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S  作者: ぼーし
第三章 【傀儡師】編
33/62

-30-  死してなお

感想思いのほか多くて、先に誤字の方を返信させてもらってから、他の感想にも返信書くんで、返信少し遅れるかもしれません。


あと、拷問シーンの追加を叫ぶ声が多かったので、時間が空いたら-29-の後書きに拷問シーン書いときます←絶対期待しちゃダメ!

無言で城を出た霧裂は、後ろからの鎌咲の視線に耐え切れず、嘆息しながら振り返る。


「……何?」

「……貴方は本当に日本人ですか?」

「どういう意味だよ。もしかして【傀儡師】のこと言ってんなら、言わせて貰うけど、罪人が罰を受けるのは当然だろ?」


眉を顰めながら言う霧裂に鎌咲は頭を振る。

本心から言ってるから性質が悪い。


「確かにそうですね。私もまだまだあれでは生ぬるいと感じてますし」

「だったら何だよ」

「いえ、確かに生ぬるいと感じていますが、それでもやはり拷問に対する禁忌感はあるのですよ。それが貴方にはまったく見えない」


拷問に対する禁忌感。確かに、現代日本で嬉々として拷問する人間はまず居ないだろう。それと同時に、拷問を平然と受け止める事ができる人間もまた居ないのでは無いだろうか。それなのに、霧裂には拷問に対する禁忌感も無ければ、罪悪感も無い。それが鎌咲は少々不気味に思えたのだが、霧裂はそれを聞き、小さく呟く。


「(……副作用か)」

「え? 何ですか?」

「何でもない」


良く聞き取れなかった鎌咲は、何度も追及するが、最終的に怒鳴られてしまった。

怒らなくても良いじゃないですか、などと呟きながら、鎌咲は瞬谷を助けに向かった。瞬谷にハクを押し付けた罪悪感があるのだろう、少し慌てて走り出す鎌咲に一応《万能薬 Ⅸ》を投げ渡し、霧裂は城門の中央に座り込む。拷問は今なお続いている様で、途切れる事の無い断末魔が響き渡る。

この後どうすっかなー、などと考えながら、騎士長が【傀儡師】の目を持ってくるのを待っていると、何かが高速で接近してくるのに気付いた。一瞬身構えた霧裂だが、その気配がとても慣れ親しんだ物であり、さらには殺気も感じられなかったので、両手を広げ友を迎えた。


「お帰りハク。目は覚めたか」

《オーマ……。ああ、済まなかったな、あのような屑に操られるとは俺様もまだまだだ》


神獣ハクは、何時もと変わらぬ姿で、霧裂の前に今度は友として姿を現した。その事に心の底からほっとする。どうやら気付いていない内に、ハクを操られた事でかなりストレスが溜まっていた様だ。心配事の一つが解消され、僅かに心が軽くなったような感じさえする。鎌咲はすれ違いかと無駄足に終わる事を少々哀れに思いながら、そこでそう言えばとやっと瞬谷のことに頭が回る。


定位置でキューが『お帰りー』と一鳴きしているのを聞きながら、瞬谷の事を尋ねようとして、ハクの背に何かが乗っている事に気付いた。一体誰が!? と慌てて視線を向けると、そこには気を失っているような、全身を自身の血で濡らし、穴だらけの服を身に着ける瞬谷と真っ赤に目を泣き腫らし必死に瞬谷に回復魔術を行使するサリアナの姿。


「え!? 瞬死んでんの!?」

「死んでないわよ! 縁起でも無いこと言わないでばかぁ!」


大声で叫んだ直後に、サリアナがキッと睨みつけながら、怒鳴り返す。つい出てしまったといっても、確かに今のは酷かったと思い素直に頭を下げ、ハクの背から瞬谷を下ろす。地面に横たわらせた瞬谷を改めてみて、霧裂は少々顔を青くする。

瞬谷の左足は膝から先が千切れたように存在せず、右横腹が抉れている。右腕もギリギリ繋がっているような状態で、全身を濡らす血液のせいで顔は死人のように真っ青だ。こんな状態でなお生きているのは、ひとえにサリアナの回復魔術のお陰だろう。


「瞬、瞬……」


何度も名を呼びながら魔術を行使するサリアナの姿に、霧裂は一気に罪悪感が這い上がってきた。瞬谷にハクを押し付けたのは霧裂だ、実は瞬谷ならもしやばくなっても逃げれるだろと考え気にしていなかったのだが、まさかこんな限界まで粘るとは想定外、予想外すぎる。


