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S  作者: ぼーし
第三章 【傀儡師】編
29/62

-26- よっしゃー! 行くぜー!

感想で六日の12時更新的な事言って結局書けなかったorz

朝、キッカリ七時、『旅人の故郷』の前に【死神】が来ていた。その表情が少々疲れたようなのは昨日霧裂と分かれた後、ギルド職員にあの場であった事を根掘り葉掘り聞かれたからだ。


あまりに何度も繰り返し聞くものだから、さらに言えば少々嘘を付いた――霧裂達の事を秘密にした――事もあり、このままではボロが出ると話を打ち切るために、少量の殺気を込めて睨んでみたら、【死神】の悪名もあるせいかあっさりと話は終わったのだが、その殺気のせいで他の冒険者に盛大に怖がられる事になり、精神的にかなり参っているのだ。


ちなみにギルド職員は【死神】もまた【魔王】に負けたと思い、【魔王】の危険度が跳ね上がったのを、【魔王】もとい霧裂は知らない。何もしていないのに、悪名がガンガン鰻上りに上昇していくとは全く持って不憫である。


そんな精神的にノックアウト寸前の【死神】は、しかし二度寝する事無くキッチリ時間通りにやって来たのだが、待てども待てども霧裂達は現れない。一時間近く待つ【死神】を主人が哀れに思ったのか、一言。


「まだ寝ている」


切れた。短気とか自分でも少し思うのだが、押さえ切れなかった。ここは『ごめん待った~?』と聞かれるに対し、例え一時間以上待っていようが『今来たところだよ』と返すのがテンプレなのかも知れないが、そんな事は知ったこっちゃ無い。そもそも【死神】は女であり、テンプレなら『待った~?』の方は【死神】の筈だ。成らばやってやろうじゃないか、部屋に突撃し『待った~?(怒)』と言ってやろうじゃないか。


静かに覚悟を決めた【死神】はゆるりと階段を上り、部屋の扉の前に立つ。

普段の【死神】なら決してしないような行為。しかしもう色々爆発寸前だったのだ。

【死神】背にある大鎌を抜き放ち、階段からこっそり様子を伺っていた主人が顔を真っ青にして止めるよりも早く、右から左へ、全てを均等の高さにする様に振りぬく。それはそれは笑顔で。


ズルリと扉が落ちるのと同時に背後で主人も崩れ落ちる。そんな事は気にせず、視線を真っ直ぐに向ける【死神】と目が合うのは、瞬谷。

この日瞬谷は一つ学んだ。笑顔とは、必ずしも喜怒哀楽の内、『喜』や『楽』に結びつく物ではないと言う事を。『怒』一色で埋め尽くされる【死神】の笑顔を見ながらしっかりと脳裏に刻み込んだ。


「今何時でしょうか。私の目が狂っていなかったら約束の時間は一時間前に過ぎていると思いますが?」

「ごめんなさいっ!」


シュバッ! と高速の土下座を披露する瞬谷。

【死神】はそれを見て少し落ち着いたのか、嘆息しながら視線を彷徨わせる。この部屋には瞬谷とサリアナ、小学生位の少年しか居ない。


「あの人は一体何処に行ったのですか?」

「あー、何か魔道具の試し打ちとかで三時間前に行ったっきり戻ってこない……」


今まで探してたんだと額を地面につける瞬谷に顔を上げるように言い、首を傾げる。

まさか一人で行った!? 

そんな考えが頭を過ぎり、急いで追おうと行動に移すそうとするが、ピタリと足を止めた。聞きたい事があったのだ、目の前の少年に。現在、夢の中に二人が旅立っており、起きているのは瞬谷だけ。さらに霧裂も居ない。

聞こうとして、しかし、と少し逡巡するが、意を決して口を開く。


「貴方は……、【瞬王】ですね?」



◆ ◆ ◆



その頃霧裂は森の中で、木を背に地面に座り込んでいた。足下にはキューが心配そうに見上げている。口から漏れる息は荒い。ぜーぜーと荒く息を吐き、その顔色は真っ青。唇も青く、手足の先はぶるぶると僅かに痙攣している。ガンガンと頭を強く殴られるような衝撃が頭蓋の中で響き、耳は鼓膜が破れたように意味を成さない。


何処からどう見ても危機的状況に陥っている霧裂は、別に何かに襲われたとかは無い。なら何故こんな事態になっているか。

霧裂は震える左手でコートの上から胸を掴む。


(いてぇ。これヤバイ。この痛みは想定してなかった訳じゃないけど、『痛覚遮断』が機能しないとかは想定外)


今霧裂は体に異常をきたしている為、コントロールが一切効かない。魔道具も使えず、腕を動かすのだけでもかなりの労力を必要としていた。


「ちくしょ、しくじったかな。やっぱ『心臓を増やす』なんて……」


それが理由。

ハクとの戦闘で死に掛けた霧裂は、弱点をカバーする為、互いに互いを守る様に、【魔導式心臓(インフィニティ)】の他にもう一つ心臓を造り出した。名を【闘導式心臓(エターナル)】。【魔導式心臓(インフィニティ)】の試作品にプラス、セレーネの腕の一部分を加えて造り出した新たな心臓は、土台は出来ており、【魔導式心臓(インフィニティ)】と言う似たような物も造っていたので、二時間という速さで完成したのだが、しかし霧裂の体に適合しなかった。拒絶反応。


(いや、今までだって拒絶反応は結構あったし、何とかなるだろ)


