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S  作者: ぼーし
第二章 【狂月】編
13/62

-11- 挫折しました、引き篭ろうと思います

夜、何処までも暗く広がる空に燦然と輝く満月が浮かぶ頃、カトルシアを覆う壁に1人の少年がゆっくりと近づいていった。壁まで辿り着いた霧裂はぺたぺたと壁を触りながら調べる。


「(うーむ、これやっぱ魔道具だな。街を覆う結界を展開してる)」

《どうするんだ? 入れないんだろ? 俺様が壁ごと結界もぶち抜こうか?》


ばれる事を恐れてか小声で話している。どうやら壁自体に魔道具が仕込まれているようで、カトルシアを球体状の結界が覆っていた。これの結界により並みの魔道具や魔物では空や地下などから進入する事が不可能になっているのだが、ハクは並みの魔物ではないため物騒な解決法を霧裂に提示するがそれを首を振り却下した。


「(この結界を解析して一時的に穴開けるわ)」

《そんな事するならパパッと壊した方が良いと俺様は思うがなぁ》


どこか納得していないような声で言うハクだがそれを黙殺して霧裂は作業に取り掛かった。

右の人差し指を立て、壁に向ける。


「(『解析(アナライズ)』)」


小さく呟き体内にある1つの魔道具を起動。人差し指が青白く光、青い線が指を走った。ポキリと第一関節から折れ曲がり、上を向く。指の断面から青く細い棒が飛び出し壁に、否壁の表面に展開されている結界に突き刺さった。棒を通じて霧裂の中に結界の情報が流れこんだ。


「(……オッケーオッケー、わっかりましたー)」


しばらく無言で情報を読み解き、理解したのかにやりと口を歪めた。一度棒を結界から離し、今度は10本両手全ての指を結界に向ける。


「(『操作(アパレイション)』)」


ペキッと一斉に第一関節から上を向き、そこから伸びる細い棒が結界に再び突き刺さる。


「(よっと、簡単簡単)」

《上手いものだな。本職のそれを遥かに超えてるんじゃないか?》

「(ほっとけ)」


10本の棒を巧みに操り、ばれない様に結界を操作。人が1人入れる程度の穴を開けた。その穴を固定し、さらにその先カトルシアを覆う壁にも同じ様な穴を開け、スルリと壁の内側、カトルシアに見事な侵入を果たした。最後にキッチリ結界と壁の穴を塞ぐなどアフターケアもバッチリだ。


「(へいへーい! 侵入成功だぜ!)」

《で、これから如何するんだ?》


いよっしゃーとガッツポーズを小さくして、ハクの鋭い一撃にピタリと動きを止めた。


《まさか、何も考えてないのか?》

「いやさ、ホラ、千里の道も一歩からとか言うしまず入ろうと思って、その後のことはその時考えよーかなーなんて……すんません何も考えてないですハイ」


両手を振りながら弁解する霧裂だったが何も言っていないのに自己完結する。その無計画さに石橋を叩いて壊す性格は何処行ったと溜息を付きながら、一先ず人が居る場所に行けと指示しようとして、


《――ッ! オーマ!》

「んぁ、わかってんよ」


しょぼんと項垂れていた霧裂に警告を飛ばす。どうやら今霧裂が居る場所は街の中心部から大きく離れて居る様で、近くに人の気配は無い。だが、霧裂が居る場所にどんどん近づいてくる集団が居た。まだ霧裂からは遠く離れているが、それはあくまで客観的、常識に当てはめて見ての事で、霧裂やハクなら一瞬で詰められる程度の距離だ。霧裂やハク並みの実力者などそうそう居ないのだが念のためだ。


「……なぁハクよ、俺がおかしくなったのか? 変な動きをする気配が有るのだが」

《俺様も感知している、おかしくはない》


集中して気配を探る霧裂だが、その中で2つ有り得ない動きをする気配を感知した。転々と点々と、線ではなく点での移動をする2つの気配。そしてそれを追いかけているであろう気配が8つ。


「何だこれ、瞬間移動か? いや空間転移? そんな事が出来る魔道具なんてあんの?」

《俺様は知らんが、空間転移なら英雄の特殊『空間』を使えば出来るのではないか?》

「んー、無理。『空間』は出し入れは出来るけど移動は出来ないし」


色々仮説を立てる霧裂とハク。一先ず見てみよーぜと霧裂が言い気配がする方向に向けて走り出した。






「よっと」


建物の屋根の上を移動していく。不可思議な移動をする2つの気配だが、一定の距離で消えたり現れたりを繰り返すため霧裂がその距離を計算して、出した答えによると。


「次の次辺りで此処に出るかな」


そう言って建物の上から少し開けた場所を見下ろす。やはり人の気配はあの2つと8つしか無く邪魔が入ることは無いだろう。計算外の動きをしない限り2つの気配は必ず此処に姿を現すと確信を持って見下ろしていると。