「(おいハク、ハクッ! ちょっとは手加減しろよ!)」

《(出来るか! 俺様はあの時操られて居たんだぞ!)》

「(自慢じゃねーな)」

《(自慢して無いわ! それよりさっさと《万能薬》を渡してやれ!)》


こそこそと話していた霧裂はハクの指摘に、そうだった! と慌ててポケットから《万能薬 Ⅸ》を取り出す。数は三本、材料が無くこれだけしか造れなかったのだ。《万能薬 Ⅹ》は騎士長に渡したので打ち止め。こんな事なら【傀儡師】拷問用に《万能薬》渡すんじゃなかったと、後悔しながら、《万能薬》を一本ぶっ掛ける。


「ちょっ、何してんのよ!」

「助けてんだよ! ああくそっ、やっぱ飲ませたほうが効率良いか!」


ぎょっと目を向けるサリアナに怒鳴り、《万能薬》のお陰で傷は塞がったが、しかし血の気は少ししか戻らず依然危険な状態だ。くそっともう一本ぶっ掛けようとする霧裂の手からサリアナが《万能薬》をもぎ取った。


「え、オイ何すんだ」

「黙ってて!」


霧裂の前でサリアナは《万能薬》を自分の口に含み、口移しで瞬谷に飲ませる。《万能薬》が瞬谷の喉を通り、体に血の気を戻らせていく。それを見てサリアナは最後の一本をやはり口移しで瞬谷に飲ませた。それは瞬谷を助けるためなのだろうが、残念ながら霧裂など第三者にはキッスをしている様にしか見えない。


(ぐぉぉぉぁぁぁ、抑えるんだ俺! リア充は許せんが、瞬じゃないか。寛大な聖母の様な心で許してやろうじゃないか……!)


ふーっと大きく息を吐き出し、必死に笑顔を作る。そんな霧裂を何もかも分かった目でハクが見ているが気にしない。

ともあれ《万能薬》が効いたのか、瞬谷の顔に血の気が戻り、すぅすぅと胸が上下しだす。サリアナはホッと胸を撫で下ろしながら、再び回復魔術をかける。


と、再び高速で接近する一つの影が。


「瞬谷君とサリアナさんが何処にも見当たらない――――ってここに居たんですか!?」

「ああ、今来たとこだ」


慌てて戻ってきた鎌咲は、瞬谷の姿を見て軽くパニくる。まぁ瞬谷は傷が塞がり、血の気が戻ったが全身に付着する血は残っているし、右腕はどうにか繋がっているが、左足は当然生えてこない。

どうしましょう!? と右往左往する鎌咲に霧裂は真新しい服を投げ渡し、瞬谷を着替えさせるように言った。


「じゃ、頼んだ」

「分かりました。流石に外で着替えさせるのは可哀相なので、どこか民家の中で着替えさせますね」

「あ、私もまだ心配だし。べ、別に瞬の体が見たいとかそんなんじゃ……」

《気を失っている間に異性に着替えさせられるか……、哀れだな》


鎌咲が瞬谷を背負い民家へ向かい、サリアナも何やら誰にとも無く言い訳しながら鎌咲に続き、それをハクが哀れみの表情で見送った。目覚めた時、女性二人に生まれたままの姿を見られたと知ったら、瞬谷はどんな反応を示すのか。鎌咲は余り気にしそうに無いが、サリアナは違う。とても面白いことになるだろう。


瞬谷をしっかりと見送った後、霧裂はその場に座り込み、隣に居るハクを見上げながら言う。


「どうする? 今ならまだ間に合うと思うぜ」


そう言いながら、クイッと指で城を、断末魔の発生源を示す。ハクも【傀儡師】に怒りを覚えているはずだ。そしてそれは間違いない。だから霧裂は【傀儡師】に罰を与えるか聞いたのだが、ハクは静かに首を振る。


《いや、これを聞いていたら何だがどうでも良くなってな》

「へぇ……」


『これ』と言うのは今なお響き渡る断末魔の事だろう。ハクは【傀儡師】の苦しみ恐怖する絶叫を聞き、どうでも良くなったとの事だ。隣に座り込むハクを、霧裂は珍しい物を見るような目で見る。と言うか実際珍しい。一体どういう心境の変化だろうか。

