表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
S  作者: ぼーし
第四章 【三帝】編
40/62

-33- 聖剣は美幼女様っ!

霧裂は困惑していた。

夜の王城に忍び込んで、国宝級の魔道具をちょっとだけ弄ろうとトライしていた筈なのに、何故ハイテンションで喋る剣を持っているのだろうか? いやソレよりも、この剣如何すれば良いのだろう?

そんな霧裂の疑問を他所に、剣は今なお話し続ける。


『おいおい、お主一体何者だ? 我は主の気配を確かに感じたってやっぱりお主から主の気配を感じるぞ? ま、まさかっ! 主は姿を変えたのか!? な、なるほど、それなら分かる。しかしな主、性別まで変えるのはどうかと思うぞ我は。主の胸に挟まれるあの感触っ! 我好きじゃったのに。パフパフじゃ、パフパフ。パフパフ出来んではないか。戦闘後の我へのご褒美は一体如何するつもりだ!? あ~主の胸が~。……いや、男も有りか!? 主の逞しい一物…………ハァハァ、やっべ鼻血。あ、我に鼻とかなかった。間違えちった、テヘペロ☆』


剣の話は余り聞かない様にしていた。

ともかく思考を切り替え、この剣の言う主とやらは誰なのかを考える。


(いや、考えるまでも無いか。まず間違いなくあの白骨体だろうなぁ)


塔で回復薬を片手に死んでいたお骨様。霧裂の中で神様レベルまで昇華されてる白骨体。命の恩人感謝永遠に、だ。確かお骨様の素材名が《英雄の》と有った筈だ。恐らくこの剣は、霧裂の体を改造する時にベースとなった骨の気配を感じたのだろう。霧裂とお骨様は同体だ。完全にリンクしているのだから。

ここでふと、先程の剣の話を思い出す。


「なぁ、お前戦闘後のご褒美がなんちゃらかんたら言ってたよな」

『むぅ? 胸のことか主ぃ?』

「そうだ、胸って事は……女だったのか?」

『何を言っておるかのこの馬鹿主は……その通りじゃが?』


まさかの衝撃事実発覚。

男女の骨の見分け方とかサッパリな当時の霧裂に分かるはずも無く、女の骨をベースに男の肉体を造り上げてしまったと言う訳だ。体内は女、外見は男、その名も霧裂王間。『あれ? 俺男……だよね? 女じゃないよね? 何時の間にか性転換しちゃった訳じゃないよね!?』と大いに慌て、ガバッと自身の男の象徴をその目で確かめる。雄雄しい一物は、確かに霧裂の股間に付いていた。その事に、大きく安堵の息を吐く。


『ああん、主ぃ。そんな外でだなんて、我恥ずかしいのじゃ。じゃがそんな大胆な主もス・テ・キ。ポッ』

「キモイ。それと自分でポッとか言うな」

『むぅ、ここは「///(斜め線斜め線斜め線)」じゃったかの?』

「斜め、いやなんだそれ。だから効果音とか口で言うなって。訳分からん、行き成り『カッコ笑いカッコ閉じ』って言い出した様なもんだぞ」

『おお! なるほど、「カッコ恥ずかしいカッコ閉じ」が正解じゃったか!』

「……うん、良いかそれで。もう良いや」


ほんの数分の会話でごっそりと気力が削り落とされる。自分の正しい主張を諦めた霧裂だが、未だに少女の声でSEIKEN(笑)はペラペラワーワーキャッキャとマシンガントークを続ける。頭の中に直接響くので無視も超高難度だ。しかし霧裂は『大音量で頭の中に直で響くソプラノポイスを完全に意識の外へシャットダウンする』という偉業を成し遂げ、思案する。


(さて、このうざったい聖剣はどうやら俺の事を昔の主と思ってるようだな。如何するべきか……)


幾つか案を思い浮かべる。


一、嘘をつく。『お前の主である俺は性転換しちゃった♪』

二、適当にあしらう。『ワタシ、コトバワカラナイネ』

三、分解する。『レッツ改造スタート♪』

四、現実を思い知らせる。『テメェの主はもう死んだッ!』

五、真実を言う。『お前の主死んでたからその亡骸を使って魔改造しちゃったぜ☆』


さぁどうしよう、と頭を悩ます。


(う~む、どうする。二は駄目だな、もう喋ってる。一、も駄目だ、いつかボロが出ると思う。四も駄目、襲い掛かってこられたら困る。同じ理由で五も)


