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S  作者: ぼーし
第三章 【傀儡師】編
31/62

-28- ヤバイ、死んじゃう

馬鹿な、三話で終わらなかっただとぅ!? すみません、これで【傀儡師】終わる予定でしたが、何か無理でした。次回か次次回で絶対終わります。

城の最上階。王の寝室。その部屋の隅で一人の少年が、ガタガタと震える自身の体を両手で押さえつけていた。


(来たッ来たッ来たッ! ここまで来た! ダメだ、今この城に居る奴で神獣に勝てる奴は一人も居ない、あの【白夜狼】は外に行ったっきり戻ってこない。くそぅこんな所で死んで堪るか)


ガチガチと歯が音を奏でる。今【傀儡師】にあるのは恐怖。当然だ、神獣に勝てる者はこの城にいないと言うことは、神獣に勝った霧裂や鎌咲に勝てる奴がいないと言う事なのだから。頼みの綱の神から貰った【催眠人形(チート)】も、あの二人には効かない事が昨日の戦闘で分かっている。


「ぼくが何をしたって言うんだ。おもちゃを盗っただけじゃないか。そんなの皆してるじゃないか」


【傀儡師】が言うおもちゃとは、即ち片腕の無い亜人族の女性であり、自害するよう命じた女性であり、神獣【白夜狼】であり、そしてこの世界で生きる全ての生物だ。

【傀儡師】はこの世界のことを勘違いしていた。


この世界に生きる人は、【傀儡師】のおもちゃであり、それを壊したって、怒られる筋合いは無い。何故なら、自分のおもちゃなのだから。 


そう本気で信じていた。異世界転生チート付きと言うファンタジーな出来事に会い、思ってしまったのだ。

自分は『主人公(ヒーロー)』なのだと。この世界は『物語(ファンタジー)』なのだと。

【傀儡師】が言う『物語(ファンタジー)』とは、命の危機を簡単に回避し、魔王だろうが邪神だろうが絶対に負けることはなく、死の危機に真の力が覚醒し、あらゆる女性を簡単に自分のものに出来る、そんな『主人公(ヒーロー)』の為だけのご都合主義溢れる世界。それが今【傀儡師】が生きる世界だと、一片の疑いすら持たず、信じきっていた。


【傀儡師】が生きる世界は、地球となんら変わらず、どこまでも残酷な『現実(リアル)』だと言うのに。


「どうすれば良い? どうすれば……」


頭を抑え蹲り、恐怖で震える。そんな【傀儡師】を無表情で見つめる者が二人居た。

片方は、ボブカットにした艶やかな金髪に金貨の様な双眸、まだ十二才ほどの幼い少女は、その身にたった一枚のボロ布を着ているだけ。一見人族のようだが、額からひょっこりと見える、左右の小さな角が亜人だと言うことを告げていた。


もう片方は、完全に白一色の無精髭とオールバックにした髪、顔に斜めに入る古傷を持ち、全身を輝く銀の鎧で包み、凡そ百八十センチ程の大剣を背負っている。老人と言って良い年だろうが、一切衰えが見えない。


その二人は【傀儡師】が持つ『おもちゃ』の中で、ハクを除き最も強い者だ。その為【傀儡師】は常に傍においてある。そんな二人に意見を求めるように【傀儡師】はブツブツと呟くが、当然の事ながら二人は何も言わない。


「死にたくない死にたくない……」


自分を殺しに来ていると考えると、もうダメだった。ボロボロと涙を流し『死にたくない』と繰り返す。打つ手が無い。どうする事も出来ない。ただただ『生』に愚者の様にしがみ付き、自身が今しがみ付いている『生』を奪ったことなど微塵も考えず、思案する。思考する。生き残るためにはどうしたら良いか。


と、思い浮かんだ、愚策。

しかし見っとも無く、愚かにも未だに自身の『罪』を把握しておらず、『生』にすがり付く【傀儡師】にはそれが天より舞い降りた最高の良策の様に感じた。やっぱり自分は『主人公』だ。『主人公』は絶対負けない。そんな的外れな思いを胸に抱く。


「そうだ、アレが有った。アレを使えば死ぬ。絶対死ぬ! アハハハハ、この世界は、ぼくが『主人公』の『物語』なんだ。『主人公』にたて突いた『悪役』の末路なんて皆同じさ……」


