-17- なん……だと……?
9/20魔道具の名変更
『旅人の故郷』の看板をぼーっと見上げている霧裂は出てきた瞬谷に片手を上げた。
「おーす」
「おかえんなさい霧裂さん」
別に瞬谷が来る前に入っても良かったのだが、何となく入りづらくまたこの後行きたい場所もあり瞬谷もこちらに向かってきている事に気付いたので外で待っていたのだ。瞬谷はホクホク顔の霧裂を見て、うまく行ったのかなとどれ位の値で売れたのかを尋ねる。
「どれ位でしたか? 結構言い値で売れました?」
「おう! 宝石3つで金貨三十二枚だ! 大量だぜ!」
わっはっはっはーと自慢げに言った霧裂の戦績に瞬谷は疑問の声を上げる。
「はい? たったの金貨三十二枚?」
「え? たったのって何? 大金じゃん」
きょとんと言う霧裂に瞬谷は額に手を当てた。
「あのですね、言って無かったですけど宝石はこの世界じゃメチャクチャ貴重なんです。その美しさや内に秘める魔力なんかも相まって普通1つ金貨三十枚はします」
「なん……だと……?」
「霧裂さんが門番にやってたぐらいの大きさの宝石なら王貨行ってもおかしくないですね」
瞬谷から告げられた無慈悲な現実にホクホクで幸せいっぱい! と言った霧裂の顔が絶望一色で塗りつぶされた。
「ででででも! 魔力の量とかで大きさは値段に関係無いって!」
霧裂の必死の言い訳に瞬谷は何言ってんですかと言う顔をして、
「加工されてない完全な自然の物体である宝石は大きいほど魔力が多いですよ? 当たり前じゃないですか」
神は死んだ。別にあの青年は宝石の説明の際嘘を言った訳ではない。あくまで可能性の話をしただけだ。それをその値で売ると決めたのは霧裂だ。瞬谷の常識ですと言う言葉に、胸を打ちぬかれた霧裂は四肢を地に着き慟哭する。
「バカな。そんなバカなぁぁぁあああああああああああ!!」
カモられた訳だ。ニヤニヤ笑っていたのは幻覚じゃなかったのかーと言いながら思い出すのは先程の門番。なるほど確かに門番も霧裂の様な不審者を中に入れるだろう。何故なら霧裂は日本円にして一千万円以上もワイロとして渡したのだから。それもただで入れる道が有るのにだ。簡単に言えば霧裂は意味も無く一千万をドブに捨てたのと同じ行為をしたのだ。まったくもって何処のセレブだと言う話である。それはともかくあの青年への怒りは収まらない。
うがーと奇声を発しながら殺してやるーと意気込む霧裂を必死に止める瞬谷。何度も『殺す』『ダメです』の押し問答を繰り返し、最終的に非殺傷の霧裂お手製爆弾を瞬谷が【空間転移】で仕掛けるという事で話は終結した。ちなみにお手製爆弾もといお手製魔道具の名称は【閃光堕ちるver生地獄】だ。これホントに死なないんですか!? と尋ねる瞬谷に霧裂は黒い笑みを浮かべるだけだった。
後日、白き光の塔が立ち昇り『何でも屋』が全壊及び『何でも屋』店長が虫の息で発見されたのは言うまでも無い。
瞬谷に青年への心からの贈り物を渡した霧裂は足取り軽くとある場所に向かっていた。
「着いた!」
きらきらとした目で見つめる先には大きな3階建ての建物に剣と盾の紋章、すなわちギルドマーク。霧裂は王都にあるギルドの前に来ていた。ここでやる事は3つ。
霧裂の冒険者登録。
瞬谷の現状確認。
そして最後にセレーネについてである。
セレーネに関する情報はもしかしたら聞けないかも知れないが、霧裂は宝石でも何でもやるから絶対に聞き出すと意気込んでいた。当然だ。霧裂の生死に関わる情報なのだから。
別に霧裂は何度やってもセレーネに負ける気はしないが、あの狂った少女にもし至近距離で自爆なんぞされたら最高時速が同じなのだから、霧裂も木っ端微塵に吹っ飛ぶ可能性もある。そうなれば流石の霧裂でも修復は不可能だ。有り得ないと言い切れないのがまた恐ろしい。霧裂はワイロでも何でも使って金輪際セレーネに会わないようするつもりだった。
そう決意を新たに、そしてやっぱ異世界って言ったらこれでしょ! と興奮新たにギルドの扉を開け中に1歩踏み出した霧裂が見た光景は。
誰も居なかった。否、奥、カウンターの奥に1人の女性恐らく受付譲が立っているが、それだけ。左右に机とイスがあるがそこには誰一人座っておらず、もしかして冒険者って数少ないの? と言う考えが頭を過ぎるが、どうやらそれは違うらしく霧裂の耳が上から聞こえる騒動を捉えた。他の人は上に居るのだろうと予測を付け、好都合だなと口角を僅かに上げた。
受付譲に向かって歩きながら、ばれない様に観察する。赤い髪を三つ編みにして腰の辺りまで垂らしており、整った顔立ちで胸に男の理性と言う名の鎖を破壊する二つの大きな爆弾を抱えていた。美人さんだヒャッホーと内心喜びながら顔には出さず受付譲に話しかける。
「ここって冒険者ギルドであってる?」
「はい、冒険者ギルドアヴァロン支部へようこそ。ご用件は?」