と、ここで聖剣が何時まで経っても返事をしない霧裂に業を煮やしたのか、少々荒い口調で。


『主っ! 聞いて居るのか!? 我がどれほど主との再開を待ちわびたか無能ちゃんな主には分からないのか!? なんとか言ったらどうなのじゃ!! 我はもっと主とお喋りしたいのじゃ!!』

「おわっ! お前の主死んでたからその亡骸を使って魔改造しちゃったぜ☆ って、あ……」


丁度五の真実を言うの部分を考えていたせいか、咄嗟に開いた霧裂の口から真実が零れ落ちた。霧裂の頭の中にガンガンいこうぜと響いていたソプラノボイスが絶句と言った感じで、息を呑む音を最後に唐突に途絶える。口をうっかり滑らしてしまった霧裂は数秒前の自分を頭の中でフルボッコにしつつ、チラリと横目で聖剣を盗み見る。


確かにうるさく迷惑なソプラノボイスだったが、その言葉からは隠し切れない喜びの感情が見え隠れしていたので、かなり気まずい。シン、と月夜に相応しい静寂がその場を支配していた。

どうしよう、と目を泳がせていると。


『……そう、か。主は死んだのか……』


悲しげな声。

先程の活発な少女と同一人物か疑うほどの似つかわしくない悲痛な声がひっそりと霧裂の頭に木霊する。そんな胸を抉る様な声に、霧裂の良心がゴッゾリと抉られた。どんな声を掛けて良いのか分からず、全力で先程の自分に脳内で罵詈雑言を浴びせ唾を吐き捨てながらデリカシーゼロ男の称号を送る。


『……ぐすん……ふぇぇ、ひっく……ぐず』

「え? おい泣くなって! マジすんませんでした俺馬鹿でしたデリカシーとかゼロですんませんいやもうなんか存在しちゃってごめんなさい人の気持ちとか考えられなくてごめんなさいですでしましたーっ!」


年とか普通に考えると、聖剣はスンゴイ年上なのだが、何分少女のソプラノボイス。ロリババァだと頭では分かっていても、その泣き声には一溜まりもない。小さな小学生くらいの少女が膝を付いてグスグスと泣いている姿を幻視しながら、霧裂は早口で謝罪しつつ誠心誠意心を込め、聖剣に向けて無駄にハイスペックな体を全開まで活用し音速で『霧裂式お願い最終手段奥義』DOGEZAのポーズをとる。


ここに七色に光り輝く剣に向けて全力で謝罪をしながら土下座する珍妙な男と言う構図が出来上がった。






『――――も、もう良い、顔を上げるのじゃ。そ、そんなに謝られては泣くに泣けんではないか』


涙声の少し呆れたような口調で再び霧裂の頭の中にソプラノボイスが響く。

しかし憔悴しきった霧裂は聖剣の言葉を聞いて思う。

お前普通にしっかり泣いてたじゃんっ、と。


「あのぉ、ホントにすみませんでした」

『もう良いといっておるじゃろうが。すこしお主に聞きたいのじゃが、亡骸を使って魔改造とはどういう意味だ?』


やはりそこが気になるか……っ! と冷や汗を垂らしながら、霧裂は精一杯謙って言う。

霧裂はとにかく女の癇癪が天罰より恐ろしいという事を理解している。何故そんなこの世の真理とも言えるものを霧裂が理解しているかと言うと、前世での義妹の泣き喚き攻撃だったりセレーネの狂った笑い声だったり鎌咲の隠れた一面を見たりしたせいなのだが、今はおいて置こう。


「ははぁ、わたくしめは生産チートという力を持っているのでござりまする。その力を使って貴女様の主様と合体した経緯でありんする」

『合体じゃとぉ!? まさか子作りか! ズッコンバッコンイチャコラニャンニャンやったのか!? なんで我の前でやらんのじゃ馬鹿者が!』

「馬鹿はお前だ。死んだって言ってんだろうが、どうやったら屍と子作り出来るんだよ。もうお前の主の屍は越えて行ったよ」


謙っていたのも一瞬、可笑しな喋り方も跡形もなく消え去り冷静に突っ込みを入れる。


『おぉ、そうじゃったな。つい興奮してしまった。それにしても主は死んだのか。まぁ半ば予想出来ていた事でもあったがな。主の気配……いや、ニュー主の気配を感じてもしやと希望を持ってしまったのじゃ。上げて落とすとはこの事よ……はっ! ニュー主はSなのか!? なるほど納得じゃ、我は若干Mでな。我の性癖を初見で見破るとはいやはや流石はニュー主と言った所じゃな』

