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S  作者: ぼーし
第二章 【狂月】編
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-08- この仕打ちは酷過ぎる!

歩き続けて1週間、結局霧裂が望んだ様な商人の美少女とか村娘とか奴隷美少女だとか1国のお姫様とかに会うこともなく、それどころか途中から山道を通っていたにも関わらず人に会うことはなかった。


「なぁハクよ」

《何だオーマ》

「人って……存在してる? 滅んでないよね?」

《安心しろ、血の匂いは無い。お前は独りではないぞ》


途中1度視線を感じたが、霧裂は今だ会うことができない為、え? もしかして滅んだ? と人類全滅説を説くがハクがそれをやんわりと否定した。霧裂も言って見ただけと笑い、視線を前に向ける。霧裂の視線の先に目的地、都市カトルシアが見えていた。

ようやく人に会えると歓喜に身を震わせているとハクがところでと前置きし言う。


《俺様は如何すれば良いのだ?》


ハクは災害級【白夜狼】、当然人が住まう都市入ることは出来ない。もし入ったりしたら、超特大サイズの巨人くんが高い壁からひょっこり顔を出した時並みのパニックが起こること間違いなしだ。ハクはその事に今更ながら気付き、もしかして俺様だけ都市に入れないのか? と若干不安になりながら霧裂に聞いてみる。


霧裂はニヤリと笑い、ちっちっちと指を振った。


「ふっふっふ、私、霧裂王間がそんなミスを犯すとでも? その点はバッチリ解決済みだ!」


羽織っているロングコートの右ポケットに手を突っ込む。外から見ても明らかに何も入っていないポケットだが、霧裂が再び手を出した時、その手には縦10cm、横15cm、高さ10cm程の木箱が握られていた。


木箱には所々繊細な装飾が施されており、匠の技を伺える。そんな木箱をドヤ顔でハクの目の前に突き出し、説明を始めた。


「良いか、これはな俺がお前の為に造って置いた一品だ。その名も【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】。何と英雄の素材も使われてんだぜ」

《……で? それが何の役に立つというのだ》


小さな木箱にはかなりの魔力が込められており、魔道具としても――霧裂が造ったのだから当然――最高級の一品だろう。だが、この木箱が何かの役に立つとは思えない。疑問の声を上げるハクに、霧裂は全く分かってないなーとでも言うように首を左右に振る。


「英雄の骨の特殊能力を忘れたか? これはだな、その名の通り飼育箱だ!」 

《特殊能力? 確か『空間』だったな……まさか》


特殊能力とは、魔物など殺した時に魔物によってそれぞれ違う部位を剥ぎ取ると、その剥ぎ取った素材にその魔物の力――【白亜龍】なら爪を剥ぎ取ることで『透過』、【白昼虎】なら毛を剥ぎ取ることで『業焔』など――が死後もそのまま定着すると言うもの。その特殊能力を使って魔道具を造り出すのだ。


英雄の素材に定着していた特殊能力は『空間』、そして霧裂の飼育箱と言う言葉にハクは唐突に気付いた。


《まさか、その中に俺様が入るんじゃないだろうな》

「お、カンが鋭いねー。そのまさかだよん」

《ふざけるな! 俺様をそんな物に入れるつもりか! そもそもその中身はどうなっているのだ!》


あんな木箱に入れられては堪らないとハクは心の底から抗議する。確かに霧裂の生産チートは本物で、その肉体をも1人で改造して見せたし、他にも様々な高度な魔道具を造り出しているのはハクが一番良く知っている。だがそれと同時に、散々失敗してきた所も見てきているのだ。生産チートも成功率100%ではないようで、一度森の一部を引き飛ばした事があった。その時はハクが異変に気付き、咄嗟に霧裂を連れて逃げたから良かったものを、一歩遅れていれば霧裂は木っ端微塵に成っていただろう。その経験から拒否したハクだが、心の中ではきっともう何を言っても無駄なのだろうなと諦めの境地に立っていた。


