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S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
43/62

-36- さぁ蘇れ屍共よ……ッ!

シャルロットの存在、わ・す・れ・て・た。しかも、感想でも誰も指摘しない。これはどっちだ? 読者様方も忘れてたのか、はたまた伏線かなんかと勘違いしたのか。まぁ作者がシャルロットに言える言葉は少ないですよ。

……すまんシャルロット、他のキャラが濃すぎるんだよ。記憶喪失ぐらいじゃ太刀打ちできんのだよ……ッ!!

ファイトだシャルロット! 一応君にも(幸か不幸か)人格破綻者の道が残されてるYO☆



11/30 誠に身勝手ではありますが、今回、『亜人・骨人種』を『魔物・スケルトン』に変更させて頂きます。申し訳ありませんm(__)m

馬車の中、思いのほか広々としたその空間に、霧裂(+キュー)、ハク、瞬谷、サリアナ、シャルロットが座り、その前に商人と名乗った男が座る。定位置に丸くなるキューを守るために霧裂が左端に、サリアナが右端に座り、その間にハクと瞬谷が座る。シャルロットは霧裂の膝の上だ。


エーテルは馬車の側面に籠の様なものがあったので、そこに入れさせてもらっている。

全員がそれぞれ座った事を確認して、再び霧裂が問う。


「それで、なんでアンタは俺たちの名前知ってんの?」

「ああそれは簡単ですよ、私も転生者でして」


いやはやと頭に手を置き驚きの事実を発する商人に、しかし隣で話を聞いていたハクはどうでも良いとばかりに、


《オーマの質問の答えになってないな。オーマは何故名前を知っているか尋ねたのだ、お前が転生者だとか、そんな無駄な情報に一々時間を割くな》


そう、目の前の男が転生者だからといって、霧裂たちの名前をフルネームで言い当てるのは不可能だ。地球での面識は皆無だが、商人ならば当然情報などは持っていることだろうから、瞬谷を【瞬王】と見抜いて、さらに転生者なのだから瞬谷の名前を言い当てる事は可能だろう。


しかし、霧裂は違う。彼は筋金入りの元引きこもりニートだ。異世界にきて初めてまともな会話をしたのが――ハクを除き――セレーネという哀れな霧裂は当然ながら目の前の裕福なおじ様商人転生者など知らない。ゆえに商人が名前を知っていると言うのは、転生者だからの一言で済ませる問題ではない。


だからと言って、目の前の男が転生者という情報が無駄かどうかは甚だ疑問だが。現に霧裂と瞬谷はパックリと口を開け見事に驚いている。驚いていないサリアナとシャルロットの二人。

それぞれ血走った目である一点、正確には霧裂の頭の上らへんをがん見していたり、すやすやと膝の上でお昼寝タイム中だったりと商人の言葉が耳に届いてない様子。


ともあれハクの言葉にそれもそうですね、と頷きつつ、くすんだ金髪を後ろで束ねた御者台に座る女性に出してくれと指示を出し、ガタゴトと走り出した馬車の中で商人は未だに驚いている霧裂たちに目を向け、口を開く。


「そうですね、まずは名乗っておきましょう。私の名は徳永(とくなが)幸太(こうた)といいまして、【豪商】なんて勿体無い二つ名を貰っている商人です」


【豪商】という二つ名に覚えがあったのか、再び驚く瞬谷の隣で、ハクが先を促す。


「ええ分かっております、さて貴方方の名前が何故分かったかという質問の答えですが、それは私が頂いた能力が原因でして」

「能力? チートのことか」

「ハイその通りです、私の頂いたチートの名は、【未来予知(フューチャー)】と言いまして、その名の通り未来を見ることが出来るのですよ」


それがデフォルトなのか、笑みを絶やさない【豪商】の口から出た【未来予知(フューチャー)】という言葉に、なにそれチートと同じ感想を内心で漏らす霧裂と瞬谷。


《なるほど、そのチートでオーマたちの名前を知ったのか》

「その通りでございますよ。ただし私のチートにも制限がございまして、予知できる未来は一週間分だけ、日曜の午前〇時にその一週間の未来を予知できるのです」

「えっとたしか今日は、金曜だったな」

「ハイ、実は本来、私達が出会うのはここ、王都では無いのですが、同郷の人と出会うのはコレが初めてでして、つい急いで来てしまったという事ですよ」


ふーん、と霧裂が興味を失った表情で相槌を打つ。それよりも早くサリアナの村へ向かわねばいけないのだ、時間が勿体無い。そんな霧裂に【豪商】は何故か目をキラキラとさせながら、


