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S  作者: ぼーし
閑章 あの時各地で
52/62

-外伝- 私はただ

本来書く予定のなかった過去話。

きっとどこかに矛盾があるはず。

見つけたら優しくご指摘下さい。


後、何時も通り感想返信が遅れそうです。申し訳ありません。

 人は選択を間違う事がある。この世に星の数ほどある選択。人は常にどちらかを選び取り、もう片方は『IF』となる。そんな数多くある選択を選び取る時、当然ながら常に正解の方を選び取る事など不可能だ。故に、人は間違った選択をしてしまう。

 例えば。自分では良いことをしていると思い行動した結果、最悪の事態になったり。


 例えば。友を守るために振るった『力』のせいで、友が離れていったり。


 多くの人は人生の中で何度も選択を間違うだろう。全ての選択に正解するなど、神でさえもやはり不可能。

 間違った選択をし、結果死んだ人も数多く居るだろう。

 間違った選択をし、結果心が折れた人も数多く居るだろう。

 間違った選択をし、結果全てを失った人も数多く居るだろう。


 しかし、そんな数多くの間違った選択をした人の中で、それを踏み越えて進む人もまた数多く居るだろう。


 間違った選択をし、なお進んだ人。間違った選択をし、そこで止まってしまった人。

 そこに共通するのは間違った選択をしたという部分のみ。

 そして、やはり今回も、とある街で一人の女性が選択を間違えてしまった。




 これは一人の女性の孤独な物語。



◆ ◆ ◆



 私はただ、友達を救いたかった。

 それだけ。それだけなのに……どうして?

 疑問が溢れかえった状態で私の目は、友達の顔を詳細に映す。


 私の友達の顔に浮かんでいる表情は、私が初めて見る表情だった。

 それはとても、友達に向けるような種類の表情ではない。

 こんなのおかしいよ。

 思考がバラバラと崩れていくのを感じながら、疑問が脳裏に浮かび上がる。


 どうして貴女はそんな怯えきった顔を、私に向けてるの?


 疑問は口から出ることはなく、頭の中を駆け巡る。私が友達だと思っていた貴女の口から零れた言葉が、私の鼓膜を揺さぶった。


「化物……」


 なんで? どうして? 分からないよ。

 私は貴女を守ってあげたのに。貴女を救ってあげたのに。

 なんでそんな表情で私を見るの?

 おかしいよ。理解できないよ。見捨てればよかったの?

 見捨てて、貴女の屍の前で泣きじゃくれば。


 ――――私たちは友達のままで居られたの?


 ああ、どこで選択肢を間違えたのだろうか。

 いや、私は選択肢を間違えたのだろうか。


 なにもかも分からない私を、恐怖の視線が射抜いていた。



◆ ◆ ◆



 ヒソヒソと、小さな囁きが溢れかえる暗い酒場。彼らの視線はある一点で固定されていた。視線の先にいるのは、一人の女性。十分美女と呼べる容姿を持つ彼女だが、その背にある大鎌のせいで全てが台無しだ。ボソボソと会話を続ける周囲の人は、その声が彼女に聞こえていないと思っているのだろうか?


 残念な事にバッチリ聞こえてしまっている。

 怖いだの恐ろしいだのまた殺しただの、様々な黒い噂的なものを囁き続ける周囲の人に嫌気がさしたのか、彼女はぐい、と手に持っていたジョッキを空にし金貨をカウンターに投げて、その場を無言で後にする。


 が、最後に見えてしまった酒場の店主の顔。酒場の店主は明らかにホッとしていた。それが止めとなったのか、我慢の限界が訪れた彼女は、小さく青筋を額に浮かべながら酒場を出る寸前。


 ズォ、と視認出来るのではないかと思うほどの、強烈な殺気を放出させた。


 バタバタと彼女の殺気に当てられ、泡を吹いて倒れ伏せる人の音を聞きながら、女性は重苦しく息を吐き出し悲しそうな顔で宿屋へと帰っていく。随分と発散したおかげか、幾分か気分的に楽になった彼女は、こんな気持ちじゃ駄目だと頭を振る。明日は大切な日なのだ、出来るだけ好印象を与えねば。