あれこれ考えていると、ハクが霧裂の方を向き、口を開く。


《オーマ。お前、あの機能を使って無いだろうな》


ああ、と分かったような声を出す。

なるほど、ハクが【傀儡師】に罰を与えに行かない理由はこれだ。罰を与えるよりも、気になる最優先事項があったから。

霧裂はハクが自分を心配していると気付き、嬉しくなる反面、だからこそ嘘を付く。


「……、使ってないよ。約束だろ、お前と一緒に居る時に『アレ』は使わんさ」

《一緒に居なかったから心配しているのだ! お前、嘘じゃないだろうな》


吼え、霧裂の顔を覗き込む。その声には本当に心配しているハクの気持ちが見て取れ、霧裂の良心という物が少々罪悪感がでチクリと痛むが、ニヤッと何時もの笑みを浮かべ、当然だろと頷いた。

そんな霧裂を、ハクが怒ったような目で見つめるが、最後には諦めたように嘆息する。


《オーマ、絶対に『アレ』は使うな。使えば本当に、本物の『人形』になるぞ》


分かっているだろう? 

そう睨んでくるハクに、分かってるさと軽く返事をしながら、どうにかしてこの話題をそらさねばと思案する。どうやら嘘と言うのはばれている様だが、霧裂がばれている嘘を吐き続ければ何もしてくることは無いだろうが、うっかり口を滑らせれば声質取ったとばかりにハクは問答無用で噛み付いてくるだろう。そうなる事は経験済みだ、それだけは避けねば霧裂の英知溢れる頭脳(笑)が危ない。

未だに睨んで来るハクの視線でガリガリと心の防壁が削り取られていくのを感じながら、思案し思考し、頭に浮かんだ話題をそのまま口に出す。


「そ、そいやさ、ハクのお願い何でも聞くって言ったろ? 一体何して欲しいんだよ」


言った傍から速攻で後悔する。もしこれでハクが忘れていたら墓穴を掘った、ただの馬鹿だ。ハクのお願いという滅茶苦茶不吉な予感しかさせない単語に、勝手に戦慄する霧裂は、ごくりと生唾を飲み込みハクのお言葉を待つ。

ハクは霧裂の言葉を聞き、ポツリと。


《……忘れていた。そう言えばそんな事もあったな》


霧裂は心の中で絶叫する。


(俺のバカんっ!!)


どうやら盛大に墓穴を掘ったようだ。何も言わなかったらこんな約束、闇に葬れた物を。


《そうだな。ふむ、何を願おうか》

「あの、ハクさん? 俺は映画で毎回パニくる未来の猫型ロボットでも無いし、擦ったら出てくるランプの中の住民でもないんで、あんまり無茶なお願いは勘弁してください」


お願いします、と誠心誠意、心を込めて頭を下げる霧裂。


《確かお前は何でもするといった筈だが?》

「その前に俺に出来ることならと言ったのを思い出してっ!」

《お前に出来ない事とは一体なんだ?》

「え~と、……死者を蘇らす事?」

《死体があれば生前の姿に戻せるのだろう? それに『心臓』を与えれば死者の復活だ》

「ちがうよ! それは死んだ人の姿をした偽者だよ! 厳密には死者の復活じゃないですっ!」

《それでも喜ぶ人は居るだろうがな》

「え、何? ハクは死んだ人をロボット化して欲しいわけ?」

《うむ、そんな言い方したら何かそれが悪い事のように聞こえるな》

「悪いよ? 死者を愚弄するのも好い加減にしようよ! 死んだ人には安らかな眠りを!」


途中からハクのお願いではなく、『死者は復活することが出来るか否か』と言う議論に変わっているが、止めれる人は残念ながらここには居ない。

暫く議論して、『死者の「魂」の復元は出来ないけど、「肉体」及び「能力」などの復元は可能』と言うもうそれ『死者の復活は可能』って事で良いんじゃない? と言うツッコミが入りそうな結論が出て、やっとハクのお願いに話を戻す。


《お願いか。そうだな……》


少し考え込み、今思いついたとばかりに、


《俺様も街を歩きたい》

「は? 勝手に歩けば良いじゃん」

《馬鹿か。俺様は神獣だぞ?》

「あ~……。えっと、何で?」

《【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】の中は暇なのだ。色々走り回ったり、破壊して回ったり、氷の城建てたり、全てを凍らせて見たりしたが、もう飽きた》

「イヤお前何してんの!? 壊れたらどーすんだよ!」


突然のハクの暴露に慌てて霧裂は【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】の調子を確かめる。なるほど、確かに冷たく、一部凍りついている。あーあーあーあーもーッ! と大声で叫びながら【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】を修理する。


《むぅ、何かすまんな》

「もう絶対すんな! 直すのにどんだけ掛かると思ってんだよ! 材料無いからもう造れないんだぞ!?」


ハクの馬鹿ーっ!