「実はですね、霧裂君に折り入ってお願いがあるのです」

「お願い?」

「ハイッ! 私、いくつか魔境と呼ばれる場所でしか取れない植物や、魔物の素材、鉱石、果ては神獣の素材まであるのですが、これを霧裂君が造った魔道具か、純度の高い宝石類と交換して頂けませんかね?」

「え、いやその素材は何処にあるんだよ」


荷馬車とかは無かったよな、と思い出しながら霧裂は言った。

それに対し【豪商】は再びデフォルトの表情に戻しながら、


「ハイ、コチラに」


そんな言葉と共に右手を横に伸ばす。

何気ない動作だが、不意に【豪商】の右肘から先からが消え、そして再び見えた時にはその手にしっかりと魔物の素材と思われる、毛皮が握られていた。


「え、なにソレ」

「ハイ、これは神様と交渉した際にオマケとして渡された能力ですね。特に名前はありませんが、遠くにある物質を手元に持ってくる力と認識してくださって結構です」


まさかの二つ目のチートだ。それにしても神様と交渉と言ったが、どんな交渉をしたらオマケを貰えるのか。そもそもあの状況で、交渉なんて物ができるのか。霧裂ではまず無理だろう。現に完全にパニックになっていた、記憶から抹消したい黒歴史となっている。


あの状況で、あの幼女神に対して、交渉を成功させた【豪商】に霧裂は畏怖と尊敬の視線を向ける。実際はペラペラと喋る【豪商】を煙たがって適当に願いを聞いた後、異世界へ強制転生させたのだが、それは知る由も無い。


「ふーむ、コレかぁ」


霧裂は【豪商】から受け取った毛皮をじっくりと見つつ、見えないように『解析アナライズ』を駆使して鑑定する。結果は、確かに霧裂が見たことも無い素材で間違いない。神獣の素材も有るらしいので、新たな魔道具を造る事も出来るだろう。それはそのまま霧裂自身の強化に繋がる。

しかし。


「……んー」


口から溜息とも取れる声を出しながら、ちらりと横目で瞬谷を見る。

一見何でも無さそうな瞬谷だが、良く見れば分かる。

焦っている。焦燥感が僅かだが出ている。


当たり前だ、恩人と言える者たちの、そして何より恋人の家族の生死が関わっているのだ。焦らないほうがおかしい。今はサリアナを心配させないために堪えているのだろう。サリアナは父親を人族に殺されてから、瞬谷が現れるまで母親に依存していた。今は瞬谷が居るためそうでもないが、それでも、父親の死はサリアナの大きなトラウマとなっている。


故に瞬谷は必死で自身の感情を抑える。全てはサリアナの為に。


愛されてるなーと感想を小さく漏らした霧裂は、ガン見しすぎて瞬きしてるか怪しいサリアナへと僅かに目を向け思うのだ。

キューが好きなのは分かるが、ちょっとは瞬を気にしろよ、と。


霧裂から見てみれば、サリアナは我侭で瞬谷を振り回しているように感じたのだ。現に今も瞬谷の隠している感情に気付いていない。

気付かせない瞬谷を褒めるべきなのか、一切気付かないサリアナに呆れる場面なのかは分からないが、今度瞬に霧裂特製の酒でも飲ませてやるかな、などと思うのだった。


ともかく、今は一刻も早くサリアナの村へ向かうべきであって、こんな場所で商談している場合ではないのだ。もしかしたらハクを元に戻せる魔道具の材料が見つかるかもしれないが……。


ちらりとハクに目を向ければ、ハクは何もかも分かっていると言った目で語るのだ。


――俺様のことは後で良い。


自分のことを後回しにしても良いと目で言うハクに、成長したなと親のような気持ちで頷く霧裂。実際ちょっと前のハクなら自分を優先しただろう。


ハクは人の言葉を喋ろうが、感情を持っていようが、人の姿をしてようが、神獣、魔物には変わりないのだ。人に魔物の気持ちを理解しろと言われて完全に理解する事は決して出来ないだろう。考え方が根本的に違う、当然だ。


