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S  作者: ぼーし
第三章 【傀儡師】編
18/62

-15- もうヤダこの人、化物だよ、体も心も

一先ず毎日更新じゃ無いけど、更新していきます



パチパチと火の爆ぜる音が響く森の中、焚き木の周りに4つの影が有った。

焚き木の真上に銀に鈍く光る鉄で出来た寸胴鍋を吊り下げ、クツクツと沸騰している液体、シチューの良い香りが鼻を擽る。それを掻き混ぜながら味見をし、作っているのは世間では【瞬王】と恐れられるSS級冒険者、『瞬谷(しゅんや)佐久(さく)』。


しかしながら額に滲み出る汗を拭きながら良い笑顔で、自分の作ったシチューを満足そうに眺める姿はSS級冒険者とは思えず、どこかの主婦のようだった。


「瞬ー、腹減ったー」

「あ、直ぐ出来ますんで。ちょっと待って下さい霧裂さん」

《言っておくが手を抜いたら承知せんぞ》

「分かってますよハクさん、完璧です」 


もしくは体のいいパシリ、子分だろうか。とてもではないが化物相手に命の奪い合いをしている姿など想像も出来ない。そんな瞬谷にハクは寝そべりながら今か今かと完成を待ち、霧裂は周りに様々な道具を並べ前に置いてある塊を弄繰り回していた。


これは途中襲ってきた魔物の成れの果てだ。完全に生き物としての面影をなくし、1つの奇妙な物体と化している。それを不機嫌そうに霧裂が見ている所を見ると、どうやら強度等が足りず霧裂が思い描く物に成らなかった様だ。簡単に言えば失敗である。


そしてそんな2人と1頭を少し離れた所でこれまた不機嫌そうに見ているのは、亜人の元奴隷狐耳少女『サリアナ=ニコラエヴナ』。彼女としては――認めたくは無いが密かに思いを寄せている――瞬谷がニッコニッコとハクは兎も角、霧裂にまで頭を下げているのが気に入らないのだ。まぁこれはサリアナが霧裂VSセレーネの死合の時に気絶しており、霧裂の化物性を全く見ていなかったが為に起こっていることであり、化物としての格の違いを思い知った瞬谷にとっては霧裂にタメ口どころか一切いない物として扱うサリアナの態度に内心冷や汗ダラダラである。


あの後復活したサリアナを交えて一度互いに自己紹介をしたのだが、その時サリアナは様々な、本当に色々な質問を投げかけて来る霧裂を無視し続けたのだ。おろおろとする瞬谷と、興味無さそうに大欠伸するハクの目の前で全ての質問を投げかけ終わった霧裂は、それでも無視され続けられたが為に、 無視ってどんな罵詈雑言よりも心を抉る鋭い刃になるんですね、と静かに涙を流しながら悟りを開き両手両膝を地面に付き項垂れてしまった。


そんな霧裂からは全く凄さを感じられず、何処にでも居る様な人族にサリアナは思えてしまい、瞬谷が何と言おうが話を聞かず今では殺気がギンギンに篭った双眸で霧裂を射殺さんとばかりに睨み付けていた。


「出来ましたよ!」

「おぉしゃー! 腹ペコだぜー」

《やっとか》

「…………」


霧裂はぽーいと謎の物体Xを放り投げて、のっそりと立ち上がったハクの体でサリアナの視線をシャットアウトしながら瞬谷が注いでくれた皿を受け取る。どうやら霧裂は、常に殺気を放ってくるサリアナに苦手意識を持ったようだ。まぁ仕様が無い、精一杯仲良くしようと思って投げかけたボールは一向に帰ってこず、代わりに無味無臭無色の鋭い魂を抉るナイフを投げかけて来られたのだから仕様が無い。ハクの体に隠れても感じる殺気に目に涙を溜めても仕様が無いったら仕様が無い。


「そ、それで? 瞬お前俺達の他に転生者って何人位いんの?」


気にしたらダメ、気にしたらダメと霧裂は心の中で何度も自分自身に言い聞かせ、自己紹介の時聞きそびれた事を瞬谷に尋ねる。


霧裂は自己紹介の時、瞬谷に幾つか聞いていた。

瞬谷も転生者である事。

そして瞬谷もまた神にチートを貰っている事。

最後に他にも転生者が居る事。

詳しくは聞けなかったが、チートと言うのは何度も使った【空間転移】だと考え、他の転生者と言うかなり気になる事を聞いてみる。


「えっとですね、オレが確実に転生者だと知っているのは5人ですね。皆二つ名持ってて、【勇者】、【剣聖】、【神槍】、【賢者】、【魔女】と最後に【聖騎士】です」

「くっそ、【勇者】ってのはハーレム野郎だな? 会った事無いけどゼッテェーそうだろ?」

「その通りです、ちなみに超鈍感。完璧主人公ですね」


今だ見た事がない【勇者】に隠しもしない殺意を滾らせる霧裂。それに苦笑しながら瞬谷は話を続ける。


「他にも居るかも知んないすけど、オレは知りませんね」

「ふーん、全員間違って殺された奴か?」

「はい、【賢者】の奴はそれに疑問覚えて何か研究してるらしいです」


確かに怪しーなと言いながらパクリとシチューを口に含み、その美味しさに目を見開きながら瞬谷を絶賛する。いやーそれほどでもと照れる瞬谷に霧裂は、ちょっと引っかかった事を聞く。


