-閑話- あの幼女様はどーなってるの!?
真っ白な何もない空間。大地も空も何も無く、ただ白が埋め尽くす空間に、1人の幼女が横になっていた。両手に顎をのせ、ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら目の前に浮かぶ小さな透明の球を見つめていた。
その球に写っているのは、白い大狼と七色に輝く双眸を持つ少年と、黒髪黒目の少年と金髪狐耳の少女。その中で幼女は不思議な眼を持つ少年に注目していた。
「そう言えば居たなーこんな奴。忘れてた忘れてた」
その少年は、幼女、創造神が殺し異世界に放った33人の1人。すっかり忘れていたのにはちゃんと理由があった。この少年の望んだ力が生産チートなどと言う創造神の望んだ力とは全く違ったため、適当に異世界に放ったのだ。創造神は死んだと思ってたと呟きながら少年を見る。
「まさか生産チートにこんな使い方が有ったなんてねー、いやー狂ってる狂ってる」
少年は創造神の予想を超え、自分を改造するという手段で創造神が望んだ、世界を滅茶苦茶に出来る力を手に入れた。それが嬉しくて、上機嫌な創造神に後ろから声がかけられる。
「あ、あの! 創造神様! お、お仕事してください!」
背中に一対の純白の翼を持った天使と言うべき少年は、体をがたがた震わせながら、なけなしの勇気を振り絞って創造神に言った。上機嫌な今なら溜まりに溜まった書類を処理してくれるかもと思ったのだが、少年の言葉を聴き、ビキリと空気が豹変した。創造神の小さな体からあふれ出す殺気にガリガリと自分の魂が磨り減っていくのを感じながら、逃げたいけど逃げれないと言う状況に少年天使の顔がどんどん青く白くなっていく。
「アンタ、誰に命令してんだよ。私は創造神だぞ。何の為にアンタを造ったと思ってる、アンタがやれよ。私は今忙しいんだよ、それ位分かるだろ? 分かんねーの? アンタそんなに使えない? 別にアンタを消して新しいの造ったって良いんだよ? 死にたくなかったら私に口答えするな、私に喋りかけるな、この空間に来るな、言われた事をはいはい返事してやってれば良いんだよ。聞いてんの? さっきから返事ないけど、私を無視してるの? この創造神様を? アンタホントに何様のつもり? 何か言ったら――――ってあれ?」
イライラとして殺気を駄々漏れにしたままギロッと少年天使の方を睨み付け、呆けた声を出した。死んでいた。少年天使は白目を向き、泡を吹きながら絶命していた。創造神の殺気に少年天使の魂が持たず、弾けて消えた。あーあ死んじゃったと何でも無さそうに言って、指を振る。それだけで少年天使の体が跡形もなく消失した。
「あーめんどくさっ。また造んなきゃ」
創造神は銀の髪を一本抜き、それを放る。髪はクルクルと回り、そして絶命した少年天使と全く同じ姿になった。創造神は少年天使に命令を下す。
「私の仕事を片付けろ。口答えは許さない、この空間への立ち入りも禁ずる。ほら、何してんの? 早く行って」
2代目少年天使は何も言わず、深々とお辞儀をしてその場から消えた。それを確認して気が削がれちゃったと言い、右手に紙の束を出現させる。その束には32人の顔写真と詳細が乗っていた。
「これに乗せなくちゃ、33人目は生きていたっと」
その束に七色の瞳をもつ少年を加え、満足そうに見る。ペラペラとページを捲ってお気に入りのページを開く。
「今の所私の思ったとおりに世界を滅茶苦茶にしてるのは【邪帝】と【聖騎士】かな? 何かご褒美上げた方が良いよね。何にしよう?」
2人は創造神が望んでいたモノを見せてくれたので、何か褒美を与えなきゃね! と頭を悩ます。
中々決まらず、ま、後でで良っかと他のページを見る。
「うーん、次点は【魔女】と【神槍】、【傀儡師】かな? でも【魔女】は何か義兄探してるし【神槍】は神の名を持ってるのがムカつくし【傀儡師】は操ってバッカリで自分は戦わないし、メンドーだなー」
他にもパラパラと捲り、おっこの子なんて良いねと上機嫌に見ていた創造神だが、ピタリとその手を止める。開いたページに乗っていた顔写真を見て落胆の色を見せる。
「で、最下位は【勇者】とか【聖女】とか居るけどやっぱコイツだな」
開いたページに乗っていた少年を見る。その少年に二つ名は無い。この少年こそ、唯一二つ名を持たない転生者だ。中々使えるチートをやったのに、魔物にビビったとかで辺境の村に引きこもってそこに居る村娘と結婚していた。
ちなみに【勇者】も【聖女】も創造神の評判は良くない。【勇者】と【聖女】は世界平和を目指してるからだ。
「たくっ、戦えよ。何のために力を与えたんだと思ってんだよムカつくなー」
創造神は憎悪を隠しもせず、二つ名無しの少年のページを握りつぶした。
親指を歯で軽く噛み、そこから滴る3滴の血を球体の中に落とした。
「さぁ行け、私が造り出した僕達よ。世界を恐怖に陥れろ」
3滴の血の内、1滴は海に堕ち巨大な龍へと姿を変え【勇者】へと向かい、もう1滴は堕ちる途中、空中で巨大な怪鳥へと姿を変え【聖女】へと向かい、最後の1滴は大地に堕ち四本足で立つ異形の化物へと姿を変え二つ名を持たない少年へと向かう。
後に【海龍帝】、【天鳥帝】、【陸獣帝】と呼ばれる3匹の化物はゆっくりと成長しながら、時間をかけ迫り行く。まだまだ距離はある。だが着実に破滅の時は近づいていった。
さぁ見せろ。我が子達よ。
与えた力で混沌を。血で血を洗う戦争を。
平和なんて要らない。平穏なんて必要ない。私が望むのは安泰では無い。
私が望むのはただ1つ。私の望みはただ1つ。
地獄の様な世界に変えろ。