しかしハクは今回、自分のことを後回しにしても良いと言った。それは人の気持ちを僅かだが理解したのか、それとも人に近づいたのか、それは分からないが、確かにハクは変わっていた。


霧裂は【豪商】に向き直り、毛皮を返しながら、


「悪い、ここで俺たちは降りる。やる事が有るんだ、商談はまた今度に――」

「いえ、分かっています」


と、【豪商】が霧裂の言葉に被せる様に言葉を発した。


分かっています(・・・・・・・)。全てを、理解した上で提案させて頂きます。目的の地へ行くのは、明日にしては如何ですか?」

「明日?」

「ハイ、今日では無く明日。たった一日ずらすだけで、本来すれ違う運命が、交差する事になるでしょう」


意味深に言った【豪商】の言葉を霧裂は自分なりに解釈する。


「えーっと、つまり明日行ったら、誰かに会えますよって事?」

「その通りです」

《誰と会うことになる》

「それは言えません」


デフォルトの笑みを浮かべる【豪商】の言葉を信じて良いか分からず、瞬谷に決断を任せる事にした。たとえ今ここで、瞬谷が【豪商】の言葉を無視して、行くと言っても霧裂は迷わず従う。だからこそ、霧裂は目でどうするか瞬谷に尋ねた。

瞬谷は霧裂の目を見て、ゆっくりと【豪商】に視線を向け口を開く。


「なんでアナタはオレたちの目的を知ってるんですか?」

「その目的の地で私たちは本来会うはずだったのです」

「なんで誰と会えるかが言えない」

「未来の情報はあまりお伝えしない事をモットーとしてまして」

「証拠が無い」

「私を信じてくれとしか言えません」


そこで瞬谷は口を閉じ顎に手を当て熟考する。流石にサリアナも気付いたのか、心配そうな目を瞬谷に向けている。今の瞬谷は焦りやら恐怖やらがゴチャマゼになっているのだろう。傍目から見ても今の瞬谷はまるで怯える子供のようで痛々しい。

暫し両目を閉じ、考えが纏まったのか目を開く。


「分かりました。目的地に行くのは明日にします」

「良いのか?」


最後の確認として尋ねる霧裂に、瞬谷は深く無言で頷いた。


「そうですか! なら霧裂君、商談開始ですよ!」

「お、おう。分かった、言っとくけど危険な魔道具は無理だからな」

「ですねー。霧裂さんの魔道具が量産なんかされた暁には、国の一つや二つ滅びるんじゃないですか?」

「言いすぎだろっ」


その重苦しい空気を払拭するように無理やり明るい雰囲気で話す霧裂たちを、暫くサリアナが探るような目で見ていたが、キューをもふる事を特別に許可したらソレも無くなった。

キューが『裏切り者~』てきな感じで鳴いていたが、霧裂は耳を塞ぎ目尻に涙を溜めながら、すまないっと謝罪して魔王サリアナへの生贄に捧げたのだった。


「そういやさ、今この馬車何処に向かってんの?」


今更な質問に、【豪商】呆れもせずデフォルトの表情で答える。


「ハイ、貴方方の目的地に向かっております。途中で瞬谷君に頼る事になるとは思いますが」

「ふーん、ならさ、目的地を変更してくんない?」

「と、言いますと?」

「いやさ、あそこなら瞬が一発だし、それならちょっと寄り道したいなって。ダメかな?」

「オレは別に構いませんよ」


ちらっと視線を【豪商】から外し瞬谷に問いかけると、瞬谷は迷わず首を縦に振った。霧裂の言うとおり、瞬谷ならば寄り道したところで、結局変わらず明日の昼ごろには目的地、サリアナの村に行ける。それなら霧裂のいう寄り道をしても構わないと言う心境だ。それでも迷わずゴーサインを出せるところを見ると、瞬谷も霧裂を少しは信頼していると言う事だろうか。


そんな瞬谷に気付かず、霧裂は【豪商】にも尋ねる。


「お前も良いか?」

「ハイ、構いませんが、どちらへ?」


首を傾げて問う【豪商】に、霧裂は『肥満のおっちゃんじゃそれは萌えんよ、それどころかそこはかとなく嫌悪感を覚えるよ』と最低な感想を脳内で漏らしながら、しかし完璧なポーカーフェイスで笑い、こう言った。


