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S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
41/62

-34- 相棒は美女様っ!

長すぎたので、二つに分けました。

朝、チュンチュンと小鳥が鳴く。

嵐が通り過ぎたような荒れ果てた部屋で、一人の少年がやつれ果てた状態で転がっていた。目の下にクマを作り、うーうーと呻いている。今現在もカッ! と目が見開いたままで眠れていない。これは夜中に来た一人の死神のせいだ。目が見えない状態で必死に剣へと姿を戻した聖剣を使い迫り来る凶刃に応戦していると、ふいに目が見えるようになったのだ。


そして視力が回復して真っ先に眼にしたものは、修羅を背後に背負いぶんぶんと骨の大鎌を振り回す鎌咲の姿……と、プラスアルファ何故か幻視した包丁を持って高笑いしながら襲い掛かるセレーネの姿。一瞬で眠気が吹き飛んだ。それどころか目を瞑ればその悪夢が蘇るので寝れなくなってしまった。


結果、死神が去った後も眠れず徹夜してしまったのだ。


(ヤヴァイ、この感じ久しぶりだ。てか一日眠らなかっただけですっごい疲れてるんですけど。やっぱ超濃度の濃い一日だったからなぁ。……《魔薬》でも飲むか?)


ごそごそとポケットに手を突っ込み《魔薬》を取り出そうとするが、寸でのところで止まる。後遺症でヘラヘラなっている場合ではないのだ。取り合えず《魔薬》の変わりに《霧裂特性超眠気覚まし》でも口に含む。


ごくごくと一瓶全部飲み干し、大分楽になった霧裂はチラリと横目で床に転がっている聖剣を盗み見る。聖剣は微動だにしないが、今この瞬間も悪夢にうなされているのか、霧裂の頭の中で『死神様がぁ~死神様がぁ~。来~る~、きっと来る~』と何やらブツブツ響いている。


起こそうかとも考えたが、ほっておくことにしてよっこらせと立ち上がった。ベキボキと固まった体を解しながら、どうするか考える。まだ鎌咲達は寝ているだろう。このままボーっとしているのは勿体無い。さてどうするか。顎に手を当て思案した霧裂は、ふとコートのポケットに手を突っ込み、昨夜聖剣に出会う前に造った白と黒に色が変わる首輪を取り出した。


(そーだな。今ならまだ眠ってるだろうし。ドッキリってことでちょっくら喜ばせてやるか)


ニンマリと唇が弧を描き、霧裂はうなされてる聖剣を完全無視して部屋の窓から飛び出す。トンッと軽やかに隣の建物の屋根に降り立った霧裂は、朝日が顔を出したばかりの王都を高速で森へ向かって駆け出した。この時間帯はまだ開門していない為、カトレシア以来の壁抜け術を披露する時が来た! などと考えながら。






森の中を霧裂は高速で、気配を殺しながら走っていた。今回の目標は、少しでも気配が漏れればすぐに気付かれるので王城侵入時以上に気を使っている。七色の双眸を【天より見抜く(クレアボイアント)】に変更している時点でその本気度が覗える。


(そろそろ……ここら辺だと思うんだが……)


動きを止め、双眸を大きく見開き視野を広げていく。上空からの視点で目標の姿を探す事数分、視界の端に見つけた光の粒。その光の粒は、霧裂から数百メートル離れたところで点滅していた。


(見っけ)


くすりと笑い、その光の粒へと気付かれないように、焦らず走らず慌てず、ゆっくりと近づいていく。そろりそろりと足を踏み出し、背後の死角へと回り込むように動く。十分に近づいた霧裂の視線の先には、白い巨狼、ハクが静かに寝息を立てていた。


(よっし寝てる寝てる……でも、ここからが超難易度高いんだよなぁ)


霧裂とハクとの距離は僅か五十メートル。霧裂なら二歩程度で詰めれる距離。しかし、この五十メートルがとてつもなく分厚い壁。今までハクに悪戯を仕掛けようと何度もアタックして見たものの、何故かこの五十メートルより近づいたら即効で気付かれるのだ。そのため霧裂はばれない様に近づくという行為を放棄する。


息を静かに整え、足に力を込めつつ、身を屈めて、一息に地を蹴り飛ばす。ドッ! と霧裂の脚力に耐え切れず地が砕け轟音が炸裂し、同時にハクが恐るべき速度で臨戦態勢に入る。

