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S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
45/62

-38- なんか段々壮大になっていく

感想返信遅れて誠にすみません、出来るだけ早く返信します。

 遠い遠い、遥か昔、幸か不幸か目を付けられた転生者たちが転生した世界が、魔物も居ないとても平和だった忘れ去られた時代の事。


 その平和な世界の時代に、二の神がぶつかり合っていた。二の神はそれぞれ片手に、絵柄が書かれたカードを持っている。トランプに近いカードだが、はっきりと違うもの。そのカードを手に持ち睨みあう二の神。


 片方は金銀白黒赤青緑と、七色に変化する長髪と双眸を持った、凡そ一〇にも満たない幼女の姿をした、髪や双眸の色は違うものの、間違いなく転生者たちを殺した、創造神と呼ばれる神。


 もう片方は、一見金色に見えるが、詳細を詳しく述べるとすれば、限りなく透き通った碧色を軸にした、太陽の如き光を放つ朱塗りのプラチナブロンドという、明確な色として判別できない、不可解な色の短髪と双眸を持った男の神。


 ニタニタと嗤う創造神を前に、男神はギジリと唇を噛み締め手に持ったカードをばら撒く。


「何時からだ……一体何時から貴様はコレを……?」


 震える指で指差しながら、問いかける男神に創造神はふっは、と笑い声を漏らし、


「最初からだよぶぁーか」

「き、貴様ッ!!」

「ちょっと、怒んないでよね、気付かなかったアンタが悪いんだし」


 轟! と正体不明、説明不能、理解不明の得体の知れない力をその身から噴出させる男神に、創造神は手を顔の横にやり、首を振りながら言う。


「ま、どっちにしろ、この世界は私が貰うわね。そうゆー勝負だったし」


 二の神が行っていたのは、世界を賭けた勝負。神の力が直接ぶつかり合っては世界に悪影響を及ぼすため、力のぶつかり合わないカードを使っての勝負をしていたのだ。その結果は、男神の負け。

 しかし、男神は思う。

 コイツにだけは、我が世界は渡せない。


「こんな勝負は無効だ! イカサマだろうが!」

「別にイカサマしちゃダメってルールは無ーいじゃーん」

「巫山戯るな! この神聖な勝負において、イカサマなど言語道断。暗黙のルールだろうが!」

「それがバカっつってんだよ、次からは暗黙じゃないで明確にルールに記しとけボケ。キャハハハハハッ!」


 創造神の嘲笑に、男神は今まで抑えていた力を全て解き放ち、神として本来の姿に戻るが、しかし。

 創造神はその表情(カオ)にいまだ消えぬ嘲りを残す。


「全く、世界(カラクリ)一つ失うぐらいで何でそこまでキレるんだか」

世界(カラクリ)? 世界(カラクリ)だと!? 貴様、私の世界が玩具だとでも言うのか!!>


男神の絶叫に、創造神は心底不思議だと言う表情をまだあどけなさが残る顔に浮かべ、首を首を傾げながら、


「その通りだけど?」

<――――ッ!!>


 男神は息を呑む。

 やはり、コイツに世界は渡せない。コイツは、狂っている。


 創造神は初めから狂っていた訳ではない。それどころか、数多の神々も認める良神だった。しかし、それも今は昔のこと。終わりの来ない永遠の時の流れによって狂った創造神に、自身の世界は渡せない。渡せるはずが無い。

 男神は悪影響を及ぼすと知っていても全力で、自身の全ての力を持ってぶつかる。


 対して、創造神もまた、めんどくさそうに本来の姿に戻り、そして、壮絶な笑みを顔に浮かべた。


<馬鹿が、この世界(カラクリ)を操る運命(イト)を掌握するに相応しいのは、手前じゃねーんだよ>


 本来の姿に戻った創造神は、絶句するほどに神として相応しく、涙が出るほどに美しかった。

 だからこそ、その表情に浮かんだ狂気は、歪さを極める。


<この、私だ!>


 ぶつかり合う二の神の対決の勝敗など、初めから分かり切っていた。






 そして、時は変わらず流れ、現在。

 何の前触れも無く訪れた異常現象()に、多くの者は恐れ恐怖し、原因が分かっている者はその原因を呆然と見つめ、原因が分かっていながら、その原因を自身の目で見ることが出来ない者は、薄っすらと微笑む。


