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第三十二話 国家騎士団合同演習




「え? 合同演習?」


「はい。昨年から始まりましてね」


現在、キルロスの執務室にてカリスとキルロスが会話をしていた。


内容は合同演習の事。


正式に言えば、国家騎士団合同演習の事である。


「全騎士団の錬度の確認と底上げが目的のようです」


「錬度の確認ですか。確かに騎士団ごとに格差がありすぎるのは困りますからね」


「ええ。そういう事です。また、これは出世のチャンスでもあります」


「出世のチャンス?」


首を傾げるカリス。


「この合同演習は王家の方々を始め、護衛部隊や各騎士団の団長などが直に評価します。要するに軍組織の首脳陣に自分の実力をアピールできる訳です」


王家とは国のトップ。


護衛部隊はそれを支える国の重鎮。


そして、騎士団の団長は軍組織の責任者。


自分の実力をアピールするには絶好の相手である。


なお、キルロスは部隊の隊長でありながら、騎士団の団長と同等の権限を持つ為、評価する側に立つ。


また、王宮魔術師団という唯一のマジシャンのみで構成されている騎士団も今回の合同演習には出てくる事になっている。


マジシャンのみだが、国の最高騎士団と名高い彼らなら、充分過ぎる程の実力を見せてくれるだろう。


「なるほど。イレイスなんかが張り切りそうですね」


「ハハハ。そうですね。ですが、イレイス君を出そうか悩んでいます」


「出す? どういう事ですか?」


眉を顰めるカリス。


意味が分からないといった顔だ。


「ええ。流石に軍組織全てを集合させてしまうと業務に影響があるでしょう?」


「そうですね」


各騎士団にそれぞれ業務がある。


それを怠り、治安を乱す訳にはいかない。


「そこで、各部隊ごとに百名ずつと定められているのです。もちろん、騎士団によっては幾つも部隊がある騎士団もあるでしょう」


「各部隊。俺達のみどこの騎士団にも所属していないという事になりますね」


「まぁ、私達は全ての騎士団から選出されての部隊という事になっていますから。言わば、全ての騎士団に所属している訳ですよ」


「ま、そうも取れますね。ですが、たったの百名ですか・・・。俺達はともかく他の部隊では選出に苦労するかもしれませんね」


「そうですね。ですが、私も苦労していますよ」


「キルロスさんもですか?」


「ええ。演習の方には執行部の方に出てもらうつもりなんですが、百名と言うと執行部の隊員を少し下回るだけの人数。誰を出して、誰を出さないかには悩まされます」


「そうですか。それで出すと言ったのですね。確かになまじ数が少ないだけに選ぶのが難しいかもしれませんね」


苦笑しつつも、納得の表情のカリス。


「そうでした。今回、カリス君には遠慮してもらいます」


「え? 何故ですか?」


「カリス君には近衛騎士としての仕事があるからです。初めて公の場に立つミスト姫様。カリス君は彼女を支えてあげてください」


「その任、謹んでお受け致します」


一礼するカリス。


「では、御願いしますね。詳しくは聖巫女様より聞くといいでしょう」


「分かりました。キルロスさんも大変でしょうが、頑張ってください」


「ええ。ありがとうございます」


苦笑するカリスをキルロスも苦笑で見送った。


そして、それから数日後、国家騎士団全てによる合同演習が行われた。










~SIDE リース~


「今年は御兄様と一緒ですね。嬉しいです」


私は隣を歩く御兄様を見てそう告げます。


「リース。カリス様はミストの近衛騎士なのですよ?」


御姉様が指をビシッと立てて、私にそう告げます。


ですが、御姉様、説得力がありませんよ。


だって、御姉様こそ頬が緩んでいるではないですか。


「御姉様。そんな事言われても、です。御姉様だって嬉しいのでしょう?」


「え? ま、まぁ、そうですが・・・」


「ハハハ。光栄です。姫様」


苦笑する御兄様。


ミストも苦笑いしています。


現在、私達は城の城壁に向かっています。


私達はそこで今日の合同演習を見学するのです。


「しかし、御兄様。私は御兄様の勇姿も見たかったです」


本当に惜しいと思います。


数年前、眼の前で見ていた御兄様のカッコイイ姿。


どれだけ経っても忘れる事はないでしょう。


正直に言えば、今回の合同演習で見れる事を楽しみにしていたのです。


「無茶を言ってはいけませんよ。カリス様は私達の護衛の為にいるのですから」


「私達ではなくミストのと言ったのは誰ですか? 御姉様」


「し、失礼しました」


何だか、今日は御姉様がとても緊張しています。


やはり御兄様がいるからでしょうか?


