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S  作者: ぼーし
第二章 【狂月】編
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-10- 2人目転生者 名を【瞬王】

森の中を木にぶつからない様に高速で駆け抜けるアラン。その速度は人の限界を超え、十分に人外と呼ばれる領域に突っ込んでいるのだが、それでもあの少女との距離は一向に縮まる気配を見せない。


「あーあ、カトルシアに来るんじゃなかったっす」


S級と呼ばれる級に達するのは容易なことではない。世界中に何千と居る冒険者の中でも極僅か、地獄のような鍛錬、努力、そして神に愛された天賦の才が無ければ到達できない人外の領域。


アランも冒険者、夢は当然SS級だ。だが、思い知った。この僅か2日の旅で、人外とか天賦の才とか地獄の鍛錬とか努力とか、そんな事をしている時点でソイツは一生S級。


違うのだ。


それより先、SS級。世界中に認定されているのは僅か『13人』。S級冒険者の今までの地獄を、鍛錬を、努力を、そして天賦の才をまるで嘲笑うかのように容易に飛び越え人外と呼ばれる領域すら超えて、神の世界に足を踏み出す。


そんな化物。それがSS級。それが人族最強の存在。


この目で見てしまったからこそ分かる、この世の理不尽。選ばれた者の、さらに選ばれし者にしか到達できない。


「まさかSS級との間にここまで差があるなんて思ってもみなかったっす」


フンと鼻で笑う。考えようによってはこれから無駄に夢を追い求めず、ここできっぱり夢を諦めることで時間を無駄にしなかったとも取れる。しかしアランに取ってやはりSS級とは長年の夢であり理想なのだ。そう簡単に諦められない。


絶対無理と分かっている一方でまだ夢を諦めたくないと駄々をこねる。モヤモヤとした感情が胸に留まり、あーもーやってらんねっす! と叫んだところで、気付いた。


(何か居るっす? いや何か近づいているっすね……一体何処から……上!?)


今までなら気付かなかったであろう微かな気配。今のアランは間近で見せられたSS級との壁や戦闘後などにより、五感が鋭くなっていた。その為気付いた、アランのはるか上空、何も無い空を転々と移動する1つの影に。


(何すかあれ、まさか亜人? でもここら辺に亜人の村は無いっすし……ともかくそっちはカトルシア、行かせる訳には――――)


「いかねっすよ!」


叫び、背にある大剣を抜き払う。美しい白の剣身に描かれた鎖のシンボルは黒く光を放っている。それに伴いアランもまた全身から煌く黒の『闘気』を立ち上らせた。


「【不滅の鎖大剣】、出番っすよ! 『投擲の束縛』!」


敵を見据え両手で持ち下から上にフルスイング。轟っと風が唸りを上げ振り上げられた剣身から、アランの声に反応して剣身の黒き輝きが10の黒き鎖となって上空を転々と移動する影に向かう。この鎖の速度は剣を振るった速度に依存し、高速で風を切り裂きながら進んだ鎖が上空の影を捕らえた。


「一先ず情報を吐かせるっす――――ってはぁ!?」


完全に捕らえたと思った鎖は空を切り、あの人影を見失った。一体何処っすかと意識を集中させ――――突然現れた背後の気配に前方に頭から飛ぶ。


長年の経験で疑問を一先ず排除、敵に意識を集中させる。すぐさま体勢を整えて【不滅の鎖大剣】を両手に構え、自身が先程まで居た場所を振り向く。

しかし。


「どうなってんすか!?」


そこには誰も居らず、変わりに再び同じ気配がアランの背後で立ち上る。また前方に飛んでも同じっすね! と口の中でで吐き捨て両足を踏ん張り、腰を右回転。両手持ちから右手1本に持ち替え、尚且つ剣線がブレない様に右腕に『闘気』を集中させる。


振り向きざまに横一線。アランの【不滅の鎖大剣】は背後の敵が右手に持った刃渡り10cm程の短剣に阻まれた。しかし大剣を短剣で受け止めれる筈も無く、威力に負けて後ろに飛んだ。


此処で漸く敵の姿をアランは見ることが出来た。首下から足首までを1枚の大きく黒い布で覆っており、首の右下にある金色のボタンで留めてある。そのため首から下で見えるのは布の切れ目からのぞく右腕だけ。


視線を顔に向ける。性別は男、まだ少年と言って良いほどに若く目と髪が黒色でとても平凡な顔。


「一体何処の誰っすか? もし単なる一般人なら金貨でも何でも払うっすけど、違うっすよね?」


アランの問いに少年はにっこりと笑い言う。


「一般人さ、文字の頭に元が付くけど。正確には一年前まで一般人だった」


一年前と言う言葉にアランは一層警戒する。一年前、『変動の年』と呼ばれるその年は、突如経歴不明の実力者達が頭角を現した時期でもある。その年に今まで5人だったSS級は13人までその数を増やした。


