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S  作者: ぼーし
第三章 【傀儡師】編
32/62

-29- 『罪』を自覚し『罰』を受ける

喜べっ! 今回は前回の約倍の量がある! 


本当に文字数が安定しないなぁorz

もうもうと立ち込める爆煙の中、霧裂はうつ伏せに倒れていた。その周りには、薄い結界が張られており、定位置にへばりつくキューがペチペチと尻尾で霧裂の顔を叩く。


「いってぇ。キューありがとな」

「キュキュー!」


ムクリと起き上がりながら辺りを見渡し、絶句する。

誰も居ない。全てが木っ端微塵に吹き飛んでいた。爆弾を身に着けた者達も、地面に倒れ伏せていた騎士達も、全てが粉々に吹き飛び、血と肉片へと姿を変えていた。地に血が染み渡り、結界にもベットリと付着している。その地獄の様な光景を見て、霧裂は、ギジリと唇を噛む。


「あのクソガキ……」


ツゥと唇から流れ落ちる血が顎を伝い、地面に落ちたのを見て、霧裂はしっかりと立ち上がる。双眸は【天より見抜く(クレアボイアント)】、両腕には【闘神狂う(ベルセルク)】、左足は【暴嵐穿つ(スサノオ)】。これで充分、薙ぎ倒せる。

見据えるのは、城の最上階。ああ言う輩は、高いところを好む。見下すのが好きなゆえに。霧裂の双眸には既に、敵の姿が映っていた。視線を逸らさず、ゴキリと両手を鳴らし、ポツリと呟く。


「ちょっと怒った」


ダンッ! と力強く左足で蹴った地面は砕け散り、たった一度で遥か上空まで跳躍した霧裂は、握り締めた右拳を全力で、目の前の壁目掛けて振りぬいた。ゴガンッ! と轟音を立て砕け散り、大穴を開けた壁の中を覗き込むと、そこには、真っ青な顔でガタガタと震える一人の少年が居た。


「よう、久し振りだな【傀儡師】」


ニタリと笑う霧裂を見て、ヒッと短く悲鳴を上げる【傀儡師】。


と、いつの間に現れたのか、ボブカットの亜人の少女が棘が付いた鉄の金棒を両手に持ち、霧裂目掛けて全力でフルスイング。轟! と風が唸る高速の一撃を、霧裂は両腕をクロスして受け止める。が、直後に迸る十の雷槍に体を貫かれ、吹っ飛び部屋の床に強かに背を打ちつけた。


「カフ……ッ!」


口から空気が漏れ、体を蝕む激痛に一瞬硬直する。そこを狙いすました様に老年の騎士が自身の背丈よりも巨大な白銀の大剣を振り下ろす。轟! と白紙の様な白色の『闘気』を纏った大剣は、しかしやんわりと霧裂の右手で止められた。


「いってぇなぁ。おっさん、今切れてんだ。わりぃが加減は出来ねーぞ」


――『■■■■』


と、カチリと何かが起動し、霧裂の纏っている雰囲気が変化した。


ギロリと騎士を見つめる霧裂の双眸には、感情の色は無い。霧裂は切れていると言った。ならば霧裂の顔には怒りの表情が浮かんでいる筈だ。しかし、霧裂の顔には何の表情も浮かんでいない。【傀儡師】に対する怒りや憎しみと言った負の感情も、操られている騎士に対する哀れみの感情も、何も浮かんでいない、完全な『無』表情。


まるで、人形のような(・・・・・・)


バギッと握力で大剣を砕く。そこに『闘気』は無い。必要ないと判断したから。両手を床に付け、逆立ちする様に両足を持ち上げ、右足で騎士の顎を蹴り上げ、左足の踵で、飛び降り様に雷を纏った金棒を振り下ろす亜人の少女を床に叩きつける。


「ぐ……ッ!」


それは果たしてどちらの声だったのか。痛みで漏れた声は、霧裂の耳にも届いたが、構わず計算する。どちらを先に排除するべきか。そこに感情の脚色は無い。行動不能にすると言う目的を最も効率よく果たすには如何すれば良いか、機械のように計算し、全ての『闘気』を右手に集中、赤黒い血の色をした『闘気』が渦巻く掌低を、ドゴンッと鎧の上から騎士の急所へ叩き込んだ。


「……ッ!!」


ゴッと大きく開けた騎士の口から空気と共に血の塊が吐き出された。そのままノーバウンドで吹き飛び壁に轟音を立て減り込む。ぐぐぐ、と減り込んだ状態で腕を動かし、立ち上がろうとして、力尽きたのか、ガシャンと音を立てうつ伏せに倒れ伏せた。