 そんな様々な反応を示す中で、世界という枠組みを外れた場所で、小さな会話が行われていた。

 口火を切ったのは両目を前髪で隠し、どこか凛とした雰囲気が漂う少年。

 少年はピシリと綺麗な敬礼をしながら、髪の長い、長い、あたり一面を髪で覆いつくす、自身の目の前の王座に鎮座する『忘れ去られた存在』に話しかける。


「エウレカ様! あの世界の夜神が復活したようであります!」


 少年の言葉に、『忘れ去られた存在』は今まで閉じていた双眸を開く。


「ほう……それで?」

「はい! ですが、あの世界の神々は一切干渉しておりません。そんな動きもまたないであります!」


 『忘れ去られた存在』は静かに笑った。


「やっと、か。とうとう――――溺れたか」


 そこに有るのは歓喜。今まで無色だった『忘れ去られた存在』の髪は、遥か昔の色を取り戻す。その色とは、限りなく透き通った碧色を軸にした、太陽の如き光を放つ朱塗りのプラチナ。


 そう、今寂れた王座に座るこの男こそ、遥か昔に創造神との戦いに敗れた男神。名をエウレカ。

 エウレカは掠れる声で少年に告げる。


「戦闘準備を、攻め込むぞ」

「了解であります!」


 とてとてと走り出した少年の後姿を見送って、エウレカは嗤う。腹の底から、心の底から高く深く嗤う。


「ふふふふふふふッ! 世界の糸を掌握するのに相応しいのは、今は一体どちらだろうな……、お前も分かってるんだろう?」


 決して届かないと知りながら、なお虚空に話しかけるエウレカの双眸には小さな狂気の焔が。


 ――読めてんだよ。だからこそ、攻める。

 ――この好機、見逃すなんざ有り得ねー。

 ――なぁ、そうだろう? 『    』よ……。


 別の次元に身を潜めていた、忘れられた古き神々は、静かに動き始めた。


 周囲の神が慌しく動く中、エウレカはゆるりとした動作で、古く懐かしいカードを取り出した。

 口元を歪め、その手に持ったカードがばら撒かれる。


 バラバラと堕ちていくカードの雨をその身に浴びながら、エウレカは狂気に染まっていく。



◆ ◆ ◆



 呆然と、浮かび上がる堕神を見つめる霧裂たち。堕神はゆっくりと上昇して行き、そして夜空の如き双眸でじっと霧裂を見つめた。その夜空に見つめられた霧裂は、ドバッと冷や汗が吹き出るのを感じる。今霧裂の脳内は高速回転していた。


(あるぇ!? 今この娘とんでもない事言ったんじゃない!? 聞き間違い、聞き間違いに違いない!)


 そんな霧裂の祈りは届かず、再び堕神が口を開く。


「マイマスター、我が生みの親よ。どうぞご命令を、それが私の生きがいですので」


 今度は聞き間違いなどと言い逃れする事は出来ない。何故なら、今の言葉を聞いた瞬谷たちが、グルリと顔を霧裂に向けたからだ。


「き、霧裂さん……? そんな趣味があったんですか……?」

《俺様も知らんかったなぁ》

「きっしょ、キモチワルッ! こっちくんな変態」

「きれ~、夜になっちゃった!」

「きゅ、きゅっきゅー」

「メイド萌えと言うやつですか、私は理解有りますよ」

「へぇ、何に対して理解有るのか教えてもらいたいねぇ」

「あ、違うぞ! 別に私は――――ひぃッ!」


 思い思いの言葉を述べる瞬谷たちに、霧裂も必死になって弁解する。弁解せねばなにやら身の危険を感じたのだ。というか霧裂に不名誉な称号を与えられかねん。不名誉な称号は【魔王】だけで十分だ。


「瞬谷、ハク、何を勘違いしてるか知らんが違うぞ! 俺は断じて違う! まぁちょっと良いかなとは思うけど……ソレはソレ! 次にサリアナ! 変態のお前に変態と言われてもなんとも思わんなぁ! 変態と俺に言う前に自分を見直せ! で、シャルロット、そうだな綺麗だな。あとで写真に収めようか? キュー、残念ながら俺にはまだお前の言葉わからないんだが、恐らくシャルロットと同じような感じだろう。あとでたっぷりもふらせてくれ我が心のオアシスよ。そして最後に徳永さん! コントは向こうでやれ! 壁殴るぞ!」