「待てコラ。お前の性癖はどうでも良いが俺はSじゃないと断言しておこう。それはともかくニュー主ってのはなんだ?」

『ニュー主はニュー主じゃ』

「……ミー?」

『ユー』


暫し互いに無言。霧裂は頭の中でこの聖剣を仲間にした時のメリットとデメリットを考える。

メリット、凄い強い魔道具が『また』手に入る。

デメリット、うるさい。

暫く熟考し、霧裂は聖剣に背を向けつつ片手を挙げ。


「さらばっ! お前のことは直ぐ忘れる!」

『待ってぇぇぇええええええ! ニュー主ちょっと待ってぇぇぇえええええ!! 我置いてかないでよぉおおお! ふ、ふぇええええええん! あるじぃいいいいいい!!』

「分かった! 分かったから泣くな!」


ギャン泣きし始めた聖剣を仕方なく拾い上げ、大きく溜息を吐く。

聖剣が手に入ったのは嬉しいが、これで完全に犯罪者だ。見つかる事は許されない。

やっふぅーい! と歓声を上げる聖剣をジト目で見ながら、誰にも見つからずここを出ようと動き出した所で。


「おいっ! そこで何を――――」

「ふぉぉおおおおおおおおあああああああああ!!!?」


突如背後からかけられた声に大声で叫びながら、証拠隠滅の為命を刈り取ることも厭わない全力の蹴りを後方へ向けて放つ。


「ふんごぉあ!?」


ズガッ! と音速で振るわれた霧裂の足は、見事に目撃者にぶち当たり、吹っ飛ばした。背後の人物の苦悶の声に、はっと自身の行動を思い出し慌てて蹴り飛ばした人物へ駆け寄る。


「すみません! 大丈夫ですか!? ってマジか」


倒れていたのは、【勇者】だった。ピクピクと痙攣しながら白目を向き、泡を吹いて倒れている。イケメンが台無しだ。そして、そんな【勇者】を一撃で撃墜した霧裂の足が着弾した部位とは。


「あっちゃ~、ヤバイなこれ」

『うぅむ、ニュー主は外道じゃな。イケメンは敵だというのは良く分かったが、何も不能にする事も無いだろうに』


股間だった。

両手で男の弱点を押さえていることから間違いないだろう。

なんというか、とても哀れだ。


南無、と手を合わせていると。


――光裁様~、どこですか~!


だんだんと大きくなっている複数の声を聞き、ヤバイヤバイと聖剣を担ぎ霧裂は飛ぶ。連れて行って貰えることが嬉しいのか、キャッキャと聖剣は楽しそうに声を上げる。


『むぉっ、不利と見るや否やプライドも何もかもほっぽり捨てて即逃げる! さすがニュー主! 我や旧主では出来ぬ事を平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!』

「テメェまじ折ってやろうか、てか何でその言葉知ってんだよ!」


そんな一本の剣と一人の少年は、背後の悲鳴に耳を塞ぎ、月夜のアヴァロンの街並みに消えていった。






『おっおー、ここが主の館か!』

「違う、や・ど・やっ!」


追跡されてないか細心の注意を払い――しかし【天より見抜く(クレアボイアント)】は使わず――宿屋に戻ってきた霧裂は、非常に疲れた様子で窓から自室に入る。


『簡素! 簡素じゃな主! まさかニュー主は貧乏なのか!? ぷーくすくす、旧主は普通にお城とかに泊まってたぞ? 哀れ哀れ、我が慰めてしんぜよう。くすくすくす』


ビキビキ額に青筋を立てるが、平常心と頭の中で繰り返し呪文のように唱え、聖剣を壁際に立てかけてからベッドに潜り込む。もう霧裂は精神的お疲れ度MAXなのだ、ハイテンションな聖剣に付き合えるほど気力は残ってない。全力で聖剣のハイテンションソプラノボイスを無視して、目を瞑る。