「ヒィ! お、おい、騎士長! くそっ、鬼、殺せよ!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ【傀儡師】を声を聞き、床に叩きつけられた反動を利用して、ボッと下から上へ、人体急所の一つ霧裂の金的に少女は金棒を振り上げる。霧裂はその一撃をチラリと一瞥し、右足を一歩踏み出しドッと左足の爪先、【暴嵐穿つ(スサノオ)】の荒れ狂う嵐を一転に集中させた一撃を少女の鳩尾へ減り込ませた。


「――――ッ!!」


少女の大きく開けた口から悲鳴の様な音が飛び出し、無意識なのかボロボロと蛇口を捻ったように涙が流れ出す双眸が、ギュルンと引っくり返りボールのように床を何度もバウンドしながら大きなベッドに突っ込んだ。ベッドを破壊し、仰向けに倒れた少女は口の端から泡を吹きながら、ピクリとも動かない。


「あ、あああああぁぁぁああぁぁああ!!?」


両手で顔を押さえ認めたくないと言うように絶叫する【傀儡師】に、霧裂は抑揚の無い声で言う。


「これでお前だけだな【傀儡師】」



◆ ◆ ◆



やられた。目の前で、自身の警護に当たらせていた亜人族鬼人種の少女と、この小国の騎士の長が、呆気なく瞬殺された。否、実際は死んではいないのだが、【傀儡師】には死んでいるように見えた。呆然としていると、おもちゃを壊した少年の、機械の様に感情の無い言葉が届く。


「これでお前だけだな【傀儡師】」


ひぃっと息を吸い込む。そうだ、もうこの部屋には少年のほかに自分しかいない。その事を改めて認識し、彼はボロボロと涙を流す。

なんでなんでなんで!

そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡る。自分の為の世界じゃないのか。自分は『主人公』じゃないのか。何でこんな事になっているんだ。


何度も何度も繰り返す自問自答に答えは出ない。ただ漸く理解したのは、今自分は死に掛けていると言う事だけ。抱え込んでいる『生』が離れていこうとしていることだけ。


と、コツンと音が響いた。

視線の先に居る少年が一歩を踏み出した音だ。ぐるぐると回っていた自問自答の声が止み、代わりに生存本能が叫ぶ。【傀儡師】の勘が、最大級の警報を打ち鳴らす。生きたい。ただそれだけを胸に、【傀儡師】は口を開く。


「待って! 止めて! ぼくの【催眠人形(チート)】があれば何でも手に入る、何でもあげるよ。何が欲しい? 女の人でもお金でもお宝でも何だってあげるから殺さないで!」


見っとも無い命乞い。【傀儡師】は気付かない。今叫んだ命乞いは、少年の怒りの炎に油を注いだ事に。コツンコツンと連続で音が鳴る中、【傀儡師】は必死で吼える。命だけは、命だけは。しかし少年は何も言わず、無表情に歩みを進める。

【傀儡師】は悟る、何を言おうと視線の先に居る少年の耳には届かない。意味が無い、自分はここで死ぬのだ。


認めたくない。認めたくない。だが、理解してしまった。

故に吼える。最後の足掻き。


「いやだ。いやだいやだいやだいやだ! ぼくは『主人公(ヒーロー)』だぞ、何でぼくがこんな目に合わなくちゃいけないんだ! ぼくのための世界だろ? ぼくが楽しむだけの世界だろ? ぼくが『主人公』の『物語』だろ? 何でこんな――――」


そこで言葉が途切れる。【傀儡師】の言葉に被せるように、耳障りだとでも言うように、少年が言葉を紡いだからだ。


「『主人公』、か」


冷たい、何の感情の焔も灯らない、無の双眸で、能面の様な顔で、言う。


「見ていて痛々しいよ、お前」

「キュルキュー」


そして、少年の口から、『【変更・爪(チェンジ)】⇒【透幻捕らえる(ナイトメア)】』、と言う不可解な言葉が漏れ、ダラリと下げていた右手の指をこちらに向けた。

【傀儡師】はその右手が変化していることに気付く。否、右手だけではない、左手もまた、今まで装着していた鋼鉄の籠手が何時の間にか消え去り、代わりに手が真っ白になっていて、その手の甲に丸い黒丸があり、そこから五本の線が各指の爪まで伸びていた。


