-37- お早うございますマイマスター
書き方変えてみた
太陽が大の字で重なり合うようにして寝転がっている霧裂とエーテルの顔を照らす。
その陽の光に目を覚ました霧裂は、自身の体の上に乗り抱きついているエーテルの頭を引っつかみ、邪魔だとばかりに投げ飛ばした。『ぷぎゃっ!?』という声がエーテルの落下地点から聞こえたが、霧裂は意図的に無視し、伸びをしながら周囲を寝ぼけ眼で見渡して、
「あれ、なにもいねぇ」
あの骨軍団が居ない事に気付いた。
確かに昨晩は数多の骨によるどんちゃん騒ぎが起こった筈なのだ。途中で疲れて眠ってしまったが、てっきりそのままどんちゃん騒ぎを続けているものと考えていたのだ。
しかし、そんなものは夢だった如く跡形も無く消えてしまっていた。残ったのは掘り返された地面だけだ。何処行ったんだ? と首を捻る霧裂に、その背後で胡坐を掻いて周囲を警戒していたハクは、事実を教えてやる。
《アイツらなら森に帰ったぞ》
「え゛!?」
衝撃の事実に驚き、『どゆこと?』と尋ねる霧裂に、ハクは首を振りながら、
《お前が寝てから暫くして、森の中に消えていった。意思を持たせたのは失敗だったな》
「ば、馬鹿な……と、言う事は」
《骨折り損のくたびれ儲け》
四肢を地に付け項垂れる。一体昨日の頑張りは何だったのだろうか? 纏わり着いて来るエーテルを殴り飛ばしながら汗水垂らし遺体を掘り返し、素材を惜しみなく使い魔道具化、限界まで集中しながらの努力は、魔道具たちの逃亡という形で消え去った。
やる気がゼロになりもうダメだと地面をゴロゴロ転がる霧裂。そんな霧裂に空気読めない娘が『我もやるぞヒャッホーイ!』と叫びながら特攻を仕掛けるが、あえなく撃沈。そんなエーテルを見ながら、そろそろ服着ろと突っ込みを入れまいか悩むハクであった。
と、ここで昨晩ここが地獄ですと言われても違和感の無い光景を見て、気絶した瞬谷が目を覚ます。目を覚ました瞬谷は、すぐさま周囲を見渡し、骨の影すら見当たらない事にまさか夢だったのか? と首を傾げ、少し視線をさ迷わせ霧裂たちを発見した。
「何やってんですかもう」
「うー瞬、聞いてくれ。ありのまま今起こったことを話すぜ! 『俺の全身全霊かけて造り上げた魔道具軍団が目を覚ましたら全部消えていた』な……何を言ってるかわからねーと思うが」
「あ、いえ、大丈夫です。把握しました」
「え、マジ?」
残念でしたね霧裂さん、と言いながら瞬谷は霧裂の腕を取り引きずる。あ゛ーと涙を流しながら引き摺られる霧裂を、その後ろを歩くハクが見っとも無いと蹴り飛ばし、三人仲良くキューの結界内に入っていった。
取り残されたエーテルはその後、泥だらけの姿を見かねられて、リリエラが幼女関連でシャルロットも連れ傍の川まで水浴びに連れて行く。面倒見が良く、素晴らしい母親になること間違い無しだ。
「それで、何時頃向かわれるのですか?」
リリエラがエーテルとシャルロットを連れ帰ってきた後、彼らは朝食を食べていた。
そんな時に投げ掛けられた【豪商】の問いに、瞬谷は少し考え、
「まず、何時頃行ったらその『誰か』に会えるんですかね?」
「ああ、そうでした。ふむ、昼頃に行くと宜しいかと」
そんな二人の会話を聞きながら、霧裂たちはリリエラの手料理に手を伸ばす。
パンに幾つか具を詰めただけの簡単な手料理だが、家庭の味という感じで末永く爆発しろと胸のうちで感想を漏らしつつ霧裂は口に頬張りつつ、
「それならさ、ちょっと手伝ってくれよ」
「い・や・で・す」
「話聞けって。お前らも見たくない? 神様の死体」
トンデモなく不吉な言葉が霧裂の口から飛び出した。宗教関連の者がいたら、即座に霧裂を切り捨てるだろう。
「神様の死体ですか。はて、私は存じ上げませんが?」
「いやいや、神様って死ぬんですか?」
首をかしげて言う【豪商】と瞬谷。
その話を聞いていた女性陣は、少し怒った口調で言う。
「ちょっと、死体って、今食事中よ? それに子供も居るのよ? 考えて言いなさいよね!」
