-53- 大和上陸
日が昇る。朝日と共に目覚めた霧裂は、何をすることなくベッドに腰を掛けた状態で微動だにしない。
昨日はまさに地獄だった。結局ハクの魔道具造りは殆ど進んでいない。原因は一つ、セレーネだ。九埜と海に行っていた筈のセレーネが何故だか作業中の魔道具を粉砕し部屋に乱入してきたのだ。凶器を振り回し狂気を振りまき狂喜の表情で襲い掛かるセレーネを、一撃で部屋の外まで押し返したのは霧裂ではなかった。
成功するかは置いといて、完成間近の魔道具を粉砕されたことにプッツンしたハクが憤怒の表情でセレーネに逆襲を開始したのだ。
げっそりとした顔で【死教】の話に耳を傾けていた瞬谷を吹き飛ばし、激突を繰り返す両者。
霧裂は無言で逃げ出した。しかし数秒後には氷の檻に閉じ込められていた。
極寒の檻の中でぶるぶる震えながら観戦する事となった霧裂。決着は着かなかったようだが、イライラと怒気を発する美女と美少女に挟まれて魔道具を造るのはそれはもう精神的に大ダメージを受けた。何時もは聞き流せれる下らないエーテルの言葉に無言でハンマーを振り下ろしたり、こくりこくりと舟を漕ぐシャルロットとキューに心から癒され涙する程度には。
そんな事もあって現在霧裂はお疲れなのだ。イライラしているのだ。
ゴソゴソと白衣のポケットに手を入れ、誘惑に負けようとする霧裂だったが、寸での所で手は止まった。
隣で九埜が寝ていたからだ。流石に妹の前では飲めないと判断したお兄ちゃんは、ごそごそと起き出し、静かに外へと出て行った。
(ちぃっ! 攻めが無理ぽだから受けで行ったらこの様かよぉ! 全く持って相手にされなかったぜ☆ ぐすん、涙出てきた)
さて、妹の心内の独白など露知らず、一人外に出てた霧裂は朝日を見ながら早速ぐいっと一杯飲み干そうとして、しかし横合いから伸びてきた手が瓶を取り上げてしまった。
「ちょっ!」
「駄目ですマイマスター……、この成分は人を狂わせる危険性アリと判断しました。没収します」
「そんな馬鹿なッ!」
あっと言う間に虚空に溶ける様に消えていった『疲れが吹き飛ぶお薬』。まさかの伏兵だ。霧裂は悲痛な顔でそれを見ており、がっくりと項垂れる。
「まあ、私が没収せずとも彼女が没収したと思いますよ、マイマスター」
「彼女ぉ?」
年齢=彼女居ない暦の霧裂は怪訝な顔でステラが指差す方向へと視線を動かした。
こちらへと向かってくる二つの巨大なシルエット。巨人かと目を見開いた霧裂だったが、直ぐに間違いに気付く。
それは人影だ、詳しく記すならば巨大なナニカを易々と持ち上げ歩く二つの人影。その両方と、霧裂は顔馴染みだった。
二人は少しだけ疲労の色が浮かぶ表情で、しかしどこかやり切ったような顔で霧裂の前に現れた。
「【海龍帝】討伐完了、ただ今帰りまし――」
「――レアルター! 無事だったかオイ」
「うむ、ただいまである。我輩は怪我一つ負ってないので安心されよ」
「俺が造った魔道具の使い心地はどうよ。自信作だったんだが」
「最高であるな。しかしやはりまだ武具に振り回されている感は否めないである。鍛錬せねば」
「ならさ、ならさ。俺に剣を教えてくれよ。今まで身体能力に任せて振るってきたけど、やっぱ島とか海とか一刀両断したいじゃん?」
「う、うむ。島や海が一刀両断できるかは分からぬが、剣術の稽古で良いなら断る理由がないであるよ」
「そっか、サンキューなレアル――」
「――おいこら何で私を無視するんです?」
ガシリと肩を掴んで引き攣った笑みで尋ねる鎌咲に、霧裂は面倒くさそうに、
「今レアルタと話してんの分かる? ねえ分かる? 今俺誰と話してたか分かってる? 少し黙ってろよBBA」
薬でフラストレーションを解消する事が出来なかった霧裂はここぞとばかりに鎌咲に食って掛かる。
最初に話しかけたのは鎌咲だ。それなのに何故ここまで言われる筋合いがある?