少年と【傀儡師】との距離はまだ八メートルほど有る。この距離で一体何を? と首を傾げた【傀儡師】の腹に――――不可視の何かが突き刺さった。


「あ……え……?」


何も映らない。自分のお腹に何か刺さっていることは確かなのに、その刺さった何かが一切見えない。ボタボタと血が床を濡らし、そこで漸く思い出したかのように【傀儡師】は絶叫する。


「いっっっだい!? 何で、何があるの!? いたい、いたいよ! 助けて――――――ッ!!」


傷は浅く、致命傷には程遠い。しかし、その明確な痛みに、【傀儡師】涙を流し助けを請う。そんな【傀儡師】を見て、少年は嘆息した。


「この程度で泣き叫ぶな」


少年は何かを引き抜くように腕を引き、同時に【傀儡師】の腹からも何かが抜かれる。不可視の武器は、血に濡れたはずなのにやはり視認することが出来ない。傷口を押さえて蹲る【傀儡師】に少年は言う。


「まずは自分の犯した『罪』を自覚してもらう。狂うなよ? 嫌、狂えんか」


え? と問い返そうとして、視界が黒で塗りつぶされる。何も無い、床も崩れた壁もあの少年も、上や下、左右と言った咆哮すらあるか疑わしい。あの神様に出会ったところに良く似ていた。


ここは一体、と視線を彷徨わせた直後、轟! と空間が戦慄いた。顔だ。この空間全てを埋め尽くすような、幾多もの顔。亡霊の様な顔が、悲痛な叫びを上げていた。ひぃっと短く悲鳴を上げる。と、その悲鳴に気付いたのか、亡霊の一体が【傀儡師】に近づく。


「く、来るな! 来るな――――――――ッ!!」


【傀儡師】の悲鳴も空しく、亡霊は絶叫しながら【傀儡師】の体を通過した。

――――直後、何の前触れもなく、【傀儡師】の腹に大穴が開いた。

間違いなく致命傷。

這い上がってくる激痛に、堪らず吼える。


「あああああああああぁぁぁがががががががががが!!?」


パクパクと口を動かし、意識を失う直前、ふっと何も無かったかのように【傀儡師】の腹に開いた穴が消えた。もう痛みも無い。

呆然と傷があったところを眺めていると、不意に声が届く。


――私は死んだぞ、そうやって


え? とその声の方を見ようとして、再び別の亡霊が体を通過した。直後に、ダンッと【傀儡師】の首が宙を舞う。即死のはずなのに、何故か痛みが蝕む。気が狂うほどの激痛にまたもや、意識を失いそうになり、また綺麗な状態に戻る。そして聞こえる別の声。


――俺は死んだぞ、そうやって


もうそんな声なんてどうでも良かった。ただ逃げようと手足を必死で動かした【傀儡師】に、しかし背後から三度亡霊が接近する。


「来るな来るな来るな―――――――ッ!!」


もう嫌だった。あの亡霊が体を通過したら痛みが体を襲う事に気付いていた。手を、足を動かし、逃げ場の無い空間で、しかし必死で少しでも遠くに行こうとする努力が実る事無く、またもや亡霊が【傀儡師】の体を通過した。

――――直後、【傀儡師】の体が木っ端微塵に吹き飛んだ。

即死のはずなのに、それなのに意識があり、痛みが襲う。

そして三度元に戻った【傀儡師】の耳に届くあの声。


――僕は死んだぞ、そうやって


あ、と絶望に染まった表情で、耳を塞ぎ泣きながら許しをこう。


――私たちは、


気付いたのだ。

逃げられない事に。


――俺たちは、


この怨念は自身に向けられている事に。


――僕たちは、


ここに居るのは、死者達だと言う事に。



――こうやって死んだんだ!



直後、全ての亡霊が、【傀儡師】に殺到した。



◆ ◆ ◆



呆然と眼を見開き、ダラダラと涙と涎を垂れ流す【傀儡師】を感情の篭らない双眸で見下ろしながら、霧裂は静かに質問する。


「お前、転生者か?」

「…………はい」

「神から間違って殺されて、チート貰ってこの世界に来たのか?」

「…………はい」

「他の転生者を知ってるか?」

「…………いいえ」

「なら良いや」


簡単に、もう本当に簡単に質問を終えた霧裂は話は終わりとでも言う様に、手をパタパタと振りながら、『解除』と呟く。

言葉と共に、両腕に【闘神狂う(ベルセルク)】が戻り、左足とそして霧裂の表情に感情が戻る。双眸はそのままだ。霧裂は先程までと違い、若干怒りの篭った視線を【傀儡師】に投げかける。