 そう、明日は、数ヶ月ぶりとなるパーティーでの依頼だ。

 とある噂が蔓延してから常にソロで依頼をこなしてきた彼女は、明日の依頼を成功させればまた昔のように戻れるのではないかと淡い期待を寄せていた。


 彼女の名は鎌咲藍奈。SS級冒険者【死神】の名を与えられし、世間一般では【狂月】と並んで悪名高い冒険者である。






 翌日。街の門の傍に数人の冒険者が屯って居た。彼らは今回【死神】と同じ依頼を受けた冒険者だ。だが、彼らは自分達のほかに依頼を受けた冒険者が居るということは知っていても、その冒険者が【死神】だと言う事までは知らなかった。


 【死神】のほうはてっきり自分が受けているのを知りながら、協力してくれる優しい冒険者、と勘違いしていたのだ。その勘違いが、不幸を招く。


 今回彼らが受けた依頼は、冒険者ギルドが最低人数五人必要と判断した『雷鬼獣討伐』の依頼。そのため彼らは残りの二人を待って居たのだが、そこへ来たのが大鎌を背負った一人の美女。冒険者の中には特異な武器を持つ者も居るため、冒険者がどんな武器を持っていようと、普通は気にする事はないのだが、大鎌という武器が問題だった。何故なら。


 大鎌は【死神】の代名詞だったからだ。


「ひぃっ!」


 もらした悲鳴は一体誰の物だったのか。今まで談笑しつつ残りの冒険者を待っていた彼らは、顔面を蒼白にし恰も神獣に出会ったかのように恐怖した。

 それに気付かない【死神】は、精一杯好印象を与えようと、慣れない笑みを浮かべて冒険者達に声を掛ける。


「遅れてすみません、今回依頼を受けた鎌咲――」

「なんで、なんでここに【死神】が居るんだよッッ!!」


 彼女の言葉は最期まで紡がれる事はなかった。

 それよりも早くその場に居た三人の冒険者が口々に悲鳴を上げる。


「ふざけんなッ! 仲間殺しにこの依頼を受けさせるなんてギルドはどうなってる!」

「帰る、俺は帰るぞ! まだ死にたくねぇ、俺は来月結婚するんだ!」

「ひぃぃ、頼む殺さないでくれ! 明後日は娘の誕生日なんだ!」


 あまりの反応に、暫し呆然と立ちすくんだ【死神】は、しかしそれでも会話を続けようと試みて、


「あの話を……」

「頼むぅぅぅ、殺さないでくれぇぇぇっ!!」


 泣きながら土下座する。

 話も聞いてもらえず、頭から【死神】を悪と決め付けている。

 彼らは本気で殺されると考えていた。

 【死神】も、それに気付き、下唇を噛み締める。


 なにが、昔のように戻れるだ。

 【死神】の悪評は、【死神】が考えているよりもずっと酷く広まっていた。

 未だに土下座して助けてくれと懇願する冒険者に、【死神】は怒りに任せて怒声をあげる。


「――そんな……そんなことしませんよッ!!」


 力があるからといって、ヒーローになれる訳ではない。

 【死神】が耐え切れず怒鳴ったその瞬間、放出された殺気は人を気絶させるのには十分で。

 しかしそれなりの力を持っていた冒険者たちは、気絶する事はなく、代わりに下半身と顔面を濡らしながら命からがら逃走した。


 その有様を見て、【死神】という名の一人の女性は、再び呆然と逃げ去った冒険者たちの背を見て、それから俯き――――一滴の涙を流す。

 今冒険者の間で語られている噂は、根も葉もない完全な事実無根。そもそも何故こんな噂が流れているのか。それはとある街での出来事が原因だった。


 小さな街で転生後、一人の女性に【死神】は助けられる。

 その女性はとても気さくで、瞬く間に【死神】とも打ち解けた。

 しかし、ある選択で【死神】はミスをしてしまう。


 森の中で一人、転生したときに神に貰った力、【死刃大鎌キルサイズ】の練習に励んでいた【死神】は、その時とある魔物に襲われ、その魔物を危険と判断し街に被害が出る前にと命を狩り取った。コレがいけなかった。


 その魔物は、森の長だった。


 森の長と言う巨大な抑止力を失った森の魔物は、本能に従って街へと進行を開始する。

 数百に及ぶ魔物の大進行。相当の被害、最悪の場合街が壊滅するのは明白だった。

 それを止める為に、【死神】は初めて人前で力を振るった。


 血まみれになりながら、大鎌を振り回し一つ、また一つと命を狩り取って行く様はまさに【死神】。


 巨大な力を持つ者が皆、英雄と持て囃される訳ではない。彼らは時に恐怖の対象となる。

 数百の魔物をたった一人で狩りつくした【死神】は、街を守ったと言う栄誉を得ると同時に、街の人から恐怖の視線を送られる事となった。


 たった一人の友も【死神】に恐怖し、離れていく。耐え切れなくなった【死神】は一人で街を去った。あの街に近寄らなければ大丈夫だろう、と考えて外に出た【死神】だが、何故かその時には既に悪名は広まっていた。何故悪名が広まったのか。それには幾つか理由がある。