鎌咲は静かに拳を握り締め、ムカつく顔面に全力で減り込ませた。そこに一切の容赦なし。ある意味信頼関係がなせる技と言う事だろう。
「貴方はッ! もっとオブラートに包んで話せないのですかッ!? ていうか何をそんなにイラついてるのか知りませんけど恐らく完全な八つ当たりですよね? 子供か!」
「ぐ、心外だぜ。良いだろう、オブラートに包みまくって言ってやるよ」
霧裂はそこで一旦口を噤む。というかどれだけオブラートに包もうが、既に包んでないバージョンを言っている以上意味合い的には同じなのだが、鎌咲はそれに気付いていない様子。
霧裂は目を閉じた。そして思い出す、過去になんども殴られた軌跡を。冗談を言えば殴られ、仕返しをすれば殴られ、『お前は俺のカーチャンか!』と言えば軽蔑の視線で見られた事を!
いやそもそも、ファーストコンタクトの時鎌咲は自分を殺そうとしたではないか。故にこれは正当なる復讐なのだ。
霧裂はこれから行う事の正当性を見出し、そして。
舌を出し両手を顔の横でふるふると揺らしながら尻を左右に振って、少しでも視界に入れたら一瞬で不快な気持ちになる程の馬鹿にした表情で、躊躇無く今までの仕返しの言葉を口にする。
「ぶひゃっひゃっひゃっひゃっ、お前みたいな婚期逃したブチギレ女が優しく対応されると思ってんなら、お前の脳内お花畑だなッ! うひゃっひゃっひゃっひゃっ、ばーかばーかっ! ――――ってちょい待ち、ぼ、暴力反対! 待って! 謝るから! ごめん! 俺ちょっと色々あって疲れてたの! ちょっと待って鎌咲さぎゃぁぁあああああああんががががッ!!?」
「全然包めてねェェェじゃねェェェかァァァあああああああああああ!」
肉を連打で叩き潰す音が響き、同時にお馬鹿な少年の断末魔が炸裂する。
霧裂によるささやか復讐は、こうして幕を下ろした。
◆ ◆ ◆
「鎌咲藍那です。SS級冒険者【死神】の名で呼ばれています、よろしくお願いします」
「レアルタ=カヴァリエーレである。とある小国の騎士団長をやっていた。よろしくお願いする」
二人の紹介に既に紹介を終えていた九埜やセレーネなどの初対面組みが頭を下げる。神の導きに感謝する【死教】の隣で、セレーネはじっくりと鎌咲を観察した後、あのセレーネ特有の狂気の笑みを浮かべた。ちなみに【海龍帝】の一部は既に収納済みである。
「ちょっ、セレーネ! 駄目だよ、あの人と殺し合いは! あの人どう見てもBB――じゃなくて行き遅れだから兄貴だって誘惑されないっぽい。つまりはアタシの友達候補ってことなんだよ!」
「……分かった」
「ごほんごほん!」大きく咳をした鎌咲は、引き攣った笑みで「あの、私まだ二十代なんですが……」
「後半でしょ?」
ビギビギといけない感じに額に青筋が浮かぶ。怒りボルテージ噴火一歩手前である。
直ぐ近くに居た瞬谷は鎌咲たちのやり取りを見て――詳細に言うならばナチュラルに人の神経を逆なでする見事な手腕を見て――兄妹なんだなと胸の内で穏やかな感想を漏らした。
件の霧裂兄は『激怒が殺意に変わった瞬間理不尽に標的にされるであろう未来及び身に降りかかる不幸の規模』を予測した結果、恥を捨てての逃走という英断を下し被害が及ばぬ安全地帯へ非難している所だ。
『のう主』とここで今の今まで沈黙を守ってきたエーテルが満を持して口火を切る『なんだかリンチにあったような、フルボッコにされたような顔面をしているがどうしたのじゃ?』
「気にするなエーテル、大人の事情って奴さ」
