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S  作者: ぼーし
閑章 その時各地で
34/62

-閑話- 破壊の主と天使は堕天使に

とある森の中、その木の枝に一人の男が座っていた。風は無く、さえずる小鳥も居ない。不気味なほど静かな森の中で男はカタカタと震えながら、只管待っていた。男は、凡そ二十才、身長百七十センチほどで上下に皮の鎧を身に付け腰には一振りの刃渡り八十センチほどの剣を下げている。そんな見た目は戦闘準備万全の男が待っているものとは、つい先日男の村に、一人の商人が教えてくれた化物である。


商人が言うには、全長十メートルを優に超す巨大な肉体に、四肢は木々が纏められた様に太く、その獰猛な顔には上下四つの牙があり、五つの目を持つ化物は、真っ直ぐに男の村へ進んでいると言う。それを聞いた村人はパニックだ。急いでギルドへ救難信号を発したものの、恐らく間に合わない。商人は村人へ非難するように提案したが、村人は生まれ育った故郷を捨てるのを嫌がった。そして、それは男の妻も同じだった。


男は転生者だった。地球の日本と言う場所では、中学の時に母が死に、そのまま不登校。高校へ通わず、何とかなる、と楽観視しズルズルと働きもせず、部屋に引きこもり男の趣味であったネット小説を読み漁る日々。男の好きなジャンルは異世界トリップモノ。こんな事は現実では起こる筈が無いと頭では分かっていたが、それでも毎晩異世界を夢見る男に、ある日転機が訪れた。


異世界転生である。夢見た異世界トリップとはちょっと違うが、それでも充分だった。男は地球で死に、神と名乗る美女に出会い、チートを受け取り異世界へ渡った。何もかも男が思い描いた王道ファンタジー。夢が叶った男は狂喜乱舞し、直ぐに冒険者となった。小説では冒険者となった主人公が、色々な壁を乗り越え、ハーレムを作り上げ、英雄と呼ばれる。男もそんな主人公になりたくて、冒険者となり、その最初の依頼で。


――――異世界の現実を思い知った。


男が選んだ依頼はオークの討伐。ランクはD。男がギリギリ受けられる依頼だった。オークはDランクの依頼の中でも、最も難しい依頼とされ、新人潰しとも言われる魔物だ。当然ギルド職員は男を止めたが、男は聞く耳を持たず、意気揚々とオーク討伐へと乗り出した。


歩く事数時間、森の中で男は初めて見る魔物に、ガクガクと体を震わせ失禁した。恐怖したのだ。オークの体から発せられる殺気に失禁し、その凶悪な顔を見て涙を流す。貰ったチートの事など頭から消し飛び、ただ魔物相手に見っとも無く命乞いをし、オークの一撃で意識を刈り取られた。


次に目を覚ました時男が初めに見たのは、少女の顔。これと言って特徴が無く、何処にでも居そうな量産型の平凡な少女。その少女に、男は惚れた。オークという異常を見た後に、目にした平凡に、男は心の底から安心したのだ。それから男の人生が変わる。男は冒険者ギルドを脱退し、少女の村に住み着くことになった。村の住民は極めて好意的で、直ぐに男の事も受け入れられ、そのまま居座った男は、念願かなってその村娘と結婚した。


そんな最愛の妻と共に平凡に平和に暮らしていく事を決意した矢先に、この化物騒ぎ。当然男は逃げる事に賛成したが、妻は頑として村に居座る事を譲らなかった。それは村人も同じであった。誰もが村の為に戦う事を決したのを見て、男もまた決意する。神から授かったチートを使う時が来た、と。男の臆病は変わっていない。また化物の前に立てば気絶するかもしれない。しかし、男は手に入れた幸せを守るために、一度折れた足で、再び立ち上がった。


男は村人に己の力を見せ、自分の手で狩る事を告げる。妻は男を心配したが、男は笑って安心させ、そして現在、村人全ての期待を一身に背負い、その化物の到来を木の上で待っていた。


息を潜め、今か今かと待ち続けた男は、微かに感じた。

地鳴りの音と、地震の様な揺れを。


(来たッ! 逃げるな、俺! デリアは俺が守るんだ!)