「何で【聖騎士】だけ区切ったんだ?」


霧裂の問いに、瞬谷は怒りを露にして口を開いた。


「【聖騎士】何て言われてるけど、実際クソヤローですよアイツは」

「……何かしたのか?」

「殺しまくってるんですよ、亜人をね」


確かに殺しはちょっとアレだが、人だって人を殺しまくってるだろと怪訝な表情で瞬谷を見た霧裂だが、ふいにサリアナの方を見て、あーと分かったような顔をした。まぁ思い人が殺されまくってる亜人であれば怒りは当然だろう。


「亜人の方は何も抵抗してないのか?」

「いえ、確証は無いですけどもしかしたら転生者かもしれない【魔女】って人が亜人の味方になって戦ってるらしいです」

「ちなみにどっちが強いの?」


純粋な疑問、【魔女】より【聖騎士】が強かったらダメじゃね? と思いながら瞬谷に問いかける。それに対して瞬谷はすぐに答えた。


「【聖騎士】です」

「ダメじゃん」


いや何やってんの【魔女】さん、アンタ意味無いじゃないですかーと呆れたように言う霧裂に瞬谷は慌てて付け加える。


「【魔女】と【聖騎士】が戦り合ったら【聖騎士】が勝ちますけど、【魔女】って一対多の戦闘が得意ですから、【聖騎士】は側近に任せて他の人族を殲滅してるから戦況は互角です」

「【聖騎士】ってそんな強いの?」

「【聖騎士】は魔法に完全耐性持ってるから【魔女】の攻撃が全く効かないんですよ」

「ちなみに側近に転生者は?」

「分かりません。ただ側近の二つ名は【戦乙女】、【獣王】、【粉操者】、【炎皇】で、その中の【粉操者】以外は亜人って言われてますから可能性があるとしたら【粉操者】だけかと」


へーと納得したように頷く霧裂。霧裂は今の所どちらにも手を貸すつもりは無く、一先ず【勇者】殴ってあの狂った女から見つからない安全な隠れ家を見つけようかねと考えていた。


「それにしても、もしかしたら転生者10人位いんじゃね? あの幼女様くしゃみし過ぎだろ、風邪引いてんのか?」


その幼女様事創造神がわざと殺したという事を一切考慮せず口に出した霧裂の言葉に、瞬谷はえ? と疑問の声を上げた。


「幼女様ですか? 爆乳美女様じゃなくて?」

「はぁ? 俺を殺したのは幼女様だぜ、ちんまい銀髪美幼女様」

「そうなんですか? オレを殺したのは超爆乳の大人の色気ムンムン美女様でしたよ?」


ポカンと暫く見合って、神様っていっぱい居るんだなと言う答えに辿りついた。結構幼女と美女の共通点とか有ったり、神様だから姿ぐらい変えれんじゃね? とも思ったが、それは口にしなかった。皆思い出は美化したがる物である、何か思惑があって自身を殺した等とは霧裂も瞬谷も考えたくなかった。


しっかり食べきり、ハクは完全に夢の世界に旅立ち、サリアナは今だに霧裂を睨んでいたが気にせず話を続ける。瞬谷は寸胴鍋を洗ったり明日の朝食の準備をしながら、霧裂は別の素材を取り出し何かを造りながらだ。霧裂も料理は出来るので朝食ぐらい変わりに作ろうとしたが、瞬谷に止められた。


「後どれくらいで王国に着くんだ?」

「明日には到着すると思いますよ」

「ふーん、【空間転移(テレポート)】って言うぐらいだから、一瞬で着くと思ってたけどそうでもないんだな」

「はい、オレのチート結構制約多いんですよ。50回以上使ってたら頭痛くなるし」

「そりゃ大変だな」


うんうんと頷く霧裂に瞬谷は首を傾げる。


「あれ? チート使ってたら頭痛くなりません? 他の転生者もずっと使ってたらそうなるって言ってましたけど」

「ん? そんな事あったっけなー。一週間ぐらい不眠不休で体改造し続けたけどそんな禁断症状はでなかったぞ?」


霧裂の何の気なしに言った、体改造と言う言葉にピタリと動きを止める。そう言えばどんなチートを手に入れたか聞いてなかったなと思い、恐る恐る瞬谷は霧裂に尋ねた。


「霧裂さんは一体どんなチート貰ったんですか?」

「生産チートだけど?」

「な、何で腕とか変化してたんですか?」


聞くな聞くなと頭の中を警報が鳴り響く中瞬谷は尋ね、霧裂は首を傾げながら、


「だから改造したんだよ、自分を自分で」


ぽっかりと大きく口を開き目の前の狂人を見つめる瞬谷。


「じじじじ自傷趣味とか有ったんですか?」

「あるかそんなもん! ちょっと薬でラリってただけじゃい!」


ヒィ! と短く悲鳴を上げる瞬谷。どうにか話を逸らそうとパニクッった頭で考え、つい口から出た言葉は。


「でででででも、一週間とかチート使い続けたら頭痛以上に酷い事なりません!? オレ神獣と戦った時、100回くらいチート使って吐血したんですけど!?」


さらなる追求だった。やっちまった、オレのライフはもうゼロよと内心悲鳴を上げながら霧裂の言葉を待つ。そうして言った霧裂の言葉は。


「あぁなるほど、あの内部の破裂とかは薬のせいじゃなかったんだな」


納得したように頷く霧裂に瞬谷は膝から崩れ落ちた。もうヤダこの人と涙で地面を濡らしながら眠りに付くのだった。

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