「私も感心しないね。子供に良くないよ」
そう言って二人は霧裂の膝の上に座る二人の幼女に視線をやるのだが、とうの幼女二人はきゃっきゃっとはしゃぎながらパクパク口に料理を詰め込んでいた。そんな幼女の片割れエーテルに、お前はそんなはしゃぐような年齢じゃねーだろと言いたくなった霧裂だが、そこはぐっと我慢する。
「まぁ確かに今言う話じゃなかったかもな。でもさ、見たいだろ?」
「ハイ、有るのであれば、目にしたいです」
「えーでも死体なんでしょう。てか何処にあるんですか?」
結局話を続ける三人に、サリアナとリリエラも諦め、食事に集中する。
「えっへっへっへー。それはだなー、あそこにあるのだ!」
びしっと霧裂が指を刺したのは、墓場の中心、未だ掘り返されていない唯一の墓、『英雄の墓』だ。一体どういう事なのか、首をまたも傾げる【豪商】と瞬谷に、霧裂は爆弾を投下する。
「あそこに埋められてるのは英雄じゃない。その英雄を殺した堕神だ(多分)」
驚愕の声が明朝の空に響き渡った。
「いやいやいやありえませんって! なんで堕神を祀るんですか!」
てくてくと墓までの道のりを歩く霧裂の背後を、ありえないと首を振りながら瞬谷も歩く。
「勘違いしたんじゃね?」
「馬鹿すぎでしょう! 世界を救った英雄と世界を滅ぼそうとした怪物を間違うなんて昔の人は脳みそ筋肉なんですか!?」
「いや知らねぇよ? お前なんでキレてんの?」
うーと頭を抱えて唸りながらありえない、と何度も呟く瞬谷。【豪商】は信じているのか、神様の死体を拝めるなんてラッキーですねー、とにこにこ笑いながら言っている。ハクは何時も通り無言で周囲を何気なく警戒しつつ歩き、シャルロットは左右に居るリリエラとサリアナの手を取って、ぶらぶら揺れている。実に微笑ましい光景だ。その頭にキューが丸くなって乗っていることも、プラスになっている。
常にハイテンションなエーテルは、水色のワンピースを着ている。今まで黙っていた事が不思議なぐらいで、瞬谷の言葉にとうとう口を開いた。
「おいおいお主、何を言っとるか。堕神はなにも自分から、世界を滅ぼすなどと言う愚行に走った訳ではない。色々事情が有ったのじゃ。そもそもあ奴が司る神格は『救済』であってそれは主神の神格である『破壊』とは正反対に位置する『再生』の神格を司る神の娘であると言う何よりの証むぐぅ」
「はいはい電波系少女エーテルちゃんは口にチャックをしましょうねー」
「むーむー、ぷはっ! 何をするか主ぃ! 我はただ真実をだなぁ」
「黙れって言ってんの。壊すぞコラ」
「ひぃ!?」
唐突に神やら司るやら神格やらぺらぺらと喋りだしたエーテルの口を霧裂が素早く引っつかみつつ、怪訝な顔で『その子一体……』と疑いだした瞬谷に、詮索するなスマイルを送り、エーテルにはドスの聞いた声を送る。当然、周りには聞こえないように、だ。
小さく悲鳴を漏らし失禁しそうな雰囲気で縮み上がるエーテルに、分かってるな? と目で確認すると、こくこくと尋常じゃないほど怖がり無言で壊れた人形のように何度も頷いた。
「あの、霧裂さん? めっちゃ怖がってるんですけど、一体何を言ったんですか?」
「お、よっしゃ掘る準備すっぞー」
「無視ですか……分かりましたよ、詮索しませんよ」
霧裂は極めてマイペースにシャベルを取り出し、神が祀られている『英雄の墓』をザックザックと掘り始める。そんな霧裂をはらはらドキドキとしつつ見ながらも、誰一人として手を貸そうとはしない。
「どんな姿をしてると思いますか? 神様って」
「ハイ、私はやはり転生時に一度お目にしている、美女の姿かと」
「あー、むさい男の神とかだと色々がっかりですよね」
「ハイ、私もそう思います、やはり美女でないと……あ、この話は妻には内緒で……」
「分かってますよ」
瞬谷と【豪商】は興味津々といった表情で、あれこれ神の姿を予想している。そんな二人の声を聞いて、ちょっとは手伝えよ! と言いたくなったがグッと堪える霧裂。言ったってなにも変わらないのは目に見えている。