 まず、【死神】という二つ名。これは大鎌をもって魔物を狩りとった姿からつけられた二つ名だが、死神と言えば人の命を奪っていく悪魔のようなモノ。【死神】は人の命を大量に奪ってSS級の称号を手に入れたのでは? と考える人が続出し、そこにダメ押しをするように流れた仲間殺しという噂。


 実はコレ、たまたま近くで仕事をしていた【狂月】が実際に及んだ凶行なのだが、どこでごちゃ混ぜになったのか、【死神】がやったという噂に変化して流れるようになった。


 火のない所に煙は立たない。今流れている噂を頭から信じている物は少なくても、しかしやはりなにかあるのでは? と勘ぐっている冒険者が殆ど。


 結果的に、広がっていく事実無根の噂。

 ギルドは真実を知っているためにその噂を揉み消そうと動いているのだが、一度流れた噂は簡単には消えない。

 皆が恐怖する【死神】自身は、何故そんな噂が流れているかも知らず、どうすれば良いのかも分からず。


 ただ、孤立していく。


 今回も結局ソロでの依頼か、と零れた涙を拭い依頼主の下ヘ向かおうと足を動かす。最近は依頼主にさえ恐怖される事が度々あるが、それでも生活費を稼ぐために依頼を受けなければならない。悲しそうに俯き、街を出ようと一歩踏み出した【死神】は、しかし進むことは叶わなかった。


「痛いっ!」


 後ろから伸ばされた手に髪を捕まれ強制的に歩みをストップされたのだ。

 髪を引っ張られる痛みに、先程とは違った涙を流浮かべつつ後ろを振り向いた【死神】は、自身の髪を引っ張った張本人を睨み付ける。


 そこに居たのは、美しい女性だった。機械的な銀の髪、【死神】から見れば懐かしい着物の上から手足を守る鋼を付けている。記憶を探ってみても間違いなく初対面のはず。何故髪を引っ張られたか理解できずに困惑の表情を浮かべる【死神】に、彼女は胸を張って言う。


「おいおい、どこに行く気でありんすか小娘。まずは挨拶が最初でありんしょう?」

「はぁ? 貴女一体誰なんです? 私に何の用ですか」

「ほら、やっぱり知らないんでありんしょう? それなら挨拶をしなくてはダメじゃないでありんすか。冒険者の常識でありんす」


 冒険者という言葉にぴくり、と目尻を動かす。

 武器も一切持たず、防具と言えば手足の鋼だけだという姿。

 とても冒険者には見えない。


「わっちの名前はエッチェッツィオーネ。SS級冒険者にして【爆天地】の二つ名を冠するものでありんす。さぁ小娘、ぬしも名乗りなさい」


 冒険者カードを突き出しドヤ顔で告げられた言葉を頭の中で何度もリピートする。

 今、この美女はSS級冒険者と言ったのだ。【死神】には目の前にいる美女が、人族最強の一角にはとても見えない。しかし、右手に持ったプレートは確かに本物。信じるしかない。


 それならば、自分の非を認めて丁寧に挨拶を返すのが本来の【死神】なのだが、今の【死神】は先程のことでかなり気が立っており、つい喧嘩腰で言ってしまう。


「……私はSS級冒険者【死神】です。依頼は一人でも成功できるので、どうぞどこへでも行ってくださって結構です」


 【死神】の言葉に、今度は【爆天地】が額に青筋を立てる。


「なんでありんすか小娘、ぬしはわっちに逃げろというのでありんすか?」

「逆に聞きたいのですが、貴女は逃げないのですか?」

「ほう……覚悟は出来てるでありんしょうね小娘」


 ゴギリ、と怒りの表情を顔に浮かべ拳を固める【爆天地】。

 それを見て、漸く【死神】は元に戻る。目の前の切れる寸前といった感じの【爆天地】を見て、つい先程言った自分の言葉を思い出し、さっと顔を青くさせた。


 あれではまるで挑発ではないか。


「あ、いや、ちょっと待ってくださいっ」


 すっかり何時も通りに戻った【死神】は、あたふたと両手を振り回しながら必死に言い訳を考える。そんな【死神】の様子を見て、見かけからは想像も出来ないほど年を食っている【爆天地】は、今の今まで出していた殺気を抑えた。


 【爆天地】はこれでも人を見る目があるほうだと自負している。その【爆天地】は今の【死神】の姿が(素かどうかはともかく)普段の姿だと見抜いた。だからこそすぐさま怒りを抑え、疑問を覚え首を傾げた。

 この一見世渡り上手的な印象を与える大人美人がアレほど怒り狂っていたわけは何だろうか?