「ったく、随分殺したみたいだな」


何故そんな事が霧裂に分かるのか。それは魔道具【透幻捕らえる(ナイトメア)】にある。不可視の爪を相手に掠らせるか突き刺すかすれば、半自動で魔力を流し込み、その魔力を使い強力な悪夢を見せる。認識不可能の爪は最大十メートルまで伸び、少しでも傷が付けば強制的に悪夢に叩き落すと言う強力な魔道具だ。


そして今回【傀儡師】に見せた幻覚は、【殺人への禁忌】。直接及び間接的に殺人を犯した者に、被害者と同じ殺され方をする悪夢を見せる。ただ、同じ殺され方をするのは、被害者一人に付き一回なので、数人なら直ぐに終わる筈。しかし【傀儡師】はかれこれ二十分は幻覚の中だ。幻覚で発狂することは無いが、それでも殺人を犯したその多さに、霧裂は【傀儡師】の言っていた言葉を思い出し、呆れる。

何が主人公だ、普通に悪役じゃないか。


と、カツンと音が背後でした。

振り向くと、片手に大鎌を持ち、無傷で立つ鎌咲が。鎌咲は、霧裂の前に居る【傀儡師】を見て、嘆息する。


「貴方が最初に見つけましたか。残念です、早い者勝ちですからね」

「ん、そうだな」

「ところで、まだ死んでいない様なので狩って良いですか?」

「いや早い者勝ちって今自分で言ったじゃん」


何言ってんの? と言う霧裂の視線を華麗にスルーしながら、問う。


「それで、どうするのですか?」

「そーだな……、あのさ。操られてる奴全員、下に集めてくんない?」


下と言うのは、一階の大広間の事だろう。何をするのですか? と、目で問いかける鎌咲に笑いながら、頼むと手を合わせ聞こえないように【傀儡師】に呟く。


「……今、見てんのがお前の犯した『罪』で、これから与えられるのがお前への『罰』だ」


そう、霧裂の与えている【殺人への禁忌】は『罰』ではない。ただ自身の『罪』を自覚させただけ。【傀儡師】に『罰』を与えるのは、被害者達。即ち――――復讐者。



◆ ◆ ◆



大広間に集められた総勢三十人の人族及び亜人族。この部屋に集められていた時、全員昏倒していたが、つい先程気が付き、動きを封じている縄を解こうと奮闘している。

その様子を見ているのは、霧裂とキュー、鎌咲。そして鎖で手足を拘束された【傀儡師】だ。【傀儡師】は顔を真っ青にしながらも、やはり手足の拘束を解こうと奮闘していた。そんな【傀儡師】に霧裂が声をかける。


「んん、準備おーけーみたいだな」

「ひっ、な。何をする気だ?」


怯えた表情で霧裂を見る【傀儡師】に目を合わせながら、


「何もしねーよ。それにお前がもし、こいつ等に優しく対応してりゃ、何もされねーで終わりだ」


霧裂が何を言っているのか分からないのか、眉を潜める【傀儡師】に嘆息しながらかけていたグラサンを外す。


「これはお前の『力』が効かなくなる魔道具だ。んで、この魔道具はさ、外からの『力』も内からの『力』も両方無効化するんだ。意味分かるか?」


問う霧裂に、【傀儡師】は顔を青通り越して白くさせた。


「つまりこれをお前にかけたら、お前は『力』を使えないって訳だ」


霧裂の言葉に、絶句する。

止めろと必死で叫ぶ【傀儡師】制止の声を聞かず、霧裂はグラサンをかけさせ、さらに鎖で外れないようにしっかり固定した。


「さてさて、どうなることやら」


ニヤリと笑いながら【天より見抜く(クレアボイアント)】で視線を彷徨わせると、だんだんと薄く、そして消えていく『紅き煙』が見えた。それと同時に束縛されていた皆も、だんだんと動きを止めていく。完全に動きを止めたのを見て、霧裂は指を鳴らした。

と、【傀儡師】を除く全ての拘束が解かれる。しかし、彼等は霧裂や鎌咲に襲い掛かる事はせず、呆然と自身の両手を見つめていた。霧裂はもう何もするつもりは無いし、鎌咲にさせるつもりも無い。【傀儡師】に罰を与えるのは彼等なのだから。


そう考え見ている霧裂と鎌咲の目の前で――――――何故か全員が絶叫しながら蹲った。


は? と目が点になる。怒りの咆哮を上げて突っ込んでくるならまだしも、まさか号泣しながら蹲るとは考えていなかった。突然の出来事に、鎌咲はポカンと口を開け使い物にならないので、霧裂は直ぐ近くで号泣する、あの騎士長に声をかける。