「どこって、『英雄の墓場』」



◆ ◆ ◆



王城、第二王女の寝室、そのさらに奥、秘密の部屋にて、第二王女が【暴君】の報告を受けていた。


「へぇあの方が。誰かが動くとは思っていましたけど、あの方が動くとは予想外でしたわ」

「どうするのですか、ミロード」


【暴君】の問いに、第二王女は顎に手をあて、


「そうですわね。一度この目で視ておきたいですし、わたくしが行きましょう」

「行きましょうって、ミロードは第二王女。そんな簡単に行けるのですか?」

「まぁなんとかなるでしょう」


既に解決策でもあるのかくすりと笑う。


「それで、私は如何すれば? ミロードの護衛でもしましょうか?」

「そうね……いえ、貴方はここに残っていなさい」

「【海龍帝】討伐に手を貸せと?」

「いいえ、貴方は『アレ』を見張っておきなさい。近づく者は全て殺して良いわ」

「分かりました」


【暴君】の言葉に笑みを浮かべ頷き、彼女は最奥に刺さっている錆付いた七〇センチほどの切っ先のない剣を手に取った。


「それを持っていくのですか」

「ええ、もしもの時にね。まだ完成じゃないけど」


錆付いたとても剣としての役目を果たせないであろう物を、手に取る彼女に【暴君】は眉をひそめ、


「それは本当に大丈夫なのですか? とても剣として使え――」

「これは剣じゃなくってよ。分かっているでしょう?」


【暴君】の言葉に被せて言った第二王女の言葉に、慌てて【暴君】が口を挟む。


「これは――」

「分かってます、分かってますとも。それは剣じゃないですね、すみません間違えました」


長々と話されては堪らないといった【暴君】の言葉に、彼女はむすっとして睨む。

第二王女の七色の双眸で射抜かれながら、【暴君】は頭を垂れた。

頭を下げ、目を閉じながら【暴君】は考える。

あの時、ベルタに言われた言葉。


『冒険者に成れば第二王女から逃げれるかもしれない』


その言葉を頭の中で何度も反復させる。

そして思うのだ。


馬鹿が、と。

冒険者に成った程度で、逃げれるならば、とっくの昔に逃げている。そんな事は知っているだろう?


【暴君】、八雲(やくも)重蔵(じゅうぞう)。彼には力がある。SS級にすら匹敵し、そして捻じ伏せることが可能であろう力が。しかし、そんな力を持っていたとしても、自身が主と認める第二王女には敵わない。

力だけなら【暴君】のほうが強いだろう。純粋な力だけ見れば第二王女は【暴君】に抗う事すら出来ずに死ぬだろう。それでも。


勝てる気がしない。


逃げれば、逃げるという考えが頭に浮かんだ時点で、第二王女は動く。優秀な駒としてならまだ生きられる。それが秘密を知っった、尚且つ駒では無くなったとき、【暴君】の人生が終わる。

そう、【暴君】は理解していた。


しかしそれでも、華奢な自身の主を見て、【暴君】は思案してしまった。

もしかしたら、勝てるのではないか?


その時だった。

そんな考えが頭を過ぎった直後。

第二王女が声を上げる。


「オカシナ事は考えないようにね、ジュウゾウ」

「ッ!!!?」


ゾワリ、と全身の鳥肌が立つ。


「貴方は優秀、失うのはとても惜しいわ」


言葉が出ない。声が出ない。息が出来ない。

【暴君】は感じた。心臓などと言う物体を自身の目で見たことは無いが、それでも、何時もは左胸で鼓動を発している臓物が、【暴君】という器を離れ、第二王女の手の内に誘われたのを。


「でもね、貴方は所詮その程度なのよ」


第二王女の左手、その手に何かが握られていた。

心臓だ。

いや、実際に握られている訳ではない。【暴君】が見たのは幻覚のような不確かなモノ。しかし、何故か、スルリと入り込んでくる第二王女の声や、この場の雰囲気のせいで、実際は存在しない心臓を知覚してしまった。一体どんな技術を使ったのか。【暴君】は指一本動かす事も許されない。


分かっているわね?(・・・・・・・・・)