「冒険者登録頼みたいんだが」
「分かりました」
がその前に、そう言ってギルドについて受付譲が説明しだした。どうやら登録のさい必ず言う事のようで、こちらに聞かないと言う選択権は無いようだ。
「まず、我々ギルドは王国帝国教国、他にもあらゆる場所に支部を持ちます。その為我々は冒険者の掲げる『自由』と言う信念の下、特定の国に属さない、1つの独立した巨大な組合となっております」
まぁ特定の国に属したら他の国では活動できないわなと頷きながら続きを促す。
「なので我々ギルドに入ると言う事は国に属さないと言う事になり、国の恩恵などが受けれない場合もございます。まぁそんな事はまず無いのですが、可能性としてはある訳です。それでもギルドに加入しますか?」
もとより国の恩恵など受けなくても生きれるし、場合によっては国家1つを敵に回しても生き延びる自信はある。なので霧裂は大して悩まず直ぐに頷いた。
「……そうですか。分かりました。では此方の書類にご記入ください」
はーいと簡単に返事をしながら、渡された書類とやらに目を通す。記入欄は、名前、性別、年齢、使う魔道具程度。簡単だなと思いながら名前の欄に『オーマ=キリサキ』と記入し続けて性別年齢なども埋めていく。魔道具は数があり過ぎるので何にするか迷ったが、一先ずセレーネ戦でも使った【紅蒼打ち抜く】を記入した。
「書きましたー」
「……これに虚言は含まれておりませんね? もし有った場合処罰と罰金となりますが」
一通り目を通した受付譲は霧裂を見ながら嘘の有無を尋ねてきたので、それに嘘は書いてませんよーと返事をする。ぶっちゃけギルド登録はどうでも良く、さっさと瞬谷とセレーネの情報が欲しいというのが霧裂の内心の思いだった。分かりましたと言い、書類をしまいながら受付譲は変わりに碧い水晶球を取り出した。どうやら魔道具のようだ。
「こちらに血を一滴垂らしてもらえますか? それで登録は終了です。明日にはギルドカードが発行されます」
「分かりました」
コートから一本の針を取り出し、それを指にプスリと刺す。セレーネに斬られても一切出なかった血が指先からポトリと落ち、水晶球に吸い込まれた直後、水晶球が一瞬緋く光る。それを満足そうに見て、用が済んだ水晶球をしまい、霧裂が口を開くより早く受付譲が話し始めた。
「それではギルドの説明を致しましょうか?」
「えーっと、……よろしくお願いします」
悩んだ霧裂だが、時間はあるしと説明をしてもらう事にした。それではと前置きし、話し始めた。
「我々ギルドは民間や王族からの依頼を受け資金を稼いでいます。依頼には難易度の高い物から低い物まであり、当然高い物ほど報酬金額は高いのですが、金に目が眩んで実力も無いのに高難易度の依頼を受けるバカが続出したので、今では依頼と冒険者に『級』を付け、依頼のランクと自身のランクの誤差±1ランクずつの依頼しか受けられない様にしております」
「ランクってどんだけあんの?」
「はい、ランクは下からE・D・C・B・A・S・SSの7段階あります」
つまりランクEの冒険者はランクE・Dの依頼しか受けれず、ランクDの冒険者はランクE・D・Cの依頼しか受けれないという事だ。
「ランクってどうやったら上がんの?」
「自身のランクと同等のランクの依頼を20件成功させるか、上のランクの依頼を15件成功させる事で『昇格試験』が受けれます。その試験に合格したらランクが1つ上がりますね」
「分かった。ありがとな」
「いえ、礼には及びません仕事ですので。他に何かありますか?」
そんな物はもう決まっている。霧裂は出来るだけ不審に思われない様に聞く。
「えっとさ、SS級の冒険者って何人居るの?」
「現在のSS級冒険者の数は『11人』です」
霧裂の問いに淡々と受付譲は答えた。その言われた数に僅かに目を見開く。霧裂が事前に聞いていたSS級の数は『13人』。瞬谷が除名されたとしても『12人』のはずだ。
「13人だと思ってたんだが……」
「はい、つい三日前、カトルシアで起こった事件により二名のSS級冒険者を除名、称号剥奪の上で賞金首としました」
カトルシア。三日前。丁度霧裂が居た頃だ。どうなっている? と考えながら霧裂は問いかける。
「除名されたSS級の名は?」
霧裂の問いに、受付譲は淡々と、爆弾を投下する。
「除名されたSS級冒険者は【瞬王】サク=シュンヤ並びに――――【狂月】セレーネ=クレスントの二名です」
「なん……だと……?」
時は僅かにさかのぼり三日前。
霧裂とセレーネの殺し合いから一夜明けたカトルシア。
そのギルドにて世間で狂人として知られる1人の少女が――――目覚めた。
ギルドの説明変な所があったら教えてください。
そして次回は彼女が動きますよ! 主人公出ないのでさっさと終わらせます。