 特に考え込む事もなく、【爆天地】は気軽に疑問を声に出す。


「落ち着きなさい。それで、なんであねえなことを言ったのか教えてくれんすね?」

「あ、はい」


 慌てふためいている間に、怒りを納め落ち着いた女性の雰囲気を醸し出している【爆天地】に、【死神】はポカンとしつつことの顛末を話し始めた。






 何時までも街の門の前で駄弁っている訳も行かず、依頼主が居る村まで軽くジョギング程度の気持ちで――しかしそれでも一般人では目で追えないほどの速度で――走りつつ、【死神】は少々不安になりながらも全てを話した。


「なるほど、そねえなことがあったのでありんすか」


 【死神】が口を閉じたのを見て、ふんふんと【爆天地】は頷く。

 基本【爆天地】は噂など気にしないので、何も知らなかったのだ。

 だからこそ、【死神】は少し後悔していた。もし、嘘をつけば少しの間かもしれないが、友達になれたかも知れないのに、と。


「どうしますか? 私と居れば間違いなく黒い噂が立ちますよ」

「そうでありんすねぇ……」


 顎に手をあて少し考え込んだ【爆天地】は、走行中に胸を張るという器用な事をしつつ、


「ま、わっちは気にしないのでどーでも良いでありんす」

「ええ!? そ、そんな軽くて良いんですか!?」

「人格破綻者の集いと呼ばれてるSS級に何を期待していたのか分かりんせんがともかく、わっちは気にしないのでさっさと依頼を達成しんしょう。お腹すきんした」


 本当に、心の底から、一切の曇りなく『気にしない』と言い切った【爆天地】を【死神】は横目に見て、ほんの少しだけ、顔が綻ぶのを感じた。


「ええ、そうですね……よ、よよよ良ければ、私と昼食を共にしませんか? あ、不快に思われたなら謝罪しますっ! その、やっぱり忘れて――」

「おお、小娘中々気が利きんすね! わっちの食費は凄いでありんすよ。覚悟しなんし」


 に、と口角を上げ屈託のない笑みを見せる【爆天地】に、【死神】もまたにっこりと笑った。

 それは友に拒絶された日以来、初めて心の底から見せた【死神】の本当の笑みだった。






 ――――二人が走ること数時間。


 あっという間に目的地に着いた二人は、これまたあっという間に目的の【雷鬼獣】を討伐した。神獣ではないとは言え、それでもかなりの高ランクである魔物を、苦もなく談笑交じりに討伐して見せた【死神】と【爆天地】という二人のSS級冒険者。


 流石は人族最強の一角と言った所だろうか。

 まさに電光石火の速さで依頼を達成した二人は、これまた凄まじい速度で街へと戻り依頼達成の旨をギルドへ伝えた。


 一瞬怪訝な表情を顔に浮かべたギルド職員だが、達成したのがSS級冒険者だと知るとすぐさま納得する。常人では考えられない事を遣って退けるのがSS級冒険者なのだから。ただ残念な事にギルド職員はそのSS級冒険者に痺れも憧れもしなかったが。ギルド職員はSS級冒険者の実態も知っているのだ。好き好んで人格破綻者の仲間入りを果たしたいと思う常人は居ないだろう。


 その後周囲の畏怖の視線を集めながら、二人は笑みを浮かべて小さな店で食事をした。ぺちゃくちゃと数ヶ月ぶりとなる他人との談笑に、【死神】は内心で涙が出るほど歓喜していたのだが、会話が終わりに近づくにつれ一つの考えが脳裏を過ぎるようになった。