 ビッシビッシと指差しつつ弁解の言葉を口にした霧裂は、ぜーぜーと興奮しすぎて荒くなった息を吐きながら、ちらりと横目でエーテルを盗み見る。エーテルは堕神が復活してから一切喋ってない、ものすごく不気味だ。


「……エーテル、お前はうるさいやつだが静かなのもソレはソレで不気味だ。なんか喋ろ」


 トンデモなく理不尽な事を言う霧裂の声を聞こえないのか、はたまた意図的に無視しているのか、エーテルはじっと堕神を見上げる。もし後者だったらぶん殴ろうと霧裂が心に決めたところで、漸くエーテルが口を開いた。


「お主は……お主は本当に堕神か?」

「はい、私は堕ちた神、堕神で間違いありません」

「記憶はあるのか?」

「知識は有りますが記憶は存在しません」


 堕神の言葉に、エーテルはそうかと小さく呟き項垂れる。その会話を聞いていた霧裂は、エーテルの口数が激減した訳を何となく察した。堕神は霧裂の手で蘇ったとしても、それは生前とは全く異質の存在、別の堕神だ。やはり生前の堕神と仲がよかったようなエーテルは、復活したとしても違う存在の堕神に、ショックを受けたのではないだろうか。


 なんか声を掛けてやろうかと、頭を回転させ思案していた霧裂だったのだが、


「そうか、それならば、我が調きょ――――うおっほん、教育してやろう! あんな事やこんな事を教えてぇぐふふふふーっ! 堕神を我色に染めてやるのじゃ! これからは我の事をセコンドマスターと呼べい!」

「了解しました、セコンドマス」

「呼ばんで良い!」


 一瞬でそんな気持ちも吹き飛んだ。

 アホな事を言い続けるエーテルに拳骨を落としながら、密かにほっとする。

 やはりエーテルはこうではなくては。

 そんなことを思い始めた自分自身に、霧裂は少しだけ苦笑した。


「それでさ、何で俺がマイマスターなんだ?」

「貴方が私を造ったからですマイマスター」

「おけ、マイマスターて呼ぶの止めて貰える?」


 そろそろサリアナの蔑みの視線が苦しくなってきた霧裂はそうお願いするが、堕神はがんとして首を振る。


「それは承諾出来ませんマイマスター」

「あー、なら良いやもう。んじゃ名前は?」

「ステラとおよびくださいマイマスター」

「分かったのじゃ! ステラきゅん、あっちで我とお話しよう! 我の知識をほんの少しだけ――」

「ねぇ黙っててくれる? そんでもって剣にもどれエーテル」


 きゃっきゃっと手を挙げハイテンションに叫ぶエーテルの、下顎と上顎を物理的に閉じさせ、霧裂は笑いながら言った。エーテルはコクリと一つ頷き剣に戻る。


 その際何故か若干濡れた瞳で太ももを擦り合せていたが、霧裂は即座にその記憶を心の中にあるゴミ箱に放り込んで、鎖で雁字搦めに巻きつつ厳重に封をし、心の核シェルターに投げ込んで内部に心の核爆弾を投下、しっかりと衝撃が心の各シェルター全体に行き渡ったのを確認して、同時に記憶が木っ端微塵に弾け飛んだ。


 よし、これで俺は何も見ていない。

 そう内心安堵の溜息を吐きつつ、エーテルを地に突き刺しステラを見上げた。


「それじゃぁ、よろしくなステラ」


 霧裂の言葉に、ステラはにこりと微笑み、詠うように口ずさむ。


「元夜神、その象徴は『星空』。司るモノは『救済』。特徴色は『黒』。名を堕神ステラ、我が身の全てを捧げますマイマスター」






 夜も昼へと戻り、そろそろ解散の準備をし始めた霧裂たちを、その夜空の如き双眸で観察しながら、ステラはふわふわと宙に浮いている。手伝おうとしたのだが、霧裂にエーテルと一緒に居てやってくれと言われたため、現在剣状態のエーテルの直ぐ傍で浮いていた。


