約束
「またここにいたのか」
俺が、そう呟くと土手に座っていたそいつは顔を上げた。
そして嬉しそうににこりと笑う。
こいつの笑顔はほんとに卑怯だ。
見ているこっちまで頬が緩んでしまう。
「いいのか?また親父さんに叱られるぞ」
そう言って、俺は隣に腰を下ろした。
目の前には小さな川が流れていて、風が気持ちよかった。
「だってここ好きなんだもん。涼しいし、コスモスも綺麗だし」
そうか、そういえばコスモスが好きだと言っていたな。
今度、花屋ででっかいコスモスでも買ってきてやろうか。
そしたら、どんな顔をするのだろう?笑ってくれるだろうか。
「…それに、ここにくれば貴方が会いにきてくれるもん」
「っ!」
「あ、照れてる?」
「だ、誰が!」
そして、また笑う。
くそ、だから反則だって。
そんなこと言われて、そんな顔で笑われたら誰だって照れるに決まっているじゃないか。
「大体、俺は道場の帰り道で通りかかるだけだから…」
「へー道場に通ってるんだ。お侍さんになるの?」
目を輝かせて顔を近づけてくる。
なんだか、そんな顔させると見栄を張りたくなってくるじゃないか。
「そうだ。しかも先生に筋がいいって褒められてるんだ。
今日も将来、出来物な侍になるって言われたばっかなんだぞ」
「すごいすごい!じゃきっと村一番のお侍さんになるね!」
「当たり前だろ!そしたらお前も、嫁にもらって俺が守ってやるよ!」
「え?」
「…え?」
ぽかんとするこいつ。
そして俺もぽかん。
何秒か経ち、はっと我に返った。
何を言っているんだ俺は!
見栄を張りすぎて、頭がおかしな事になってしまった。
「い、いや今のは!」
「…ほんとに嫁にもらってくれる?」
「…え?」
間の抜けた返事。
というか今なんて?
「じゃ、そのかわり約束して」
「約束?」
「私の事、お前じゃなくて名前で呼んで。私も名前で呼ぶから。
夫婦になるなら当たり前でしょう?」
はいと突き出された小指。
そして、顔を真っ赤にしながらそいつはおもいっきり笑った。
見つめていた俺もつられて噴出すように笑った。
嬉しくて、楽しくて、悩む必要なんてなかった。
答えるように伸びる腕。
二人を示すように絡み合う小指。
最後に、もう一度そいつが笑った。
「約束、絶対だからね風月!」
「ああ、約束だ。俺が一生守ってやるからな京!」