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S  作者: ぼーし
第一章 彼が人間を辞めるまで
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-05- イヤッホォォイ! お宝ざっくざくじゃぁあああ!

「気を取り直して、行きますか」


先程の悪夢を記憶の片隅に追いやり、新たに現れた空間を覗き込む。どうやら霧裂が粉砕した石床は隠し扉の様になっていたようで、階段が下に向かって伸びていた。

さらに。


「明かりがある……」


曲がりくねった階段のためよくは見えないがうっすらと光が見えた。光がある、そのことに一気にテンションが急上昇した霧裂はビンを片手に階段を降りる。警戒も最小限に、心の中で必死に何か食えるモンがありますよーにと祈るばかり。ぐるぐるとした階段を降り、ようやくその階段が終わりを告げ見えた先には2つの扉。


右と左に分かれた扉の両端に計4つの明かり輝いている。

その扉の前で霧裂は何故未だに光があるかなど一切考える事も無く、顎に手を当て全ての思考をただ1つのことに割いていた。

すなわち。


「くぅ、一体どちらに食えるものがあるというのだ!」


今の霧裂に考えることが出来るのは食の事だけ。他の事を考える余裕など無い。

必死に頭を振り絞り、これまで以上に脳を酷使させて出た答えは、まぁ取りあえず右開けて無かったら左行くかと言うそんなことの為にそこまで考える必要あったのと問いただしたくなるような簡単な答だった。


両目を閉じ、パンパンと両手を合わせ祈る。既に霧裂の中で神は死んでいるので一体誰に祈っているかは定かではない。

カッと両目を開け扉のわっかのような取っ手を握り締め、ゆっくりと開く。


扉の先、天上に吊り下げられた明かりが照らす部屋の中には、毛皮やら角やら鱗やら多種多様なモンスターの素材だと思われる物体が。


「え、何これ怖い」


所狭しと並べられた素材の数々。何か棘棘が付いた甲羅だったり、30cmほどの牙が何故か紫色の液体で濡れていたりと間違っても触りたくない。食べるなんて論外だ。


だがこの見るからにやばそうで、凄そうな素材。そして忘れてはいけないのが霧裂の神から貰った力、生産チート。それを踏まえてもう一度この部屋を見てみる。


「おぉ、おおおおおおおおおおお! お宝ぁぁぁ!」


まさに宝の山。今まで食えねーじゃん! と汚物を見るような目で見ていたが少し視点を変えればあら不思議、金銀財宝に負けず劣らず最高のお宝達。目を爛々と輝かせながら比較的触っても大丈夫そうな物を手に取り凝視。


――《白亜龍の透爪》


――《白昼虎の焔毛》


――《紅蒼鬼の金剛角》


――《黒月鷹の天眼》


――《満月羊の黄金羊毛》


――《餓鬼龍の大喰牙》


などなど出るわ出るわざっくざっく出るわ、異世界の物の価値が全く分からない霧裂でもこれ売ったら一生遊んで暮らせるんじゃね? と思うような財宝が。うひゃひゃひゃと壊れたように嗤いながら凝視し、一体何を造ろうかという思案を続ける。


霧裂に売るという選択肢は無い、当然造るのも全て自身の物だ。霧裂は痛感したのだ、生産チートじゃ生きていけないと。そもそも今だに異世界人とコンタクトを取れていない状況で売るなどとは口が裂けてもいえない。生産チートをフルに使って、ここにある素材も惜しげもなく注ぎ込んで至上最高最強無敵の武具を造ろうと考え、


「でも使うのは俺なんだよなぁ」


そう、最高の武具を造ったとして結局使うのは霧裂本人。たとえば一撃でどんな敵でも滅ぼせる剣を装備してとして、今見た素材の名称で出てきた龍やら鬼やらを殺せるだろうか。

答えは否、絶対に不可能。恐らく勝算は2割を切るだろう。構えを取るよりも速く、その存在を知覚するよりも速く逆に殺されるのが目に見えている。


別にそんな化物が出るようなところに行かなければ良いのだが、ここは異世界。常に最悪の状況を予測し動かなければならないと言うことは霧裂は身を持って理解している。それにそんな化物を殺せる人間が居るという事は目の前にある数々の素材が証明しており、そんな人間とちょっとした事で喧嘩にでもなったら一瞬でお陀仏だ。