「中、中か……すまんわからん」

《ハァ!?》

「嫌、こん中には入れるのはハクがしてるリングを付けてる奴だけなんだよ。だから俺も知らん。造ったのは俺だけど何か予想外に広がっちゃって、どうなってるかは全く分からん。だからブラックボックスな」

《お前好い加減にしろ! そんなわけ分からんものをぶっつけ本番で、しかも俺様で試そうと言うのか!?》

「そうだよ」

《そうだよじゃ――――》

「あーもう、ダイジョブだって、『飼育(ブリーディング)』」


ハクの言葉を途中で遮りキーワードを言って、無理やりハクを【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】に入れた。殺す! などと物騒なことを言いながら、蓋が開いた【小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】に吸い込まれる。


「おぉーい、聞こえるー?」

《…………》

「ねぇってばー。…………あれ、本気でヤバイ?」


しっかりと中に入ったことを確認して、ハクに問いかけるが返事がない。まさか失敗!? と顔を真っ青にして慌てふためく霧裂。しばらく黙っていたハクだが、顔色が青から白へと移行し始めた頃を見計らって声を掛ける。


《……安心しろ、死んでないわ》

「ハクッ! 良かった~、心配したんだぞ」

《それなら次からはぶっつけ本番はよしてくれ》

「うぐっ、す、すまん。英雄の素材で俺を造ってっから自信が有ったんだよぅ」

《だとしてもだ。生きた心地がしなかったぞ……》


一応理由が有ったようで、しょぼんと頭を下げる霧裂にハクは怒りが収まっていく。実際、無事だったしまぁ良いかと考えまだ謝り続ける霧裂にもう良いと声を掛けた。


《それにしても凄いな、地平線が見えるぞ》

「え、マジで?」

《あぁ。今感覚を広げて見たのだが、恐らく俺様達がいた森の10倍の広さはあるな》

「うっそ、そんなに!?」


思っていた以上に広がっている事に愕然とする。さらにハクが言うには、今も広がっているらしい。霧裂は凄いもん造っちゃったと自身を褒め称えながら、これなら色々な魔物を入れて動物園もとい魔物園を開いたりできるかもと魔物の危険性を一切考慮しない夢を広げていた。


「おっと、こんな事してる場合じゃねーな。ハクもダイジョブだし、都市カトルシアに入るぞ?」

《ああ、俺様は構わない》


小さくて大きな飼育箱(ブラックボックス)】を右ポケットに無造作に入れる。しっかり入ったはずなのに、外から見たらペッタンコ、何か入ってるように見えない。


ハクの事も解決し、ようやく人に会える! と逸る気持ちを抑えながらカトルシアに向かって歩みを進めた。






カトレシアに近づき、その目で見た霧裂はおろ? と首を傾げる。カトルシアは周りを高い壁に覆われていて、都市内部に入るには東西南北、4つの扉から入らなければいけない。だがその扉がすでに閉じていた。まだまだ太陽は沈み始めたばかりで、閉じるには早すぎないか? と疑問に思いながらも扉の左横にある騎士の詰所に向かう。もしもの時は宝石(賄賂)でも渡すかなと考えながら歩いていた霧裂に、上空、壁の上から声が掛けられた。


「動くな! 止まれ!」

「え、何事?」


行き成りの怒声に何かタブーをやらかした!? と異世界の常識を持っていないのを悔やみながら戦々恐々とする。チロリと声を掛けられた壁の上を見てみると、3人の弓兵が霧裂に狙いを定めギリギリと弦を引いていた。


のわ! と声を上げ、通じるか分からないが直ぐに両手を上げる。その間も3人は少しも微動だにせず、殺気の篭った目で霧裂を監視していた。


「問う、何者だ」

「か、か弱い旅人です!」


霧裂の言い訳に3人は目を細める。


「何も持たずにか?」

「あ、いえ盗賊に襲われまして……」

「ほう、その割には上等な服を着てるじゃないか」

「え~と、これはその……」


まさか行き成りこんな事になるとは思っていなかった霧裂はパニックになり掛けながらも、必死で頭を捻り言い訳を言い出そうとする。が、完全に言葉に詰まってしまった霧裂を弓兵達は黒と見なしたようで、両腕に力を込めた。


