入門」は、将来訪れるこのようなスランプ時期の克服のために書かれたのである(ドヤ顔)。
スランプ脱出法
小説が書けない。これは大体の場合において「お題」が思いつかないか、あるいは逆に「お題」がでかすぎるのが理由である。
作者が拙作の続編を書こうとして書けないのも、おそらく似たような理由であろう。大きすぎる「お題」は、作者を駄目にしてしまうのである。
では、一度陥ったスランプを脱するためには何をすればいいのか。
たった一行でいいので、話を書くことである。これが意外と難しい。しかし「死ぬ」というキーワードを使うと、割と簡単に話が作れる。
まだ名前の無い猫が死ぬ。
私の敬愛する先生が自殺する。
寒い中マッチを売りに出かけた少女が死ぬ。
聖堂のルーベンスの絵の前で貧乏少年と犬が死ぬ。
期待されて神学校に行った少年が退学して挫折して死ぬ。
有名作家がヴェネツィアで美少年に恋をしてコレラで死ぬ。
意外と多くの小説が「死ぬ」で終わっている。これは比較的作りやすい。
王女の謀殺に関わった王子がそのことを後悔しつつ戦死する。
なんかは話として簡単そうである。以下にサンプルを書く。
サンプル
僕こと、黒髪にぼさぼさ頭のアレク王子は妹のナターシャ王女を殺した。太陽に尋ねるまでもなく、それは事実である。魔鉱夫たちの進めるテロ計画、秘匿名「ブロークン・アーランド」。その邪悪な計画の詳細は事前に全て把握していた。貴族の館への同時多発襲撃。確かによく練られたテロだった。だが魔鉱夫といえども人間である。金のため命のためには仲間を売る。一度漏れた計画が成功することはない。
それでも妹のナターシャを安全のためと言いくるめてわざと危険な館へと移したのは、兄であり王子である僕アレクの鬼畜な所業に他ならない。
その結果として、ナターシャは死んだ。死体は無かったが、鉱夫たちがあのペンダントを見てナターシャが王女だと気付かぬはずがない。ただ死ぬよりも残酷な仕打ちが待っていただろう。世間知らずのナターシャ。僕のかわいい妹。愛する妹。ナターシャ。
死体が無かったからだろうか。僕の中には一つの恐怖が芽生えた。ナターシャが生きているのではないかという恐怖が。いつの日か、空から天使の如く舞い降りて、僕の行いを裁くのではないかという恐怖が。そんなことは決して起こらないと知りつつも、夢の中に現れるナターシャは生前そのままの姿でそこに佇み、いつもと変わらず優しく笑っていた。それが僕の心を責めた。
無知。それはこの神無き大陸アールのアーランド王国において、全てを破滅へと導く劇薬である。僕は知っている。この国の王族は実質的な権利を何も持っていないということを。有力貴族たちは独裁を敷いていて、ザッフランド王国との戦争が始まったときでさえ、兵力を国のために捧げようとするつもりは無かった。国境において、愚かしい戦力の逐次投入が行われ、陣地は荒廃した。ザッフランドとのマグタイト採掘権をめぐる戦争は凄惨を極めていた。
一つ確かなことがあった。この戦争を終結させた者が「次の王」になるのだ。老いた王は跡継ぎを探しており、その正統性は生まれではなく武勲によって証明されねばならなかった。弟のサンドリアでは、権謀術数の貴族と渡り合うには不足である。この国のためには、僕が、他でもないこの僕、アレクが戦争を終わらせねばならなかった。
「二手に分かれて進軍していた補給部隊が奇襲を受け全滅しました。伝令によれば、我が軍の主力部隊は敵陣地にて孤立。親衛隊による救援を待っております」
だが、伝わってくる知らせは戦争の終結とは程遠いものだった。神無き大陸アールにおいては、神への祈りは通じないのだ。この戦いに、死の行進に、打開策は無い。伝説の英雄などというものは決して現れない。
「了解した。騎兵を始めとする親衛隊は僕を先頭に血路を切り開く。主力部隊はその間に後方に退避。戦線は後退するが、やむを得まい」
「そんなことをすれば、アレク王子の身が危険です!」
「だが、やるしかないのだ。この戦争では、決して負けるわけにはいかない。マグタイトの採掘だけで食ってきたこの国から、マグタイトを取ったら何が残る。王子自らが死地へ赴かずして、一体どこに勝利があるというのだ」
「しかし……しかし、この戦争は負けです。戦線を国境から後退させて、一体何の得があるのですか。魔鉱山の鉱夫たちが我が軍と共闘して、抵抗するとでも言うのですか」
魔鉱夫か。僕は唇を噛む。さんざん虐げ、苛め抜き、搾取した挙句、頼るのは貴族ではなく魔鉱夫なのか。これまで王族はマグタイトの産出を担う魔鉱夫に何もしてこなかった。現状維持のために貴族とやりあうばかりで、一切の待遇の改善を認めなかった。そんな魔鉱夫たちが、アーランド王国のために戦うことなどあるだろうか? だが、魔鉱夫たちがもし白旗を上げるようなら、この戦争は、この王国は終わる。なんとも分の悪い賭けだ。だが、賭けは賭けだ。ただで負けてやるよりは、よほどいい。
「もし親衛隊が、この王子アレクが日没までに帰らなければ、指揮権は全て弟サンドリア王子に渡せ。貴族たちには口を出させるな」
僕は戦場を見渡す。きっと、この突撃で、僕は死ぬ。それはきっと、妹のナターシャを殺した報いなのだろう。腹違いの妹。僕が愛した、無知で自由な、しかしそれゆえに殺さざるを得なかった妹。
突撃! 突撃! 突撃! 騎兵は敵陣を一時的に切り開き、主力部隊の退路を作る。だが、そこまでだ。華々しい突撃の後には、殺到する敵兵たちに取り囲まれる未来だけが、無慈悲な死だけがやってくる。
嗚呼。もしも妹のナターシャが生きていて、子供を授かっていれば――僕の最期に浮かんだのは、不思議と痛みや恐怖ではなく。ただ皆に祝福されて生まれてくる、一人の赤子王の姿だった。




