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S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
49/62

-42- VS【天鳥帝】 前編

 【海龍帝】と鎌咲たちが死闘を繰り広げている同時刻。

 【天鳥帝】という災害が近づいている教国首都、神殿にて帝国騎士団およそ三〇〇名、神殿騎士団およそ六〇〇名、冒険者八三名が一同に集結していた。


 それぞれ帝国騎士団長、神殿騎士団長、冒険者代表が、集結している合計九八三名の戦士を視界に納めながら、【天鳥帝】を殺す手段を各々に口に出していく。


 そんな相談が成されているのは神殿の地上一階。そう、教国は王国のように王都から離れて【天鳥帝(災害)】を迎え撃つのでは無く、神殿で全兵力を持って迎え撃つ積りで居た。民の避難は既に完了させてある。しかし、何故被害が大きくなるであろう神殿で【天鳥帝】を迎え撃つのか。


 その理由は教国の秘宝、【聖女】にある。

 そして、神殿地上七階(最上階)で、教国の【聖女】および教皇、帝国の【剣聖】、新米SS級冒険者【拳聖】が顔を揃えていた。


「面倒だが聞いとくぜ。なんでこんな場所で迎え撃つんだよ、ぶっ壊れるぞ」


 両手に雁字搦めに巻かれた包帯を、さらにきつく絞めなおしながら【拳聖】は尋ねた。その問いに答えたのは煌びやかな銀髪を短く肩の辺りで切りそろえた、一見どころか年齢僅か一〇歳の少年といっていい、しかしながらこれでも教国の最高権力者である教皇だ。


「ばーっかめ! この神殿は壊れんわ! 絶対無敵の神殿を使って【聖女】を守るためにここにしたんだろうがっ! この脳筋、脳筋っ! あほー」

「オイ坊主、俺は今、面倒な事にプッツンしたぞ。最後の言葉はあるか?」

「ふふん、わたしは教皇様だぞ、偉いんだ! そんな教皇を殺したらわたしの信徒である民が黙ってぶぎゃっ! いっだーい!」


 ゴツン、と【拳聖】の拳骨を頭の天辺にまともに浴びた少年教皇は、堪らず頭を抑えて蹲る。


「な、何をするか! わたしは偉大なる教皇――」

「の、息子だろ。面倒な事はするんじゃねーよ」

「う、うるさいうるさーい!」


 わーっ、と拳を振り回す世間的には教国で一番偉い教皇。目尻に涙を浮かべ始めた教皇に、流石の【拳聖】も慌てたがそれよりも早くうわり、とした癒しの光が少年教皇を包み込む。


「大丈夫ですか~? 痛いの痛いの飛んでいけ~!」

「な、わたしを子ども扱いするなっ!」


 撫で撫でと頭を優しく【聖女】に撫でられる少年教皇は、一瞬嬉しそうな顔をしたものの、すぐさま向こう行けっと手を振る。そんな年の離れた姉弟にしか見えない二人の、一連のコントを黙ってみていた【剣聖】が、とうとう口を開いた。


「それで、ここで戦うのは【聖女】を守るため、それだけなのか?」


 黒の双眸に頬に小さな剣傷、伸びた黒髪を後ろでそのまま束ねただけの簡単なヘアスタイル、腰に刀を下げ、藍色の燕の紋章を胸に掲げる帝国貴族の服に身を包む【剣聖】は、少年教皇に確認の為尋ねた。

 少年教皇は【剣聖】の問いにぶんぶん顔を振りながら、


「そ、そう! 全ては【聖女】を守るためなんだぞ! わ、分かったな! べべべ別にわたしは【聖女】が好きとかそうゆー訳では……」 

「あら、私は好きですよ~」

「ほ、本当か!」

「ええ、弟みたい(・・・・)で可愛いですし~」

「ぐっふぁっ!」


 のほほんとした【聖女】の天然な一撃に、男な少年教皇はそれが嘘とかフリとかでは無く、本音から来ると直ぐに理解したが為に、ふらふらと瀕死の傷を負ったような足取りで二歩三歩と進み、途中で神殿の床に倒れこむ。

