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S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
47/62

-40- VS【海龍帝】 前編

 とある森の中を、一人の男が王都へ向かって疾走していた。

 奇妙な格好をした男だ。真っ赤な色をしたドギツイ服、顔は素肌が見えないぐらいに化粧が塗りたくられていた。


 道化(ピエロ)。この男を表すのに、これ程相応しい名は無いだろう。

 そのピエロの化粧をした男は、SS級冒険者の一角【道化】。彼もまたギルドの緊急収集を受け、王都へ全力疾走している。


 ――――と、言うのが、表向きの情報だ(・・・・・・・)


 【道化】が脇目も振らず木々が密集している森の中を、その驚異的な身体能力でトップスピードを維持しながら走っていると、不意に機械音が鳴り響く(・・・・・・・・)。この世界で聞く筈がないであろう機械音、地球ではよく耳にした馴染み深いその音の正体は、携帯電話の着信音。


 【道化】は足を止め懐から携帯電話を取り出す。携帯電話の画面には何も映っていない。真っ暗な電源が入っていない筈の携帯電話からは、しかし今なお確かに着信音が【道化】の鼓膜を叩く。

 【道化】は一つ適当にボタンを押し、携帯電話を耳に当てた。


「はいはーい、こちら【道化】でぇーす」

『ザーザザー……今何処に居るんだ……?』


 携帯電話から聞こえてくる、男の声。その声の主の名は、


「おおー、【暴君】さんじゃないですかー。今でも姫のパシリ頑張ってるんですかー?」

『死にたいのか……。……私の質問に――――答えろ』


 ブツブツと途切れる【暴君】の言葉は携帯電話のせいだ。これ以外は完璧に再現できてるのなー、と内心聞き取り難い【暴君】の言葉に辟易しながらも、それは向こうも同じか、と思い直す。


「そうですねー、今んところ王都まで後二時間弱って所ですかねー」

『――――早急に戻って来い。……ミロードは王都を離れる……、つまり「アレ」が一時的に無防備になると言う事だ。――――もしもの事もある……お前と私で警護しろとの命令だ』

「それって近づく奴は当然……?」

『……ああ、殺せ……』


 【暴君】の簡潔な答えに、【道化】はケラケラと笑う。


「いやー楽しくなってきましたねー。それにしても『アレ』かー、僕見るの初めてなんですよねー。どんな姿してるのかなー」

『随分と楽しそうだが――――もし「アレ」に不要に手を出した場合…………私がお前を殺すぞ?』

「分かってますよー。それじゃさよーならー」


 ぶつん、と通信が切れる。クルクル片手で携帯電話を回しながら、顔に浮かんだ薄笑いを引っ込めようとしない【道化】は、暫し考え込んだ後、不意に呟く。


「おーい、早くお出でよ。僕も時間が無いんだよねー」


 突然投げ掛けられたその言葉に、周囲の木々が、いや潜んでいた盗賊たちが僅かに騒めく。

 一拍置いて、木々を掻き分けて現れた、槍や剣などを持った七人の盗賊。


「ゲハハハハ、良く分かったじゃねぇか。どうやらただの大道芸人じゃぁねぇようだなぁ」


 その中のリーダー格なのか、皮鎧を身につけた髭面の男が汚い口を開き言葉を発した。


「うーん、まぁかかってお出でー。さっさと終わらせたいからねー」


 【道化】は薄ら笑いを顔に浮かべたまま、人を小ばかにしたような態度で挑発する。それに激怒した髭面のリーダー格。サッと髭で覆われていない汚らしい顔を怒りで赤く染め、両手に持った長さ二メートル弱はある長槍を構える。


「良い度胸じゃねぇか! テメェら、手ぇだすんじゃねぇぞっ!!」


 怒号と共に突き出した槍による刺突は――――呆気なく薄ら笑いを浮かべる【道化】の腹を突き破った。ごっぼと口から空気を吐き出し、腹からは鮮血を吹き出す。ふらふらと抵抗もせず二歩三歩と下がる【道化】に、盗賊たちは大声で笑う。