フッと。何も無い空間から行き成り2人の人が姿を表した。ビンゴ! と心の中で自画自賛しながら月明かりで2人を観察する。黒い一枚の布で体を覆った黒目黒髪の少年とその少年に抱き抱えられている、灰色の汚い布切れでギリギリ大事な部分を隠したいくつも傷があるボロボロの金髪金目の少女。


(へぇ亜人か、はじめて見た。ま、当たり前だけど)


少女の頭にある狐耳やお尻から生えている狐尻尾などが何よりの亜人である証拠だ。だけど亜人って人と仲悪いんじゃなかったっけ、何でここ居るんだ? と首を傾げていると、霧裂には気付いていないのか少年の方が荒い息を付きながら肩膝を付き少女が慌てて少年に声をかける。


「ねぇ大丈夫なの、瞬!」

「はぁはぁ、平気平気。ちょっと力使い過ぎちゃって頭痛いだけだって」

「や、休んだほうが良いんじゃない? 結構アイツ等突き放したからまだダイジョブだと思うし」


イヤでも、と断ろうとする少年に少女はダメ、休みなさい! と無理やり地面に座らせる。その時少女の布がはだけ、顔を真っ赤にして少年の顔面を殴り飛ばし背を向けた。


その様子を屋根の上からしっかり見ていた霧裂の感想は、何かヤバそうだな、とかあの少年の顔日本人に似てるな、とか少女の体の傷が痛々しいな、とかでは無くただ1つ。


(リア充爆発しろ!!)


一年近くも狼さんと暮らし異性との会話が皆無だった霧裂にとって眼前でいちゃこらやっている少年少女が怨敵に見えてしょうがなかった。だが一年間待ちに待った異世界人との会話だ。昼間の弓兵との失敗を再び起こさない為にも、精一杯の笑みを作り――それでも引きつっていたが――お近づきの印として霧裂が造り出した《万能薬 Ⅹ》をコートのポケットから出して、屋根の上から飛び降り、にこやかに話しかける。


「いやー今夜は月が綺麗ですなー。あ、何か傷ついてる様だし《万能薬》なんて如何で――――」

「――ッ!? サリィ!」

「えっ、ちょっとまって!」


にこにこと話しかけた霧裂の言葉も聞かず、霧裂を見た瞬間少年が驚く少女を掴み、止める間もなく姿を消した。満月が照らすそこには万能薬片手にポツンと佇む少年が一人。


《オーマ、ダイジョブか?》

「……うん、ダイジョブだよ。あれれ? 可笑しいな目から汗が……」


アハハハと笑いながら上を向き静かに涙を流す。帰ろっかなと内心弱音を吐きながら、この場を離れようと屋根に再び飛び乗ろうとして、あの少年少女を追っていたであろう8つの気配が現れた。


「貴様! そこで何をしている!」


8人が全員鎧を着てさながら騎士のような格好をして、手に持った剣を霧裂に向けながら。


「……カエロッカナ」



◆ ◆ ◆



森の中に当然現れた少年は荒い息を吐きながら地面に崩れ落ちた。


「瞬!!」

「ぜーぜー、ダ、イジョブ。疲れただけ……」

「全然ダイジョブじゃないじゃない! しっかりしてよ、ねってば!」


少年の額から滲み出す大量の汗に少女は顔をサッと青くして少年を引っ張り木に寄り掛からせながら、両手の手の平を上に向け、言霊を紡ぐ。


「【天にまします我らの創造主よ、力無き子に恵みの水を。『水よあれ(ウォーター)』】」


何も無かった小さな手の平に限界まで水が溜まる。それを少年の口元に持って行き、ゆるやかに傾けた。


「飲んで、瞬」


少女の手から零れ落ちる水をゆっくりと飲み下した。ありがとうと少女にお礼を言い、ずいぶんと調子が良くなったのか体の力を抜きながらフーと少年、瞬は息を吐いた。


「無理しちゃだめって言ったでしょ! はぁ、しばらく休憩ね」

「……ああ」


少女の怒りながらも心配そうな声に頬を緩ませ、目を閉じる。思い出すのは先程の光景。


(アイツ誰だろ? 敵意は無かったけどつい逃げちゃったなー)


逃げるつもりは無かった。あの時は殆ど無意識で行動していたのだ。

瞬の本能が危険と判断した。全ての思考が停止してしまっていた。体が凍りついたように動かなくなっていた。


あの普通の顔をした少年の、様々な色に変わる不思議で、神秘的で、謎めいた――――恐ろしい双眸を目にしたせいで。


(何だったんだろーなアイツ……)