分かっている。

今、【暴君】は生きるも死ぬも全て第二王女の思うがまま。

【暴君】はこれ程までに『死』というものを実感した事は無かった。過去に一度本物の『死』を経験している彼だが、それでもこの仮初の『死』のほうが強烈だ。

何も出来ず、息すら出来ずただ頭を垂れる【暴君】を見て、彼女は。


「冗談よ♪」


ふふっと花のような笑みを浮かべてそう言った。


「――――ッハ、ゼッハ、ゼーハーハーはぁー……」


瞬間、重圧が消し去り【暴君】は床に崩れ落ちた。荒い息を突きながら、平常心を取り戻そうとする。そんな【暴君】に目も向けず、彼女はくるくると錆付いた剣を手で遊びながら秘密の部屋を出て行った。


遠ざかる自身の主の背を掠れる目で見て彼は思う。

やはり、バケモノ。

【暴君】は第二王女に命じられるままに世界中を見て回った際に、『人外』と呼ばれる者を度々見てきた。その時に彼が感じたのは恐怖や畏怖などでは無く、疑問。


『何故彼らは「人外」などと称されているのだろう?』


【暴君】にとっては疑問だった。

その疑問の答えは直ぐに見つかる。そう、彼らは、あくまで『人』という種から見て『人外』なのだ、と。『人外』とは『人』としての枠を超えた者を示す。【暴君】にはとても彼ら『人外』が『人』としての枠を超えているとは思えなかった。


【暴君】は思う。

『人外』とは、『人の枠を超えた者』とは、第二王女のような者のことを言うのだ、と。外見、血液、細胞や遺伝子に至るまで、第二王女は普通の『人』と呼ばれるだろう。


しかし、違う。

『人』なのに『人ではない』。どれだけ精密に『人』が調べても、第二王女は何の変哲も無いただの『人』という結果しか出ないだろう。


しかし、確かに違うのだ。


人や亜人を形成するのは五つ。

『肉体』と『精神』と『魂』と、『闘気』や『魔力』と言った『力』に加え、あと一つ。その五つを兼ね備えた者を、人族や亜人族と言うのではないだろうか?

しかし、第二王女には、最後の一つが欠けていた。

それは一体何なのだろうか。

彼は考え、そして自分なりの答えを弾き出す。


それは、『限界』。人族も亜人族も、一定以上の力を持てば、限界が訪れる。その限界が、人や亜人を形成する最後のピースでは無いだろうか。『人』に神と呼ばれる、世界最大の『人外』であるレーモンドさえも限界はある。故に【暴君】はレーモンドをも『人』と判断したのだ。


それなのに、第二王女には『限界』と呼ばれるモノが無かった。言葉通り、訓練すればするほど、鍛錬すればするほど、底なしに強くなる。今はまだレーモンドどころかSS級やS級にも、真正面から戦えば歯が立たないだろう。しかし一年後、いやそれよりも速い半年後は?

分からない。限界がない彼女は一体ナニモノだろうか?


そこで、【暴君】は思考の無駄を悟り頭を振る。

そんな事は自分が幾ら考えても分からないだろう。

彼女がナニモノか知る事が出来るのは、第二王女を造り出した本物の神か、


はたまた――――彼女と同等の存在。



◆ ◆ ◆



霧裂の提案により『英雄の墓場』に行く事となった一行。

『英雄の墓場』になぜ行くかを瞬谷が聞いても霧裂は観光の一点張りで本当の事は教えず、何となく嫌な予感を覚えていた。


「そろそろ『英雄の墓場』に着きそうだ、用意しな」

「あ、了解しました」


今まで無言で御者を勤めていた美女が声をかけた。

彼女はリリエラ=トクナガ。れっきとした【豪商】の妻だ。その事実を知った時、霧裂はそれはもう異世界七不思議に即認定するほど驚いて、本人が目の前でデフォルトの笑みを浮かべて居るのに『この太ったおっさんの何処に惚れたんですか!?』とトンデモなく失礼な質問をかました所、彼女はニカッと活発そうな笑みを浮かべて『それ以外の所かね』と即答した。


その一切迷い無く答えた彼女に、霧裂は静かに【豪商】の肩を叩き祝福した。もうなんか熟練夫婦のような関係を築き上げているので、【勇者】の時のように爆破しろッ! と嫉妬する事すらおこがましい領域に居たのだ。