必死に自身を鼓舞し、ギュゥと剣の柄を握り締める。

そして現れる、化物。名を【陸獣帝】。

高さは十五メートルほど有るだろうか。聞いていた通り、顔にある五つの瞳をギョロギョロと動かしながら、一歩一歩近づいてくる。もう気付いているだろうか。それともまだ気付かれていないのか。もし気付かれているのならば、どうなるのだろうか。


男は直感する。アレは到底人では勝てない化物だと。しかし、逃げる事は許されない。逃げ出そうとする足を必死に押さえ、ガチガチとなる歯を食いしばり、ギロリと精一杯の力を込めて睨み付けた男は、神から授かった力を、皆を守るための力の名を叫ぶ。


「【我天使也(ミカエル)】ッ!!」


バサッと男の背から一対の翼が広がる。燦燦と輝く太陽の様な光を宿した二枚の白き翼は、天使のような神々しさを感じさせる。白き翼は、一気に大空へと羽ばたく。それと同時に、男の頭上に白き光を携える、円状のリングが現れた。大きくなったり小さくなったりと絶えず形を変える天使の輪は、翼と共に、より一層輝く。それはまるで、漸く使われる喜びを表現している様だった。


「行くぞ化物。お前を殺す!」


有言実行。言葉に表し、覚悟を固めた男は、腰の剣を右手で抜き、左手を前に出し、まるで矢でも引くように手前に動かす。ズズズズズ、と左手に集まった光は輝く弓となり、剣に集まった光は神々しい矢となる。男は化物の顔面ど真ん中に狙いを定め、そして、全てを貫かんばかりに力強く輝く光の矢を、全力で射る。


轟ッ! と空気を裂き、音速を超えた光の矢は、寸分狂わず化物の顔面に吸い込まれた。額を貫き、矢の全てが体内に埋まった直後、ドッ! と矢が化物の体内で爆散した。光を纏った矢の欠片は、それ自体が驚くほど強力な殺傷能力を持った、一つの武器と化す。その数凡そ、四百五十六。全ての破片は化物の体内に突き刺さり、男は勝利を確信した。


「勝った! どうだ化物、これが俺の力だ!」


両手を挙げ、喜びを露にする男の目の前で、しかし化物は悠然と、その四肢で大地に立っていた。一切揺らぎもせず、その五つの目は男の姿を捕らえて放さず、静かに、ゆるりとその大きな、大きな口を開ける。ビキリと避けた口に中には、三段に分けられた巨大な歯が並び、口同様に舌もでかく、見ていて気持ちの良い物ではない。その口に、黒く黒く黒く全てを飲み込む絶大な力が収束されていく。


と、ここで漸く男も化物の様子に気付く、しかしそれはあまりに遅すぎた。口の中に停滞する漆黒の球体は、ブラックホールのように空気や大地を吸い込み、力を増していく。

そして、森羅万象、この世に存在する、どんな物質も無に帰す、破壊のみを凝縮した、『力』が解き放たれた。


音は無かった。何も存在しない。ただ高速で飛来する『破壊』に触れた物は存在する事を許されず、削り取るように男に迫り、その象徴である光り輝く左翼を奪った。


「は?」


左翼を失った男は当然地に落ちる。翼を失い、飛ぶ術を失った天使に迫る、破壊の主。ひっと息を吸い込み、落下中にも拘らず完璧なボディーバランスで光を収束、矢を放つ。光の矢は化物に当たる寸前、爆散し数千の矢となり降り注いだ。一本一本が必殺の域に達した光の矢は、しかし化物の皮膚に呆気なく弾かれる。