 ど、どうせわたしなんて子供だよ~だ、ぐすん、などと涙ぐみながらイジケル少年教皇に、何だかんだ言いながら面倒見が良い兄貴的な【拳聖】は静かに肩に手を置く。


「安心しろ坊主、あの女は面倒だが、お前は将来男前になるぜ? 五年後には面倒なこの女もお前を弟なんて見ねーだろうよ」

「【拳聖】……つ、つまりわたしの恋の戦争は……」

「おう、面倒だが長期戦よ」

「あ、兄貴ぃぃ――――――っ!!」


 うわわーん、と抱きつく子分的な教皇。【剣聖】は小さく一言下らん、と呟きくるりと背を向けた。


「ん、おい何処行くんだァ?」

「ここに居ても時間が無駄なだけだ。拙者は下にいる」

「ふーんま、良いけどな。そーいやお前名前は? 面倒だが聞いとくぜ」

「必要か?」


 【拳聖】の問いをばっさり斬り捨てる。

 今から命がけの戦闘を開始するのに、名を名乗る必要が何処にある?

 そう【剣聖】は逆に尋ねていた。【拳聖】は顎に手を当て、しかしそんなに時間をかける事無く直ぐに口を開く。心底めんどくさそうに。


「悪いな、確かに面倒なだけで必要ねーわなぁ」

「そういう事だ、拙者はこれで失礼する」


 カツリカツリと足音を響かせながら去っていく【剣聖】の背中をぼぉ、と見つめていた【拳聖】もくぁと欠伸をしつつ【剣聖】の後を追う。


「じゃ、俺も行くぜ」

「待て、これを持っていけ」


 少年教皇に投げられたのは、片手にギリギリ収まるサイズのかなりの重量がある鋼鉄の塊。


「それは魔道具だ。通信用のな。それがあればいつでもわたしと話が出来るというわけだ」

「そいつは良いや、一々報告なんて面倒事はいやだしな。貰っとくぜ」


 通信用魔道具を長ランの懐に無理やり押し込み、【拳聖】は今度こそ【剣聖】の後を追い始める。


(さっさと終わらせるか、面倒だし)


 そんな事を思いながら。






 正午を少し過ぎた頃、災害が神殿の目と鼻の先まで迫っていた。

 悠々とその両翼を羽ばたかせ、大空を高速で接近してくるのは【天鳥帝】という名の巨大な怪鳥。

 そしてそれを待ち受けるのは合計九八三名の戦士たち。見張り役が伝えてきた【天鳥帝】接近に、素早く戦闘準備に取り掛かる戦士たちだったが、ある二人の男の言葉により、困惑が広がる事となる。


 その二人の男とは、SS級冒険者【拳聖】と帝国の【剣聖】。二人は一気にざわめく戦士たち全員に声が行き届くような、咆哮を発する。


「聞け―――――ッッ! お前らの中に束縛系の魔道具を持ってる奴はいるかッッ!?」


 【拳聖】の怒鳴り声に、ざわざわと口を動かしながらも出て行くものは居ない。今回の【天鳥帝】討伐において、彼らが持ってきているのは遠距離射撃系の魔道具だ。束縛系の魔道具を持っている者は居ない。


 ――――と、思ったのだが、ざわつく九八三名の中で、一人手を上げる男が居た。

 S級冒険者アランだ。恐らく今回の討伐では、使用しないであろう白の剣身に黒の鎖のシンボルが描かれた大剣を背負う彼は、恐る恐る口を開く。


「えっと、束縛系の魔道具なら一応持ってるっすよ」

「名前は?」

「アランっす」


 おっけーと首を振った【拳聖】は、手は戦闘準備の為忙しく動かしながら、目だけで【拳聖】に注目している戦士たちの視線を一身に浴びながら、


「じゃ行くか。面倒だからさっさと終わらす。俺たちだけで十分だ」

「え? はぁぁあああ!?」


 何を言ってるんだ? と正気を疑う視線を今度は一身に浴びる事になる。


「安心しろ、拙者も行く」

「いや、そういう問題じゃ――」

「面倒だから一撃で終わらす」

「そういう問題じゃないっすよっ! てかあんた等一体【天鳥帝】にどう立ち向かう積もりっすか」


 アランの突っ込みを受けた二人は、同時に短く返答した。


「殴る」「斬る」


「【天鳥帝(てき)】は飛んでるっすよ!?」


 アランが必死に突っ込みを入れている間、しかし話は進んでいく。

 三〇〇名の騎士を率いる帝国騎士団団長は、【剣聖】に敬礼をしながら、


「お前らは後方待機、拙者が向かう。直ぐ終わる」

「はっ、【剣聖】殿の勇姿、しかとこの目に焼き付けます!」


 六〇〇名の神殿騎士団は、神殿七階のラウンジから顔を出した少年教皇と【聖女】が、


「よーし、なにやら脳筋がかましてくれるそうだから待機!」

「怪我なんかは任せてくださいね~」


 そして残りの八二名の冒険者には【拳聖】が声を大にして、


「テメェら! 面倒な事を一切せず、楽して報酬もらえるんだ! 文句ねーだろ!」


――ォォおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!