と、涙目で言う霧裂にハクは悪い事をしたと思ってか、頭を下げる。


「あーあ、こりゃ修理に時間掛かるな」

《ともかく、俺様も街を歩きたい。人の街と言うのに密かに憧れていたのだ》

「ともかくじゃねーよ、ともかくじゃ」


きらきらと目を輝かせながら、無理か? と尋ねるハクに、無理と言うのは少し可哀相な気がして、ハクが街を歩けるようにするには如何すれば良いか思案する。


「そーだなー……、よし! 俺に任せろ!」


考えが纏まり自信満々に頷く霧裂を、本当か!? と大声で問い詰めるハク。


「本当だって。人の街を歩けるようにすれば如何すれば良いか。答えは簡単、お前を人にすれば良い!」

《なん……だと……?》

「だから、人にするんだよ! 人になれる魔道具造ってやるっつってんの。喜べっ!」


ふははははは! と高笑いする霧裂の隣で、何故かハクは愕然としていた。


《待て、人とはアレか? その、男女が見た目で区別出来るお前等みたいな感じか?》

「え、そうだけど?」


何言ってんだコイツ? と首を傾げる霧裂の前で、ハクはふるふると体を震わせ、


《却下だ! 何故俺様が人の姿なんぞに成らなければならん!》

「ええ!? ハクの願いを聞いてやった答えなのですが!?」

《絶対嫌だぞ! 俺様がそんな、……そう、軟弱な人の姿になるなんぞ、許されることでは無いわ!》

「お前、人の俺より弱いじゃん」

《うるさい! オーマは人では無い! それに俺様はお前より弱い訳ではないぞ!》


ぎゃーぎゃーと吼えるハクの人では無い発言に、ざっくりと心を抉られ横たわる霧裂。しかし、そのせいで霧裂の心に火を付けたのか、決意の炎をその双眸に宿らせ、ガバッと立ち上がる。


「ふ、ふはははははーっ! ハクの意思なんぞ関係ないわ! 造るったら造る! 誰に止められはせんぞ!」


というか、ただハクが嫌がってる事をするという最低な仕返しだった。


「どーせお前、人の姿になったらブサメンになるかもーとかそんな心配してんだろ? 安心したまえ、この俺の寛大な慈愛にまみれた聖母もとい聖人の様な心を持ってたとえブサメンだろうが未来永劫、友である事を誓おうでは無いか。感謝し崇める事を特別に許可する。ふははははははグギャ」


高笑いし上から目線で演説する霧裂の頭にハクは問答無用で噛み付いた。






頭から血を流し地面にうつ伏せに倒れこむ霧裂の上にハクが圧し掛かり、ヘルプミー! と地面をタップしながら必死な叫び声を上げる霧裂を無視している頃、不意に静寂が訪れる。

城から上がる、断末魔が突然止んだ。それが意味するのは。


「死んだ、か……」


やはり同じ転生者が死んだと分かると、少し心が痛むが、【傀儡師】の所業を思い出し直ぐに思い返す。自業自得だな、と。


「本当に仕返ししなくて良かったのか?」

《ああ。手加減できそうに無いんでな》

「なるほど……。あ、そろそろ退いてもらえないっすかね?」


無言でぐぐぐと力を加えるハクに、『冗談です! まだまだ乗ってもらって結構ですぜ!?』と全力で霧裂が叫んでいると、城から一人の男が出てきた。出てきたのは、その銀の甲冑は血に汚れ、どこか疲れた様子の騎士長。


「な! 【白夜狼】!?」

「落ち着け。人の頭を噛み砕く凶暴な奴だが敵じゃない」


騎士長はハクを見て目を一気に広げ、背負う白銀の大剣に手を伸ばすが、やんわりと地べたに横たわる霧裂が止めた。霧裂の言葉に、納得したのか、手を下ろし、ハクが喋った事により再び驚愕する。


「喋ったであるか!?」

「良いから、質問に答えてくれよ」


めんどくさそうに言う霧裂に、騎士長は馬鹿らしくなったのか苦笑しながら、質問に答える。

ハクが言った騎士長への質問は、他の者の事。

出てきたのは騎士長だけで、それをまだ沢山いると思っていたハクは不思議に思ったのだろう。霧裂も不思議に思い、騎士長の言葉を待つ。騎士長は、少し目を伏せ、言う。


「全員、自害したである」

「え?」


自害、つまり自殺した。

その事を理解するのに数秒時間がかかり、理解した直後、霧裂は叫ぶ。

何で!?

