-02- 神様とのご対面 幼女と爺、どっちでしょうか?
強い光。
白い空間。気を失っていた少年は、閉じたまぶた越しに浴びる光に、わずかに眉をひそめる。
寝返りをうとうとして、とある疑問にぶち当たる。
(あるぇ~、ベッドの感触が無いよ? てか服越しに何かあたってる感覚がしないんですけど。そうまるで浮いてるかのように…………UITERU!?)
ガバッと起き上がろうとして、そのまま縦に一回転する。
当然、お目目はパッチリと開いてしまっているわけで。
必然、少年の周りの景色がその目に飛び込んでくるわけで。
結果、見たことも聞いたことも無い真っ白な空間で、重力を感じさせないように浮いてると言う超常現象に、奇声を上げながら、見事にパニクッた。
「どどどどどどぉおおおおおおなってんのぉおぉおおおおおおお!!!??」
誘拐だー宇宙人に攫われたー実験動物にされるんだー、と最悪の未来を想像しガクブル震えながら必死に友好関係を築こうと色々アピールしていると、どこからともなく幼女の舌足らずな声が少年の耳に届いた。
「あぁ、やっと気付きましたか。ぶじでなにより――ってなにしてるんですか?」
「……宇宙人さんと良き隣人となるため、僕チンがどれだけ面白いかをアピールしてました」
「はぁ……そうですか。がんばってください?」
「……………………わかりました」
変顔しながら3回回ってダプルピースを繰り返していたところに、まさかの銀色の長い髪を持った美幼女降臨。事情を話したら分かってくれた様だが何故か応援され、あれ? もしかしてこれまだ続けなくちゃいけないんでせう? と泣く泣くさっきより数段レヴェルが高い羞恥プレイを再開。それは美幼女が少年の涙と鼻水で彩られ、半分魂が抜け落ちたような顔に気付き慌てて止めるまで続いた。
「あ~と……おちつきましたか?」
「ダイジョウブダヨ、シンパイシテクレテアリガトネ。アハハハハハ」
「はぁ、そうですか……」
プライドとか色々粉砕されたようで、もう怖いもんはねー! いやホントに……、と決意を新たにした所で、一先ず疑問を解消するべく、美幼女に話しかける。
「あの少し質問を――――」
「――――聞きたいことはあるとおもいますが、まずは私のはなしを聞いてください」
「あ、はい」
「それでは……私は神さまなんです。それでまちがってあなたを殺してしまいました、てへぺろ、おわびにチートのうりょくあげるので、私の世界で第二のじんせいをあゆんでください!!」
何だか無い胸を張ったり土下座をしたりテヘペロしたりちんまい拳握って演説したりと忙しい美幼女だなぁ、と少年は微笑ましい光景にうんうんと頷き心の中で感想を入れる。
ただ幼女口調がいかせん分かり辛く、仕方なく頭の中で組み立てみる。
つまりは幼女はこう言いたいらしい。
私神様。俺間違いで死亡。チートあげるから私の世界で楽しんできて。テヘペロ。
で、少年の感想は、
「え、ふざけてんの?」
「ごごごごごごごめんなさい」
どうやらふざけていないらしい。クシャリと顔を歪めて、慌てて見事な土下座をした。この空中の様な場所でよく土下座なんてできるなぁ、と美幼女が自分に土下座しているという100が100人警察に通報するであろう光景を前に、少年は現実逃避を開始した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ……」
が、返事が無いのを怒っていると勘違いしたらしい自称神ちゃま美幼女が涙声で謝罪を繰り返す。これはまずいと少年もすぐに現実を見つめなおし、美幼女に起き上がるよう言う。少年に美幼女から謝られて興奮するような性癖は無いし、そもそも生前に未練はない。あるとすれば義妹だが、彼女は美少女だ。一緒に街を歩けば100%嫉妬に駆られた男共に絡まれる程に。だから心配はしていない。すぐに彼氏でも作るだろうと考えて。そして何より少年は思う。この状況で、自分をミスで死なせた事を怒れる奴は勇者だ、と。