そんな嫉妬では無く、笑顔で手を叩けるような何処から見ても仲むつまじい夫婦が出会ったのは、【豪商】がこの異世界に転生してから直ぐの事のようで、命を助けてもらった【豪商】が一目ぼれし熱烈なアプローチをしたらしい。

で、そのアプローチにリリエラが折れて今がある。その惚気話を【豪商】がいやぁーと頭に手を当てながらペラペラペラペラ喋っている中、霧裂は脳内で壁をボコ殴りにしていた。


そんな感じで時間を潰し、丁度太陽が頭上を昇りきり傾きだした頃、『英雄の墓場』に到着した。


「おおー、こりゃスゲーや」

「夜とか絶対に来たくないですね」

「お化けとか出ないでしょうね」

「お墓いっぱいだね~」


それぞれ感想を漏らしながら、目の前の光景に口を開ける。

『英雄の墓場』と呼ばれるそこは、見渡す限り墓だらけの平原だった。


「あれ? 『英雄』って一人じゃないの?」

『馬鹿じゃのー主は。旧主は一つの墓に収まる女じゃないのじゃ!! む? おかしいの、旧主はニュー主と合体したはずでは? はっ分かったぞ! ここに祀られているのは堕神の奴じゃな! なるほど、それならばこの墓の数も納得というものよ! あ奴はそれはそれは凄かったからのー。一つの墓に納まる器じゃないのじゃ!!』

「ハイ、堕神によって殺された者全ての墓を立てているのです」

「だってよ」

『……むぅ』


それにしても、と辺りを見渡す。ざっと一〇〇〇近くの墓が立っている。コレだけの者を殺した堕神というのはソレはソレは恐ろしいヤツだったのだろう、と考えていた霧裂だが。


『堕神のーあ奴は可愛かったのー。キュート過ぎて旧主が影の中の影になっとったからのー。あ、ゆうとくが我のほうがキュートじゃからな! スーパーとデラックスぐらい差が有るからな! インフレが起こった時の初期のボスとラスボス近く差が有るからな!! ふはははははーっ! 我のキュート力は世界一ィィィィいいいいいいいいいいっ!!』

「すまん、黙っててくれるか?」 


うははははーっ! と笑うエーテルをガンガン殴りながら、霧裂は笑顔で『だ・ま・れ☆』と言う。しかし、エーテルの声は霧裂にしか聞こえないため、まるで霧裂が独り言を言いながら剣を笑顔で殴っている危険人物にしか見えない。

サリアナたちは怪訝な顔でヒソヒソと話す。


「(なにアイツ、頭おかしくなったの?)」

「(霧裂おにぃちゃんおかしくなっちゃった?)」

「(ふーむ、少々薬などを与えたほうが宜しいのでは?)」

「(でも医者が居ないじゃないか。薬は時と場合によっては毒になるからねぇ)」


ヒソヒソと話していた彼らは、ふと瞬谷とハクが話に参加していないことに気付く。周りを見渡せば、にこにこと微笑みながら場を見守る瞬谷とめんどくさそうに立っているハク。

二人は、サリアナたちに対処法を聞かれ、こう答えた。


《ほっとけば良いんだ》

「スルースキルを活用すれば良いんだよ」


ブツブツギャーギャーワーワーと独り言を言うぐらいでは、全く動じず心配もしなくなった二人を見て、何となく霧裂を哀れに思うおしどり夫婦だった。






「で、なにするんですか?」


霧裂VSエーテルの舌戦が終わり落ち着いた頃を見計らって、瞬谷が声をかける。他の皆は食事中だ。瞬谷も霧裂にサンドイッチを手渡す。


礼を言い手渡されたサンドイッチに齧り付きながら、霧裂はうむ、と重苦しく頷き、


「食べ終わってからな」


そう言った。


それから三十分後、それぞれリリエラの手料理を腹に収め、霧裂の前に集まる。

霧裂は辺りを見渡して、再びうむ、と重苦しく頷き何故かポケットから人数分のシャベルを取り出す。それを手に構えつつ彼は言う。


「それじゃ頑張って墓荒らし行ってみよーっ!」

「「「「はぁ!?」」」」


驚愕の叫びがシンクロする。

そんな中で、ハクは驚く事もせず氷で造ったシャベルを片手に近くの墓に歩いていき、シャルロットは墓荒らしという言葉が分からないのか首を傾げている。

言うだけ言って自身も墓へ行こうとする霧裂を、流石にスルースキルを活用しても無理だったのか、瞬谷が慌てて引き止めた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! 墓荒らしって、ええっ!?」

