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S  作者: ぼーし
第一章 彼が人間を辞めるまで
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-04- 何でこんな目に……俺が一体何をしたぁぁあああ!

冷たい。

光が一切入ってこず、朝か夜かもわからない暗闇が支配する塔の中。そこで少年、霧裂王間は石の床でうつ伏せに眠っていたがその冷たさに目を覚ます。あくびを抑えながら体を伸ばす。ゴキグキと音を立てながら固まった体をほぐして行き、寝ぼけ眼で周りを見渡して首をかしげる。


「え、ここどこ?」


完璧に昨日の記憶は飛んでいるようで、ゴシゴシと目を擦りながら起き上がろうとして何かに躓く。ふぎゃという声が口から漏れ、咄嗟に腕を振り回し細い何かを掴むも、そのまま床に尻餅をついた。イテテテとぶつけた尻を摩りながら、すっかり目が覚めた様で手に持ったものに、役にたたねーなー、などと文句を言いながら軽く視線をやる。

うっすらと見えるそれは白くて細くて硬くて、そうまるで骨のような。


「HONE!?」


一気に覚醒すると同時に、記憶が蘇る。バッと高速で首を動かし部屋の中央を見てみると、机に寄りかかっていたお骨様は霧裂を支えられず、無様に床に崩れ落ちていた。

あわわわわと体を震わせ、南無ゥと誠心誠意全身全霊心を込めて手を合わせる。霧裂が助かったのもこのお骨様がビンの中身を全て飲まないでいてくれたおかげだ。それはもう感謝している。ちょっとばかしこれって間接キスにはなんないよね? ノーカンだよね!? と思っているがそれはそれ。

一先ず落ち着いた霧裂はお骨様をまとめ机の上に置き、自身はイスに腰掛ける。


「この後どうすっかなぁ」


流石にあんな目にあった後また外に出たいとは思わない。もうビンの中身は空、次はアウトだ。だがここまで真っ暗なら時間の間隔が狂うし、何より異世界転生を果たしてから霧裂が口にしたのは水と謎の液体のみである。そろそろ空腹が抑えられない。


「ふ~むぅ。何かあるかなぁ?」


見渡しても何もない。あるとすれば階段を上がった先。少し怖い気もするがとりあえず探すか、と重い腰を上げる。一応武器として空のビンを左手に、お骨様バージョン右上腕骨を右手に装備した。当然お骨様に手を合わせてからだ。


最大限の警戒を払って2階をへの階段を上り、おそるおそる顔を出し見渡すが。


「な、何もねー……」


何もなかった。区切りも何もなくただ広い空間が広がっている。机とイスと人骨が無いと言う事を除けば一階と何も変わらない。グゥ~とお腹が自己主張を始める。てっきりあの人骨は生前ここで生活していたと考えていたため、何も無いというのは中々ショックだ。


「次、次行こ。あのお骨様はめんどくさがりらしいな。3階に、動かないで良いように色々詰め込んでいると見たね」


無理やり希望を捻り出す。もしこれで無かったら色々ヤバイが、今このお腹を抑えるには自身に暗示をかけるしかない。ありますよーにありますよーにと天にまします我らが幼女様に祈りを捧げる。


そうして精一杯の黙祷を捧げた結果は、やはり何もなしという結果で霧裂の目の前に現れた。それを目にした瞬間霧裂の腹がグギュルルルルと盛大に鳴る。もう限界だった。


「あーもう、はーらーへったーっ!」


不安を叫んだムンクの様に霧裂は空腹を絶叫する。残念ながら階段はここで終わり、上は無い。


「うぇ、ぐず、ひっぐ、な、なんで異世界まで来て、餓死寸前になってんだよぉ。つーか人に会ってない。だれかぁ~俺を1人にしないでぇ~」


結構頭が痛かったようで、額を押さえながら蹲る。俺が何したって言うんだよ~と涙を流しながら、身を持って経験した第二の人生(異世界転生)の真実(笑)に絶望した。


「ちくしょう、舐めやがって。人間の空腹ゲージが限界を超えた時、その胃袋は何でも消化できる鉄の胃袋に、歯は全てを噛み砕く鋼鉄の歯になると言うことをこの俺、霧裂王間が教えてやろう!!」


一体誰に向けた言葉なのか、腹ペコ魔神KIRISAKIはボーっと周りを見渡し、その視線を壁に固定する。

そして。


「くそっ、マジでなにもねぇ」


この場所には骨と空のビンしかないということを再確認した。どうにかしなければと俯き、左手に持ったビンが目に入る。 どうみてもガラスで出来たそのビンは、噛み砕いたりしたら口の中が悲劇の惨状になる事間違いなし。当然喰える筈がない。