 当然エーテルにはおかしなことは何も言うなと釘を刺している。剣状態になっていても、エーテルの声はステラに聞こえるようなので、実質厄介ごとを押し付けられた形だ。


 なんとなく気まずい雰囲気が漂い、口笛を吹きながら届かぬ主に助けを求めるエーテルに、ステラがふと声を掛けた。


「面白いです。仮の姿ですか、エーテル」

『むぅ? 何故お主が知っておるのじゃ?』

「記憶は無くとも知識はありますので」

『なるほどのー。ならばその問いには、うむと答えておこうかの。まだ力が戻っておらぬのじゃ』


 剣の状態のエーテルに仮の姿と尋ねたステラは、暫くエーテルの言葉に耳を貸す。

 エーテルのマシンガントークが一息付いたところで、ステラは思わずといった感じでポツリと言葉を漏らす。


「――――それにしても……面白い一行です。神の力を宿す者に」


 霧裂に視線を移し、じっくりと見定めながら、確信を持ってある単語を口にした。


「――――『神』」

『む? 違うぞ、主は神ではない』


 ステラの呟きを聞いていたエーテルが、その単語を否定する。

 エーテルの言葉に眉を潜め首を傾げるステラ。


「? ですがマイマスターには」

『うむ、主は持っておらん(・・・・・・)。しかし神ではないのじゃ』

「ならば一体……」


 困惑の表情を顔に浮かべるステラに、少々迷ったが大丈夫だろうとエーテルは代わりに、『神』とは正反対に属しているといっても過言ではない一つの『種族』の名を口にした。

 遥か昔たった一体だけこの世界に生れ落ち、その後死別したある『種族』の名を。


『お主は記憶は失ってしまったが、知識はあるのじゃったな。ならば聞いたことはないか、【――――】、という言葉を』

「ッ!! なるほど、本当に面白いですマイマスターは」


 一瞬ギョッとした顔になったのは、その知識に記された【――――】という単語を完璧に理解したからだろう。もしおかしな行動に移せば、即座に切り捨てることも厭わないと警戒するエーテルだったが、ステラは流石ですとでも言いたげな表情で、頷いた。


 若干呆れ、しかしほっとしながらエーテルもまたステラが見つめる、自身の主の姿を見つめる。記憶するのすら億劫になるほどの時が流れた末、自分の前に現れた新たな主は、奇しくも先代の主と全く同じ力を身に宿した、同じ『種族』の者だった。


 いや、恐らく現在の主の『種族』の力は、先代の主の力をそのまま受け継いだ形なのだろう。


 エーテルは密かに心に決めたことがあった。

 それは、次は必ず主を守り抜くと言う一点。エーテルは矛であると同時、盾でもある。しかしながらエーテルはその矛で、たったひとりの友を斬り捨て、その盾は主を守り抜く事が出来なかった。


 それが歯がゆくて、悔しくて。


 エーテルはどんな敵が現れようとも、それこそ友が現れようとも、昔と変わらず斬り捨てるだろう。だが、昔とは違って主だけは守りぬく。それだけがエーテルの心だ。


 まぁだからといって普段のおちゃらけた姿は、演技とかでは無く完全に素なのだが。

 戦闘時は守ろう、それ以外はハッチャけよう。

 それが今のエーテルの気持ちである。


 そんなエーテルは今は戦闘時ではないんで、完全にだらけ切った声でステラに尋ねた。


『それで、お主は来ると思うかのー?』

「それは『掃』の事ですか?」

『うむ。「掃」、と呼ばれるあの現象じゃ』


 ほんの少しだけエーテルの声がシリアスを帯びる。

 あくまで少しだけ。


「残念ながら私には分かりません。ただ一ついえるのは、今の『神々』は私の知識の中にある『神々』とは違う存在になってしまったという事でしょうか」

『どういうことじゃ?』


 左右に揺れるエーテル。幼女モードであれば、可愛らしくこてんと首を傾げたであろう。


「昔の『神々』なら、私の復活を見過ごすはずがありません。未だに私の復活に対して干渉がなく、マイマスターが一切の危害を加えられる事無く、生存しているという事は、そういう事でしょう」

『そうか……。時の力は偉大じゃな。全ての者に平等に降り注ぐ絶対の力。誰しもが逆らう事が出来ぬ最大の力、それは「神々」も同じという事か』


 うんうんと内心頷きまくるエーテルには、既にシリアスな空気とかは微塵も無い。もう終わった話、今エーテルが考えているのはどうやってステラを我が道(変態道)に引きずり込むかだけである。


 そんなエーテルに気付いてか気付かずか、遠くを見つめながらステラは言う。


「願わくば、この平穏が一時でも長く……」

『……堕神よ、それはフラグという物じゃ』

「ふらぐ? もしかして私はやらかしたのでしょうか」

『盛大にな』


 けらけらと楽しそうに笑いながら、エーテルもまた心の中で少しだけ祈った。

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