「ゲハハハハ! なんだコイツ! メチャクチャよぇーじゃねぇか!」

「グハハハハ、馬鹿だコイツ!」

「こんな弱いのに喧嘩売ったのかよ! くっそ見てぇだな!」


 【道化】に向けて指を刺し、腹を抱えている盗賊たちに気を良くした、リーダー格は笑いすぎて涙を目尻に溜めながら、何度も何度も【道化】へと槍を突き出す。

 その全てを体で受ける【道化】は、鮮血で身を染めながら、背を木に持たれかけさせた。


「がっふ、これは効くねー、すっげ効くわー。体中穴だらけ、すっげ血ぃ出てるねー。ケラケラケラ、笑えるねー。ごほっ、はぁーはぁー、致命傷だわー。こりゃ死ぬな、死ぬ死ぬ死ぬーっ!」


 一言喋る度に口の端から血が流れ、血の塊が零れ落ち、おかしな呼吸で足も不安定。どこからどうみても半死半生。髭面のリーダー格はお遊びは終わりだ、と下賎な笑みを顔に浮かべ槍を【道化】の心臓目掛けて突き出し、


「――――って訳で、死ねよ(・・・)


 ――――全身に何の前触れもなく空いた穴から吹き出る血によって、ショック死した。

 最後まで下賎な笑みを浮かべて地に伏せる、リーダー格の頭を【道化】は靴底で踏みにじり、ケラケラと笑い声を上げながら、サッパリとした口調で言う。


「あー気持ち良かったー」

「……は?」


 目の前で起こった現象に思考が着いていかない盗賊六人。今まで死にかけだったピエロは何故か傷一つ見当たらず、逆に優位に立っていた筈のリーダー格が地に倒れ伏せ絶命していた。そんな一瞬で攻守が交代した、訳の分からない状況に、しかし六人の内一人の、右目が大きく顔のバランスがおかしい盗賊が、左手に持った剣を振り上げ、【道化】に駆け寄る。


「死ねやコラァ!!」


 気合十分、風を裂き振り下ろした凶刃は、しっかりと【道化】の体を捕らえ、肉を骨を神経を血管を切り裂き致命傷を与える。ドッパ、と傷口から溢れ出す鮮血を浴びながら顔のバランスがおかしい盗賊は笑う。


「グハハハハハ! 馬鹿が、油断してるからだ!」


 しかし、他の盗賊は笑わなかった。いや、笑えなかった。何故なら、【道化】は未だその二本の足で大地を踏みしめ、その顔には薄ら笑いを浮かべているのだから。

 【道化】は静かに息を吐いた。

 その時だ。


「あ、えぁ?」


 訳が分からないと言った顔をして倒れていく、つい数秒前までは確かに無傷だった顔のバランスがおかしい盗賊。その盗賊の体には、肩から腰へ一気に振りぬいたような剣傷が有った。

 周囲に訪れる不気味な静寂の中、やはり無傷の【道化】が声を掛けた。


「ケラケラケラ、馬鹿はどっちだ」


 倒れ伏せる盗賊を馬鹿にした顔で見下ろす【道化】は、ふるふると首を振り残っている五人の盗賊に向かって言う。


「まぁ良いや、それでは、楽しい嬉しいサーカスの始まりですねー! まず始めに、一つの芸をお見せしましょー。今からお見せするのはとても不快で不可思議で不思議で神秘的で霊妙でミステリアスな道化芸です」


 両手を広げ、ニィと口角を吊り上げつつ【道化】は続ける。


「さてはて皆様ー、僕が丹精込めて下ごしらえした、粗暴で乱暴で横暴で凶暴で狂暴で兇暴で暴力的で破壊的で破滅的で致命的で悪魔的な超ド級の最高の最上の特別の格別の極上のとびっきり馬鹿げた曲芸に、どうかお付き合いください」


 動けない。既に場の雰囲気は、完璧に【道化】に掌握されていた。逃げたいのに、体が自分の意思に反して動かない盗賊たちは、ただ【道化】の不気味さにガタガタと顔面を蒼白にし震えた。


「こらからお見せする芸には、観客の皆様のご協力が不可欠ですねー」


 すぅ、と両手を動かし盗賊たちに自分は何も持っていないとアピールする。


「皆様、どうぞかかって来て下さい。その手に持った数々の凶器で、刺して斬って殴って射て、刺殺斬殺撲殺射殺、あらゆる手で僕を殺しにかかってください。僕は反撃も防御も何もせず、ただただ迎え入れるように両腕を広げて、にこにこ嗤って突っ立っている事を約束します」


 今ここには、弓や鈍器をもった盗賊は居ない。しかしながら【道化】は撲殺と射殺と言った。それはつまり――――周囲に隠れている残りの盗賊も全て把握していると言うアピール。