 結果、九八二名の戦士の説得に成功した【拳聖】と【剣聖】は、特攻するならお二人で行くっすよ~、と半泣きで抵抗する唯一の束縛系魔道具持ちのアランを引き摺り、たったの三人と言う少数で災害に突撃を仕掛ける。






 神殿から数キロ離れた岩が密集している場所で、【剣聖】と【拳聖】は最も大きな岩の上に仁王立ちしていた。彼らが見据える先には、真っ白な羽毛で覆われ、丸太のように太い両足、鋭い嘴は金色に輝く神々しい一体の怪鳥が居た。


「へぇ、デケェな。面倒だし、同時に行くか」

「同意」


 小さく頷いた【剣聖】は刀に手を置いて何時でも抜刀出来る状態にし、僅かに腰を沈める。足腰に力を溜める【剣聖】の体には、陽炎のような揺らめぎが表れる。無色透明だが【剣聖】の周囲の世界は歪んでいた。陽炎のように揺らめく世界は、【剣聖】の体から溢れ出す『闘気』とは根本的に別物の力に耐え切れず、世界の歯車が悲鳴を上げているせいなのか。だんだんと密度を増していく説明不能の力は、ガラスを引っ掻くような甲高い音と共に、【剣聖】を世界から切り離していく。


 それを目視出来たのは直ぐ傍にいた【拳聖】のみ。だが、その【拳聖】も【剣聖】の陽炎に気にする事無く、その身を暴れまわる猛獣のオーラが包み込む。そのオーラは【拳聖】が自身の拳で沈めてきた敗者の血を吸うごとに力強く、そして荒々しくなる。やはり『闘気』とは全く別物の正体不明のエネルギーは、まるで目の前の【天鳥帝】の血を吸える事に歓喜するが如く、さらに獰猛に虚空を蹂躙する。


「拙者の準備は完了だ。何時でも良いぞ」

「行くか。アランしっかり捕まえろ、一瞬で良い、面倒事はそれで終いだ」

「ちょっ、話を聞いて欲しいっす!」


 岩陰に隠れていたアランの悲鳴は、しかし届いても完璧に無視された。

 二人の化物は今の今まで立っていた岩を砕き、天高くに君臨する災害目掛けて飛び上がる。

 その人外の速度と高さに、アランは半ばヤケクソになりながら、漆黒の『闘気』を纏い背負っていた愛剣、【不滅の鎖大剣】を抜き放つ。


「あーもうっ! 精度は低いってのにっ! SS級の化物は皆話を聞かないっすか!」


 ぶーぶーと文句を垂れながらも、全力の『闘気』を纏い放つアランの【不滅の鎖大剣】の能力、【投擲の束縛】を空中で羽ばたく【天鳥帝】目掛けて放った。両手でフルスイングした【不滅の鎖大剣】から一〇の黒き鎖が解き放たれ、空気を裂きながら【天鳥帝】へと向かっていく。


 【天鳥帝】は、向かってくる一〇の鎖に気付きながらも、回避行動を取る事ができなかった。何故なら、それよりも先に、遥かに恐るべき殺気を放つ血に餓えた獣のような二人の化物が、迫っているのだから。

 【天鳥帝】の勘が、自身に迫り来る二人の化物から意識を逸らすのは危険だと警報を打ち鳴らしていた。


〔■■■■―――――ッッ――――■■――■■■――ッ!!〕


 一瞬、【天鳥帝】の意識が一〇の鎖を離れ、化物へと移る。その一瞬を狙っていたかのように意識の隙を突き、唐突に加速した一〇の鎖は瞬く間に【天鳥帝】の動きを奪う。行動を束縛する。