「去れ! お前のような不審者を今この街に入れることは出来ん!」

「うぇ!? ちょっと待ってください! 俺、嫌私は神に仕える献身的な子羊であって――――」

「10秒以内にこの場を去れ! でなければ敵と見なす!」


その言葉に嘘偽りは無く、カウントダウンと共に殺気が高まっていく。蹴散らそうと思えば容易いが、霧裂は人と暮らすために来たのであって戦うために来たのではない。しっつれいしましたーと涙混じりに叫びながら森へと走って行った。






「行ったか……」


霧裂の後姿が完全に見えなくなってようやく弓兵達は警戒を解く。


「しかし良かったか? アイツ、まず明日の朝日は拝めないぞ」 

「しかたがない。運が悪かったと思った貰うさ。こっちも必死なんだ」


ここまでピリピリと警戒しているのは、約2日前、S級冒険者ジークがもたらした1つの情報のせいだ。

曰く、災害級【白夜狼】を従わせる人型のナニカが紅の森に現れた。

もしこれがただの一般人や新米冒険者なら誰も相手にしなかっただろう。しかし、この情報はS級と言う冒険者の中で2番目に高い級をもったジークが持ってきたのだ。さらにその後、全く同じ情報が商人から来ている。無下にすることは出来ない。すぐさま王都に情報を送り、S級冒険者3人に最高級、SS級の冒険者1人でパーティーを組み、紅の森を探索しに行った。


その間門は全て封鎖、もし人が来ても疑わしかったら絶対に入れず、パーティーが帰ってくるのを待っていた。


結局は自身の不注意のせいで街に入れなかった。ただそれだけの話。



◆ ◆ ◆



厳戒態勢中のカトルシアの街中。とある裏通りを進んだ先にある1つの建物。そこで短い少女の悲鳴と何かで引っ張ったく様な音が響き渡っていた。


「この、亜人風情が!」


でっぷりと太った首が肉に埋もれ、ギタギタの脂汗テカった顔が憤怒の形相で下を睨んでいた。視線の先にはまだ15歳くらいの少女が体に1枚の汚い布切れを巻き、露出している肌が赤く腫れ上がった痛々しい姿で床に転がっていた。


顔はそこまで腫れておらず、美少女なのが伺える。だが体を洗って居ないのか汚れが目立ち、首下で切りそろえられた金色の髪が痛み、くすんでいた。


「良いか、お前は亜人なんだ! 人様に逆らってんじゃねーぞ! ぶひー」


亜人。人とは違い体内に魔力を持ち、魔物の体の一部を持つ者。少女もまた頭の上からひょっこりと金の毛並みの狐耳がのぞいており尻尾も生えている。そして首には鉄の首輪、奴隷の証が。


「ぶひーぶひー、お前もう1ヶ月も売れ残ってんだよ! 何でか分かるか? お前が反抗的な態度を取るからだぶひー!」


人族の間では奴隷は法で禁止されている。ならばこれは違法か? 否、違法ではない。人の奴隷は禁止されているが、亜人の奴隷は禁止されていない。何故なら彼等は人ではは無いのだから。


散々少女を鞭で痛めつけた肉豚は、先程までとは打って変わってニチャリと嫌らしい笑みを浮かべた。

それに少女の本能が危険を告げる。

豚は涎でぐちゃぐちゃになっている口を開け、言う。


「だが良かったな~、ぶひーついにお前にも買い手がついたぞ」


瞬間、どんなに痛みつけられても希望の光が灯っていた少女の瞳に絶望が映し出される。


「貴族様だ。どうやらお前のように気丈な奴をぶっ壊して屈服させるのが好きらしくてなぁ。ぶひー良かったぶひー良かった」


ゲラゲラと嗤う男の言葉を聞いて、少女の瞳から1粒の涙が零れ落ちる。何をされても希望を胸に必死に我慢してきた少女だが限界だった。

冷たい石の床に頬がついた状態で、ポツリと少女は呟いた。


「助けて、助けて『(しゅん)』。助けてよぅ」


その言葉は誰の耳に届く事無く儚く消えた。

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