『大人の……事情? ま、まさか……今朝主が居なかったのは、SMクラブへ行ったため!? 何ということじゃ、主にはSで居てほしかったのに、我のせいでMに目覚めてしまうとは……っ! くぅ、こうなってしまっては致し方がない、我が責任をとってSになってやるのじゃ! さあ主跪け、頭を垂れよ、女王の御前であるぞ! ふはははははははぁはぁぁぁぁぁぁぁんんんん!』
「……平常運転で安心したよエーテル」
『んはぁ?』
トテトテと抱きついてきたシャルロットの頭をキューと一緒に撫でつつ、流れる動作でエーテルを抜剣、全力で放り投げた。今回はまだマシだったななどという思考が一瞬浮かび、霧裂は予想外にレベルの高いエーテルの影響力にわなわなと戦慄しする。
感染型ウイルスHENTAI、感染した人間の理性崩壊率一〇〇パーセントを誇る脅威のウイルス。霧裂は自分が作り出した脳内設定が現実味を帯びてきたことを悟り、早急にワクチンを造る事を決意した。
「そ、そういえばステラ。お前外で何してたんだ?」
内なる動揺を悟られまいと動揺した目で静観を決め込んでいたステラへ話を振る。あんなに早く起きているとは想定外だったのだ。
薬を飲めなかったせいで最終的にボッコボコにされた霧裂としては、今後の対策としても是非聞いておきたい。何せこれからさらに薬の誘惑が強くなること請け合いなのだ。霧裂の寿命がストレスでマッハである。人間かどうかも分からなくなってきた最近の霧裂だが一応寿命は存在するのだ。
「はいマイマスター、私には睡眠欲が存在しませんので。星を見ておりました」
「☆?」
「イエスマイマスター、昔は太陽が昇っても星は輝いていたのですが……私が堕ちたせいで星の力が弱まってしまったようで……少し悲しいです」
「あれ、そーいえばステラってなんで堕ち――」
「――みなさま」
話を遮るように、死人のような肌をしたシスターが舌足らずな口調で言葉を掛ける。
「でんたつがはいりました、こなゆきさまが、おみえになったとのことです」
こなゆきとは誰だろうかと首を傾げる霧裂に、九埜は胸を張って、
「アタシの仲間なんだよ兄貴! と言うわけでアタシの国に招待するぜ!」
「まあそんな感じみたいだから準備しろー」
パンパンと手を叩き魔道具の破片やら作業道具やらを収納しに動き出す霧裂に続き、瞬谷たちも滞在期間中に散らかした教会内の片付けを始める。すっかりなんちゃってリーダーに納まっている霧裂。
さり気にぶるん、ばるるん、と自慢の脂肪を揺らしていた九埜は、一滴の純粋無垢な涙を流し項垂れた。脅威の一撃破壊力を誇る西瓜砲は、霧裂の慣れたような冷え切った視線に撃墜されたのだった。
マーレから少し東に外れた場所。飛沫が降り注ぐ崖の上で、霧裂は肺一杯に海の香りを吸い込んだ。
「ふぅ、俺ってさ、この海独特のにおい嗅ぐと吐き気がするんだよねうぉえぇぇ」
「霧裂さんオレの半径十五メートル以内に入らないでくれますか?」
「最近容赦なくなってきたんじゃないかね瞬谷くんうぷぅ」
手で口を押さえて蹲る情けない兄の姿を見て、九埜は一人懐かしいと頷く。
嘗て海の匂いが苦手と豪語する霧裂を、『弱体化させれば襲えるんじゃね?』という名案の下強引に海に誘い襲った所、海の匂い+義妹襲来のダブルパンチを喰らった霧裂はちょっと人様にお見せ出来ない姿になってしまいそれ所ではなくなったのだ。
弱体化しても尚襲撃を回避する兄の巧みな戦術にあの時は戦慄したものだ。
《うーむ、俺様もこの匂いは苦手だな。迎えはまだか》
「もう少し掛かるんじゃね?」
《ならその時間を利用して魔道具を作ることもできるんじゃあないのか?》