「・・・カリスさん」


「ん? どうした?」


「・・・緊張します」


ミストの言葉に苦笑する御兄様。


そうですよね。


だって、姫として公の場に立つのは初めてなんですから。


「大丈夫です。ミスト姫。俺がいます」


「・・・はい。カリスさん」


でも、御兄様がいれば大丈夫です。


だって、御兄様がそう一言告げるだけでミストに緊張の色が消えたのですから。


「そろそろ着きますね」


御兄様が告げます。


城壁へと繋がる入り口には門番として兵の方が立っています。


「お疲れ様です」


「ハッ。姫様に声をおかけしていただけるとは身に余る光栄です」


「ありがとうございます。門番の方、よろしく御願いしますね」


「ハッ。お任せを」


代表として御姉様が門番の肩を労います。


御姉様以外の私達は兵の方にお辞儀をした後、御兄様を先頭にさっと入り口を抜けます。


「お待ちしておりました。姫殿下」


パッと一列に並ぶ騎士団の団長達。


代表してユリウスが声を掛けてきます。


その時、御兄様がパッと後ろに回りましたが、それを気にする者はいません。


護衛として常に先頭に立ち、安全を確保したら背後で控える。


流石の御兄様ですね。


守護騎士とは良く言ったものです。


「ありがとう。ユリウス」


悠然と立つ御姉様。


その堂々とした振る舞いは次期聖巫女を彷彿とさせます。


私では到底敵いません。


「姫様方。こちらに」


エルネイシアが私達の席に案内してくれるようです。


「はい。行きますよ」


御姉様を先頭にその席へ続きます。


「待っていましたよ」


「はい。御母様」


既にそこには御母様がいました。


その席を護るように何人もの兵が傍にいます。


しかし、気にしていたら負けです。


姫という立場上、仕方がない事なのですから。


「カリス殿。お疲れ様です」


「ハッ」


こちらも立場上、口数が少ないです。


お話しながら見学したかったのですが・・・。


残念です。


私、御姉様、ミストが席につきます。


御兄様はその後ろに立ち、周囲に視線を送っています。


それが仕事だからだそうです。


ですが、御兄様が後ろにいるというだけでとても心強いですね。


ミストが頼るのは分かります。


「では、始めてください」


御母様の一言にユリウスが反応します。


そして、城壁から下にいる兵士達に視線を送りました。


私達からもその姿は確認できます。


我がセイレーン国に存在する九つの騎士団。


そして、それらに所属する五十の部隊。


計五千名が隊列を組み、一堂に集まっていました。


その姿が何と壮大な事。


ビシッと列を乱さす立っている姿は頼もしさを感じます。


「諸君!」


大声を上げるユリウス。


下にいる兵士の方達全てがユリウスに注目しています。


「これより、合同演習を行う。聖巫女様。姫殿下が見ている前だ。みっともない姿を見せるな!」


「ハッ!」


あがる叫び声。


漸く始まるのですね。


合同演習が。


~SIDE OUT~










~SIDE キャル~


「あぁ~あ。折角の合同演習なのに、カリスがいないなんてね」


「どうしていないのか聞いていますか?」


「さぁね。知らないわ」


合同演習の亜人種保護部隊選抜としてここにいる私達。


同期皆揃うのかなと思っていたら、カリスだけがいなかったの。


どうしてかしら?


