-20- 頼んますハク様っ!!
-19- 昇り詰めるか堕ち続けるか、に比べてめちゃくちゃ少ない、9000文字だったのに今回4000にも届いてないorz
時は戻って冒険者ギルドアヴァロン支部内、受付嬢の爆弾が直撃しアホ面を晒している霧裂王間。
「えっと、【狂月】ってあの【狂月】?」
「セレーネ=クレスント以外に【狂月】と呼ばれる方がいらっしゃるのなら是非教えて頂きたいですね」
信じられないとでも言うようにオウム返しに聞き返す霧裂を、受付嬢は冷やかな目で見つめながらバッサリと切り捨てる。くぅと僅かに呻く霧裂。一体何故と言う疑問が頭の中を駆け巡る。
(アイツ何やらかしたんだ? てか俺追いかけるなら冒険者のほうが良くないか?)
考えても埒が明かないので、さっさと帰れよと訴えてくる受付嬢の視線をを軽く受け流しながら問いかける。
「何で賞金首に?」
「すみません、これ以上情報を提供する事はできません」
まさかの拒否。しかしこのままでは終われず、そこを何とかとお願いするも、規則ですのでの一点張り。どうするどうすると頭を悩ます霧裂に話を聞いていたハクが何でも無さそうにアイデアを出す。
《金で情報を買えばよかろう?》
「それだっ!」
「はぁ?」
【小さくて大きな飼育箱】に居るハクの声は霧裂にしか聞こえないので、行き成り大声を出した霧裂を不審者を見るような目で見る受付嬢。その視線に若干精神ダメージを受けながら、コートに手を突っ込み一枚の金貨を取り出し、カツンと音を立てながらカウンターに置く。
「教えてくんない?」
「……ワイロのつもりですか?」
受付嬢の問いには答えず再び金貨を取り出し、重ねる。受付嬢の視線は金貨に釘付けだ。脈ありだなと推察した霧裂は口角を吊り上げながら、さらに金貨を重ねていく。カチリカチリと鳴る金貨の音にゴクリと生唾を飲み込んで、受付嬢は視線を霧裂の背後へと動かす。人の有無を確認するように。
霧裂はニヤニヤと笑いながら金貨を出すのを止めない。受付嬢は一階に誰も居ない事を確認して、次に左にある二階へ続く階段へと視線を向ける。やはりそこにも人の気配はない。最後に自身の背後へ視線を動かし、人が居ないのを確認して、ボソリと『今月ピンチだし……しょうがないよね、そうよこれはしょうがない。私は悪くないもん』と言い聞かせるように呟き、霧裂に顔を向けた。その視線は金貨へ注がれている。
やはりこの世は金か……! と異世界でも変わらない現実にニタリとあくどい笑みを浮かべる霧裂。受付嬢の視線が完全に金貨に固定されたのを確認して、漸く金貨を積み上げるのを止めた。その数凡そ二十三枚。霧裂は現在あの門番にくれてやったサイズの宝石をそれこそ腐るほど持っているので、金銭感覚が色々あやふやになっていた。
受付嬢は霧裂が金貨を積むのを止めた瞬間、シュバッと高速でカウンターの上の金貨を掠め取り一瞬で自身の懐に納めた。そのあまりの早業に少々目を大きくさせながら、
「教えてくれるかな?」
とニッコリ笑いながら尋ねる霧裂に、受付嬢もまた花の様な笑顔を見せハイッ! と元気良く返事をするのであった。
受付嬢もといアン=クリスティンの、また何かあったらお金持って来てくださいねー! と言う声にやかましいっ! と返事をし、頭の中で今得た情報を整理しながら、街の外へと向かう。
【狂月】がカトルシア支部ギルド長を肉片に変え逃亡。その後何人かのギルド職員が追跡するも足取りが掴めず、暫く聞き込み調査。その後偶然冒険者御用達の村を壊滅した状態で確認。その傍、戦いの爪あとが深く残る場所にて血痕などを発見。残された血は二人のもの、SS級冒険者【邪帝】と【狂月】のものと分かり、さらに【狂月】の左腕を確認したが、そこからの足取りは掴めず、しかしその場に残された血の量から共に瀕死、それか【狂月】は死んだと言うのが冒険者ギルドの見解らしい。
そこまで思案し霧裂は、はぁーと大きく息を吐く。【狂月】が死んでいたら、それはそれで後味が悪いのだが、自身を殺そうとしてくる奴の死を嘆くほど霧裂は優しくはない。と言うか死んだら死んだで、悩みの種が消えて【無敵で鏡の絶対要塞】に引きこもれると言うもの。まぁ死体を見ない限り安心は出来ないが。
それは兎も角、霧裂的に今最も重要なのは、【狂月】の左腕だ。ギルド職員は回収しなかったらしいので、魔物に喰われていなかったらまだ有るはずなのだが。
「なぁハク、まだアイツの左腕喰われてねえかな?」
《……多分、な。まだその見つけた場所にあるんじゃないのか?》
普通落ちている肉などは魔物が真っ先に喰いそうなのだが、魔物は自身より強い生物を、それが例え屍であっても恐怖する。セレーネクラスともなれば恐らく神獣じゃないと手を出さないだろう。
と、言うわけで。