〔■■■■■■■■――――――ッ!!!〕


口から発せられる、音の塊。それは衝撃波となり男の体を吹き飛ばす。ドッ! と砲弾のように弾かれ飛ぶ男は、クレーターを作り地に沈んだ。ビクッと体が動き、同時に目、鼻、口、耳から血が吹き出す。光の翼は折れ曲がり、天使の輪は歪に歪んでいる。右手、左足は間接部分が逆方向を向き、右腕は二の腕の辺りから無い。満身創痍、直接攻撃を喰らったわけではない。ただの咆哮がこの威力。


男は相対したとき直感で分かった事を、再確認する。

この化物は、人に勝てる存在では無い。


口からごぼりと血の塊をはきながら、男は自身の人生が終わる事を悟った。体は麻痺したように動かず痛みを感じない。それゆえか、死の恐怖は無く、思い描くのは最愛の人。


「あぁ、デリア。逃げろ……」


悠々と近づく化物は、口を大きく開ける。その口に集まる破壊。男に死を齎すモノ。先程のモノと比べると半分程度の大きさだが、それでも男を殺すのには充分。充分すぎる。男は静かに双眸を閉じ、最後まで最愛の人を思い浮かべながら、その人生に幕を下ろそうとして――――声を聞いた。人の声には間違いないのだが、どこか寒気を覚える、音を。



「獣の分際でェ、俺のエモノ(・・・)を横取りしようナンザ百年早ーんだよォ」



破壊の力は男に降り注がず、代わりに轟音を聞いた。驚き見開いた男の目に映ったのは、シンプルな黒の学生服を着て、長くも無いし短くも無いといった普通の長さの黒髪に、真っ黒な双眸の少年が化物の下顎を蹴り上げ強制的に口を閉じさせている姿。一見、普通の日本人の高校生にしか見えないその少年を見て、男を恐怖する。化物にすら最後は恐怖せず、死を受け入れた男は、目の前のこれと言って特徴の無い少年に、心の底から震え上がる。


何故かは分からないが、男は人の姿をしたナニカに恐怖した。


ボバッ! と化物の口の中で破壊が炸裂した。少年はにこやかに笑いながら、化物に言う。


「キョーイクしてやるよォ。家畜は家畜らしく、生きるって事をなァ」


ズッと少年から圧力が発せられる。殺気ではない、全てをひれ伏させる、力の余波。呆然と見つめる男の前で、少年の体から、オーラが立ち昇る。『闘気』だ。『闘気』は全てを混ぜ合わせたような、混沌を錯覚させる。


「くっは。良かッたじャねェか。俺はよォ、つい最近ちョッとばかしツェーヤツと戦ってなァ。『闘気』ってのをマスターしたんだわ。テメェがその新しくなった『闘気』の最初の生贄だ。喜べよォ、ひゃはははははははーっ!!」


ギュルリと『闘気』が変化する。立ち昇った『闘気』は一度体内へ戻る。再び塔のように昇る『闘気』は、霧。一寸先も見えない濃い霧の様な『闘気』は、天高く昇り、ボッと周囲一帯に広がった。男にも当然のように見えない。視界が塞がれた中、男は聞く。


何度も何度も連続して肉を殴る轟音を。






霧の中、少年もとい【邪帝】は両腕を広げ、友を迎え入れるように余裕綽々と地に立っていた。【邪帝】の視線の先には、此方の姿が見えていない化物の姿。ギョロギョロと五つの目玉を忙しなく動かしながら、【邪帝】の姿を探す。目の前に居ることにも気付かずに。


ニタァと笑みを濃くし、音を立てずに飛び上がる。化物の頭上まで上がった【邪帝】の右腕には渦巻く莫大な『闘気』。そこに、ゴバッと五千人分の腕力をプラスする。アハッと声が漏れ、それに気付いた化物が上を向いた直後、隕石が衝突したような爆音を立て、【邪帝】の右腕が化物の顔面に減り込んだ。


しかしまだ終わらない。次は左腕。その次は右足、また右腕、左足、頭突き、両足、右腕、左腕。ドドドドゴゴゴガガガガッ! と連続して轟音が響き渡り、着実に化物の顔が陥没していく。