「まぁ双方落ち着いたところで話をしたいんだけど……良いかな?」
「はい、だいじょうぶです」
「あ、そう。なら聞きたいんだけど……俺がミスって死んだってマジ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ……」
「わかった! わかったから! はぁ、ちなみにどんなミスを?」
「あう……く、くしゃみをしてしまって……」
「消えたと? 俺の命の炎が消えてしまったと!?」
「あうあう、そのとおりです」
アハハハハハくしゃみって……、とガックリと肩を落とす。今更ながら、少年はあの幽体時の記憶を思い出し、くしゃみで死亡って結構な苦痛がともなうっぽいな、などと記憶にあるマイボディの大健闘を思い出し考える。
それはともかく、死んでしまったのならウダウダ考えても仕方が無い。チートというオマケ付きで転生させてくれるのだ。美幼女の言うとおり第二の人生を楽しむにあたって、どんなチートが良いか少年はリサーチする事にする。
「えっと、君の世界に転生させてくれるらしいけど、どんな世界?」
「ファンタジーな世界です!」
(しっかしファンタジーと来たか。う~むテンプレ。魔法とかもあるだろうけど、魔王とか居たりして)
「あの、魔王とか居るの?」
「あ、だいじょうぶです。そんなのいません。へいわな世界です」
そう言った美幼女は、わずかに顔を顰めるが、少年は気付かず質問を続ける。
「へぇ~。ちなみに魔法は……」
「あるにはありますけど、使えるのはまものとあじんだけですね」
「え、嘘! 人間ってどうしてるの?」
「人間、こちらでいうひとぞくは、まどうぐなるものをはつめいしています」
「そうなんだ。……亜人に対する人族の態度は?」
「うぅ、絶対人族主義です。ちょっとむかしに戦争があって、あじんの数がいっぱいへりました」
「そっか。それじゃぁ――――――」
その後も着々と情報を集めていく。時々影が差す、美幼女の表情には気付かない。ファンタジー世界へチート付きで転生という俺TUEEEEEEな展開を夢見て、テンションが急上昇中のためだ。
しかし途中から段々とテンションが下がっていき、考えを改める。美幼女は平和な世界だと言ったが、聞く限りではとても危険な世界だ。チートをあげると言われてなかったら即座に成仏を願うだろう。
少年は聞いた情報を基に考える。これは戦闘系のチートは止めた方が良いんじゃない? と。しばらく悩み、心を決める。
「よし決めた! 俺が欲しいチートは生産チートだ! 創造ってのは無理らしいから、材料さえあれば何でも造れるってヤツね」
「せいさんチートですか?」
また影が差す。もし気付いていたら驚いたであろう。その顔には怒りがあったから。
「そ、生産チート。金持ちハーレムルートを俺は目指す!」
「は、はぁ。でも本当にいいんですか? へんこうできませんよ?」
「良いの良いの。神の武器とかも造れる様にしてくれ」
「神のぶきなんて……最低でも世界をほろぼすような、化物がざいりょうですよ?」
「わかってるって。ささ、早く!」
「はぁわかりました……ではさよなら」
「おう、じゃあな」
美幼女が少年に指を向ける。すると段々と少年の輪郭が薄れて行き、消えた。薄れ行く意識の中で、美幼女の顔がゆがんだように見えた。とてもとても、恐ろしく。
◆ ◆ ◆
少年が消えたのを確認して、溜息をつきながら美幼女は吐き捨てる。
「ちっ、やっと行ったか。あーあ、生産チートとか今回のはハズレだったかな」