ならばどうするか。


「う~む、いっその事常にフルアーマーにするか? 寝るときも食事のときも風呂のときも常に完全装備。出来なくはないと思うけど……何かヤダ」


額に手を当てうんうんと悩む。これは死活問題だ、満足できる答えが出るまで無闇に造ったりしないほうが良いだろうと後々後悔しないためにも最優先事項として考えたいたが、空気を読まない霧裂の腹がグゥ~と鳴った。一瞬で霧裂の中で食事という行動の優先事項が跳ね上がる。


「…………よし決めた今決めた、まずは何か食おう」


少し沈黙していた霧裂だが、キリッと顔を引き締め食べられる物を探すことにした。この宝部屋にある物は食べたくないし勿体無いと言うことで断念。宝部屋を出て右を向く。そこにはもう1つの扉(最後の希望)が。


「頼む、もう限界なんだよ!」


うぉぉぉと気合を入れ、一気に開け放つ。そこには4つの棚に綺麗に並べられたビン詰めされた謎の物体やぎりぎりまで入れられた謎の液体。


「エ、何コレ怖イ」


ビン詰めされた物体は赤黒青と様々な色をしていた。ハッキリ言って食べたくない。それに比べて液体は全て無色。光の角度で中に入っていることが分かるが、暗闇で見たら絶対分からないだろう。こちらの方が食べたくない。


だが霧裂ももう限界のようで、一先ず手に取り凝視。


――《回復薬 Ⅳ》


――《禁薬 Ⅴ》


――《再生薬 Ⅲ》


――《秘薬 Ⅵ》


――《魔薬 Ⅸ》


――《霊薬 Ⅵ》


薬バッカリでした。涙目になりながら必死にちゃんとした食べ物を探すが、見つからない。全て最後に《薬》が付く。隣にある数字は恐らくランク的なものだろう。全種類の薬Ⅰ~Ⅹまであったが残念ながらⅠとⅩどちらが一番上なのかは分からない。


「つーか《魔薬》ってなんだよ。怖くて食えねーよ、《禁薬》もだけどね!」


ちなみに液体なのが《回復薬》《再生薬》《霊薬》で、固形なのが《禁薬》《魔薬》《秘薬》だ。つまりさっきからぐーぐー鳴っている霧裂のお腹を沈めるには《禁薬》《魔薬》《秘薬》のいずれかを飲まねばならない。そうなれば当然、


「おぉっしゃ、《秘薬》を食らうぜ! てかそれ以外の選択肢とか皆無、ありえない! 」


《秘薬》も何となくヤバイ感じがするも、《魔薬》や《禁薬》と言った言い方からして完全に食べたら幻覚とか見ておっ死んでしまいそうな予感がビンビンだ。つまり選択肢など初めから存在しない。そもそも薬を食べると言う選択肢が有るのがおかしいのだが、ここは異世界、『回復系』のアイテムが体に害が有ったら本末転倒だろうと言う事で薬を食べる事にしたのだ。


覚悟を決め、一思いに蓋を開け中の物体を指ですくって口に含む。この時霧裂は一切瞬きせず、呼吸すら止めこれから食べる物体を凝視していた。

結果、あの力が発動。目の前に白い文字が浮かび上がる。そこには。


――《魔薬 Ⅹ》


(あ、間違えた)


白い文字をしっかりと視界に納め、その意味が脳に染み渡り、そしてゴクリと飲み込んだ――――瞬間喉を押さえ必死に吐き出そうとする。


「ゲェゲェ、ミスった、なんてこったい! 絶対ミスったらダメな場面で盛大なミスをやらかしてしまったぁああ!!」


死に際のニワトリのような声を出し口の中に手を突っ込み吐こうと奮闘していると、何故だかトロンとした怪しい目つきになる。そして突っ込んでいた手を出しボーと口を開け言う。


「あ、あひゃひゃひゃひゃひゃ! 何かわかんねーけど可笑しい! うははははははは!!」


禁断症状発動。大声で笑いながら、《魔薬》を一瓶全て食べる。


「うぉおおおおおお! 体が軽い! 頭が冴え渡る! すげぇ、最高の気分だぜぇええええ!」


たった一瓶食べただけなのに、何故か腹もふくれてもう食べれないというようにポンポンと叩く。色々ヤバイっぽいが、正常な思考はギリギリ失っていないようで、これはしばらく残しておいたほうが良いなと数々の薬を棚に並べていく。