と、放たれる咆哮。


〔■■■■■■――――■■■■■――――――■■■■――――ッ!!!〕


男に与えた咆哮とは違い、明確な殺意を持って放たれたソレは、


「うるせェよ。黙れ、ブーブーブーブー鳴いてんじャねェぞ」


しかし【邪帝】の前では無意味。直後に轟音が鳴り響き強制的に止められる。くるくると回転しながら地に降り立った【邪帝】はニタニタと笑いながら、クイッと指を曲げる。明確な挑発。化物はそれを見て、しかし怒り狂わずに、冷静に地面に立てた爪を伸ばし、地の下から【邪帝】を狙う。同時に背からは膨大な触手を生やし、口には莫大な破壊の渦。


【邪帝】は舌で唇を舐め、両足に力を込めたところで、背後から一本の爪が襲い掛かる。音もなく、殺気も無く、完全な人体の死角を付いたその必殺の一撃は――――バシッと片手で止められた。


「バカかテメェ。ま、家畜だからなァ。今周囲にあるのは俺の『闘気』だぜ? 体の一部みたいなもんだ」


そこで区切り、【邪帝】は、つまりと。


「俺に死角は、ねェ」


視覚を奪うと同時に、死角を無くす。誰にでも出来る事ではない。類稀ぬ戦闘センス、圧倒的な力への渇望、そして神から授かった【魂肉吸収(チート)】。その三つがそろった【邪帝】だけの、『闘気』の使い方。


破壊は解き放たれるが、かすりもせず、数万の触手は全て拳によって塵と化す。そこにあるのは決して超える事の出来ない、力の壁。


弱者は苦し紛れに咆哮し、強者は楽しそうに高らかに嗤う。


勝負は驚くほど呆気なく、終結を迎えた。






男の耳に届くのは、虐殺が行われている音だけ。それが堪らなく恐怖を煽る。何も見え無い霧の中、一体どうなっているのか把握できず、ただただ恐怖に身を震わせる男の耳に、不意に音が途絶え聞こえなくなった。あんな音でもいざ聞こえなくなると不安になるもので、ガタガタと恐怖する男の目の前が急に晴れる。


そして男の目に映ったのは、全身を血に染めたあの少年と、その足下にグチャグチャな死体と成って横たわる化物。勝ったのだ。少年は、あの破壊の主に。少年は、舌打ちし、憎憎しげに言う。


「無駄な運動したじャねェか。テメェら魔物は喰えねェからメンドクセェんだよォ」


喰うとは一体どう言う事か。意味は分からないが、それでも男は安堵した。もう少年に恐怖はしていない。ただ生き残った事に安堵し、礼を言おうと少年を改めて見て――――絶句する。

ジッと冷たい双眸で男を見つめる少年は、楽しそうに嗤いながら言う。


「――――助かったと、助けが来たと、助けてくれたと、救世主だとォ。そう思ッたかァ?」


そうだ。この感覚だ。男は再び目の前の少年を初めて見た時の感覚を思い出す。


恐怖。


少年はグチャリと顔の皮膚を歪め、


「ちげェよォ」


男の希望をへし折る。

男は気付く、今目の前にいるのは人ではない。人の形をした、別のナニカ。

悪意の様なモノが『人』と言う袋に無理やり詰められたような歪なモノ。

何も変わらない。そう結局あの時悟った事は間違いではない。

男の人生はここで終わる。


「俺はただのクソッタレな略奪者だ! 勘違いしてんじャねェぞッ! ぎャははははははははははッ!!」


目の前の少年は自分の事を略奪者だと言った。

ならば何を奪うのか。

決まっている。


命。   


「嫌だ。死にたくない、死にたくない、……」


先程は死を受け入れたが彼だが、助かるかもと希望を持った直後に堕とされる死と言う恐怖に、絶望する。死にたくなかった。助かったと思ったのに。こんな事になるのだったら化物に殺されたほうがまだマシだった。