それに対して騎士長は、霧裂の目を真っ直ぐに見て。


「少年は、彼等に一生償えぬ罪に苦しめと言うのであるか」

「ちが、罪ってあんた等は操られてたんだろ!?」

「確かに操られていたが、それでも自らの手で親しい者を殺したと言う事実は消えぬ。生きると言う事は、その消えぬ罪に生涯苦しむと言う事である。それから逃げる方法はただ1つ、死」


それでも反論しようとする霧裂の頭をハクが叩く。


《もう死んだんだ。今この目の前の男に何を言ったって一緒だろうが》


ギリッと歯を食いしばり、ポツリと、後味悪いなと言う霧裂に騎士長は二つの紅き眼球が入ったケースを渡す。


「約束の物である。受け取れ」


騎士長から受け取ったケースに浮かぶ眼球を見て、叩き割ろうとする衝動が浮かぶが、それを何とか押さえ、ありがと、と礼を言いポケットにしまう。騎士長は、明らかに入るはずの無いケースが入ったポケットを、不思議なものでも見るような目で見ていたが、頭を振り霧裂に礼を言い背を向ける。


「何処行くんだよ」

「さぁ、まだ決めてないである」

「……、アンタは何で自害しなかったんだ?」


あの号泣していた姿を見た為、自害しなかった事を不思議に思ったのだ。

騎士長は思い出すように目を閉じ、


「……、言われたであるよ。絶対に自害だけはするな、と」

「え? 誰に?」

「――――我が主にである」


えっと、どう言う事? と首を傾げる霧裂に騎士長は苦笑する。


「我輩が王を斬ったのは知っておるな? 実はあの時、王は操られていなかったのだ。部下に殺される絶望の表情を見たいとあの外道は言っておったわ。王は斬られる直前、我輩に言ったであるよ。『お前が解放される日は直ぐに来る。その時お前は罪に苦しむだろうが、自害だけはするな。罪を背負い私の分まで生き続けろ』、と。王の最後の命令だ、無視する訳にはいかん」


王は最後笑顔だったのがあの外道は気に入らないようだった。

と、涙しながら語る騎士長。

霧裂はやっべ聞かなきゃ良かったと後悔しながら、しかし頭では別の事を考える。

それは。


(あ、ダメだこのおっさん。自殺はしないかもだけど無謀な挑戦はするな)


騎士長は、とてもではないがこの先生き続ける気力があるとは思えない。自害はしないだろうが、何やら死に急ぎそうだ。このままだとやばそうと考えた霧裂は、他人なのだし関係ないのだが、騎士長の話に軽く同情し、何より集団自殺を行ったと聞いた後だ、放っておけない。


「あーそのーなんだ。お前さ、俺に恩が有るだろ? その恩返せよ」

「む、何でもしよう。少年には大恩があるゆえ」


それこそ本当に何でもしそうな騎士長を見て、霧裂は顔を軽く引きつらせながら頷き、


「なら恩返すまで俺の部下になれ」

「……、下の世話は遠慮願いたいであるな」

「おいこら殺すぞおっさん」


何故部下になれといったら下の世話は遠慮になるのだ。このおっさん殺してやろうかと頬を引きつらせる霧裂を見て、騎士長は苦笑し、頭を下げる。


「恩を返すまで、よろしく頼むである」


霧裂が自分を心配してくれたのに気付いたから。


しかしそんな霧裂はお、おうと曖昧な返事をしながら、早速後悔していた。


(部下って何? 俺馬鹿か!)