「ケラケラケラケラ、そんな顔をせず、どうぞお出でください皆様」


 ゾッと得体の知れない恐怖で、身を強張らせ顔を歪める盗賊たちに、【道化】は人差し指を左右に振りながら、一つの曲芸の始まりを宣言する。


「さぁ、奇態で奇異で奇怪で奇妙で異様で面妖で怪異で怪奇で幻怪で幻妖で変梃りんで突拍子で突飛な可笑しな変わったへんてこなけったいな奇奇怪怪な一種異様なきっかいな風変わりな妙ちきりんな珍妙な妖しげな怪しげな不気味な物珍しい怪しい妖しい薄気味悪さに溢れた我が曲芸をご堪能あれ! ケラケラケラケラケラケラケラ!」


 ――う、うわぁぁあああああああああああああああああああ!!


 【道化】の言葉と共に、恐怖が限界まで達した盗賊たちは悲鳴にも似た雄たけびを上げながら、各自凶器を片手に我武者羅に走り出す。

 恐怖で錯乱した盗賊たちの動きは、それこそ始めて武器を手にした子供のようにお粗末で、しかし【道化】は全ての攻撃をその身で受ける。


 狂ったピエロの狂乱は、僅か五分で幕を下ろした。


「以上を持ちまして、僕の曲芸は終了ですねー。さて、皆様、拍手喝采の前に一つ質問です」


 血だらけの地に立つ【道化】は、やはり無傷。周囲の観客にお礼をするかのように腰を曲げ礼をする【道化】は、寒気を覚える薄ら笑いを浮かべながら、虚空に向かって言葉を投げ掛ける。


「僕の曲芸の種を、見破る事が出来ましたかー?」


 その問いに、答えることが出来る者は誰一人として存在しない。

 ケラケラと、【道化】の嘲笑が屍の山の中で響き渡った。



◆ ◆ ◆



 霧裂たちと分かれて二日。鎌咲とレアルタはギルド職員に連れられるまま、王都から十分距離をとった、周囲半径五キロに何も存在しない海が見える草原に立てられたテントの中で、数人の冒険者などと【海龍帝】の対策を練っていた。

 しかし。


(不味いですね。皆、昨日の異常現象のことで不安になっている……)


 つい昨日の事だ。唐突に太陽が姿を隠し、ありえない時刻に訪れた夜と言う異常現象を目の当たりにした、収集された冒険者やギルド職員、王国の騎士たちは皆『不吉が起こる前触れ』と考え、士気が格段に下がっていた。


「どうしますか? このままじゃ不味いでしょう」


 そんな事は分かっているっ! と言いたくなったがぐっと堪えて、鎌咲は今発言した青年へと視線を向ける。王国の切り札、【勇者】光裁誠だ。黄金の甲冑に腰に下げてある黄金の剣、甲冑に繋がれた真紅のマントには王国の紋章が描かれていた。はっきりドハデなその衣装に、鎌咲はげんなりとする。


 鎌咲はこの青年が気に入らなかった。相手の言い分を一切聞かず、自身の判断が正しいと思い込み行動する。きっとこの青年は世の中、勧善懲悪で成り立っていると考えているのだろう。目の前の悪を討てば、何もせずとも勝手に世の中は平和に成って行くとか考えているのだろう。


 しかし、そんなに現実は甘くは無い。鎌咲も今まで自分の行動が正しいと信じて、人を助けるために鎌を振るって来た。だがその結果平和に成るどころか、さらに悪い状況に陥る事など数多く有ったのだ。


 例えば、街に災害を引き起こす巨大な魔物を良かれと思い狩った結果、巨大な魔物という抑止力を失った多くの魔物が集まり、大進行に繋がったり。


 そして、何より鎌咲をイライラさせるのが、先ほどからちらちらと見てくる光裁の視線である。女性はそういう視線には敏感だ。光裁の背後に佇む赤毛の美女も気付いているのか、先ほどから強い視線で鎌咲を睨んでいる。

