-閑話- 人の身にて神の領域に到達す
次も閑話。明日次話投稿して、明後日連続投稿したい。
まぁ多分無理だけども
海に面している王国。その右下に山脈を挟んで存在する帝国。そして王国の左下に海を挟んで存在する教国。丁度三角形の様な形でそれぞれ存在する三国の中心に、一つの大きな山がある。それこそ各国に支部を持つ、国と呼んでもおかしくない巨大組合。ギルドの総本山だ。
岩壁にいくつも入り口や窓があり、山の内部は蟻の巣のように細い道や部屋を幾つも造り入り組んでいる。そんなギルド総本山の最上部。標高九千メートルに位置する総本山ギルド長執務室。その部屋の主が悠然と、ギルド職員からの報告を聞いていた。
「確認されたのは三体。どれもこれも巨大で、恐らく神獣に匹敵するかそれ以上かと思われます。ギルドはこの三体にそれぞれ【海龍帝】、【天鳥帝】、【陸獣帝】と名を付け――――」
片膝を付き頭を垂れて手元の資料を読み上げるギルド職員の報告を聞くギルド長は、三メートルを越すであろう人とは思えないサイズをしていた。その体を覆う筋肉の塊や発せられる莫大な圧力のせいでより巨大に見える。口元は真っ白な髭で覆われその髪もまた白一色だが、老人とは思えずそこらの若い人よりも身に気力が充実していた。だが、この男の年齢は百五十歳、もはや人ではない。
「その中でも【海龍帝】は王都へ【天鳥帝】は神殿へ真っ直ぐ向かっている事から、王都及び神殿付近に居る冒険者ならびにSS級冒険者へ緊急招集をかけ、さらに帝国の【剣聖】や現在王国付近で確認された【豪商】などに協力を要請し対策を――――」
報告を続けるギルド職員の声には焦りが見え、事実この総本山内部は過去類を見ないほど慌しい。当然だ、神獣に匹敵するかそれ以上の力を持つ化物が、王都、神殿と言う三大国家の王国、教国の中心部へ殴り込みをかけ様としているのだから。すぐ傍まで、災害が迫っていた。
「報告は以上です」
「ふむ……、【剣聖】への協力要請は儂がして置こう。【豪商】は恐らく承諾してくれるだろう。王都には確か【勇者】の他に【死神】が居ったな?」
「え、ええ。ですがあの【死神】ですし、王都は今【魔王】や【狂月】、【瞬王】など幾つか問題がありますが」
「構わぬ。彼奴等も一度はSS級になった身。そも、【狂月】はあの程度の事なら過去に何度か起こして居ろう?」
ギルド長の言うとおり、【狂月】の二つ名の由来は気に入らない冒険者やギルド職員を殺したからだ。しかし今までは殺したとしても、同時に功績を立てていた為見逃していたが、今回は功績を立てるどころか敗北した為、今までの恨みなどを持ったギルド職員達が除名にしたのだ。
「SS級にまで這い上がった小僧共はいずれも人格破綻者ばかり 。賞金首とさほど変わらん彼奴も居るわ、一々気にしちゃ居れん」
そう断言したギルド長を見上げながらギルド職員は思う。
今目の前にいるこの男こそ、歴史上最大の人格破綻者だと。
『彼は、「人」では無い』
それが冒険者、否、世界中の人族の総意だった。ゆえに、SS級冒険者が人族最強と言う名を与えられているのだ。彼は人ではなく、生きながらに神の領域に到達した、人外の生物なのだから。
人族最強とされるのが【死神】、【神槍】、【聖騎士】、【天帝】、【道化】、【城塞】、【舞姫】、【葬送】、【閃影】、【孤陽】、【爆天地】の二つ名を冠する総勢11名のSS級冒険者。
全生物最強とされるのが【生神】、【怪物】、【冥王】、【無敵】、【最強】、【神人】、【神王】、【神帝】、【神皇】、【神災】、【絶対神】など、数多の二つ名を冠する天上天下唯我独尊絶対無敵最強王者、生態系の頂点に君臨する者、総本山ギルド長、名をレーモンド=ベツレヘム。
幾ら利益があるといっても、ギルドなどと言う国でもない組合が巨大な戦力を有しているのに、国々が強くギルド廃止を呼びかけられない最大の理由が、総本山ギルド長の存在。
『力こそ全て』
まさにその言葉を体現しているかのような人物。
そんな人外が目の前にいると言うだけでギルド職員の平凡な心臓は爆発しそうだ。一言一言何気なく喋るだけで莫大な重圧が襲う。口を開くたびにギルド職員の寿命が削られて行く様な、死へ一歩一歩踏み出すような、そんな錯覚すら覚える。
「ふむ、話は終わりだ。客も待たせておるのでな、下がれ」
「はっ」
深々と頭を下げ、内心安堵の溜息を吐きながら執務室を退室した。退室したギルド職員のほんの数分で数年分も年を取ったような顔を見て、他のギルド職員は総じて哀れみの視線を送っていた。
ギルド職員が退室して僅か数分、ギルド長執務室の扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのは二人。片方は赤い髪を背に垂らし、ぴっちりとした監視員の制服を着こなした二十代前半の美女。胸についている二つの超爆弾が良く揺れる。