他にもその年に現れた者で有名どころは、

教国の【勇者】。

帝国の【剣聖】。

王国の【聖女】。

奴隷剣闘士の【拳聖】。

SS級賞金首の【邪帝】。

亜人殺しの【聖騎士】。

亜人の【戦乙女】。


そして最も有名で危険視されている者。今まで狩られる立場だった亜人達を纏め上げた亜人の救世主。亜人の女王。


【魔女】。


今だ【魔女】に関する情報はあやふやで、誰かを探し回っているらしいが定かではない。


イヤそんな事はどうだって良いっすねと頭を軽く振り、少年を見る。少年から目を離さずに、嘘かもしれないという前提の下『変動の年』に現れた実力者達を少年と重ね合わせて行き、


「まさか、【瞬王】っすか……?」


一人の人物に辿り着く。口では疑問系だが、心の中では確信を持ってしまいくそっと吐き捨てる。間違いないとアランは思っていた。線での移動ではなく、点と点での移動。こんなことが出来るのは【瞬王】しか、SS級冒険者【瞬王】しかいない。


同じ冒険者、警戒する必要は無い。だがアランは警戒を解かず【不滅の鎖大剣】構える。


「一体どうしたこんなとこに居るっすか」

「お前に言う必要はねーな」

「それなら敵と見なし排除するっすけど文句は無いっすね?」


アランの問いに、少し目を瞑り言った。


「あぁ。どうせオレは犯罪者になるんだしな」


その言葉に、アランは【不滅の鎖大剣】を構え走る。敵わない、こいつには勝てない、SS級には勝てるはずが無いと心の中で思いながら全力でぶつかる。【瞬王】も短剣を構え――――困惑の表情でアランを見た。それに口の端をゆがめながらアランは言う。


「アンタの力を封じさせてもらったす。【不滅の鎖大剣】の能力『束縛する因果』でねっ!」


最後の言葉と共に【不滅の鎖大剣】を胴を切り裂く様に横に振るう。それを身をかがめて避けながら【瞬王】は自身の力を封じられたわけを探っていった。


「なーるー、その『束縛する因果』って術者から一定範囲外に逃げれなくなる訳な。確かにオレの【空間転移(チート)】は一瞬だけ『時空間』に入るから実質最も遠い場所って訳か」

「何言ってるか全くわかんないっすけど、たぶんそう言う事っす!!」


黒い光を靡かせながら高速で無数の剣線が【瞬王】に襲い掛かった。【瞬王】の恐ろしい所は、その速度を度外視した移動法にある。幾ら強靭な盾を張ろうと、線での移動ではなく点での移動の【瞬王】には全くの無意味。だからこそその移動方を奪おうと『束縛する因果』を使ったのだ。


(まさかそれで成功するとは思わなかったっす)


アランに取っても一か八かの賭けだった。【瞬王】が一体どんな魔道具を使って(・・・・・・・・・・)いるかも不明の中(・・・・・・・・)で、アランは賭けに勝ったのだ。


事実【瞬王】はアランに防戦一方だ。勝てる、アランはそう思った。斜め右上から下に振り下ろす一撃。それを【瞬王】は後ろに飛ぶことで避ける。


「逃がさないっすよ!」


【瞬王】を追い、アランが右足を前に一歩踏み出した――――瞬間、踏み出したアランの右足の甲に短剣が突き刺さり地面に縫いとめた。


「いっ! 何で!?」


その短剣は【瞬王】が右手に持っていたあの短剣。突然の事で戸惑い視線を【瞬王】から外し足に突き刺さった短剣を見るアランの懐に【瞬王】が飛び込んだ。


「『束縛する因果』は術者から一定範囲外に出なければ良い訳だから、お前も一緒に『飛んで』終わりだ」


ぎょっと【瞬王】を見るアランの目を見返し、トンと軽くアランの体に右手で触れる。


「【空間転移(テレポート)】」


【瞬王】の呟く声がアランの耳に届き、身を動かそうとする前にアランの視線が一瞬ブレ、気付いたときには首下まで地面に埋もれ【瞬王】に見下ろされていた。


「んん、命まで取る気ねーし、そ言う事で」


アランがどう言う事? と聞き返す前に【瞬王】は姿を消した。


「はぁ、プライドとかもう修復不可能っす。俺じゃ絶対SS級には成れそうに無いっすね」


あーあ、何でカトルシアに来たんだろと過去の自分の選択を悔やみながらアランはポツリと呟いた。


「取り合えず早く此処から出ないと魔物のご飯になるっすね、ヤバイヤバイ」


夢は諦めても命は諦めてない! と急いで身を捩じらせ脱出しようとする。幸運な事に【不滅の鎖大剣】はアランの右手に握られているので脱出は難しくない。もう【瞬王】に追いつくのは不可能だろうが。


「ホントに何で来ちゃったんすかねー」


今日何度目になるか分からない溜息を付きながら同じ愚痴を零す。


日が沈むまで後僅か。

アラン退場(笑)←死んでないよ!

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