ポジティブに考え直し、体を蝕む痛みを忘れる。コンと頭を木に付け空を見上げながら今思っていることはただ1つ。


「やべぇ。俺が時間指定したのに全然間に合いそうにねぇ……」


結局動けるようになったのは、太陽が真上に移動した頃だった。



◆ ◆ ◆



「貴方は……、【瞬王】ですね?」


【死神】の問いに瞬谷は素早く動いた。何故? と言う疑問が浮かび上がるが、そんなものに時間を割いている暇は無い。袖口から隠しナイフを取り出し、僅かにサリアナを庇う様に移動しながら何時でも【空間転移(テレポート)】出来るように、気を張り詰める。


そんな今にも飛び掛ってきそうな瞬谷を前に、【死神】は両手を挙げて害する気は無いことを証明する。

それを見て、先手でナイフを【空間転移(テレポート)】させる事を止め、しかし目を一切逸らさず瞬谷は問う。


「……、何で分かった?」

「はぁ? 何言ってるんですか貴方は。私の目の前で【瞬王】の代名詞である【空間転移(テレポート)】を使用したじゃ有りませんか。それで気付かないとでも思ったんですか?」


あ、とそう言えばそうだった見たいな顔をする瞬谷に、【死神】は嘆息する。

まぁあの時瞬谷は、腹に大穴を開け、右手左足が粉砕した状態で地面に転がっている、完全死体状態の霧裂を見たせいで少々パニクッていたのだが、それでもこのミスは馬鹿過ぎる。イージーミス所ではない。


「落ち着いてください。別に私は貴方をギルドに突き出そうとは思っていませんよ、貴方の罪は亜人を助けた事だけですし。私は別に亜人の事を忌避している訳ではないので」

「へ? じゃぁアンタ何が聞きたいんですか?」

「私が聞きたいのは、ある男に貴方の事を聞いたからであって――――」

「ある男?」


被せるように聞く瞬谷に嫌な顔を一切せず、【死神】は言う。


「【神槍】です」

「ああ、あのストーカー野郎ですか」

「ええ、あの女の敵です」


【神槍】、SS級冒険者と言う人族最強の一角でありながら、これまた亜人族最強の一角である【戦乙女】に恋をした転生者である。【神槍】が【戦乙女】をストーキングしているのは有名な話だが、殆どの者は殺すために追い掛け回していると思っており、まさか求愛行動だとは一部事情を知る者以外は夢にも思っていない。


「ともかく、あの犯罪者と少し話をしまして、……貴方が私と同じ『転生者』だと聞いたのですが」


今この女は何て言った?

一瞬思考が停止する瞬谷に【死神】は話を進める。


「ああ、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私は『鎌咲藍奈(れんさかあいな)』、転生者です」


ポッカリと瞬谷の口が開かれる。


「えーと、鎌咲さん? も神様に殺された感じですか」

「ええ、テヘペロしながらの謝罪を受けましたよ。何度あの憎たらしい顔面を殴り飛ばそうと思ったことか」


最後の方をギジリと歯を食い縛りながら、恐ろしい殺気を放つ鎌咲に瞬谷はあはははと笑いながら頷く事しか出来なかった。



◆ ◆ ◆



昼下がり、太陽が少し傾きだした頃、漸く体の調子が戻り始めた霧裂は、『旅人の故郷』の前で必死に頭を悩ませていた。


(どうしよう、もう何て言い訳しよう。ここはやっぱり土下座しようか、いやまて、『待った~?』って言えばアイツ等笑って許してくれるんじゃねーか? うん、そうしよう)


おっし、と気合を入れる。一階に全員集まって居るのは気配で確認済みだ。定位置で丸くなっているキューが『がんばれー』と言うように一鳴きしたのを合図に、ダンと扉を勢い良く開ける。


「ま、待った~?」


瞬間、霧裂の顔面にグーパンチが減り込んだ。

グゥッハッと顔を大きく後ろに仰け反らせながら、倒れこむ霧裂を殴り飛ばした鎌咲は冷たい目で睨みながら、


「ええ待ちましたよ、待ちましたとも。今何時ですか? 約束の時間は六時間前の筈でしょう?」

「ず、ずみまぜん」


顔を抑えながら潔く正座する霧裂を見下ろしながら鎌咲がガミガミと説教するのを、瞬谷は後方で苦笑いしながら見ていることしか出来なかった。






説教も終わり、ついでに鎌咲が転生者である事も話し、粗方言い訳を言い終えた霧裂は、一度部屋に戻り装備を整えた後、あの【傀儡師】と戦闘を繰り広げた場所に小学生位の少年を除く全員が集合していた。現在の時刻、十四時。凡そ七時間の遅れだ。


「よし、じゃ行くか」

「さっさと場所を言って下さい。これ以上の時間のロスは許しませんよ?」

「さーせん」


頭を下げ、霧裂は双眸を【天より見抜く(クレアボイアント)】に変更する。自動進化する【天より見抜く(クレアボイアント)】には今まで取得した、あらゆるモノが映っている。その中で霧裂が目を付けるのは、視界の端で光っている小さな粒だ。光の粒に意識を集中させると、だんだんと視界が広がっていき、ついに視点が変わった。今までとは違い今回の視点は上空から見下ろす形だ。その上空から見下ろしている視界の中央に霧裂達が見え、そこから目測で西南に約二十キロメートルほど行った所に、光の粒が瞬いていた。


光の粒はハクの耳に付けた魔道具だ。この発信機の様な機能をハクは知らず、霧裂もまさか使うとは思っていなかったのだが、過去の自分を褒めてやりたいと自画自賛する。


「あっちに二十キロって所だな」


ピシリと西南を指差し、瞬谷に目で行ける? と問いかける。瞬谷は大きく頷き、霧裂、キュー、鎌咲、サリアナと消え去った。

今度こそ、今日の昼12時に更新する! と思うorz

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