「秘密にしておきたいという事かしら?」


「カリス殿の存在をですか?」


「ええ。騎士団の団長を張れるだけの実力があるじゃない? カリスって」


「・・・ええ。間違いなく」


「だから、亜人種保護部隊として確保しておきたくて、他の騎士団に眼を付けられないようにしているとか」


「ふむ。ありえない話ではないですね」


「いや。それはないだろ」


「ガスト殿」


私、ロザニィ、コウキの三人で話しているとガストが話に入ってくる。


・・・後ろにイレイスを連れて。


「何でよ?」


「どれだけ隠そうともいずれは頭角を現す。それならば、こういう公な場で亜人種保護部隊として認知させておいた方が後で良い」


「『どこの部隊の者か?』と疑われる前に所属を明らかにさせてしまえば諦めが付くという訳ですね」


「ああ。それに、アークルイン自体が亜人種保護部隊から去ろうとはしないだろう。なら、なおさら、そうしておいた方が後々やりやすい」


「・・・確かにそうね」


うん。


そうかもしれない。


「じゃあ、どうして?」


「恐らく・・・」


「諸君!」


ガストの言葉を遮るように大声が聞こえてくる。


これは・・・。


「あ、始まるみたいね」


始まりの合図。


聖騎士団の団長であるユリウス様の言葉ね。


私達は隊列を整えて、次の言葉を待つわ。


「これより合同演習を行う。聖巫女様。姫殿下が見ている前だ。みっとまない姿を見せるな!」


「ハッ!」


そう勢い良く返事をしたんだけど・・・。


「あ!」


「どうしました? キャル殿」


「あれって・・・カリスじゃない?」


姫殿下の後ろに控えている仮面の騎士。


あれは間違いなくカリスよ。


「・・・師匠」


「・・・そうだな。アークルインだ」


「そういえば、カリス殿は近衛騎士でしたよね」


「それだ!」


そうよ。


だから、カリスがいないのよ。


「そうか。アークルインは近衛騎士としての仕事があるんだったな」


「ミスト姫にとっては初めての経験。それを支える為にいるのでしょう。それにこのような席で護衛として立つのは当然です」


「勿体無いと思うぜ。俺だったらこんな絶好の機会を逃したりしない」


「ま、イレイスはそう言うでしょうね」


呆れる私。


本当にイレイスは出世の事ばかり。


まぁ、理由が理由だから仕方がないけど。


・・・聞かされた時は思わず納得しちゃったわ。


「・・・師匠が見てる」


呟くロザニィ。


「・・・そうよね。カリスがあんな特等席でこの演習を見ているの。みっともない姿は見せられないわ。弟子として」


「・・・弟子として」


意気込む私とロザニィ。


カリスが鍛えてくれたんだ。


その成果を見せてやる。


「では、行くとしましょう」


コウキがそう告げ、私達は亜人種保護部隊の隊員達が集まる兵舎へと向かった。


そして、それから数時間後、私にとって初めての集団戦が始まった。


~SIDE OUT~










~SIDE ルルシェ~


「ふむ」


「如何しました? カリス」


あぁ。


公の場だからといってカリス様を呼び捨てにしなければならないなんて。


・・・緊張します。


表面上は冷静を装ってますが、内心はドキドキです。


「いえ。何でもありません。ルルシェ姫様」


「ここには私達しかいませんよ。発言を許します」


護衛として何人かの兵がいますが、私達には関係ありません。


この席に座っているのは私達王家だけ。


カリス様が発言するのに何の遠慮もいりません。


「では、僭越ながら」


「どうぞ」


「この合同演習は五十の部隊を二つに分けて行っているのですよね?」


「ええ。その通りです」


「それはいいでしょう。ですが、各部隊が勝手な行動をしている為、まるで連携が取れていません。そして、非常に効率が悪い」


「なるほど。続けなさい」


カリス様の言葉に御母様が頷きます。


「ハッ。この演習が何を想定したケースなのかは存じませんが、もし敵国との戦争を想定しているのなら・・・」


「想定しているのなら?」


「無駄です」


一言で切り捨てるカリス様。


「・・・・・・」


流石の御母様も無言で眉を顰めます。


ズバリと言い過ぎです。


カリス様。


「その意図を説明してくれますか?」


御母様が問います。


すると、カリス様は一度頷いて、語り始めました。


「確かに錬度、所謂、兵の質というのも大事です。ですが、個人の武など戦争になってしまえばあってないようなもの。個で戦況をひっくり返してしまう者は本当に極僅かです」


それはカリス様やエルネイシア、ユリウスなどの事でしょうか?