ふらふらとした足取りで、寝室の隠し金庫を開ける。

その中にある十個の魔道具を取り出しながら【傀儡師】は笑う。


「――――、『死』だ」



◆ ◆ ◆



城の中庭、そこで霧裂は襲い掛かる敵を全て薙ぎ倒していた。

殺しては居ない、殺すつもりは無い。何故なら。


「くっそ、コイツら全員人かよ」


そう、今霧裂に襲い掛かっているのは全て人族。操られているだけの彼等を殺すつもりは霧裂には毛頭無い。イヤお前操られてるだけの魔物殺したじゃん! と言う突っ込みが入りそうだが、魔物と人とは違うのだ。キューが定位置で『大丈夫ー?』と言うように心配そうに鳴く。霧裂は安心させる様に、何時もの如くキューの体を存分にモフり倒し、【天より見抜く(クレアボイアント)】で辺りを見渡す。


どうやら伏兵は居ない様だ。

そうと分かればさっさと中庭から出て城に突撃しよう、と考え両手を硬く握り締める。


「すんませんっ!」


ドドドドドドドッ! と飛び掛ってきた人族に連続で拳打を浴びせた。霧裂の拳を急所に受けた彼等は、ドサッとその場に崩れ落ちる。霧裂の周りには死屍累々、凡そ二十人近い数の人族が倒れていた。ちなみに全員が鎧を身に着けた男性である。


「よっし、それじゃぁ行く――――ってはぁ」

「キューキュー」


グルグルと腕を回し、城に足を進めようとした霧裂の【天より見抜く(クレアボイアント)】に反応があった。数は十、一直線に此方に向かってきている。どうやら城に突撃は少し後のほうになりそうだ。嘆息しながら、しかし余り時間をかける訳にも行かず、さっさと終わらすかと【闘神狂う(ベルセルク)】以外の魔道具も使う準備をする。


「フッ!」


シュッと空気を裂きながら飛来するナイフを指で受け止め、短く息を吐きながら霧裂の急所目掛けてナイフを突き出す男性に、投げる。『闘気』を纏ったナイフは、男性の腹を貫通し城壁に深々と突き刺さった。腹を貫かれたが、構わずナイフを構える男性。霧裂を中心に逃がさないとでも言うように、十人が囲う。全員が黒い装束に身を包み、両手に一本ずつナイフを構えていた。


「あーメンドー。【変更・左足(チェンジ)】⇒【暴嵐穿つ(スサノオ)】、つー訳で終わらせまっす!」


轟ッ! と荒々しい嵐を左足の形に押さえ込んだ魔道具【暴嵐穿つ(スサノオ)】で、ダンッと勢い良く地面を踏みしめた。ズバッと【暴嵐穿つ(スサノオ)】から解き放たれる風が、刃へと姿を変えて全方位へ均等に吹き荒れる。鋭利な風の刃は、倒れている騎士達の真上スレスレを進み、霧裂の周りを囲っていた人族たちの足首をズダンッと切り落とした。


「わりぃな、後でくっ付けるから。それまでここ居てくれ」


両足首を切断され、倒れこむ十人に済まなそうに謝罪し、城の天辺へ跳躍しようと左足に力を込めた直後、ガバッと十人全員が腕の力で跳ね起き、霧裂に飛び掛った。もう動けないと思っていた油断、隙を突いて襲い掛かかった十人は、しかし霧裂には見えていた。例え油断しようが隙を突こうが、彼等の実力では霧裂に遠く及ばない。チッと舌打ちし、今度こそ行動不能にするために、前から飛び掛ってきた一人に視線を向け――――驚愕する。


目の前に居る彼の腹に何かが取り付けられていた。縦長の縦十センチ、横、厚さ共に五センチ程度の箱。それは魔道具、カチリカチリと時を刻む音が霧裂の耳に届いた。疑いようも無い。霧裂が造ったのよりも数段劣るが、それは間違いなく。


爆弾。


爆弾を体に取り付け、彼等は霧裂に襲い掛かる。

自分の意思での特攻ではない。だからこそ、霧裂は手を伸ばす。逃げれば良いものを、助けようと、取り外そうと、手を伸ばして――――直後、十の爆弾が一斉に起爆し、周囲半径三十メートルに渡って爆炎を撒き散らした。



◆ ◆ ◆



氷の大地へと姿を変えた崖の上で、ガガガガガガッ! と火花が飛び散る。虚空から突如現れるナイフや、全方位から高速で飛来するナイフを、時に弾き、受け止め、砕き、叩き落しながら、ハクは全てのナイフを避けきっていた。その白銀と碧の毛には、傷跡が一切無い。無傷。