 一〇の鎖はS級程度の動きを束縛するのは十分かもしれないが、SS級、神獣、そして【天鳥帝】ともなれば力尽くで破壊する事も可能だった。

 だがその力尽くで破壊するにしても、一瞬の隙が生まれるのは事実。そして、一瞬でも隙が生まれれば二人の化物、【剣聖】と【拳聖】には十分だった。


「よう、【天鳥帝(バケモノ)】。面倒なんで終わらせるぞ」

「拙者は早く帰りたいからな、死ね【天鳥帝(バケモノ)】」


 黒板を爪で引っ掻く音を数十倍に高めたような不快な音鳴り響かせる【剣聖】は、左手を鞘に添え右手で柄を握り締める。

 周囲の虚空が全て紅蓮の猛獣のオーラによって埋め尽くされたその中心で、【拳聖】は右拳を強く硬く握り締める。


「ッ羅ァァあああッ!!」

「――――疾ッ!!」


 音速で振るわれる拳と剣。正体不明と説明不能は正しく理解不能の結果をもたらした。

 世界を切り裂く刃は【天鳥帝】を上と下で真っ二つにし、世界を砕く一撃は【天鳥帝】を木っ端微塵にした。

 一体今の刹那の瞬間に炸裂した剣と拳には、どれほどの力が込められていたのか。

 【天鳥帝】はその役目を果たすどころか、神殿に辿り着く前に血と肉片へと姿を変えた。


「はっ、楽勝だぜ」

「これで帰れるか……」

『お、おおおお前ら! 凄いなお前ら! なんだお前らのほうが災害じゃないか!!』

『まぁまぁ、落ち着いて~。深呼吸しましょうね~』


 ニタリと笑いつつ重力という力によって落下していく無傷の二人(化物)。【拳聖】の懐からは少年教皇と【聖女】の声が聞こえる。


 二人の戦闘と呼べるか定かではないその戦いを見ていた、神殿前に集められていた九八二名はその圧倒的強さに、畏怖すると同時に一切の被害なく危険を排除出来た事により、歓声が爆発した。


 二人の戦いを間近で見ていたアランもやはりSS級との壁を再認識し、内心で歓喜していたのだが――――。



◆ ◆ ◆



 遥か天上で、一人の幼女が微笑んだ。

 真っ白な世界の中で、楽しく狂って世界を見つめていた創造神は、悪意を表情(カオ)に貼り付けた。

 死んでしまった我が子へと、本来その世界で生まれるはずのない異物へと、優しく狂気に満ちた笑顔で語りかけた。


「呆気なさすぎ、これじゃ全然面白くない……もう一回チャンスを上げる、この私を楽しませろッ!」


 ポトリと落下する一粒の血液。

 自分の欲望に忠実に、彼女は運命を捻じ曲げる。



◆ ◆ ◆



 アランの目にありえないモノが映った。誰一人気付く者は居ない。【拳聖】も【剣聖】も、【聖女】も少年教皇も、帝国騎士団も神殿騎士団も冒険者も、誰一人として異常に気付く者はおらず、故にただ一人異常に気付いたアランは声を張り上げた。


「お二人さん! まだ終わってないっすよ!」


 その声にすぐさま反応した【拳聖】と【剣聖】は、同時に背筋を悪寒が襲ったのを感じた。空中と言う身動きが取れない場所で、しかし彼らは一切迷いもせず即座に真横を見た。そう、今なお落下し続ける【剣聖】と【拳聖】の真横に、現在進行形で再生していく【天鳥帝】の姿があった。


「お。ォォォ雄雄オオオオ――――ッ羅ッァァァアアアア嗚呼アアアッッッ!!」

「覇ァァァァアア嗚呼アアアアア――――――ッ疾ッッッ!!」


 轟ッ! と風が唸りを上げ振るわれた【拳聖】の右蹴り上げと、同時に放たれる全てを貫くような鋭い【剣聖】の突き。

 音速の壁を突き破り放たれたその二連攻撃は、しかし【天鳥帝】の体には掠りもしない。

 空中は【天鳥帝】のテリトリーだ。誰一人として空中で【天鳥帝】に適う者などいない、と言っているかのように、縦横無尽に空中を羽ばたく【天鳥帝】は憎き二人の化物を空色の双眸で睨む。