「勘弁してください」
ハクの笑顔に霧裂は悪魔を見た。身の危険、つまりこのままでは強制労働作業を強いられると察知した霧裂は、驚きの速さで茶化すことなく誠心誠意真面目にお断りの言葉を声に出す。勿論、土下座のオプション付き。
霧裂の心の篭った最終奥義DOGEZAに恐れをなしたのか、はたまた単純に諦めたのかハクは溜息とともにかぶりを振った。
しかし誰も分かったなどとは言っていない。
《さあやれ今直ぐ》
「あれおかしいな今お前諦めたくね?」
《そんなことは言っていない。ただお前を早くどうにかしないとと決意したのだ》
いぎゃあああああ、とあまりに情けない叫び声。
素晴らしい笑顔で自分が使う首輪造りを強制させるハクと悲鳴を上げながら嫌々手を動かす霧裂。
字面だけ見るとなんとも男として羨ましいシチュエイションかもしれないが、霧裂は確信する、今この状況は『地獄』という極々簡単な単語一つで説明できると。
「あの二人ホント仲良いな……、チッ。俺様か? 『俺様系女子』が兄貴のストライクゾーンど真中をぶち抜いたのか? ここは『私様系女子』という俺様系女子と双璧を成すクイーン一人称で挑むべきか……くぅ、だけどそうすると『守ってあげたくなる儚げ系女子』を捨てないといけない事に。くそう悩むぜぇ……はっ! いやまて、『普段は私様だけど危機的状況になると怯えちゃうギャップ萌え系女子』なんて言うのもあり!? ぐふふふ、まさかこんなにも気付いていない可能性が広がっていたとは! 今アタシは新たなる誘惑の手札を得るための扉のドアノブに手を掛けているッッ!」
「……九埜、少し落ち着こう。今の貴女は戦闘時の私と同じくらい凄いことになってる」
セレーネが思わず突っ込みを入れてしまうほどの暴走妄想爆発☆状態九埜。
戦闘狂の同族発言により慌てて意識を現世に呼び戻した九埜は、口から垂れる乙女の雫を高速で拭った。
ちらりと横目でアイラブ兄貴を盗み見るが、どうやら見ていなかった様子。九埜はほっと安堵する。仕掛ける前に手札を見せるなんて愚策は有り得ない。次の妄想タイムは自分の部屋のベッドの上だと心に決めた。
「おや、皆さん。どうやら迎えのご到着のようですよ」
そんなこんなで数十分後、空を見上げていた【死教】がある一点を指差した。最初は丸く黒い点のようだったソレは、瞬く間にその全容を現した。
なんと言えばいいのか、簡単に言うならば“銀色の鳥”が最も近いだろう。
霧裂はこれ幸いと魔道具造りに終止符を打ち、じっくりと銀色の鳥を観察する。
だが銀色に輝く鳥の形をしたナニカ、ということしか分からない。『解析』を使えばもっとマシな情報も手に入るかと思うが、義妹の仲間に使うのは少しばかり躊躇われる。
背中に騎乗する一人の少年が銀色の鳥を操作しているのだろう。崖の上に着地させた少年は、霧裂たちを見てげっそりと項垂れた。
「うっわ多っ。やっぱこれ全員乗せなくちゃいけないんですよね? メンドー」
「遅い、遅すぎるよ全く! そしてなんなのかなその口調、アタシ一応りっくんの上司なんですけど! 本気の本気でぶん殴っちゃうぜ?」
拳を打ち付ける九埜から少年は俯き気味に目を逸らす。何故だか霧裂は無性に謝りたくなってきた。
霧裂の気持ちなど露知らず、少年は礼儀正しく頭を下げる。
「えと、こんにちは。九埜さんのお義兄さんとそのご一行ですよね? 粉雪陸と言います、中学卒業後貴方の義妹が運営するブラック企業に拉致られました。どうぞよろしくお願いします」
「ちょちょ! ブラック企業ってなんなのかな? アタシそんなにりっくん酷使してないような――」