「お、おいおっさん、じゃなくておじ様? まぁどうでも良いや。どうしたんだよ!」


霧裂の声に、涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげ、老年の騎士は言う。


「……ろして……まった……」

「あい? 聞こえん」

「……、命に代えても守ると誓った主を、息子のように思っていた部下を、心から気の許せる友を、何よりも大事に愛していた妻を……、この手で、殺してしまったである……ッ!!」

「…………」


思いの他重たい話題に、霧裂はお目目をパチクリとさせる。

うぉぉおおおおおッ! と再び蹲り慟哭する騎士長を前に、あわわわわわっ! と助けを求めるように視線を彷徨わせると、スラリと無言で大鎌を抜き、【傀儡師】に幽鬼の様に迫る鎌咲が見えた。


「スットーップ! 鎌咲さんストーップ! ダメ、殺しちゃだめ!」

「放して下さい。私はこの外道の命を狩り取るだけですが?」

「だからダメだって!」


慌てて羽交い絞めにする霧裂を氷点下の視線で射抜きながら、チッと舌打ちし、仕方なくと言った感じで大鎌を背負いなおす。ふーと息を吐きながら、一先ず皆が元に戻るまで、暫く体操座りで待っていることに。


(これ、ちゃっちゃか殺したほうが良かったかも)


そんな今更な思いを胸に抱きながら。






約三時間、声が枯れるほど叫んだ皆は、幾分か落ち着いたのか、無言で静かに座っている。本当は今にも襲い掛かりたいのだろう、その双眸に憎しみの焔を灯し、視線で人が殺せると思えるほどの殺気を振りまき【傀儡師】を睨みつけていた。何故襲い掛からないのかは簡単で、ここに霧裂と鎌咲が居るからだ。操られている間の記憶は残っているようで、彼らは霧裂達が助けてくれた事を知っているのだ。だからこそ、無言で、霧裂達の判断に身を任せようとしていた。

と、騎士の長が代表して声をかける。


「すまない、少々取り乱したようである。少年にも迷惑をかけたであるな」

「あ、ああ気にすんな。俺も思いっきり殴ったし」

「あれは効いたである」


そこで思い出すように目を閉じ、意を決して再び口を開く。


「……、その外道を、我輩達に譲ってくれはせぬか。どうしても我輩達が受けた屈辱を、恨みを、己の手で晴らしたいのである! どうか……」


そう言って、騎士長含め、全ての者が頭を下げる。

それに対して霧裂の答えは決まっていた。その為にこうして殺さなかったのだから。

【傀儡師】の恐怖の声は無視し、言う。


「条件がある」

「何でも言うである」

「そうか。ま、簡単だ。こいつを譲ってやる代わりに、こいつの目を俺に寄越せ」

「目、であるか?」


考えていた条件と違ったのか、困惑の表情を浮かべる騎士長に、ポケットからグラサンと、筒状の透明なビーカーの様なものにたっぷりと液体が入った容器を取り出し、差し出す。


「こっちのは魔道具で、こいつの『力』を無効化できる。これかけて、目をこのビーカーに入れてくれ」


傷付けんなよ、と注意する霧裂に騎士長も気付く。目とはそのままの意味だ。【傀儡師】の双眸を抉り出し、渡せといっているのだ。それに鎌咲は顔を顰めるが、騎士長は何も言わず、というかそもそも目はすぐに潰そうと考えていたため、薄っすらと笑いながら頷く。


「了解である。傷一つつけないためにも、一番最初に取り出すである」

「分かった。あ、それと」


再びポケットから同じ液体が入った三つの小瓶を取り出し床に置く。


「これは《万能薬 Ⅹ》っつてな。死にかけでもこれ飲むかぶっ掛ければ、命をつなぐことが出来る。何に使うか(・・・・・)はあんた達に任せるよ」


意味有りげな視線を送る霧裂に騎士長は頭を下げる。


「かたじけない。何から何まで、恩にきるである」


《万能薬 Ⅹ》を手に、ゆるりと全員で【傀儡師】へ歩を進めるのを、鎌咲が何か言いたそうに見ていたが、霧裂は腕を取り外へ引っ張っていく。



後方から聞こえる地獄の責め苦にあっている様な罪人の叫びに静かに目を閉じながら。

【傀儡師】終了のお知らせ(笑)

これを呼んだ読者様に聞きたい。やりすぎ? それともまだまだおーけー?


ちなみに幻覚の空間は、ハガ○ンの強欲さんの中みたいな感じ。

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