『主ー、こんなに早く寝るとは面白くないのー。そんなんじゃ永遠に童貞じゃぞ? 可愛そうな主、童貞が何故ばれたか疑問に思っておるな? 経験豊富で日々妄想に励んでいる我からしてみれば主が童貞だと言う事はモロバレじゃ。しかし我はそんな童貞で哀れ極まりない主の傍にずっと居てやろう。どうじゃ、嬉しいじゃろ? 何なら脱童貞の相手になってやっても構わぬ! ふっふっふっ、分かるぞ分かるぞ、今主は『お前剣なのにどうやって脱童貞出来るんだよっ』と欲望に塗れた童貞思考で考えたじゃろ? 全く持って主は、早漏は嫌われるぞ? 宜しい、主大好きっ娘な我が教えてしんぜよう。 聞いて驚けっ、なんと我は二回変身出来るのだっ! 驚いたじゃろ? 変身出来る素晴らしい剣なんぞ我だけじゃ! これで主は我を手放せんな! ふはははははははははははーっ! むむ、今失礼な主は『嘘だろ』などと考えたな? 良いだろう、ならば刮目せよっ! これが我の第二形態じゃぁぁぁぁあああああああああ!!』


そんな絶叫と共に、ビッカァァァアアアアアッ!! と聖剣が太陽の如き七色の閃光を放ち、部屋を一瞬で埋め尽くす。あの広場で輝いていた時とは比べ物にならないレベルの閃光だ。今の今までイライライライラとしながらも必死に寝ようと努力を続けていた霧裂だが、もう限界だった。


「テメェコラ! ちょっとは静かに――――って眩しい!? やばいやばい、目がー! 俺の目がぁーっ!!」


ウォラァーッ! と被っていた布団を跳ね除け起き上がった霧裂は、不用意にも聖剣が放つ膨大な閃光を直視してしまう。途端に霧裂の目に激痛が走り、視界が何か可笑しな色で埋め尽くされた。霧裂はその劈くような痛みに、某大佐のように叫びながら両目を押さえベッドから転がり落ち床の上を転げ回る。そんなのた打ち回る霧裂の前で、元凶である聖剣は可憐に笑う。


『ふははははははははははっ! 来た来た来たぁ―――――――ッ!! 滾ってきたぁぁぁあああああああッ!』


全力で楽しそうな絶叫を上げる聖剣と全力で悲痛の絶叫を上げるその主。

ドッタンバッタン暴れまわる主の視線の先で、一際閃光が大きくなった聖剣が最後のキーワードを叫ぶ。


『トランスフォォォォオオオオオオオオオオム!!』


擬音では表現できない程の莫大な閃光が溢れ出し、

そして。



◆ ◆ ◆



「くぅ、うるさい!!」


夜、静かな部屋の中で、しかし瞬谷が大きく怒鳴り声を上げる。その隣で寝ていたサリアナとその腕に抱かれたキューは、既に起きていたのか耳を両手で塞ぎ、うーうーと唸っていた。


(あーもうっ! 霧裂さんは、ちょっとはマナーを考えて欲しいよな)


夜中にバタバタと暴れ周り悲鳴を上げる霧裂に辟易としながらサリアナに一言延べ、傍に置いてあった義足を嵌めてベッドから起き上がる。この義足は少し動きづらいが、これは霧裂が十分足らずで造り出した魔道具だ。そう考えたらこの性能は破格だろう。


寝ぼけ眼を擦りながら一言文句を言ってやろうと部屋の扉を開けると、そこに鎌咲にレアルタ、宿屋の主人が揃っていた。三人とも怒り心頭と言った表情で、鎌咲に至っては武器を片手に霧裂の部屋に進行していた。


「あっ、瞬谷君。貴方も起きてたんですか」

「今起きたんですよ。それで皆も……」

「うむ、少しばかりおイタが過ぎるようであるからな」

「最悪の客だ」


口々に霧裂を貶し倒し、嘆息して霧裂の部屋へ向かう。別に一人でも良いのだろうが、レアルタと一瞬だけのアイコンタクトで瞬谷は何故レアルタや主人まで付いて来ているのかを悟る。それは、もしもの時のストッパーだ。鎌咲が暴れまわらないとも限らないので、その時は鎌咲を止めるのだ。瞬谷はふーと重く息を吐き出す。こんな事ならさっさと注意していれば良かった、と。