「しかし、どの国にもそのような者は確実にいます。セイレーンではユリウス様、エルネイシア様。カーマインではクリストファー将軍、バルジスト将軍」


我が国が誇る至高のマジシャン、エルネイシアと聖騎士ユリウス。


ですが、カーマインにも同じような存在である二大将軍がいます。


至高のドラグーン、クリストファー将軍と戦場の薔薇と名高いバルジスト将軍。


「アゼルナートでは四天将と呼ばれる者がいます。一人で戦局を覆してしまう者は確かに偉大でしょう。ですが、それは決して自国だけにいる訳ではないのです」


アゼルナートが誇る四天将。


ですが、私は知っています。


四天将よりも恐ろしい存在を。


それがカリス様の御父上であるジャルスト・アナスハイム様。


彼の名を知らない軍関係者はいません。


彼はアゼルナートで最も警戒されている者の一人です。


「それら個人の力に頼るのも良いでしょう。ですが、それでは決して勝敗は着きません。膠着状態に陥るだけです」


「何故ですか?」


「同じような力を持つ者を当てればよいからです。そうすれば、共に動き出す事が出来なくなります。動けば被害が莫大になるとお互いに理解しているのですから」


個人の力に頼るだけでは意味がない。


そういう事ですか?


「結局、大切なのは何か? それは数という点もありますが、何よりまとまりです」


「まとまり・・・。それは一体?」


「簡単な事です。それは部隊としての、集団としての錬度です」


「集団としての錬度?」


「ええ。個人の戦闘では限界があります。ですが、集団での戦闘は無限の可能性があるのです。たとえ十倍以上の戦力差があろうとも一人一人がまとまっていれば覆せます」


「・・・それが長年戦場を渡ってきたカリス殿の意見ですか?」


「はい。私自身、武には自信がありますが、私が幾ら敵を倒そうとも、違う場所から崩されれば終わりです。個人の武では限界があるのです」


「・・・・・・」


黙り込む御母様。


この合同演習は最近の騎士団の鈍り具合を見て御母様が提案したもの。


それを否定されたようなものですから。


表情は見えませんが、御母様が信頼するカリス様の言葉です。


多分、落ち込んでいると思います。


「ですが、聖巫女様。合同演習という観点は素晴らしいものだと思います」


「え?」


「日頃、それぞれの騎士団は別々に動いています。それを合同演習という形で纏めて動かす機会を与える。これは私が知っているどの国でも行っていない事です」


「で、では、合同演習は無駄ではないと?」


「もちろんです」


ニコリと笑うカリス様。


たとえ仮面で隠れていようとカリス様の想いは伝わってきます。


「そうですか。安心しました」


本当に安堵の息を吐く御母様。


「これは私達の国が戦争をあまりにも知らない為に提案したものなのです」


「セイレーンは永世中立国であり、自己防衛以外の戦争はしないそうですね」


「はい。先代聖巫女が実現させました。ですが、それが裏目に出てしまったのかもしれませんね」


「そんな事はありません。戦争を行う程に愚かな事はありません。セイレーン国の政策は私からしてみれば羨ましいものですよ」


「そうですか。そういわれると嬉しいですね。ですが、事実、私達は戦争を知らな過ぎです」


真剣な表情で訴える御母様。


「この合同演習の意図はカリス殿の言う通り、仮想敵国との戦争の想定です。私達の国は大規模な軍行動を取った事がありません」


永世中立国という立場が出来上がってからの長い年月、セイレーンは戦争を行った事がありません。


その為、各騎士団がそれぞれの業務をこなすだけであり、一堂に集まって行動する事はこの合同演習ぐらいです。


「自己防衛の戦争はします。ですが、その際に軍活動に慣れていなければ何も出来ない。そう思い、この演習を始めたのです」


「なるほど。確かに戦争に不慣れである以上、それを埋める必要がある。その為にこの演習は効果的でしょう」


「ですが、カリス殿の言う通り、私達はその経験不足を埋める為のものまで経験不足で非効率です。カリス殿に言われた事でどれだけ穴があったかに気付きました」


御母様の言う通りです。


戦闘というもの自体に詳しくない私でもカリス様の言った事は理解できました。


そして、納得できました。


「まとまりが大事。それは質はいらないという事ではないのですよね?」


「もちろんです。質があるに越した事はありません。ですが、集団で行動する以上、明確な意図がなければならないという事です」


「明確な意図・・・ですか?」


