-閑話- 復讐者の双眸に灯る黒き炎
滅茶苦茶短いです。前回も短かったのに、さらに短いとかorz
まぁだからこんなに早く更新できたんだけど
とある街のギルド地下。そこに数人の冒険者とギルド職員が居た。彼等は中心の机に大きな地図を広げ、互いに情報を交換していた。交換している情報は、亜人について。もしくは世界最大の犯罪者【魔女】について。
今現在、人族は【三帝】という化物に直面している。その為SS級冒険者も含め、全ての冒険者が王都及び神殿の警護に当たらなければならない。しかし、それはあくまで表向き。全ての冒険者を王都へや神殿に集中させれば、確かに【三帝】は退ける事が可能だろうが、この好機を亜人たちが見逃すとは思えない。表向き、亜人との戦争は人族の勝利で幕を下ろしたが、【魔女】と言う巨大な敵を中心に再び亜人が集まりだしている。いつ再び戦争が起こっても可笑しくないのだ。そんな戦争を未然に防ぐため、彼等はこうして集まり、情報を提示、交換していた。
そんな中、一人壁際に立つ冒険者が居た。全身を翠色一色の服でコーディネートし、肩辺りで切りそろえられた翠色の艶やかな髪の前髪は額を全て見せるように後ろに流し、左右の耳たぶにはイヤリングが下げられている。胸は控えめで背も百五十センチ程と小柄。しかし、その背には身の丈を大きく越す百九十センチ大の大剣が下げられていた。
情報を交換し合う冒険者達をその冷たい光を灯す翠の双眸で見つめ、耳を立て聞き漏らさないように注意しながら、しかし一言も喋らず一歩も動かない。
そんな彼女に冒険者達も気付いているが、何も言う事は無い。当然だ。何故なら彼女は、冒険者否人族最高峰、SS級冒険者の一人、【葬送】なのだから。人族最強と称される彼女に、しかし果敢にも声をかける人物が居た。
冒険者達はその声をかけた人物に驚きの視線を向けるが、すぐにその目を逸らす。理由は簡単だ。声をかけた人物、彼もまた人族最強の一角。SS級冒険者の一人。亜人殺しと異名を取るほど執拗に亜人を狙う、二つ名を【聖騎士】。腰まであるであろう黒の長髪を持ち、その身を白銀の鎧に包んだ柔和な表情を浮かべる好青年は、一見【聖騎士】の名に相応しい様に思える。
だが、【葬送】が近づいてくる【聖騎士】に視線を向け、その後直ぐに身に着けている鎧へと動かした。
恐らく初めは太陽の光で光り輝く白銀の鎧だったのだろう。表面上は変わらず白銀の鎧に見えるそれは、しかし血に塗れ油で汚れた殺人者の鎧へと変貌している。拭っても拭いきれぬ死臭がその証拠。顔を顰める【葬送】に【聖騎士】は右手を差し伸べ握手を求める。
「【葬送】さん、でしたっけ。すみません、もし宜しければ本名を教えていただけないでしょうか? どうも二つ名と言うのは呼び辛くて……」
にこやかに話しかけてくる【聖騎士】を、【葬送】は完全に無視した。視線すら逸らし、居ない物として扱う。その【葬送】の態度に、【聖騎士】は少し驚き、苦笑しながらどうやら嫌われてしまったようだ、などと呟く。
「ふむ、貴女もここに来ていると言う事は亜人に興味がお有りのようだ。どうでしょう、私が亜人の情報を提示する代わりに今日のお食事に付き合って頂けませんか?」
「…………」
「亜人の情報に付いてはつい最近亜人の村を一つ潰しましてね、最新ですよ。【魔女】の情報も有りますし――――」
と、ここでペラペラ喋っていた【聖騎士】の口が止まる。原因は【葬送】。その小柄な体から、莫大な殺気を振りまき冷たい双眸をさらに冷たくさせながら、静かに睨む。情報を交換していた冒険者達も口を噤む。喋れる筈が無い。今ここで不用意に口を開けば、瞬間その命が終わりを迎える事は誰もが分かっていた。
「一つだけ言う、【魔女】はアタシの獲物だ。手を出せば貴様を殺す」
「……【狂月】の様な事を言いますね」
「本気だ」
そう釘を刺し、【葬送】は背を向ける。既にここに居る意味はなくなったからだ。そんな【葬送】の背を見ながら、【聖騎士】は唇を舐める。獲物を狙う蛇の如く。
「くくくくくっ、手に入れますよ、貴女も、【魔女】も、ね。私に逆らえる者など、この世界には居ないのだから……」
◆ ◆ ◆
カツカツと音を立て、夜の街並みを歩く。夜と言ってもまだ人気は有り、そこら中で飲んだくれたちが娼婦の尻を追い回している。そんな飲んだくれの一人が、ふらふらと【葬送】を娼婦と勘違いしているのか、金を手に寄って来る。
「よぉ~譲ちゃん、おじさんの相手を――――」
そこから先は言葉に成らなかった。一瞬、【葬送】と目が合った飲んだくれは、その身から発せられた化物級の殺気に当てられ命を落としたのだ。地面に崩れ落ちる飲んだくれを、しかし回りは相手にしない。どうせ寝たかとでも思っているのだろう。そして明日の朝までは死んでいる事に気付かないのだろう。
陽気な街。危機感などまるで無く、きっとどこかの顔も知らない誰かが勝手に助けてくれるだろうと信じている。自分達の平和が幾多の犠牲の上に成り立っている事も知らず、知ろうともせず、ただ生きる。それが無性に腹が立った。
ズキリ、とこめかみに痛みが走った。刹那の瞬間、シャボン玉のように浮かんでは弾けて消える過去の記憶。忌まわしき悲劇の日。その悪夢を頭を振り消しながら、拳を強く握り締める。
「憎い」
ぎりぎりと血が滴るのも気にせず、強く固く握り締められた拳。
「亜人が憎い」
消しても消しても浮かんでくる最悪の悪夢。
「アタシの全てを奪った亜人が憎い」
冷たい光をともしていたその双眸に、憎悪の黒き焔を滾らせながら、少女は決意を言葉にする。
「これは復讐だ」
色々一度に動かそうとしすぎかも。
魔女に邪帝に聖騎士に復讐少女に三帝にサリアナの村にあと一つ。全部消化するのに一体どれだけかかるのやら(笑)