全身から殺気を放出させるハクは油断無く辺りを警戒し、そして。

グワッ! と襲い掛かる霧裂の姿を見て目を見開かせる。


《なっ! オ、オーマ!?》

「ふははーっ! 取ったぁーっ!」


両手で素早く首輪を嵌める準備をし、抱きつくと同時にカッチリと首輪を嵌めた。直後にハクが全身から冷気を放出。右手が僅かに凍ったが即座に飛ぶ事で回避に成功。ふーっと一仕事終えたように息を吐き出し満足気な雰囲気をかもし出すのも一瞬。ほんの刹那の瞬間。

首輪を嵌められたハクがピクピク目尻を動かしながら、低い声で霧裂に尋ねる。


《……それで、言い残す事は?》

「ひぃ!?」


気温が氷点下まで落ち周囲をペキペキと氷の彫像に変化させながら、ハクは冷酷な双眸で霧裂を射抜く。何を言っても俺の頭は噛み砕かれる! と、混乱状態の霧裂はパクパクと陸に上げられた魚の様に口を何度か閉口し、そして思わずといった感じで。


「で、でで~ん。サプラ~イズ、なんちゃって?」


直後、一切の迷いを見せない動きで頭を抱えて怯える霧裂に大きく口を開けながら飛び掛ってきたハクは、しかし寸でのところで動きを止めた。


《むぅ? なんだコレは!? おい、オーマ! お前一体どんな魔道具を――――ぐぁぁぁああああああああ!!》

「来た来た来たーっ!」


ハクの首に付いた首輪から生み出される白と黒の線がハクの白銀の毛の上を走る。その線は瞬く間にハクの全身を白と黒でコーディネートしていく。自身の造った魔道具の成功に喜ぶのも束の間。


ベキボキゴキグシャメキベゴゴシャメギョドギャッ!! と。

全身の骨を纏めて砕くような、全身の皮膚を全て剥ぐような、ゾッとする音が周囲に響き、ハクの悲痛な絶叫が迸る。一瞬で、霧裂の顔が真っ青に染まった。


材料さえあれば何でも造れるというチートを持っているくせに、実は霧裂が魔道具造りに失敗する事は珍しくない。それは単に霧裂が自身のチートを完璧に使いこなす事が出来ていないだけか、それとも創造神の嫌がらせか。真実は闇の中だが、ともかく失敗は良くある事なのだ。そして、霧裂が失敗する場合、凄惨な結果になる確率が大いに高い。


まさか、失敗!? とガクブル震えていると、変身終了の合図でもある、煙がボフンとコミカルに撒き散らされる。グチャグチャになった【傀儡師】の死体を思い出し、まさかまさか、と恐怖で涙すら浮かべた霧裂の目に煙が取り除かれて映ったものとは……。


「……えーっと、はい?」


美女。太陽の光でキラキラと輝く白銀の髪はとても長く、彼女の背丈と同じぐらい有るのではないだろうか。白銀の髪は何も白銀一色というわけでもなく、スゥと碧い線が三本入っている。髪の毛で覆われた体は色白で、シミ等一切無い理想のお肌。ゼーハーと荒い息を付くたびに胸にある二つのどちらかと言うと小さめの胸が、ゆっくりと上下する。絶世といっても過言ではない美女の、しかも裸と言う姿に、霧裂の思考は一瞬停止した。


が、直ぐに再起動を果たし首をふってもう一度見る。

やはりそこには美女が一人。

ゴシゴシと両目を擦って再び見る。

しかしそこには美女が一人。

パンパンと両頬を手加減無しで叩きつつ舌を口の中で血が出るほど噛む。そして恐る恐る目を開いて三度見る。

相も変わらず美女が一人。


そこで漸く霧裂はポツリと呟く。


「あれ? ハク何処行った?」


どれだけ見直してもそこに居るのは想像していたようなハク人間バージョンでは無く、世にも稀な絶世の美女。美女は首の辺りを押さえなにやら痛みに耐えているかのように苦悶の表情で固まっている。


霧裂は顎に手を当て思案する。

まず間違いなく魔道具が失敗したのだろうと考えたからだ。瞬谷の【空間転移(テレポート)】のような力が働いて、どこかの誰かと場所が入れ替わったのではないだろうか? 恐らくそうだろう、ならば早くこの美女を帰さなければと霧裂は覚悟を決めた。


「えぇっと、貴女はどこから来たのでしょうか?」


精一杯、怖がられないように優しい笑みを浮かべて尋ねた霧裂の言葉に美女はゆるりと閉じていた目を開く。開いた双眸を直視した霧裂は、ドキリと不覚にも顔が赤くなるのを感じた。美女の双眸は美しき碧を携えており、そこらの宝石よりも美しい。しかし、何故かその双眸には暗い暗い憎悪の焔が滾っていた。


はて、何かしただろうか? と霧裂は悩む。霧裂のせいでこの場所に来た事は美女は知らないはずだ。たとえ感づいて居たとしても、ここまで、それこそ人を殺せるようなレベルの憎悪の視線を向けれるだろうか?