 鎌咲は内心深く嘆息しつつ、光裁に目を向け、


「何ですか?」

「へ?」

「だから、何か用かと聞いているんです」

「べ、別に用とかは無いけど……」

「だったらこちらを見ないで下さい。不愉快です」


 赤毛の美女の視線がより一層強くなった気がしたが、鎌咲は気にしない。しかし、光裁は慌てて鎌咲の腕を掴み、ずい、と引っ張って近くに来させた。


「用あります! 有りますから少し話をしませんか!?」

「手短にお願いします」

「えっとですね、僕が預かった少年ですけど、なんかそっちに帰りたがってるんで、返します」

「ふざけてるんですか?」


 ギロリと鎌咲が睨みを効かせると、光裁はガバッと腰を直角に折り曲げた。


「お願いします! あの少年、七草(ななくさ)喚太(かんた)って名前なんですけど、【召喚師】って二つ名も持ってるらしいし、戦力も十分だと思うし! お願いしますよ! 料理長がもう限界なんですっ!」

「お断りします」


 【勇者】の全力のお願いに、しかし鎌咲は一言でばっさりと斬り捨てた。項垂れる光裁を慰める赤毛の美女。

 あの大食い少年に二つ名が有った事に驚いていた鎌咲だが、そこで思考を中断させる。今はそんな事を考えている場合ではないと首を振り、顎に手を当て士気を上げる手を考えていると、今まで一言も喋らずにじっと傍観していたある女性が手を上げた。


「わっちに名案がありんす」


 独特な喋り方をするその女性の名は、エッチェッツィオーネ。またの名を【爆天地】、SS級冒険者の一人。機械的な鈍い銀色をした長髪は背の半ばまであり、その体を守っている薄い胸当てや手甲、足甲などもやはり鋼の色を持っている。

 彼女は全員に注目されたのを確認して、堂々と言い放った。


「【勇者】殿が演説すれば良いんでありんす」


 その完全に人任せな提案に、鎌咲は呆れ顔になり反論しようとして、


「なるほど! 良いじゃないですか!」


 項垂れていた光裁が何時の間にか復活しており、さらには了解を示した事に驚く。光裁の背後に控えていた、赤毛の美女がテキパキと光裁を着飾っていく。

 口を手で隠し、くすくすと笑っているエッチェッツィオーネに鎌咲はすぅ、と視線を向け口を尖らせ言う。


「ツィオーネ、貴女また楽しんでいるでしょう。悪い癖です」

「あら、【死神】じゃない。こねえなところで何をしているんでありんすか?」


 今気付いた、と言った感じで白々しく驚くエッチェッツィオーネに鎌咲はぴくぴくと口角を動かした。


「私も召集されたに決まってるでしょうが! 貴女はとても不愉快です!」

「くすり、そねえな怒らなくても良いじゃないでありんすか。それより、連れの方は何方でありんすか?」


 連れの方というのはレアルタだろう。自分は外で待っていると言い、現在はここに居ないレアルタの姿を脳裏に思い浮かべながら、


「私の仲間の一人です。貴女にはそれ以上いうつもりはありません」

「これは驚いた。仲間の一人ということは貴女に複数の仲間が出来たんでありんすか」

「うぐ、そんなに驚く事ですか?」


 まぁ、と口を押さえて驚くエッチェッツィオーネに、鎌咲は少々居た堪れない気持ちになりそう尋ねた。しかしこの質問は愚問だろう。【死神】と言えば、一緒に依頼を受けた仲間を斬殺しただの、一つのギルド支部にいた人族を皆殺しにしただの、【狂月】に負けず劣らず悪名高い。もちろん全くの嘘、出任せの根の葉もない噂なので、【狂月】のように恨みを買っていたりはしていない。


 しかし信じている者が多いのも確かで、そのため【死神】に仲間が出来たと知り、その場に居た【死神】と【爆天地】の会話に耳を傾けていた冒険者は、皆一様に驚愕という感情を顔に張り付かせていた。


 その場の雰囲気に、私は一体どういった目で見られていたんだ、と鎌咲が密かに愕然としていると、ふと先ほどの自分の言葉を思い出し、ちょっとばかり思案する。

 そう言えば、私は彼らの仲間なのだろうか、と。


「仲間ですよね……? 多分……恐らく……、あれ? なし崩し的に着いて行く事になってるけど、正式に仲間になった訳ではない様な? あれ? あれー??」


 脳内を『?』だらけにし、あれー? と首を傾げる鎌咲を、エッチェッツィオーネは母親のような心境で優しく見ていた。【死神】と【爆天地】の二人が出会ったのは、【死神】がSS級になって直ぐの事。暫くの間、行動をともにした二人は、人格破綻者のみで形成されるSS級冒険者にしては珍しく良好な関係を築いていた。