「う~ん、腹も膨れたしどうしよっか? なんか良い方法ないかな~」


空腹を満たすという最優先事項は消化してしまった為、必然的に先程まで頭を悩ませていた自身の弱さについて再び頭を悩ます。鍛えればいいのだろうが、あの薬シリーズも一ヶ月もすればなくなってしまうだろう。


考えるのならば立って居るより座った方がいいなと薬部屋から出て階段を上って行く。目指すはお骨様が座っていたイスだ。序にお骨様に礼を言わなきゃなと心の中でつぶやく。


階段を上りきり暗闇の中に戻ってきた。そういや明かり無かったなと失念していた霧裂はもう転ばないと目を光らせ細心の注意を払ってイスに座った。


「ありがとうございますお骨様。《禁薬》とか《魔薬》とか《秘薬》といったすげぇ薬シリーズや一国買えるんじゃねと思うほどの素材の数々を隠していた貴方がいったい何者なのかと心底疑問に思ってますがまぁそれで助かったので文句は言いませんよ」


何故か上から目線の霧裂。ただ霧裂自身も言っていて不思議に思ったのがこの人骨と成り果てたのは一体何者だったのかという事だ。物の価値が分からない霧裂でも地下にあった物が二束三文の物ではない事など分かっている。流石に《禁薬》やら《秘薬》やら《龍》に《鬼》と言った物が子供のお小遣いで買えるほどインフレしては居ないだろう。


ならば今目の前に居る人骨の生前は何者だ?


ヒョイと何の気なしに骨を持って凝視する。それで分かるとは思っていない。《空のビン)と出たように、《人骨》の出るはずだ。もし《何々の人骨》と出たら《空のビン》だって例えば《回復薬 Ⅴの空のビン》と出るはずだから。

しかし


「まぢか…………」


――《英雄の前腕骨》


英雄と来た。すさまじい大物に対してあの態度、祟られるまいとさっきまでの言葉を撤回、頭を下げる。物言わぬ人骨にペコペコと頭を下げる1人の少年。もう色々と手遅れなのかもしれない。


「いや~英雄か~。納得、それならあの宝部屋と薬部屋も分かるわな」


それよりも、英雄だ。《英雄の前腕骨》、宝部屋にあった素材と同じような名称。霧裂は1つの予想を立てる。

《魔薬 Ⅹ》を食べた後、ビンを見てみるとやはり《空のビン》になっていた。


でも目の前の人骨は《英雄の》と付いている。これは人骨なら全てそうなるのかも知れないが、もしかしたら何かの能力があるのには《何々の》と前置きが付くのではないだろうか。


もしそうなら目の前にある骨にももしかしたら特殊な力があるかもしれない。全ては予想妄想に過ぎない。しかし霧裂はその妄想が当たっているような気がした。


となればとるべき道は1つ、


「ふっふっふっ、英雄さんあなたを使わせてもらいますよ!」


ガッツポーズをして骨の大剣とか作ろうかなぁ、いや人形にして糸で操るとかと妄想を膨らませ、はたと思いつく。今の最優先事項は自身の強化。目の前には何か能力があるっぽい人の骨。さらに地下には膨大な素材達。そして最後に生産チートと言う力。


「そうだ、何故気付かなかった。素材はあるし、目の前には核となりそうな骨! 生産チートとはすなわち素材さえあれば何でも造れる筈……ならば造ってやろうではないか、最強の肉体パーフェクトマイボディをぉおおおおおおお!!」


先程食べた《魔薬》のせいで色々ヤバクなっていた霧裂は、普段は決して思いもしないような事を思いついてしまった。それは自身の改造。生産チートに化物の素材と英雄の骨、その3つを駆使して新たな肉体を造る事を決心した。


「ふはははははははは! 最高にして最強無敵! 完璧な不死なる肉体を造ってやろうではないか! ふははははははははははははははは!!」


光の無い塔の中を少年の高嗤いが木霊した。

素材やアイテムの名称は単なる行数稼ぎ。


次回は薬漬け生活一年後、無双させる予定。

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