 この頃になると勝利ムード一色だった神殿にいる九八二名も気付く。少年教皇や【聖女】ですら驚きをその顔に浮かべ、そして、皆の目の前で――――【天鳥帝】の口から放たれる収束された殺人光線が、【拳聖】の左足を、【剣聖】の右腕を焼く。


「ぐ、ッガァ!!」

「ッつゥ!!」


 咄嗟に空中で身を捻って避けたから助かったが、次はない。未だに空中に居る二人は、落下するまでの僅かな時間を途方もない時間と錯覚しながら、早く早くと念仏のように頭の中で唱える。地に足が着かないことには、【天鳥帝】に勝てる術はない。


〔――――■■■■■■■■――――――ッッ!!〕


 咆哮と共に【天鳥帝】の口内に途方もない力が再び収束されていくのを感じ、焦りを加速させる【剣聖】と【拳聖】だったが、その時神殿から放たれた癒しの波動が二人を包み込んだ。


『今すぐ治療しますね~、【聖女恩寵(グレイス)】』


 魔道具から聞こえるのほほん、とした陽気な声に二人は怪我が治ればまだ打つ手はあると少し気持ちが楽になったが、それも長くは続かなかった。

 焦りとも怪訝な声ともとれる声色で【聖女】がポツリと呟く。


『あれ~? もしかして私の力が効かない~?』

『な、なんだとぅ!?』

「おいどうゆーこった!」

「拙者にも説明しろ!」


 癒しの力に包まれているにも拘らず、一向に回復の兆しを見せない【拳聖】の左足に【剣聖】の右腕。彼らの脳裏に一つの可能性が弾き出される。

 まさか、【天鳥帝】から受けた攻撃に、【聖女】の癒しは通用しないのか?


〔ッ―――――■■――――■■■■■――――ッッツ!!〕


 その時、【天鳥帝】の収束が終わりを迎えた。開かれた口から放たれる殺人光線を避ける術も、防御する術も【拳聖】と【剣聖】は持たない。四肢に受けた傷は治らず、攻撃も満足に出来ない状態で、しかし彼らは最後の悪あがきだと剣と拳を振り抜こうとして、


「お二人とも、これに乗るっすよ!」


 ドッ! とアランの【不滅の鎖大剣】から放たれた【投擲の束縛】、一〇の鎖を足場に飛び上がり難を逃れた。


「危なかったぜ、ありがとな」

「感謝する」

「それならさっさと殺っちゃってくださいっす! これを!」


 ごそりとアランが懐から取り出し、二人に投げ渡したのは二つの瓶。中に限界まで注がれているのは《回復薬 Ⅹ》だ。再び感謝の言葉を口にしながら、ごくりと《回復薬 Ⅹ》を飲み込む。炭化していた左足と右腕は、ベリベリと黒く焼かれていた皮膚が剥がれ落ち、綺麗な肌が下から顔を見せた。


 トン、と軽やかに地に降り立つ二人の化物。千載一遇のチャンスを逃した【天鳥帝】は、しかし優雅に大空に君臨しその口に殺人光を収束していく。今度こそ確実に殺すために、先程よりさらに巨大なエネルギーを。


「だから面倒事は嫌いなんだ。今度こそ終わりにしてやる」

「一度でダメなら二度行くまでだ」


 【拳聖】は全身の紅蓮に輝く猛獣のオーラをさらに増大させ、膨れ上がったエネルギーをそのまま拳に全て集中させる。防御など考えていない。攻撃あるのみ。圧倒的な密度で右拳に収束されたオーラのせいで空間が歪み虚空が悲鳴を上げる。

 その隣で【剣聖】の歪みがさらに酷く、悲鳴がさらに大きくなっていく。もはや陽炎どころではない。皹が、入っていた。ひび割れた虚空は、しかし収束されていく刃へと飲み込まれていく。


 剣と拳。もはや理解できる範囲を飛び越え、さらに飛び越えた先にある領域に辿り着いた二人の必殺は、この世界の理というものから完全に外れていた。


「【紅蓮千殺(ノックアウト)】」

「【刃皆殺死(オーバーキル)】」


 異世界に転生して凡そ一年。二人の姿を見た創造神は彼女にしては珍しく歓喜する。何故なら、彼らは創造神の与えたチートを一〇〇パーセントコントロールすることに成功していた。それは転生者の中で、たったの二人だけ。【拳聖】と【剣聖】のみ。