考えても答えが出るはずも無く、瞬は思考を放棄して少女に見守られながら体の回復に努めた。



◆ ◆ ◆



じりじりと手に持った武器を霧裂に向けながら8人の男共は霧裂を中心に円を作るように囲い始めた。


「貴様此処で何をしている!」

「えーと、散歩です?」

「散歩だと、今は夜間外出禁止令が出ているのだぞ」


もう色々諦めているのか、えーなにそれーと緊張感の欠片も無い態度で言いながら周りを見ていると、先程から叫んでいた騎士がニヤリと笑いながら言う。


「怪しい奴め。だが此方にとっては幸運だ、そもそも【瞬王】を捕らえるなど不可能なのだ。と言うわけで貴様を捕らえて少しでも我等の失態を軽減させようと思うのだが、良い作戦だとは思わないか?」

「穴だらけの作戦と思いまーす」


もう良いやと口の中で吐き捨て、ぼーと突っ立っている霧裂は手を上げながら堂々と言い捨てた。それが気に障ったのか、ピクピクと口の端を動かしながら、目で他の騎士に合図をして、


「ではその穴とやらを教えて貰おうじゃないか!」


霧裂目掛けて一斉に駆け出し輪を縮める。それでも焦る事無く、立っている霧裂に真っ先に辿り着いた散々叫んでいた騎士が剣を振り上げ、一気に振り下ろし――――


「ぶべらっ!?」


顔面を殴られ鼻血を噴出しながら吹っ飛んだ。唖然として動きを止めた騎士達を尻目に、右手を振りぬいた形で止まっている霧裂はめんどくさそうに言う。


「例えば俺が全員ボッコにするとか」

《良いのか? もうこの街では暮らせないぞ?》

「良いの、俺もう帰る。一生をあの塔で過ごす事に決めた」

《まぁ別段俺様は構わないが……》


ハクともう止めだーと話しながら、ちょいちょいと騎士達を挑発する。


「この、クソガキがぁ!」


ギロッと霧裂を睨み付け、突っ込んできた騎士に触発され、残りの騎士全員が雄たけびを上げながら駆け出した。霧裂は手をプラプラと振りながら、まず後ろから横なぎに振るわれた剣を身を屈めて避け、振るった騎士の顔面を右手を伸ばし掴む。


「ひぃ!?」

「ふん!!」


頭をアイアンクローで締め付けながら、左から来た騎士の振り下ろしを一歩下がることで避け、右から来た騎士2人に投げつける。前の騎士の右切り上げを右足で剣ごと踏み砕き、後ろから来た騎士と再び来た左の騎士に裏拳。最後に前にいる砕け散った剣を呆然と見つめる騎士の胸に正拳突きを叩き込んでふっ飛ばし、状況の悪さをいち早く察し逃げようと背を向けていた騎士にぶつけて終了。


「よし、すっきりした所で帰るか」


首をこきりと鳴らしてその場を後にしようと足を動かした所で、


「――ッ!?」


霧裂の背を悪寒が駆け上がる。ハクもすぐに気付きオーマ! と警告を飛ばす。凄まじい速度で、1つの気配が向かってきていた。この霧裂がいる場所へ。


「何だっつんだよ、次から次へと!」

《愚痴は良いから隠れろオーマ! コイツ強いぞ!》


気配を読むのはハクの方が数段優れている。その言葉に逆らわず、建物の壁際にある茂みの中へと姿を隠し、気配を遮断する。


速度を一切落とす事無く、瞬く間に霧裂がいた場所に気配の正体が姿を現した。

月明かりで輝く銀の髪をポニーテールにした少女が周りの騎士達を見渡していた。


(やべーなあの娘、ゼッテー関わりたくねー)


森での生活により発達してた霧裂の危機感知能力がビンビンと少女と関わったら危険だと言う事を知らせていた。ゴクリと唾を飲み込む。


少女は暫くそこに居て周りを見ていたが、何も見つけることが出来なかったのか、来たときと同じ速度でその場を離れていった。完全に姿が見えなくなり、感知範囲も出たのを確認して、ハクに話しかける。


「行ったか? 行ったな?」

《……ああ、行ったな。もう大丈夫だろう》


誰も居ないのを確認してふーと息を吐き出し、体の力を抜きながら茂みから出た――――直後、霧裂の背後、屋根の上からカツンッと足音が鳴った。


誰も居ないのを霧裂とハクは確認した。安全を確認出来たからこそ出たのだ。それなのに、霧裂とハクの感知を掻い潜って背後に立った。ゾンッと悪寒が霧裂の背を昇りバッと振り替える。


そこには。


暗い夜の空に浮かぶ輝く満月をバックに1人の少女が立っていた。右手に黒い剣を左手に赤い剣を持ち、荒れ狂う赤黒い『闘気』をその身に纏い、ポニーテールにした煌く銀の髪を靡かせながら、その輝く鮮血の様な緋い双眸で霧裂を射抜く。少女は嬉しそうに、楽しそうに、歓喜に身を震わせながら、可愛らしい唇をグチャと歪めながら言葉を吐き出した。























「……見ーつけた」

次回、天然チートバージョン狂人VS生産チートバージョン改造人間!


乞うご期待! ……………………やっぱり期待しないでくださいorz


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