「いやホントすまん。とにかく謝る」
「ちょっと兄貴アタシのセリフのとちゅ――」
「ほっ、良かった。お義兄さんは常識人みたいで……」
「それだとアタシたちが常識ないみたいに聞こえるぜっ、てか無視す――」
「いやいや粉雪くん。断言するのはまだ早い。オレ瞬谷佐久って言うんだけど、ぶっちゃけ霧裂さんもまともじゃない」
「ねえちょっ――」
「瞬谷テメェ」
「おいこら――」
「ええ!? ああ、神はボクを見放した……」
「……」
「大丈夫、オレはまともだか――」
「【無視すんなボケェッ!】」
天から降り注ぐレーザーは冷酷無比に粉雪陸ただ一人にぶち当たった。どうやら兄貴は当然のこと、その仲間にも身の危険を感じていない今では攻撃できなかったようだ。その分かなりの高威力の光線を喰らった粉雪は咄嗟に展開したガードが突き破られたようで見事に横転した。
「おい九埜、今のは酷い。もし今のが日常茶飯事だとすれば単なる虐め」
「だって無視するんだもん! 三人揃って! これって虐めだとアタシは思うッ!」
ガァー! と吼える九埜を仕方なく霧裂は宥める。
その間に復活を果たした粉雪は胸を押さえながら、
「と、取り合えずこれに乗ってください。ボクらの本拠地へ移動しますから」
霧裂たち全員が乗れそうなほど巨大なサイズを誇る銀色の鳥。
だが飛んでいくということは間違いなく、しかし掴まる場所などどこにもないのだ。正直に怖い。
霧裂は九埜の怒りを抑え、同時に執拗なボディータッチから逃れるのに精一杯な現状、誰もが我先に乗ろうとしない。
無言で乗っていきそうなステラやハクは霧裂が乗っていない今、乗る気はさらさらなく、またセレーネは周囲を警戒している為最後に乗るのが好ましい。
目で一番乗りを譲り合う瞬谷たち。
その時、同じように瞬谷の後ろで顔を背けていたサリアナは見た。
怯えたような涙目でキューを抱きしめるシャルロットの愛らしい姿を。
鼻血が飛び出るかと思った。
悠然と走り出し銀の鳥に飛び乗ったサリアナは、唖然とする瞬谷たちを尻目にシャルロットの方を向き声を大にして叫ぶ。
「さあキュー&シャルちゃんおいで! 私の胸に飛び込んで! hshsシャルちゃんキューちゃんマジ天使! さあ早く、さあ! さあ!!」
キューは全身の毛を逆立て、『怖い! あんな生物知らないよ怖すぎるよ!』と一声鳴き、シャルロットは恐怖の涙を目に溜めて鎌咲に飛びついた。
「えーっと……、取り合えず乗りましょうか」
いそいそと石像と化したサリアナの隣を歩いて銀の鳥に乗る。
全員が乗り終わったのを確認した粉雪は銀の鳥を操作し浮遊させる。
「それでは、またお会いしましょう」
「さようなら」
にこにこと笑顔で手を振る【死教】と隣で頭を下げるシスターに、霧裂たちもお礼の言葉を口にする。
「では行きますよ」
銀の鳥は羽ばたく事無く、それどころかゆれ一つ起こさずに上昇し、東へ向けて飛行を開始した。
「おお。凄いなこれ、どんなチートか分かんねえけど……少し削ってもばれないかな? なあ瞬谷、どう思う? ……瞬谷?」
霧裂は見た。
恋心を抱いている少女の変態的性癖を見て絶望の表情を浮かべる瞬谷の姿を。
霧裂何も言わず、ただ慰めるように肩に手を置いた。
◆ ◆ ◆
三時間程度だろうか?
青い海が広がり続ける代わり映えしない風景に見飽きた頃、小さな点が見えてきた。
点はだんだんと大きくなり、巨大な島へと姿を変える。
九埜は両手を広げて満面の笑みで、こう宣言する。
「ようこそ! 亜人の王国『大和』へっ」