 創造神が把握している(・・・・・・・・・・)中では(・・・)

 創造神に運命(イト)を握られている者の中では。


 全身から迸る殺気は、全て【天鳥帝】に向けられている。

 だと言うのに、アランの震えは止まらなかった。


「抵抗すんな、面倒になる」

「大人しく拙者の刃に血を吸われろ」


 地に着けた足に力を込め、二人は同時に言葉を発する。短い短い覚悟の言葉を。


「斬る」「殴る」


 全てを爆発させ【天鳥帝】の下へ向かう。二人の速度は初めの速度を遥かに上回っていた。【天鳥帝】の口から放たれる殺人光線が、幾多もの細い線と成り降り注ぐ。その全てを弾き叩き落しながら、急接近した【剣聖】による神速の横薙ぎの一撃。これを上昇し避けた所に【拳聖】は轟ッ!! と神速の拳を叩き込む。


〔ッ――――■■■■―――ッ――■■■■■■――――――■■■■■――――ッッッ――■■■■――ッ!!〕


 咆哮と同時に回避に成功した【天鳥帝】は、今度こそ勝利を確信する。ここは空中。【拳聖】と【剣聖】に勝ち目はない。

 だが。

 地から天へ向かって伸びる一〇の黒き鎖。

 足場のないはずの空中に、足場はしっかりと完成していた。


「終わりだ」


 今度こそ。

 【剣聖】よりも先に【天鳥帝】へ辿り着いた【拳聖】は、その猛獣のオーラが収束された拳を限界まで引き、力を溜め込み、蓄え、そして引き放つ。


 音はない。凄まじい速度で繰り出される【拳聖】の拳が【空鳥帝】を打ち抜く――――その瞬間。

 背後で刀を構えていた【剣聖】の目に、おかしなモノが映った。【剣聖】はそれが何だか理解できなかったが、それでも驚きに目を見開いて咄嗟に叫ぶ。頭の中の危険を知らせる警報が、これ異常ないほど大音量で危険だと叫んでいるから。


「――――ッ!? 【拳聖】上だッ!!」


 直後の出来事だった。

 【剣聖】の声に反応しようとした【拳聖】の体を、天より降り注ぐ黒き槍の雨が貫く。防御に一切のオーラを回さなかった事が仇となった。今まさに勝負を決めようと、【天鳥帝】の目前まで迫った拳は行き場を失い、【拳聖】の腹に数本の闇を圧縮したかのような槍が突き刺さる。


「【拳せ――――ッ!?」


 同時に、【剣聖】もまた槍にその身を貫かれた。悲鳴はない。激痛によりそんな事を出す事さえ出来ない。四肢に、腹に突き刺さった闇の槍。それでも握り締める刀の感覚すら消えて行き、鮮血が虚空を舞い肉片が空中を踊り、全てが視界から消えうせる。


 地面に崩れ落ちる二人は、しかし息絶える瞬間、神殿より降り注ぐ癒しの波動が体を包み込む。これは【天鳥帝】の攻撃ではない。故に【聖女】の【聖女恩寵(グレイス)】は全てを癒す。【拳聖】と【剣聖】の二人は死は免れたが、重症なのは変わらない。戦線復帰は難しいだろう。


 そんな二人を瀕死に追い込む攻撃を放った者は、黒々とした混沌の地獄に堕ち、黒き血で汚れきった堕天使の両翼を天に広げ、その身から万物を惑わす薄気味悪い霧の『闘気』を放出しながら太陽(頂点)を背に君臨し、狂気に染まった声で高らかに嗤う。


「ひっは、ぎゃひひひひひギャハハハハハハハハハハハッ!! 面白れェコトやってんじゃねェか、デクの坊の愚民どもがッ!!」


 突如戦場に降り立った堕天は、その役目を全うするが如く、災厄()を周囲に量産する。

ボツ会話


「そーいやお前名前は?」

「剣心」

「緋村!?」

「違う!! 拙者の名前は剣心 通だ! 別に作者が名前を考えるのが面倒になったとかそういう訳じゃない!」

「止せ! そっちは反則(メタ)の道だ!」

「作者ぁ! キラキラネーム考えるのがめんどくさくなったからって、パクリはダメだろーが!!」

「俺を無視して突っ走ってんじゃねーよっ!」


【剣聖】も【拳聖】も名前はまだ出てないです。

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