 何度も浮かぶ考えを、どうしても勇気が持てず頭を振って忘れようとしたのだが、とうとう【爆天地】が食事を終え席を立った時、堪えきれなくなった。

 なけなしの勇気を振り絞り、小さく震える口を開く。


「あ。あのっ、もしそちらの都合が宜しければ……私と組んでくれませんか?」


 パーティー制度と言う物が冒険者ギルドにはある。

 一人(ソロ)では達成不可能であろう依頼を、他人と徒党を組む事で達成できるようにすると言う物だ。

 本来、一人で異常な力を持つSS級冒険者はあまり利用しない制度だが、それ故【死神】は迷った。

 果たして、【爆天地】は小さく微笑んだ。


「くすり、こちらこそよろしくお願いしんす」


 元々面倒見の良い【爆天地】は、このまま困っている【死神】を見捨てる気などさらさら無かったのだ。柔らかく微笑む【爆天地】を見て、【死神】もまた安堵の笑みを浮かべた。



 ――――それから二ヶ月ほどたったある日。


 灰色の今にも水が零れ落ちそうな不安定な空の下で、【爆天地】と【死神】が向かい合っていた。


「それでは、この辺で見送りは良いでありんすよ」


 二ヶ月間パーティーを組んで依頼をこなして来た【爆天地】と【死神】。

 SS級冒険者同士がパーティーを組むと言う異例の事態に、ギルドは『何時か殺し合うのではないか?』とハラハラした面持ちで見守って居たのだが、特に問題も起きずニヶ月の時が流れた。


 【爆天地】が【死神】を常にからかい、それに対して【死神】は殺気を放ち怒り狂うと言う、一見不仲に見える二人だが、殺し合いなどと言う物騒な展開に発展する事も無く、これまた異例となる『仲の良い二人のSS級冒険者』となった。


 そして、今日この日は、パーティー解散の日だ。

 【死神】としてはこのままパーティーを組んで居たかったのだが、【爆天地】がなにやら『一人で行かないといけない場所がある』と言ってパーティーを解散する事になったのだ。


 一時的な解散と考えていた【死神】だが、【爆天地】はもう【死神】の事を心配せずとも大丈夫と考え、パーティー再結成は無い事を【死神】に伝えた。

 猛反対した【死神】だったが、結局【爆天地】に押し切られ別れの日を迎えることとなった。


「次はもっとちゃんとした仲間を見つけなさい。わっちは色々事情がありんすから、ずっと一緒にはいられないんでありんすよ」

「……」

「まぁ貴女は仲間一人を見つけるのも一苦労でありんしょうが、精一杯頑張りなさい。次に会ったら愚痴でも聞いてあげんすよ」

「……」


 終始無言な【死神】は、それでもコクリと頷く。

 【爆天地】はそんな【死神】に苦笑しながら、仲間が出来るのは当分先だろうななどと若干失礼な事を考えていた。


「それじゃぁ、また会いんしょう。さようなら、アイナ」


 パタパタと手を振った【爆天地】は、【死神】に背を向けあっという間に見えなくなった。

 【爆天地】が走り去った方向をぼんやりと眺めていた【死神】は地面に視線を落とす。

 これでまた、一人になった。相変わらず冒険者や住民には怖がられる。

 ぎゅぅ、と握り締めた拳を視界に入れながら、不意に途方も無い虚無感を感じ始めた【死神】は、胸中で思いを吐露する。


 (私はただ、一人が嫌なだけ……)


 ポツリポツリと。

 降り注ぎ始めた空の涙が、見上げた彼女の(まぶた)を濡らし頬を伝って地に落ちた。


 (誰でも良いから私の傍に居てよ)




 一人ぼっちの【死神】が、オカシナ男と出会うのはこれから二ヵ月後の事。

ちなみに、途中出てきた冒険者ABCは次の日受けた依頼先で死にました(笑)

その直前の会話。


A「へへっ、見ろよこれ。コイツは幸運のお守りでな、俺の命を何度も救ってくれたのさ」

B「おお、スゲェな。俺には幸運のお守りなんてねーが、来月幸運の女神が来るんだぜ」

C「おいおい、お前ら、それよりも俺の話を聞いてくれよ。実はさ、明日は娘の誕生日なんだが、何を送ればいいと思う?」

AB「「そーだなぁ」」


「グロォォオオオオオオオオオ!」


C「ッ!? 何だ今の!?」

A「気をつけろ、すぐそこに居る筈だ!」

B「落ち着けよ、俺たちには幸運が舞い降りてる筈さ!」

A「B……良い事言うじゃないか」

C「ああ、そうだな……」


ABC「「「もうなにも怖くない」」」



ガブリ


\(^o^)/

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