「なにすんだ」

「なにすんだ、じゃねぇええっ!! 墓荒らしって馬鹿ですか!」

「何でだよ、もう死んで結構立つんだろ? それなら良いじゃん」

「良くないですよ!」


うがーっ! と頭を抱えて叫ぶ瞬谷に、霧裂は仕方ないく、


「なら良いよ、お前らはそこらへんで暇でも潰しとけ」

「あ、それならお言葉に甘えて」


先ほどまでの慌てようはなんだったのか。

言質を取ったとばかりに笑顔でサリアナたちを引きつれ馬車へ向かった。


「あれ? もしかして皆手伝ってくれねーの?」

《俺様が居るだろう》

「うぅ、ハク、お前良い奴だなぁ」


呆然と立ちすくむ霧裂をハクが慰め、それに涙していると、背負ったエーテルが光り輝き、


「主っ! 我も手伝――」

「幼女化禁止令忘れたかドアホッ!!」

「――グッハァッ!!」


裸幼女となりガバッと霧裂に飛びつこうとしたが、残念、霧裂の左前蹴りがジャストミートし、地面を豪快に転がった。






ざっくざっくと墓を掘り返す霧裂たちを完全に無視して、瞬谷たちは【豪商】の持っていた商品や面白可笑しく話す旅の話を聞いていると、瞬く間に日は沈んでいった。


リリエラが作ったシチューを食べている時も、ハクと霧裂および謎の裸幼女もといエーテルは墓荒らしに没頭し、結局、夜の帳が下りた今でさえも戻ってくることは無く墓荒らしに夢中になっている。


瞬谷は心配そうにしていたおしどり夫婦に何時もの事です、と説明し【豪商】が取り出したテントを張り、その中で横になっていた。一人用のテントだ。辺りはキューに頼んで張ってもらった結界で守られており、魔物や盗賊などの心配は無い。

しかし、瞬谷は眠れなかった。


今日、瞬谷は【豪商】を信じて、サリアナの村へ行くのを止めにした。その選択はやはり間違っていたのではないだろうか?

サリアナの村で、恩人達の村で何かが起こった。それは間違いない。一体何が起こったのか、村の人は無事だろうか。


ぐるぐると頭の中でそんな思いが過ぎる。

そもそも、こんな事になったのは自分のせいではないか?

自分が村に居れば何が起こっても、逃げることは可能だ。


なぜ村を離れたのか。

それは、サリアナを助けるため。

なぜサリアナが奴隷商に捕まったのか。

それは、瞬谷の判断ミスでサリアナと離れ離れになったから。


結局は自分のせいだ。サリアナが奴隷になったのも、恩人達の生死が不明なのも、全ては自分のせい。

くそっ、と吐き捨てる。後悔したって無駄な事は分かっている。過去は変えられないことなんて分かっている。それでも、何か考えていないと、今すぐにでも一人でサリアナの村ヘ向かってしまいそうで、耐えられない。


テントの中で布団を頭から被り、丸くなる。自分で自分を強く押さえつけ、歯を噛み締める。

どうしようどうしようどうしよう。

後悔が押し寄せ、そして消える。どうしようもなく無力だった。そんな自分が嫌いで仕方が無かった。サリアナも、村の人も、全部自分で救いたい。助けたい。でもそれは出来ない。


弱いから。

瞬谷は弱い。仮にも元SS級冒険者、普通の者なら口が裂けても弱いとは言えないだろう。だが、この数日で瞬谷は実感していた。自分は弱い。精神面でも、肉体面でも。本当の強者とはどんな状態でも力を出せるものの事を言う。だがどうだ、今の瞬谷のようなボロボロの精神状態では普段は絶対勝てる勝負でも、負ける。