「よーし、準備オッケイ! 僕の演説で皆の士気を上げてやる!」

「流石です誠様!」


 ガッツポーズを決める【勇者】と、パチパチと拍手する恋する乙女な表情の赤毛の美女。 

 そんな二人にエッチェッツィオーネは未だに首を傾げる鎌咲から視線を逸らし、


「ああ、忘れていんした。コレ、どうしんしょう?」


 すっかりやる気な光裁に、焚きつけた本人が言うような事じゃない言葉を、平然と言ってのける。今外に集まっているのは、冒険者一二九名、王国騎士五〇〇名の合計六二九名だ。かなり集まったほうだろう。根無し草の冒険者が一二九名も集まったのだ、さらに言うならその中にはSS級冒険者が二人居る。十分だろう。


 その六二九人が【勇者】と言えど、たった一年しか戦闘経験が無い光裁の演説で士気を取り戻すとは限らない。

 それを分かっているのか、この場に居るエッチェッツィオーネを初めとした冒険者たちは、それぞれ案を出す。

 士気を高めると言うのも楽ではない。やはり演説が良いのでは? と結局そう決まりそうな雰囲気になってきた時、テントに転がり込んできた者が居た。


 黒一色のさながら忍びの様な服装をした男の名は、S級冒険者ジーク。【海龍帝】の見張り役のジークの尋常じゃ無い様子に、一斉に注目が集まる。

 ジークは数泊、息を整えるために間を置き、ゆっくりと口を開く。


「【海龍帝】の姿は依然確認出来ませン。しかシ、二時間程前に【海龍帝】の姿を確認した距離、そして【海龍帝】の速度を考慮するニ、既に【海龍帝】はこの場に到着してイなければおかしイ」

「どういう事でありんすか? 【海龍帝】はまだ確認できていないのでありんしょう?」


 エッチェッツィオーネが首を傾げながら問う中、鎌咲はすぅ、と背中の温度が消えていくような感触を覚えた。周囲の冒険者や光裁は分かっていないようだが、一つの可能性が鎌咲の頭を過ぎる。


「まさか……」

「【死神】、どうしんしたか?」


 エッチェッツィオーネの若干心配したような感情を含む質問に、鎌咲は答えない。ぐるぐると頭の中を回る可能性を、否定しようと考えるが、しかし鎌咲は思う。確か、今私達が立っている地面の下には、海が有ったのではないか?


 その時だった。


 ジークがさらに何か言葉を発するより早く、鎌咲が何か行動に移るより早く、地が揺れゴバッ! と轟音を立て鎌咲達が立っている地面の下から現れた透き通る海のような煌く綺麗な鱗に身を包む【海龍帝】が、【爆天地】エッチェッツィオーネをそのまま一飲みに喰らいついた。


 一瞬の出来事。グシャリ、と嫌悪感を感じさせる音と共に、【海龍帝】の口から噛み砕かれたのか鮮血と右腕がボトリと降り注ぐ。


 今の今まで鎌咲の直ぐ隣に立っていたエッチェッツィオーネは、一瞬で姿を消し【海龍帝】の腹に収まる。テントが破壊され、周囲に集まった冒険者や騎士たちが状況に着いていけず呆然と立ちすくむ中、鎌咲やレアルタ、ジークなど極僅かな者は即座に戦闘準備に入る。


 光裁は今まで何時演説すれば良いのだろう? と突っ立っていたので、当然突然の展開に着いていけず【勇者】に有るまじきアホ顔――しかしそれでもイケメン――を晒していた。


 そして、【海龍帝】はその深海の如き碧き双眸で、生みの母より命じられたターゲットを見つける。

 【海龍帝】に命じられた命は一つ。

 『【勇者】を殺せ』

 それを邪魔立てする者は、全て喰い殺すのみ。


 虐殺せよ、この世の全てを血で染め上げよ。


 自身を生み出した母の考えを深く共用する【海龍帝(化物)】は、地に群がるちっぽけな群衆を睨みつけ、


〔ッ■■■■――――ッ――――――■■■■■■――――ッッ――■■ッ!!〕


 まるで開戦を告げるように、【海龍帝】の咆哮が響き渡った。

【道化】は、ピエロの化粧だけでカツラなんかは被ってませんし、鼻に赤ボールつけてません。

【爆天地】のありんす言葉は適当です。突っ込まないでください。


最後に、ジークの事覚えてる人居る……?

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