少し悩み、そして気付く。

そうか、服が無いのがいけないんだ、と。


残念ながら今服を造れる様な材料は無いが、全身を覆いつくせるマントがある。ズリリリとポケットからマントを取り出し、ニッコリと笑みを浮かべながら霧裂は手渡す。


「はい、これを着てください。私は後ろを向いてますので」


マントを手に取ったのを確認して、霧裂は背を向ける。

この後どうしよう? などと考えていたら、ふいに背後で何かを破るような音が聞こえた。まるで布を破るような音が。

一体何が!? と慌てて振り返った霧裂の顔面に――――ゴッシャッ! と轟音を立て氷を纏った拳が叩き込まれた。


その威力にぐわっと首を仰け反らせる霧裂。

何が何だか分からず、混乱の極みにいる霧裂は確かに聞いた。冷たい、氷点下のような凍える声を。


《――――死》


直後の出来事だった。

吹っ飛ぶ霧裂目掛けて、氷の槍がこれでもかと降り注ぐ。






《それで、何か言う事は?》

「すみませんでした。どうかご慈悲を」


現在霧裂は、ボロボロになりながらも、土下座をして素っ裸の美女に声を大にして謝っていた。美女の視線はとても冷ややかだ。しかし、この状態も既に一時間以上続いている。そろそろ許してやるか、と美女は大きく溜息を吐き出す。


《まったく……で? どうやったら元に戻れるんだ?》


元に戻れる。それはつまり今の姿は元の姿ではない事を示す。なら一体何なのか。答えは簡単。絶世の美女の正体は――――。


「マジすんませんでした……ハク様」


ハク。神獣【白夜狼】として恐れられていた彼もとい彼女は、霧裂の魔の手に掛かり絶世の美女へと姿を変えられていた。


《良いから、さっさと元に戻れる方法を言え》

「あー、それがですねハクさん。そのぉ、誠に言いにくいのではありますがぁー」


頭に手を当てえへへへと悪戯が失敗した子供が出来るだけ怒りを和らげようとするように、霧裂は笑いながら。


「その魔道具はあくまで人に姿を変えるもので壊しても外しても元に戻れるのは無理だったりするのかなーなんて」

《はぁ!?》

「さーせん」


早口で言い切った霧裂は、怒りゲージMAXなハクの言葉に素早く額を地面にこすり付ける。


《それじゃ何か? 俺様は永遠にこのままなのか!?》

「永遠じゃないって。元に戻れる魔道具造るから」

《どれくらい掛かる?》


ジロリと睨むハクの視線に耐え切れず、顔を横に向けながら。


「えー、その魔道具は結構偶然の産物的な要素がありましてー。材料集めとかも含めて最低で一ヶ月くらい?」


グワッ! と怒気が膨れ上がる。

このままじゃ不味い! と霧裂は冷や汗を垂らし、両手を前に突き出し左右に振る。


「待って! 人型も中々に良いものだと俺はここに断言する!」

《何が良いものだ! お前は行き成り姿形を変えられて怒らないのか! 嗅覚、聴覚は低いし視力も駄目、限界危険察知範囲が百メートルは狭まったぞ! お前は俺様をここまで弱体化させてどーゆーつもりだ! 見ろこの腕を! なんだこの腕は、この細さふざけているのか!? 貧弱だ! 貧弱すぎる!》

「あ、最後のほうを『貧弱! 貧弱ゥ!』って言い換えてもう一度いってもらえますか?」

《お前がもう一度言ってみろ。今度こそその首跳ね飛ばす》

「さーせんっしたぁーっ!」


ハクが怒るのも仕方が無いだろう。唐突に犬に姿を変えられたら誰だって怒る。それと同じだ。今もハクは人間の言葉を喋れないために霧裂の魔道具を手放せないし、神獣の体と人間の体では随分使い勝手が違うだろう。それこそ今のハクは岩に押し潰されて死ぬ可能性もあるのだ、昔のハクなら山に押し潰されても平然と出来ていたにも拘らず。