《…………》
霧裂が掘り進める直ぐ傍で、ハクは変わらず周囲を警戒している。危険察知能力が極端に減少したので、不安に思っているのかもしれない。
「ほら、泣くんじゃないよ。コレあげるから、涙を拭きな」
「ひっぐ、あ、主が、主がマジギレしたぁ。わ、我は、ちょ、ちょっと主に教えてあげようと……ううっぇぇぇえええええん」
「よしよし、良い子だから泣かない」
水色のワンピースのスカート部分を両手で掴み泣きじゃくるエーテルを、リリエラがハンカチで顔を優しく拭きながら飴を渡しなんとか泣き止まそうとしていた。リリエラは何故か手馴れており、お前精神年齢何歳? と尋ねたくなるほどガン泣きしていたエーテルも、瞬く間に元の姿へと戻っていく。それはつまり、こうなると言う事だ。
「ほら、可愛い顔が台無しだよ」
「そ、そうじゃな。我はキュートじゃしな……ハッ! まさか主は我の性癖がドMだと暴露したからわざとあんなSじみたことを……? ムッハー、我とした事が! モロ泣いてしまった! 喜ぶべき場面じゃったのにーっ!」
「あー、うん。そうだねぇ、はっはっはっ」
引き攣った苦笑いをするリリエラを責める事が出来る者など、この世界の何処にも居ないだろう。
「ねぇシャルちゃん、ちょっと、ちょっとだけで良いからキューちゃん貸して?」
「やっ! サリアナおねぇちゃん目が怖いよ?」
「うー、はぁはぁ、やばい、もう我慢できない。キューちゃぁぁぁんっ! 私と一緒にあっちで『ピー』して【ぴー】して《PIー》しよう! ついでにシャルちゃんも! 大人の階段のぼっる♪」
ガバッ! と幼女と幼獣に飛び掛る変態化したサリアナに、全身の毛を逆立てパシパシとシャルロットのおでこをその九本の尾で叩きながら、キューは涙目で『退避ー、退避だよーっ!』といった感じで鳴くが、それがさらにサリアナを興奮させる。最終的に心底恐怖に襲われたシャルロットが、無意識に魔法を発動、数十の雷の槍にて変態の撃退に成功した。
ちなみに、サリアナに霧裂が『お前瞬のこと好きじゃないのかよ』と尋ねてみると、『ソレはソレ、コレはコレ』ととても素晴らしい回答を頂いていた。その言葉を聞いた瞬谷が隅っこで、『どこで間違えたんだろ、オレ』と鬱モードになっていたが、誰一人として気にしなかったというエピソードは、完全に余談だろう。
「おーっし、棺出てきたぞ! お前ら運べ!」
泥だらけになり、木で出来た、しかし何故か劣化一つなく古さを感じさせず、それどころか新品といっても過言ではない奇妙な棺を、霧裂一人で運ぶのが面倒になり二人に援助を申請する。
「あーまぁそれくらいは手伝ってあげますよ、霧裂さん」
「私は運動が苦手なもので」
【豪商】はダプンッと揺れる腹を押さえ、断ったがその言い訳を聞いていたハクが、ふと今思いついた提案をする。
《少し痩せて見たらどうだ。それか余分な肉はオーマに取って貰えば良い》
「はははは、それはちょっと遠慮させて――」
「なに言ってんだいアンタ! 良い提案じゃないか! アンタは運動しろって言ってもしないからねぇ」
ハクの言葉に、顔を若干青くさせ引こうとした【豪商】だが、その言葉を遮るようにリリエラも加わる。
リリエラの参戦により一層顔を青くさせた【豪商】は、言葉が崩れるほど慌てふためいて首をぶんぶんと横に振る。
「馬鹿を言うんじゃない! その手術が終わった頃、私は私じゃないかもしれんのだぞ!? 痩せる、今度は本当に痩せて見せる! 明日から」
「じゃ、頼むねぇ」
《任せろ》
「お願いだから許してください、ハイ」
とうとう打つ手が無くなった【豪商】は即座に土下座し、結局今日から『マイナス一〇キロ減、目指せあの頃の体計画』がスタートした。
そんな哀れな【豪商】を横目に、棺を霧裂は『解析』していた。
「のーのー、この中に堕神のやつはおるんじゃろ? さっさと出してやろう、可哀想じゃ」
「黙ってろって、お出た出た」
『解析』によって驚くべき結果がはじき出される。