弱い弱い弱い。

強くありたい。


ギュッと両腕を握り締め、――――唐突に頭を地面に打ち付ける。


「――はぁ、落ち着け。こんなんじゃダメだ。サリィにばれる。大丈夫だ、信じろ。大丈夫、大丈夫」


呪文のように何度も『大丈夫』と口にし、ようやく平常心を取り戻した。今までも不安に押し潰されそうな時は何度かあった。何時死んでもおかしくないこの世界で、さらに死に近づく冒険者なんて職業に就いていたのだ。不安に押し潰されそうな時もあったし、恐怖で泣き出しそうな時もあった。そして、その感情を払拭する方法もまた、知っている。


「こんな気持ちで寝たら悪夢見そうだな……。よし、ちょっと気分転換に外出るか」


眠れそうにも無いので、パンパンと両頬を軽く叩きテントから出る。ふぁ、と欠伸が出る口を押さえ、水でも飲もうかと視線を上げると、なぜか【豪商】、リリエラ、サリアナの三人がテントでは無く地面に倒れ寝ていた。一瞬敵襲を警戒した瞬谷だが、寝ていることに気付き、息を吐き出すと同時に疑問に思う。


(なんでこんなトコで寝てんだろ?)


頭を傾げて考えても答えは出ないので、仕方なくそれぞれをテントへ運ぶ。その途中、シャルロットのテントも確認したが、シャルロットはキューをぬいぐるみの様に抱きしめ、スヤスヤと寝息を立てていた。キューはサリアナと寝るのを嫌がったので、シャルロットと寝る事になったのだ。シャルロットも喜んでいたし、キューも喜んでいたので一石二鳥だなと瞬谷は思っていた。断じて地面に項垂れるサリアナを見ては居ない。


そんな事もあり、すっかり目が覚めてしまった瞬谷は、皆をテントに運んだ後、霧裂たちの事が気になり、見に行ってみる事にした。


この判断を、瞬谷は即座に後悔する事となる。


テクテクと歩き雲で月が隠れているのか、真っ暗闇となった夜の掘り返された『英雄の墓場』を薄気味悪いなと思いながら歩いていると、数メートル先に人影を見つけた。背丈的に見て霧裂さんかハクさんだな、と判断した瞬谷は一体何時ぐらいでこの作業が終わるか尋ねようと足を向けて、


――その時、月が顔を出し闇に包まれた『英雄の墓場』を照らした。


幻想的な月の光が大地を照らし、同時に瞬谷の目の前の人物をも照らし出す。

その人物は、色白の肌で白銀の髪の碧い双眸を持ったハクでは無く、さらに言うなら七色の双眸を持つフツメン霧裂でも無く――――白い白骨体だった。


ピシリと石像の様に固まる瞬谷。

白骨体もまた石像の様に固まり、そして。

――同時に声を上げた。


「ギギャギャギャギャギャぁぁぁぁぁぁあああああああ!!?」

「でででででで出たァァァァァあああああああああああ!!?」


うわーっ! と叫びながらその場を全力逃亡Bダッシュで逃げさる瞬谷の背後で、白骨体は雄たけびを上げながらガンガンと腕の骨を打ち鳴らす。


一体なにが!? とパニックに陥った頭で必死に思案しようとする瞬谷は見た。

見てしまった。


『英雄の墓場』、その中央にある大きな今だ掘り返されていない『英雄の墓』の下で、大の字で寝転ぶ裸幼女と、黙々と作業を続ける霧裂王間。そして『英雄の墓』の十字架に背を預けて腕を組むハク。


それだけなら良い。問題はその周囲。

霧裂たちの周りで、数百対の白骨体が夜空に向かって雄たけびを上げていた。


月夜に照らされた墓場で雄たけびを上げる白骨体。

何処からどう見てもホラー。

リアルホラーを目にした瞬谷は、ふっと目の前が暗くなり地面が近づいてくるのを感じた。


薄れ行く視界の中で、今またもや霧裂の手によって生み出された白骨体が雄たけびを上げるのを見て、サリアナたちもこの光景を見たために気を失っていたのが今分かった瞬谷は思う。


霧裂さん、ちょっとは自重しましょうや、と。





この日この時この場所こそが。

この異世界において、新たな魔物。

スケルトンが生み出された瞬間だった。

ちなみに、途中の第二王女に対しての考察などはあくまで【暴君】の考えです。

それと【豪商】の事好きになってくださいね☆

嫌いにならないで!

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