「はい。一人一人が勝手に行動すれば確実に破滅します。何よりも優先しなければならない事は指揮系統の確立。質はその後で良いのです」


「カリス殿は戦争の三原則は何だと思いますか?」


「質・数・統一性。その三つですね」


「その中でも統一性が大事だということですね?」


「はい。アゼルナート、カーマインでは入隊してすぐに集団行動について叩き込まれます。個人の力は二の次です」


「そうなのですか・・・。その二国が実際に行っているのならば、それが事実なのでしょう」


頷く御母様。


「カリス殿。詳しく教えてくれますか?」


「もちろんです。何でもお答えします」


「では、この演習の非効率な点は何ですか?」


「まず、先程も言いましたが、各々の部隊が好き勝手に動き過ぎです。戦争とは的確な配置と戦術をもって成すもの。接触したら即戦闘では地力の勝負になってしまいます」


「地力ではいけないのですか?」


そろそろ私も話に参加させてください。


「いきなりの遭遇戦ではいいでしょう。ですが、他国との戦争であれば、他国は必ず布陣と戦術をもって挑みます。そうなれば、いくら優秀なマジシャンが多くとも負けます」


「魔術だけでは勝てないと?」


「いえ。軍の運用法が違うという事です」


「軍の運用法?」


良く分かりません。


「たとえばです。私が指揮官ならば、魔術の射程外から弓矢で攻撃します」


「弓矢では魔術の射程内では?」


魔術の方が射程は広い筈です。


「確かにそうです。ですが、丘など高い所からならどうでしょう。先に高い所に布陣しておけば、魔術の射程外から攻撃できます」


「なるほど」


確かにそうです。


魔術は完全に術者からの距離が射程となります。


それに対し、弓矢は周りの環境で射程が変わります。


「それだけではありません。弓矢を射ると同時に背後から疾風系統の魔術を行使すればどうでしょう? 風に乗り、通常の何倍も遠くへ弓矢を飛ばす事が出来ます」


「魔術を戦術に組み入れた訳ですね。確かにそうすれば、射程を飛躍的に伸ばす事が出来ます」


「そうです。単純に魔術といっても、応用次第でどんな事でも出来るのです」


魔術を戦術に組み入れる。


そんな事、考えた事もありません。


「補足ですが、これはカーマインの戦術家が考えた策です」


「カーマインの!?」


「はい。所謂、カーマインのマジシャン対策です。事実、カーマインはこれで敵の魔術師部隊を被害一つなく殲滅しています」


「・・・・・・」


言葉を失いました。


まさか、このような方法を実際に実現させているなんて。


「戦術、戦略は日々進化します。私とて現状で満足などしておりません。そして、それはまた他国も同じ。より高度な戦術が日々生み出されている事でしょう」


魔術が行使できれば勝てる。


そんな考えを悉く覆してしまう言葉です。


「以前、一度だけ戦争の指揮を執った事があります」


「カリス殿がですか!?」


驚きました。


カリス様が戦争の指揮を執ったなんて。


「その時、私はマジシャンを集め、氷結系統の魔術で氷の城を作りました。氷結系統はその創造性こそが強み。攻撃するのみが魔術ではないのです」


「・・・氷の城・・・」


「当然、敵は火炎系統で溶かそうとするでしょう。ですが、複数人が同時に行使して作った城。半端な炎では溶けません」


「溶けず、篭もり続けた。敵は撤退するしかないですね」


「はい。そして、その城を破棄しました」


「え? 破棄?」


「ええ。破棄です」


「ど、どうしてですか?」


そんな便利な城を何故破棄する必要があるのですか?


そのままで勝てたのでは?


「元々も目的は氷の城が頑丈であると誤解させる事です。そして、破棄した城とまったく同じ形状をし、簡単に崩れる城を同じ場所に建てます」


同じ形状、同じ場所。


「そして、あたかも撤退せざるを得ない状況を作り出し、私達は城から撤退します。すると、敵は我が物顔で氷の城を拠点とするでしょう?」


「ええ。そうでしょうね。散々苦しめられた氷の城を手中に収めたのですから」


「そこで油断が生まれます。敵はまさか違う城だとは思わないでしょう。だから、城の強度、硬度を確認をしない」


「・・・そして、今度はこちらから攻め込んで、城ごと敵を殲滅。そういう事ですね?」


「その通りです。火炎系統で簡単に崩れ去り、その下敷きになった事で敵は全滅。僅か百名で五百名をこの戦術で破りました」


五倍もの戦力を倒してしまうとは・・・。


カリス様は軍略の天才ですか?