「マジか……」
「どうしたんですか、霧裂さん?」
「あ、ああ。これな、この棺は魔道具じゃない。ただの普通の木で組まれた普通の棺だ。それなのに、殆ど劣化して無いって言うか、新品同然なんだよ」
「え、それって」
今霧裂の目の前にある棺は、気の遠くなるような昔に埋められてから、一切時の力というモノが働いていない事になる。そんなありえない現象を目の当たりにして、霧裂はそう言えばと思い出す。
普通、骨は何千年も埋められていれば、分解するものだ。しかし、実際に掘り返してみると、分解されていたもの、分解されかかっていたもの、そして全く分解されていなかったものの三つに分けられた。これはおかしい。
今思い返してみると、『英雄の墓』に、神が埋葬されているこの棺に近づくほど新品に近かった。
「神の力、か……」
この棺に入れられている神は、死んでいるのは間違いない。
つまり、死んでいる状態でもなお、これほどの力を発揮する素材。
ニィ、と霧裂は期待と興奮で口角を歪める。
この素材は、過去最高のものだと霧裂は確信していた。
「じゃ、開けるぞ」
ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえ、誰も彼もがその棺の中身に意識を集中させる。
そして、霧裂が慎重で丁寧な手つきで、ゆっくりと開けた棺の中身は――――!
その瞬間、みなの動きが止まった。
棺の中身を見て、瞬谷がこう言う。
「ゴスロリ?」
【豪商】がそっちでしたかと首を振りながら。
「美少女ですか」
ハクが一瞥しめんどくさそうに。
《なるほど、力を感じる》
サリアナが胡散臭そうに。
「これが神?」
シャルロットが目をキラキラさせながら。
「お人形さんみたい」
リリエラが皆の気持ちを代表して。
「驚いたねぇ」
そしてエーテルは、
「むっはーっ! 会いたかった! 会いたかったぞ堕神キューン! 再開のチューじゃ! チュゥゥゥゥゥウベラァッ!!」
抱きつきキスをしようとしたが、霧裂にぶん殴られた。
今、棺に納められている堕神の容姿は、やはり神と呼ばれてもおかしくないほど整っていた。
見た目の年齢は一四歳ほど、黒のふんわりとしたドレス、ゴスロリと呼ばれるドレスに身を包み、しかしその髪は色を忘れてしまったかのように真っ白。色白な肌なども相まって、シャルロットの言うとおり人形のような、一種の芸術品となっていた。
その美しさに誰もが(ハク除く)目を奪われていたが、
「キュー」
と、キューの一鳴きで覚醒する。
覚醒した【豪商】はすぐさま霧裂に目をらんらんとさせながら話しかける。
「どうでしょう、霧裂君! これを譲ってくださいませんか? 金なら王貨一〇〇〇枚までなら出しましょう! さぁ、さぁっ!」
「ぐ、ぐいぐいくるな。でもダメだ。王貨一〇〇〇枚はメチャクチャ気になるけどこれは魔道具にするって決めて」
【豪商】を押しのけながら、反対の意を唱えていた霧裂だが、魔道具化すると言うところで言葉を止めた。何故なら、周囲から尋常じゃないほどのプレッシャーが霧裂に集中しているから。
「霧裂さん、まさかこんな素晴らしいものを剣にしたり槍にしたり腕にしたり足にしたり、しないでしょう?」
皆を代表していった瞬谷の言葉に、霧裂は『最高の魔道具が造れるなウハウハ! 足にしようか、いややっぱ右腕だろ!』などと考えていたが、冷や汗を垂らしながら引き攣った笑みを浮かべ、こう言う他無かった。
「モ、モチのロンだよ」
現在、霧裂王間は人生最難関の難問に挑んでいる。
なので、
「主ぃー、遊ぼー遊ぼー遊びましょー! 暇なのじゃー、我暇なのじゃ主! 我と遊べ! 我を喜ばせよ! さもなくば罵倒して!」
と、まぁこんな感じに煩い聖剣幼女バージョンの相手をしている時間など無いのだ。
しかし、煩すぎるのも事実。なので、霧裂は黙らせるために、冗談二十パーセント本気八十パーセントで脅す。
「なぁ、ちょぉっと黙ろうか。弄くるぞ、改造するぞ。てか良いな?」