対するナイフを縦横無尽に投擲していた瞬谷は、満身創痍。首元で止めてある一枚の黒の布は、とっくに破れ地に落ちてある。上下黒のシャツとズボンと言うラフな格好も、至る所が破れ、血が滲んでいた。両手に一本ずつナイフを持ち、口に一本のナイフを咥えている。


フーフーと荒い息を整えるために、地に足を付け体を休めている現在もハクから一切視線を動かさず、どんな攻撃にも対処出来る様に神経を研ぎ澄ます。


「瞬っ! 【天にまします我らの創造主よ、力無き子に癒しの水を。『癒水(ヒール)』】」


サリアナの『魔言』と共に、ポッとサリアナの手の上に薄翠の水球が現れた。その水球を瞬谷に飛ばし、飛来した水球は体全体を包み込み、傷を癒す。傷は癒えたが、疲労や失った血液は戻らない。しかし体の痛みは消え、充分休息を得た。水球が瞬谷の傷を全て癒し、直後、瞬谷の体が比喩でも何でも無く、掻き消える。


一瞬でハクの上空、死角に姿を現した瞬谷は、左に持つナイフを全力で投擲すると同時に、口に咥えていたナイフを【空間転移(テレポート)】させる。まるで初めからそこに有ったかのように現れるナイフを、ハクは左足を上げ避けながら、ヒュッと風を貫きながら急所目掛けて飛ぶナイフを、ガキンッと空中に突如現れた氷のブロッグで止める。


瞬谷はその結果を見るよりも速く再び消え去り、ハクから少し離れた地面の上に現れ、右のナイフを投擲。すぐさま地面に突き刺さったままのナイフ二本を、器用に右足でハクに向かって蹴り飛ばし、勢い付いたナイフが足から離れる直前、それぞれハクの真下と眉間僅か三センチ前に【空間転移(テレポート)】させた。


まず普通なら避けれない。真下と眉間と言う死角に突如高速で飛ぶナイフが現れたのだ。一秒にも満たずハクの体に突き刺さらんと飛ぶナイフは、しかしどちらもハクの体に傷一つ付ける事無くパキリと凍りつき、砕け散った。


「くそっ、これでもダメか!」

《グロァアアアアアアアッ!!》


轟ッ! とハクの全身から迸る冷気が、飛来する最後のナイフを凍りつかせ、百二十センチほどの氷の槍と化し、逆に瞬谷目掛けて投擲する。


「やっべ――――ッ!!?」


素早く【空間転移(テレポート)】で正反対の場所へ飛んだ瞬谷は、驚きに眼を見開く。瞬谷が咄嗟に飛んだ場所は、既に氷の槍に包囲されていた。

疲労と痛みによる思考の単調化。瞬谷の行動のパターンを予測したハクは、【空間転移(チート)】を上回り、罠を張っていたのだ。


(まっずい……ッ!!)


ドッと飛来する十の氷の槍。避けるため【空間転移(テレポート)】を行使しようとし、――――ドッパと耳と鼻から血が噴出した。


(これ、は……あの時の……ッ!)


チートを使いすぎて起こる、拒絶反応。瞬谷の体が【空間転移(テレポート)】に耐えられなくなり、起こる症状。グラリと体が揺れる。【空間転移(テレポート)】は使えず、身体能力だけで避けるには時間が無さ過ぎる。ガッポと口から血の塊を吐き出し、耳から血をダラダラと止め処なく流す、半死半生の状態で、しかし聞こえた。


瞬ッ!! と言うサリアナの必死な叫び声が。


死んでたまるかッ!

ガンガンと頭蓋が砕けるような、脳が割れるような痛みで、視界が明滅を繰り返すが、それでも、生き残るために、この残酷な世界で幸せを掴み取るために、【空間転移(テレポート)】を実行しようとして。


ドドドドドドドドドドッ! と氷の槍が殺到し、氷の大地に一輪の真紅の花を咲かせた。

あああああああああッ! 瞬―――――――ッ!! 死ぬなぁぁああああああッ!! 霧裂はまぁ置いといて、瞬死んじゃダメだぁあああああああッ!!


ともあれ、瞬谷の戦闘描写ムズイ。何かおかしいとこ無いですかね?


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