《くっそぅ、早く、早急に俺様を元に戻せ! さもなくばお前を殺すぞオーマァ!》

「分かった、分かったから」


どうどうとハクを落ち着かせる。今のハクは怒っていてもちっとも怖くない。殺気などは凄まじい物があるが、それでも目尻に涙を浮かべているので±ゼロだ。


それがハクも分かったのか、くそぅと歯軋りしぷいと顔を背けてしまった。そんなハクにコイツ可愛い! などと感想を頭の中で漏らしながら、霧裂は羽織っていた何時もの白いコートを脱ぎハクに手渡す。こんな言葉と共に。


「あーなんだ、一先ずこれ着ろ。目に毒だ」



◆ ◆ ◆



あの後もコートを着たがらないハクと一悶着あり、漸く王都の宿屋『旅人の故郷』の前に立った時には、疲れすぎて窓から入るのも億劫になっていた。


別にハクが着たがらないのは痴女だからと言うわけではない。今までハクは当然すっぽんぽんで過ごしてきた訳で羞恥心などある筈も無く、動きを阻害する物など身に付けたくないというのがハクの言い分だ。それに対し霧裂は防御力が上がるからとなんとか言いくるめ、コートを着らせることに成功したのだ。


(はぁー憂鬱だ。今朝の聖剣の事もあるし、ハクのことどう誤魔化そう)


はぁーともう一度息を吐き出し、覚悟を決めてガラリと戸を開ける。

宿屋一階には、想定外の光景が広がっていた。

全員集合だ。しかもプラス真っ赤な髪を三つ編みにした勝気そうな美女が一人。

どーなってんの? と頭を捻る霧裂に、こちらもどーなってんの? と頭を傾げる瞬谷が恐る恐る霧裂の隣に居るハクを指差し。


「あの、霧裂さん? 一体どんなストーリーがあったらそんな美女が裸コートなんてシチュエーションになるんですか。あれですか、ちょっと過激なプレイをしちゃって着る服が無いから仕方なく見たいな感じですか。最低ですね霧裂さん」

「一人で完結してんじゃねーよっ! てか裸コートって何故ばれたし!」


驚愕に目を見開き隣のハクへと視線を向けて、ぶふぉっと霧裂は盛大に吹き出した。霧裂はコートをハクに着せた時、確かに見えない様に前を止めた。しかし何故か、今のハクはコートの前面が完全に開いており、胸とかお腹とか色々モロ見えになっていたのだ。


「ちょ、ハク、なんで」

《ん? ああ、窮屈だったのでな》

「マジザッケンな! ちょっとは言う事聞いてくれ!」


あぁぁぁぁと頭を抱える霧裂は、ひゅんひゅんと空気を裂く音を聞いた。その音を立てているのは、当然我等が死神様だ。オワタと泣きながら四肢を付き、項垂れる霧裂目掛けて鎌咲は鎌を振るおうとして。


「ちょっと話を聞いてもらえないかな?」


唐突に勝気そうな美女が声を上げた。

その言葉にピタリと動きを止める鎌咲。霧裂も項垂れていた顔を挙げ、勝気そうな美女を見上げる。彼女は口に一本の葉巻を銜えており、霧裂達の一連のコントを楽しそうに見ていたのだが、おほんと咳払いをして、口を開く。


「あちきの名前はベルタ。アヴァロン支部のギルド長をやっている。おたく、霧裂君だったかな? 君の試合を見たよ、とても良い試合だった。そんな君と、SS級冒険者【死神】、そして」


ゆっくりと瞬谷に目を移し。


「SS級賞金首【瞬王】、君達に話があってきた」


ざわり、と空気が波打つ。

一瞬で、鎌咲、瞬谷、レアルタ、そして霧裂が臨戦態勢を整える。

そんな莫大な殺気が渦巻くその部屋で、宿屋の主人がリタイアした。

どさりと主人が倒れる音を聞いても、ベルタは顔色一つ変えない。


何故今そんな事を話したのか。この付近にはベルタの味方は居ない。ならば何故……。

まさかこの面子に、一人で勝つ自身がるとでも言うのか。


警戒する霧裂達をみて、ニンマリと余裕の表情で笑いながら、彼女は言う。


「君達にとっても非常に利益のある話だ。さて、どうする? 話、聞いてみるかい?」


――戦うのでも、別にあちきは構わないよ。


そう言って、彼女は嗤った。

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