美しい銀の髪を掻き毟る。口から出る声はさっきまでの舌足らずな声ではなく、しっかりとした、心の中から冷え込むような声。全くの別人と言われても信じるだろう。
「ま、考えても仕方ないし。『次』行こうかな」
目を閉じ開くと、そこは暗闇が広がっていた。先程居た場所とは全く違う空間。やはりそこにも足場は無く、宙に浮き指を鳴らす。パンと音が響き渡ると同時、暗闇の中に数百、数万、数億の小さな火の玉が現れる。
否、火の玉ではない。それは蝋燭の火。長さ、太さがバラバラの蝋燭には、様々な文字が刻まれていた。まるで名前のような文字が。その蝋燭を見渡しながら神は頭を悩ます。
「次はどれにしようかな~っと。決めた、これにしよっと」
そう言って、気軽に、本当に何でも無さそうに、1つの蝋燭の火を吹き消した。
死んだ。
今、まさに神が蝋燭の火を消した瞬間、その寿命を全うすることなく、理不尽に唐突に1つの生命が消えた。それでも神の表情に罪悪感などは浮かばない。とても楽しそうに、もう一度指を鳴らし、空中に声をかける。
「あ、閻魔~? 今1人死んだと思うから私の所に寄越してね~。どいつかわかんでしょ、閻魔帳にのってないんだし。じゃ、そ言うことで~よろしく!」
『あ、あの創造神様、さすがにお戯れが過ぎるかと……バ、バランスが、地球が崩壊してしまいます……』
神とは別に、もう1つ声が響く。声からして男のようだ。とても弱弱しい声なのに、ズンと重みを持っているところを見ると、かなり力のある存在なのだろう。しかし、小さな幼女の姿をした神は、怯えることなく、むしろ怒りを露にする。
「あぁん、閻魔ぁ~。アンタ如きが私に口答えしてんじゃねーよ、滅ぼすぞ」
『すすすすすすすみません! ご無礼をお許しください! い、今直ぐ魂をそちらにお送りします!』
「ちっ、さっさとしろ。それで最後だからよ」
『は、はい! 只今!』
それを最後に、声が途切れる。男の最後の声は、恐怖を含んでいたが、それでも『最後』という言葉に、安心していた。神は、再びあの白い空間に戻ってくる。そこには1人の少女が居た。美少女だ。真っ白な長髪は遺伝だろうか? 目は閉じていて分からないが、ぷっくらとした桜色の唇に、スベスベの肌。もし彼氏とともに街を歩けば100%嫉妬に駆られた男共に絡まれる事となるだろう。
そんな少女は、気を失っているようで動かない。少女に神は徐に近づき、記憶を除く。
「ふ~む。義兄以外の異性は嫌いか……なら大人な女性で行くかね」
そう言って、神の体を光が包む。その光が収まった後、そこには美幼女の姿は無く、グラマーな女性が居た。
「ふふん。見た目で簡単に警戒心を解くんだもんな。外見など記号でしかないってね」
某鋼の漫画に出てくるセリフを言いながらにこやかに、少女を見る。
神はつまらなかった。神が造りだした世界は今、平和に満ちている。それがつまらなかった。昔にもそう言う事があり、それを解消しようと魔獣を生み出したが、魔道具と言う対抗策が発明されてからまた平和の時が訪れる。しかたなく亜人を造りだした。その亜人と人との戦争は最高だったが、それも終わってしまった。また平和になった。つまらない。
神は考えて魔獣の数を大幅に増やし、その危険度も上げたが、それでもいつかは平和になる。だから考え、思いついた。別の世界からつれてこよう。反則の力を与えて。
直ぐに実行に移した。その数およそ、33。全員が反則級の力を持っている。楽しみだ。
神は楽しみだった。
彼らは一体どんな事をして私を楽しませてくれるだろう?
少女がゆっくりと、目を覚ます。
さぁ言え。お前の願望を。欲望を。野望を。
全て叶えてやろう。
その代わり、私を楽しませろ。
この世界をメチャクチャにしてくれ……。
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