「バッ、止めるのじゃ主ぃ! 罵倒じゃない! 目が、目が本気じゃ! 良いか、良く考えて質問せよ! 自分の体を弄って改造して良いよなんて言う者が何処に居る? そんな者は馬鹿か単なる狂人じゃぞ!」
「え? でも俺自分の体改造したぜ?」
「ここに居たぁーッ!!」
うわわーん! と目を押さえてエーテルはリリエラに飛びつく。随分と懐いたものだ。煩いのも居なくなったので、再び霧裂は難問に取り掛かる。
今、霧裂が取り掛かっている難問、当然ソレは――――堕神の死体をどうするかである。
魔道具にして霧裂の手足に改造しようモノなら、瞬谷たちが問答無用で襲い掛かってくること間違い無しだ。かといってこのまま埋めなおしたり、【豪商】に売ったりするのは勿体無い。それは勿体無さ過ぎる。
(一つ、案がある事は有るんだけどなぁ)
しかし、霧裂の案を実行するには、堕神の体にメスを入れなければならない。別に傷が残るとかそんな問題じゃないのだ。この芸術品に、傷を付けると言う行為をした時点で霧裂は即座にキルされる。実力的には絶対に無理だろうが、なぜだかされそうな悪寒が霧裂を襲ったのだ。
(でも他に案は無いな……)
霧裂は覚悟を決めた。
「な、なぁ、皆。この娘どうするか決まったぜ!」
「で、どうするんですか?」
やはり問いかけるのは代表瞬谷。瞬谷自身は、既に元に戻っているっぽいが、サリアナに強制的に味方にされているようである。
「うーんとな、昨日の骨みたいに蘇らせようと思うんだが……」
「それ暴走しません? 起き上がって即座にキルされませんよね?」
「あーそのへんはー」
ちらりとエーテルに目で尋ねると、自信満々の笑みを浮かべて頷いた。なぜだかエーテルが自信満々にしていると、不安になる霧裂だったが、ともかく今はエーテルを信じて瞬谷に大丈夫だと頷いてみせる。
「でもどうやって復活させるんですか?」
瞬谷の問いに霧裂はコートのポケットに手を突っ込んで、一つの不気味な造形物を取り出した。
「えっとだな、この『心臓』を埋め込めば動くと思う。あの骨軍団はそうやって動いた」
「な、そんなキモチワルイの入れる積り!? ダメよそんなの!」
断固反対の姿勢をとるサリアナに、霧裂は言い聞かせるように、
「おまえなぁ、あの完璧美少女が動くところ見たくないか?」
「う、そりゃ見たいけど……」
「なら決まりだな」
「え、ちょっと私はまだ納得して」
「瞬、取り押さえろ」
サリアナを瞬谷に押し付け、霧裂は棺に収まった堕神の下へ向かう。背後でむーむー言っているのはサリアナだろう。霧裂は自身の体で手元が絶対に見えないように隠し、ポケットから取り出した一本の細く小さなナイフで、服を肌蹴た胸元を切り裂く。
約一〇センチほどの傷を付けた後、霧裂は『心臓』を上手く行ってくれ、と祈る気持ちで傷口にそっと乗せる。『心臓』は一瞬瞬き、傷口から堕神の体内へと侵入、力を堕神の体の隅々まで送り込み、魂の残量を分析した後複製、堕神の記憶などは無理だが、霧裂の理論上はこれで力と肉体、そして意識が復活するはずである。失敗か? と霧裂が一瞬思ったその時だった。
三つの変化がほぼ同時に起こる。
まず、足首まであったであろう長い長い堕神の白髪が、まるで黒く染まる。その髪は黒一色なのではない、満天の星空の如く黒い髪の上に小さな光が明滅している。間違いない、彼女の、堕神の髪は、星空で出来ていた。
二つ目の変化、それは天空。
雲ひとつ無い晴天が、一瞬で星空へと移行する。太陽が姿を隠し、月が、そして万の星が瞬く。その変化は一瞬で起こった劇的な変化。世界が、死したはずの神の復活を認知した。
そして、最後の変化。
星空の下で、ゆっくりと、女神がその双眸を開けた。それまでの変化に唖然としながらも少女を見下ろしていた霧裂は、少女の双眸に夜空を見た。
黒く、満天の星空のような美しき双眸をした美少女は、しっかりとその目で霧裂を見抜き、口を開く。
「お早う御座いますマイマスター。ご命令は何でしょう?」