最悪の事態に成らない事を祈りながら霧裂の部屋へと辿り着く。すると可笑しな事に霧裂以外の声も聞こえてきた。一瞬ハクさんか? と思案した瞬谷だが、直ぐに否定する。部屋から聞こえてきているのは、聞いたことも無いソプラノボイスだからだ。そう、まるで少女のような。


「どうじゃ主、すんごいじゃろ! これが我の第二形態じゃ! ふははははははっ、ってううむ。この姿は燃費が悪いのぉ。このままじゃ十分足らずで元に戻ってしまうのじゃ。まったく、主成分じゃ! 主成分が足らんのじゃ!」

「んん? お、さまったか? 目が痛てぇよ、見えねーし。くそったれ、テメェマジふざけんな――――ってなんだ!? 何かが俺にしがみ付いている!?」

「んふふふふー、主成分補給ちゅーなのじゃー。……ハァハァ、興奮するのー興奮するのー」

「なんだ? お前一体何になった!?」

「スーパーデラックスアルティメットゴールデンメカニカルハイパーマスターエンジェルゴッド超絶美幼女様じゃ! 常人でも変態紳士への道を踏み出すほどのレベルのなぁ!! ロリコンな主はイチコロなのじゃ!」

「誰がロリコンじゃいバーロー。てか服着てんだよな? このすべすべぷにぷにとした感触はお前の閃光のせいで俺の触覚機能が壊れたからだよな!?」

「んふぅ、主中々手つきがエロイのぉ。我も負けておれんのじゃ♪」

「服着ろぉおおおおおおおおおおお!!」


暫し無言。

誰も彼もが唖然とした表情で固まっていた。もちろんそれは瞬谷も同じだ。今瞬谷の頭の中では『変態が裸幼女をさらった!!』という文字がぐるぐる回っている。どうしよう、と考えるが答えは出ず、完全に石化状態となっている鎌咲は一先ず置いておいて、ゆっくりと、絶対に気付かれないように、半ばで切れたような傷がある扉を開ける。そこには。


右手で七色の艶やかな長髪を持った裸幼女の顔面を掴み出来るだけ遠くへ離そうとしつつ、左手で目を擦りなんとか視力を回復させようとする変態と、涎を垂らしぺろぺろと小さな舌を目一杯動かして顔を掴まれている手の平を全力で舐めながら、両手を広げ抱きつかんと奮闘している変態がいた。


唖然、と今度こそ、瞬谷の思考が凍結した。

しかし、そんな中、真っ先に回復した者が一人。

死神の如き形相でニッコリと微笑む修羅が一人。


彼女は一歩部屋へと踏み込み、何も言わずにゆるりと後ろ手で扉を閉めた。閉じられた扉の前で固まっていた男三人はそろそろと顔を見合わせ。


「えぇっと、それじゃ寝ますか」

「そ、そうであるな」

「あ、ああ。それなら下の部屋へ移ると良い。あそこは一応防音対策しているからな」

「おお、ありがたいであるな」

「ええ、ありがとうございます。それじゃ行きますか」


引き攣った顔で苦笑しながら、彼等はシャルロットとキュー、それにサリアナを引き連れ下の部屋へと移る。


「うぉぉおお! なんだ敵襲か!? なんかすっごいヤバそうな殺気を感じる!」「主、鎌女じゃ! 鎌女の幽霊じゃ!! いや女の死神じゃ!!」「なに!? ってうぉあ! 斬れた、今ほっぺたから血が出てる! くっそ、今すぐ剣に戻れ早く!」「嫌じゃ、怖いのじゃー! 主の魂をやるから我だけは、我だけはどうかお情けをーッ! ぴぎゃぁぁあああああああああああ!!」「テメェ主を真っ先に売ってんじゃねーぞ!」「ふ。ぅふふふふふふふふふふふふふふふ。きィィィィィりィィィィさァァァァきィィィィおォォォォまァァァァああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」


ズダンッ! と背後で何かがぶった切れる音がした。

あれ? 鎌咲にセレーネが乗り移った!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