残念もとい幸運にも騎士長はその事に気付かなかったが。






騎士長と軽く話をした霧裂は、生存者がいないか城の大広間に向かっていた。騎士長は【傀儡師】を殺した後、周りの皆が一人、また一人と自害していくのを見て、途中で大広間を出たらしい。だからまだ生きてる人が居るかも知れないと考え大広間に来たのだが。


「やっべぇ。気持ち悪くなってきた」

《オーマ、外で吐いて来い》


部屋の中の惨状に、顔を真っ青にして口を押さえる霧裂。大広間は血だらけで、全ての者が自身の首を刺し死んでいた。死体がゴロゴロ転がっている。

無理、これもう皆死んでるから出ようとハクに顔色を青から白へ変えながら涙目で言う霧裂に、呆れた目を向けるハクは、ふいに部屋の奥を見る。

部屋の奥、隅に一人の少女が蹲っていた。


《おいオーマ、あそこに居る小娘、まだ生きてるぞ》

「うっそ、何処? 何処?」


ガバッと顔を上げ、視線を彷徨わせる霧裂に、少女の場所を示す。少女の姿を確認した霧裂は、出来るだけ床を見ないように、上を向いて少女に近づく。

ちらりと少女を一瞥した霧裂は驚きに眼を見開く。少女には見覚えがあった。あの亜人族鬼人種の金髪ボブカットの少女だった。少女は蹲り、しかしかすかに息がある。どこにも自害をした後が無く、何で? と首をかしげた霧裂は直ぐに気付いた。霧裂は回復薬などを渡していない。つまり、


(まっずー!? この子俺のあの一撃で死に掛けてるってことかー!!)


少女殺しは勘弁と、ポケットから《万能薬 Ⅷ》を取り出し、口に含ませる。何とか喉を通った《万能薬》のお陰で、少女の苦しそうだった息が、すやすやと寝息に変わる。それに、ホッと一息ついた霧裂は少女を抱え、この場所を出るぞとハクに伝えようとしたところで、カツンと別の者が大広間に現れる。


「うっ。ひ、酷いですね……」

「何で、こんな……」


瞬谷と鎌咲だ。瞬谷は鎌咲に支えられており、真っ青な顔で辺りを見渡している。鎌咲も同じ様に顔を真っ青、イやそれ以上に真っ白にさせ今にも気絶しそうだ。


「瞬! 無事なのか!?」

「あ、霧裂さん。ええ、大丈夫ですよ」


霧裂に気付いた瞬谷は笑うが、霧裂は存在しない左足を見て、罪悪感が芽生える。そんな霧裂の視線に気付いたのか、瞬谷は苦笑しながら、


「良いんですよ。気にしないでください。オレが弱かっただけですし」

「瞬……」


安心させるように言う瞬谷に霧裂は、


「そう言うのはフラグを立てた異性の前で言うんだぞ?」


茶化すようにそう言った。

瞬谷も次からそうしますと言い、笑う。それに安心しながら、今度左足造ってやるよと軽く会話をする霧裂に、鎌咲が少女を見て言う。


「その娘は?」

「ああそうだった、気絶してんだ。外に運ぼうと思ってな」

「なら私が行きます。もう耐えられそうに無い」


鎌咲は顔を真っ青にしてサリアナさんの所で待ってますと言い残し、少女を抱え大広間を後にした。


「で、瞬谷はどうしたよ」

「えっとですね。【傀儡師】の顔を見に来たんですけど」


そう言や【傀儡師】何処だ? と視線を彷徨わせる霧裂に、ハクがある一点をくいっと足で指す。


《あそこに居るぞ》

「え、何処ですか」


ハクが示す場所へ視線を動かした瞬谷は、うっと顔を歪ませた。

そこには、原型を無くすほどグチャグチャにされた肉の塊が。


「……、瞬。【傀儡師】を見た感想は?」

「……気持ち悪いでっウップ」


口を両手で押さえ蹲る瞬谷の隣で、既に蹲っている霧裂。

もう出ようと心に決めた霧裂は、瞬谷に退出を提案しようと横を見て、瞬谷が何かを凝視している事に気付いた。


「瞬?」


尋ねる霧裂の声が耳に入らないのか、呆然と、小さく呟く。


「嘘だろ……」


信じがたいものを見たような目で、突然【空間転移】をした瞬谷を、霧裂とハクが慌てて追う。


「おい、如何したんだよ瞬!」


瞬谷は霧裂の問いを無視し、ある女性の前に現れた。

その女性は片腕が無く、頭には何かを切り取られたような後が。

鎌咲と戦ったその女性を見て、瞬谷は頭を振る。


「そんな、何で……」


そんな瞬谷を見て、霧裂はまさか、と、


「まさか……知り合いか?」


霧裂の問いに、瞬谷は今度は答えた。

呆然と、信じたくないような顔で、それでも分かったがゆえに。


「この人は……サリアナの村の人です」

物語には救われない人も存在する


【傀儡師】は死してなお罪を重ねる

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