「ハク、左腕回収してきて。魔道具にするから」
リサイクルリサイクルとにこやかに言う霧裂。
ふざけるなっ! そうハクが怒鳴る前に霧裂はあの門番が居る北門まで来ていた。どうやら今もあの門番の勤務時間らしく、退屈そうに座り込んでいた所で霧裂に気付いたようだ。
「む、お前は」
「よっ! あの宝石、金に変えたか?」
「バッカ、うるせーよ! ……で? 何処行くんだ?」
「ちょっとそこまで」
何処だよとため息混じりに言う門番に、苦笑しながら直ぐ帰ると言い外に出た。
そのまま誰にも気付かれないように森の奥深くへと歩いて行く。
ここなら良いだろと、街から少し離れ尚且つ周りが木々で覆われた場所で、【小さくて大きな飼育箱】を取り出しハクを中から出す。人の気配は無いし、居るとすれば木々の枝でさえずる三羽の小鳥ぐらいだ。
ハクは見るからに不機嫌ですと言うオーラを出していた。神獣の不機嫌オーラは凄まじく、霧裂もたらりと冷や汗が頬を伝う。
《オーマよ、俺様は絶対に行かんからな》
「そこを何とかっ!」
《無理だ、不可能だ、そんな選択肢は存在しない》
見も蓋もないハクの言葉にそんな~と項垂れる。しかしこのままでは終われない。今霧裂が持っている魔道具には大きく二つの種類がある。
自分の体の一部と魔道具を交換するタイプとそれ自体が魔道具として自立しているタイプだ。
後者の魔道具はほぼ全ての者が使えるが、前者は霧裂にしか使えない。
そして前者は霧裂の容姿が大きく変わるため、人前ではあまり使うことが出来ないと言うデメリットがある。なら後者の魔道具を使えば良いのだが、残念ながら霧裂の造った攻撃系の魔道具は大前提としてハク、つまり神獣に傷を付けられる魔道具しか造っていない。そのレベルは弱い生物なら一瞬で消滅するほど威力が高いのだ。
そんな魔道具はやはりあまり人前では使いたくないと言うのが霧裂の本音だ。数ある霧裂の魔道具の中には純粋に威力だけを求めた結果、使用したら使用者も反動で消し飛ぶような魔道具もあった。まぁそんな事にならない為に安全装置を付けてあるが。
ともかく、今霧裂が持っている魔道具は皆威力が高すぎる。その為に幾らかレベルを下げて造った二丁の拳銃もセレーネのせいで木っ端微塵だ。だからセレーネの左腕で強弱が付けれる魔道具を造ろうと思ったのだが。
「お願いしますハクさんっ、いえハク様っ! どうかあの小娘の左腕を回収してきて頂きたい!」
《そもそもまだ左腕が有るかも分からんじゃないか》
「後生の頼みだっ!!」
《聞き飽きたわ》
「一生のお願いっ!!」
《三十八回目だ》
頼むぅぅぅと涙目で懇願する霧裂だがハクは白い目を向けるだけで動こうとしない。
こうなったら最後の切り札を使うしか……ッ!
と、密かに覚悟を決めた霧裂は――――恥も外聞もかなぐり捨てて、ズバッと高速でそれはもう見事な『霧裂式お願い最終手段奥義』DOGEZAを決行し、あらんかぎりの願いと自愛と崇拝の心を込めて叫ぶ。
「おっ願いしまーすっ! ハク様神様仏様(?)っ!! あんの小娘野郎の左腕をちょっくら回収してきてくだせぇ!!」
それに対してハクは。
《イヤだ》
一言でバッサリと切り捨てた。
有り得ない、何故俺の秘密兵器が通用しないのだ……ッ!!
と、体全身をわなわなと驚愕に振るわせる霧裂。通用しないも何もこの状況で通用すると思った、そのおめでたな頭がおかしいのだ。
「一体何をすれば回収してきて頂けるのでしょうか?」
もう無理かな、疲れたよママンと地面を濡らしながらも必死に『霧裂式お願い最終手段奥義そのにっ!』である、物で釣るを発動する。自分でさっさと行けば良いのだが、こうなったら意地だ。絶対にハクに取りに行かせてやるっ! と最低な覚悟を再び決める霧裂に、ハクは嘆息しながら、
《何でもするのだな?》
「俺に出来る事なら何だってやってやりましょうのことよ」
《もう一度聞くが、何でもするのだな?》
一瞬頭の中で警報が鳴るも無視し、神妙に頷く。
と、ハクは満足そうに、
《その言葉、絶対に、絶ッッッ対に忘れるな》
それだけ言い残し森の中に消えていった。
後に残った霧裂は、当初は満足そうな笑みだったが、冷静になった頭でよくよく考えてみると、
「え? 俺何命令されちゃうわけ? 一体何をやらされる訳?」
と一人ガクブルその身を震わせるのだった。
そんな霧裂とハクのコントを見ていた観客は、当人二人の他に小鳥が三羽。霧裂がここに来た時からずっと動かず、規則正しくさえずりながら、つぶらな『紅き』瞳で霧裂とハクを観察するように見ていた不思議な三羽の小鳥だけである。
へぇいっ! そろそろ他の転生者が動き出すぜぇ!!
……次の更新いつになるか分かんないorz
今回ぐらいの文字量で良いなら、更新速度上げれる……かなぁ?