「魔術は様々な応用が利くものです。それをただ攻撃のみに特化し、敵を倒す事だけを考えるのは愚か。戦術とは発想と先入観の打破にあると私は思っています」


「戦術次第ではどれだけ強大であろうと打ち勝てると?」


「はい。地力で勝っていたとしても考えなしでは負けるという訳です。セイレーンでは力こそ全てと考えているようですが、戦争では知恵ある者が勝利します」


「・・・・・・」


マジシャンとしての能力を鍛えれば良いという訳ではない。


そういう事ですね。


「また、軍として活動していなければ、部隊としても活動できていません。個人個人が勝手に動き回っています。部隊内で連携の演習をする事は?」


「詳しくは分かりませんが、あまりないと思います」


「そうですか。それでは、軍としての活動は不可能に近いかもしれません」


「そ、それは、何故ですか?」


「指揮系統と言いますが、一人が指揮を執れるだけの人数には限界があります。軍略の師が言うには、一人で指揮を執れるのは五人程が限界だそうです」


・・・たったの五人ですか・・・。


「その五人を一人が指揮を執り、その指揮を執っている者達五人を更に一人が指揮を執る。このように枝分かれするのが組織としての理想の形であると習いました」


「なるほど。五人で限界であるのならば、それぞれ五人ずつに分けて指揮官を決めると。そういう訳ですね」


「その通りです。そのような指揮系統を確立しておけば、混乱する事も少なくなり、連携も取りやすい。ですが、これを見ていると碌な指揮系統が出来ていないと分かります」


カリス様の視線を辿るように、私も戦場を眺めます。


詳しい事は分かりませんが、確かにまとまりはなく、好き勝手に動き回っている気がします。


「部隊単位で連携が取れない者に軍として連携が取れる訳がありません。確かに現状で組織的な活動をする必要は皆無でしょう。ですが、戦争ではそれこそが不可欠です」


聞けば聞く程、私達の国は危険なんだと分かります。


魔術至上主義に溺れ、私達は現状を把握できていなかったのです。


「若いの。お主は戦争というものを良く知っておるようじゃのぅ」


「ゲムニ。まさか、聞いていたのですか?」


「もちろんです。私以外の者も遠くから聞かせて頂きました」


突如やって来た老人。


彼はゲムニ・コーラル侯爵。


エルネイシアの前に王宮魔術師団の団長を務めていた者です。


現在は他の騎士団を立ち上げ、そこの団長を務めています。


全騎士団で最も年齢が高く、軍のご意見番といったような方です。


「カリス。貴公の言葉が我々の甘さを示してくれた。感謝する」


「ユリウス様」


ユリウスも来ました。


ゲムニの言う通り、他の者も聞いていたようです。


誰もがこちらを見ています。


「我々は長い間、戦争をしていなかった。先代聖巫女様が実現させた恒久平和。私が現在の地位にいるのも戦争での功績ではない」


ユリウスが項垂れながら告げます。


「戦争の経験が多いカーマインやアゼルナートと対した時、私達は技量や実力で勝っていようとも最終的に敗北するでしょう。組織として活動できない私達では」


エルネイシアが続きます。


「本来であれば、ワシは騎士団長。お主らに気付いて欲しかった。今のままでは駄目じゃとな」


「ゲムニ。それでは貴方は気付いていたと?」


「無論です。戦争時代を生き抜いたワシが気付かない筈がありません」


戦争時代。


それは先代の聖巫女、私の御祖母様が恒久平和を実現させる前にあった人間が治める四ヶ国で争い続けた時代の事です。


凡そ三十年程前の事で、私は御爺様のお話からでしか知っていません。


「では、何故それを述べないのです。忠言こそ貴方の役目では?」


「ワシはもう歳。年寄りが告げた所でその意図は伝わりません。若い者が自ら気付かなければ・・・」


そして、ゲムニが団長達を眺めます。


「じゃが、お主らは戦争というものを体験した事がない者が殆ど。望むのは些か傲慢じゃったかもしれん」


「・・・・・・」


表情を歪める団長達。


悔しくも認めるしかないといった表情でしょうか?