それでもなんとか成らないかと、ジッと、ジィッと、ジィ~ッと、見つめる。視線を1mたりとも動かさず、瞬きすらせず、呼吸をも止め、ただ見つめる。見つめていたらまた中身が復活するのではないか? と一筋の異世界への望みを託して、ただ見つめていると。


――《空のビン》


突如目の前に白い文字が現れた。

何だこれ? と謎の文字を見る。《空のビン》とはたぶん今自身がガン見しているビンだと言うのは予想が付くが、何故こんな文字が浮かんでいるのか全く分からない。


空腹も忘れ、見ていたが瞬きをしなかったせいか、眼球に痛みが走り思わず目を閉じる。慌てて目を見開いたが先程まであった文字は完全に消えてなくなっていた。幻覚か? と疑うが、とある仮説の下に再びピンを凝視する。


するとしばらくたちまたもや。


――《空のビン》


文字が浮かぶ。

しばらく瞬き凝視瞬き凝視瞬き凝視を繰り返し、先程までのことはさておき今は正常だという確信を得る。一定時間とにかく凝視することで物の名称を見れるというものらしい。ただ手に持たないといけない様で石の壁を睨み付けていたときは発動しなかったようだ。


「チートの付属能力かなぁ」


こんな変な力は当然今まで持っておらず、生産チートをサポートするための付属的な能力だろうとあたりをつける。確かにこの能力は生産チートを持っている霧裂からして見れば中々使える能力だろう。

しかし霧裂は呟く。


「つ、使えねー」


今、この状況でこんな能力が有ったとして何か役に立つだろうか。答えは否、全く持って意味はない。霧裂からして見ればこんな何も無い場所で、何処からどう見ても空のビンを空のビンと言われたからと言って、それが何か? と言った感じだ。


「空のビンって何だよ、そんなこと分かってるよ。一々教えてもらわなくても結構ですよーだ!」


うぎゃーっと頭を抱えながらながら神を呪う。

今霧裂は心の中で猛烈に後悔していた。何故生産チート等という使えない能力を願ってしまたのかと。全く持って使えない。意味なし、宝の持ち腐れ。


段々と空しくなってしまった霧裂は死ぬならあのお骨様の場所で死のうとしくしく泣きながら階段を下りる。ちなみに霧裂にお骨様を食べるという選択肢はない。色々恩だの建前を言って見るが、ぶっちゃけると呪われそうだからの一択にかぎる。流石に本当に死にそうになったら食べるが。何だかんだ言いながらまだまだ余裕な霧裂だった。






うがぁーと心底疲れた様子で1階に下り、ふらふらと頼りない足取りでイスに座ろうとして、何かに躓きそのままビッダーンと石の床とファーストキッス。


「いってーっ! 折れてないよね、俺の鼻正常だよね?」


誰に聞いてるかは甚だ疑問だがともかく、鼻から真っ赤な液体を垂れ流しながら叫ぶ。心のそこから叫ぶ。


「何でこんな目に――――――――ッ!!」


異世界転生を果たしてから、どこかも分からない平原に降り立ったり大狼や巨人に殺されそうになったり貰った生産チートが一切役に立たなかったり顔から石の床に叩き付けられたり鼻から血を噴出したり空腹だったりともう色々なめに遭い精神が崩壊寸前の霧裂。


「ちくしょう、何だってんだこんな床! このぉこのお!」


怒りに任せて霧裂の足を引っ掛けた他とは少しずれた石床に足を振り下ろす。ドンドゴドゴドガドゴと何度も振り下ろし、こんにゃろ! と最後の踵落としでバギッと一部の石床が砕け散った。正確には今まさに霧裂が振り下ろした足下の石床が。


「うぇ何で――――ふぅぐ!!」


どうやら石床の下にまだ空間があるようで、渾身の力で振り下ろした霧裂の足が扉部分を叩き壊したようだ。だが霧裂は喜ぶ暇もなく、振り下ろした足が石床を砕きそこで止まらずそのまま下の空間まで行った物だから、そしてもう片方の足は崩れていない石床のほうにある物だから、バランスを崩し段差と成った無事な方の石床に息子を、男の象徴(シンボル)を打ち付けた。


「――――――――――――!!」


股を両手で押さえパクパクと口を動かしながら声無き声を放つ。もう叫ぶ気力も無く、ただただ息子の復活を祈りその双眼から透明の雫を零すのだった。

明日更新予定

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