もう片方は見る者が見れば分かる黒の長ランを着込み、両手には包帯が雁字搦めに巻かれている。黒の髪は短く切りそろえられ、顔の右目に大きく走る一本の切り傷。そして何よりその顔に表れている『私は不機嫌ですっ』といった表情やそれに呼応するかのように全身から立ち上る紅蓮の謎のエネルギーが猛獣のような印象を与えていた。
「で? おっさんかよ、面倒な事にオレをここに呼び出したのは」
「うむ、その通りだ」
生物系の頂点に君臨するレーモンドを前にしてもこの傍若無人な態度。男の背後に控える美女はあわあわと落ち着きが無いが、それが普通なのだ。目の前で鋭い眼光を向ける男こそ異常。
「かっ! 面倒だ、さっさと言えや」
「なに、たいした事ではないわ。主に……SS級の称号を受け取って貰いたくてな」
「……ちっ、本気で言ってんだとしたら面倒だ。断るぜ」
「理由を聞きこうか」
「オレァあの場所の生活を気にってんだ。面倒な事に首を突っ込む積もりは無ぇよ」
男が言う『あの場所』とは非合法奴隷闘技場だろう。何故なら、今悠然と立っている男は、違法奴隷商人に奴隷にされ奴隷闘技場に連れて行かれ、前代未聞の五千連勝無敗の記録を打ち立てた化物、【拳聖】なのだから。
「あそこは良いぜ、面倒はねーし旨い酒もあるわ贅沢な生活もできるわ、何より良い女がいる」
【拳聖】の何気ない言葉に若干頬を朱に染める美女。そんな二人を見ていたギルド長は目を細め、
「その良い女とやらが囚われる事になるかもしれんが――――」
直後の出来事だった。
ギルド長の言葉を遮る様に、【拳聖】の体からゴッバッ! と正体不明の力が際限なく広がり執務室を瞬く間に埋め尽くした。それと同時に【拳聖】からそれだけで人を殺す事が可能であろう圧倒的な殺意が溢れ出しギルド長に殺到する。【拳聖】は一歩踏み出し、
「続き、言えよ。面倒だが、手前を今ここで、潰してやるよ」
潰すとは言葉の通りの意味。ギルド長が先の言葉を最後まで口にすると同時に、【拳聖】は躊躇いも無く、上から下へ、空き缶の様に叩き潰すだろう。それが可能な力を【拳聖】は持っている。
そんな【拳聖】の殺気を受けても物ともせず、ギルド長は悠々と――――その身から対抗する様に殺気を噴出する。
「小僧、最後まで話を聞かんか。……早死にするぞ」
化物と化物のぶつかり合い。拳を交差させる事無く、ただ威圧重圧殺気殺意、目に見えぬ力のみで、相手を屈服させようとぶつかり合う。当然どちらも譲らず、激突する力の余波は、縦横無尽に執務室を駆け巡る。そして、その余波は、この中で唯一普通の人である美女にも直撃し、一瞬でその意識を刈り取った。
「ッ!!」
プツン、と糸が切れた操り人形のように、一切の予備動作無しに崩れ落ちた美女に、【拳聖】は漸く殺気の放出を止め駆け寄る。そこでギルド長も力を抜き、椅子に深々と座りなおす。
「ふむ、では話の続きでもするか。主の力は巨大だ、しかしながら未だどの組織にも属しておらん。ゆえに当然の如く羽蟲共が甘い蜜を吸おうと主に群がってくる。既に三大国は主の獲得に動いとる。遅すぎるぐらいだ」
「その為の切り札が、面倒な事にコイツって事かよ」
「その通り。三大国から逃れる方法はただ一つ、我々ギルドに所属する事だ」
「面倒だ、群がる蝿を潰せば済むだろうが」
「それでは解決にはならん。なに、ギルドは『自由』の信念の下動いとる、強制するような事はまずない」
レーモンドの言葉を聞き、暫しの間思案する【拳聖】だが、何分頭ではなく拳で語るタイプの【拳聖】は、幾ら頭を捻ろうと良策が浮かんで来る筈も無い。仕方無しに息を吐き出し、
「ちっ、SS級だったか? 面倒だが受けてやるよ」
その返事にレーモンドは満足そうに頷き、ギルドカードを渡す。既に血の採取は奴隷時代に行っていた。ギルドカードを受け取り、美女を抱え外へと足を向ける【拳聖】にレーモンドは思い出したとばかりに声をかける。
「そう言えば、今は緊急時でな。今すぐ教国の神殿に向かってくれるか」
「……確か強制する事はないんじゃなかったか?」
「『まず無い』と言っただろう? 絶対無いとは言ってないわ」
飄々と言うレーモンドに、ビキビキ青筋を立てながら【拳聖】は殺気を放出し、諦めた様に呟く。
「くそったれが……全く持って、面倒だ」
現在天然チート組最強キャラ登場。あくまで現在、後々逆転劇は可能性大。まぁレーモンドさんの未来は既に決まってんですけどね。
あと【拳聖】が『面倒』を連呼してますが、これはそう言うキャラだと思ってください。何かそんな感じで口癖とか入れてかないと分かんなくなっちゃうんですよ、誰が誰だか。でも口癖とか考えるのメンドイ。