そんな男の絶望の表情を見て、【邪帝】は笑みを濃くした。


「良いねェその表情。絶望して死ねッ!」


約三十分にも渡る拷問の末、男の体を闇が覆った。






ふわふわと、【邪帝】は目の前を浮かぶ金色に輝く火の玉を見る。それは魂。転生者の、神の力を宿した魂。見るだけで分かる、これは今迄の魂とは比べ物になら無い力を持っている。これを喰えば、求めている『力』に近づく。ニタァと歯を見せ笑い、喰らおうとした所で、創造神の言葉が蘇る。


『神の力は絶大よ。取り込めば力を得ると同時に、その身が破滅に一歩近づく。「人」の体で耐えれる限界をアナタ達に渡しているのだから、それを超えて得ようとすれば、最悪、崩壊する。それでも良い?』

『関係ねェ。力が手に入るなら何でもしてやるよォ』

『ふーん。……、一つ聞くけど、貴方は何故力を求めるの?』

『理由何ざねェよ』

『私に嘘は言わない事ね。知ってるわ、貴方が力を求める理由。それは――――』


と、そこで思考が遮断される。数十人の人間が走ってこの場所へ来たのだ。んだァ? と睨み付けると、向こうも此方に気付いたのか、その中の唯一の女性が大声で問う。


「あの人は!? あの人は何処!?」


【邪帝】は直感で気付く、この女性が言っている『あの人』とは恐らく、あの転生者の事だろう。くくくく、と嗤い、そして言う。


「居るぜェ。俺の中だけどなァ。ひゃはははははははははっ!!」


頭を抑え突然嗤い出す【邪帝】に驚く彼等の前で、【邪帝】は半身になり、左腕を前に、右腕を後ろにやる。狙いを定め、力を込める。バォッ! と背から展開される、黒き二枚の翼。地に堕ちた天使の翼を広げる【邪帝】は、収束される闇を槍に形にする。投槍だ。頭上で踊る堕天使の輪は形を常に変化させ、その姿を呆然と見る村人達に、【邪帝】は言う。


「これが証拠だァ。【我堕天也(ルシファー)】」


ボッと闇の槍を投擲する。音速で飛翔する槍を避けれるはずも無く、女性の直ぐ隣に居た男の腹部を貫いた。


「え?」

「オラァ、逃げねェと死ぬぜェ!? ひゃはははひひひひひギャハハハハぎはははハハあははハハハハッ!!」


再び空気を裂きながら飛来する槍は、女性の後方に集まっていた村人の中心に被弾、爆発した。女性を除き、全ての村人は死んだ。一瞬で、呆気なく、痛みすら感じる暇も無かっただろう。ただ死んだ。気付いた時には死んでいた。


圧倒的な力による蹂躙。殲滅。それを見て、【邪帝】は狂った様に嗤う。


――そうだ、理由何ざねェ、必要ねェ。ただ、俺は、男も女も子供も老人も人族も亜人族も強者も弱者も勝者も敗者も集団も個人も全も一も善も悪も神も人もォ、全てを強制的に捻じ伏せる圧倒的な力が欲しいだけだァ。


飛び散った血肉で体を汚しながら、周りを見渡す女性に【邪帝】は近づく。


「くくくくくくくく、テメェのダンナサマのチートは最高だぜェ。亜人を喰らって魔力を手に入れたのは良いがどうにも使いこなせなくてよォ。遠距離技が欲しかったんだわ。空も飛べるみてーだし、一石二鳥ってかァ」

「あ、ああああああああああ」


ガタガタと震える女性の肩を掴み、【邪帝】は嗤う。狂ったように、楽しそうに。嗤う。ワラウ。嗤い続ける。


「最近ヌケルヤツが居なくてよォ。丁度良いわ、使わせてもらうぜ」

「い、いやぁぁぁあああああああああああああ!!」


悲痛な叫びは、しかし誰にも届かない。

ちなみに二つ名無しの少年の名は、『嘉麻瀬木矢等(かませきやら)

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