「お主は確かランパルドに養子入りした・・・」


「ハッ。カリス・アークルインと申します」


ゲムニがカリス様に話しかけます。


カリス様は敬礼して応えました。


「ゲムニや。ワシの息子に何か用かのぅ?」


「いや。良い息子を持てたと思おてな」


御爺様もやってきます。


「お主は若い。それでいて多くの戦場を渡り歩いた武人の風格をも持ち合わせておる。お主は何者じゃ?」


「カリス・アークルイン。それ以外の何者でもありません」


「ふむ。ま、良いじゃろ。その洞察力、我々騎士団の団長に囲まれながらも堂々としていられる胆力。頼もしいのぉ」


ゲムニが笑います。


「ミスト姫様」


「・・・は、はい・・・」


「この者は貴方様の近衛騎士と聞きます」


「・・・あ、はい。そうです」


「良き者を近衛騎士としましたな」


「・・・あ、ありがとうございます」


ペコリと頭を下げるミスト。


その可愛らしい姿にゲムニも頬を緩ませました。


無論、私もです。


「貴公が我が国でも卓越した軍略家である事は話から理解した」


団長の一人がカリス様に話しかけます。


「だが、それを実現させる為には実力がなければならない。貴公は戦局を覆す存在がいると言っていたな」


「はい。エルネイシア様やユリウス様。他の方は私が把握していないだけで、貴方達の中にも何人かいる筈です」


「その中に貴公も入るのではないか? 私とて武人の端くれ。貴公の実力は把握できる」


「買い被り過ぎです」


「御託は良い。見せて欲しい。貴公がどれだけ戦えるのかを。それを示してこそ貴公のいう軍略に現実味を帯びさせる」


「軍略を語る前に武を示せ。そういう事ですね?」


「ああ。その通りだ」


「分かりました。よろしいですか? 聖巫女様」


「構いません。遠慮なく全力で応えてあげなさい」


「ハッ」


ピシッと敬礼し、カリス様は城壁へと近付きました。


「カリス。そちらは・・・」


どういうつもりでしょうか?


城壁から身を乗り出して・・・。


まさか!?


「それでは・・・」


バッと城壁から戦場へと降り立ってしまいました。


「・・・無茶をしますね。カリス殿」


苦笑いの御母様。


・・・苦笑いで済ましてはいけないでしょう。


この高さから飛び降りれば、普通の人は・・・。


・・・カリス様は普通じゃなかったですね。


「頑張ってください。カリス様」


戦場へと飛び込むカリス様を見て、私はそっとそう呟きました。


~SIDE OUT~










「両軍とも聞け! 今から飛び込む者はどちらの軍にも属さない。どちらの所属か示す証がないのがその証拠だ。この者を破りし者は無条件で階級を昇格させてやる」


カリスが飛び込むとほぼ同時にユリウスがそう叫ぶ。


「オオオオオオォォォ!」


己の昇格の為と張り切る兵達。


「ユリウス。何を!?」


ユリウスの発言にその場にいる誰もが驚き、彼に視線を送った。


「カリスの真の実力が見たいのなら、こうするべきです。あの者もまた戦局を覆す者ですから」


ニコッと笑うユリウス。


そして、視線を戦場へと向けた。


「見せてもらおうか。貴公の武の真骨頂とやらを」










~SIDE キャル~


「え? あれは・・・カリス?」


突如、城壁から飛び降りる一人の男。


あの背丈、あの仮面は間違いなくカリスだわ!


「両軍とも聞け! 今から飛び込む者はどちらの軍にも属さない。どちらの所属か表す証がないのがその証拠だ。この者を破りし者は無条件で階級を昇格させてやる」


そして、聞こえてくる声。


これはユリウス様ね。


城壁から身を乗り出してそう叫んでいるわ。


「・・・師匠が参戦」


「ええ。今回、カリスは完全に敵。容赦しないでしょうね」


冷や汗が出てきたわ。


カリスが完全に敵だなんて。


「ふん。あいつを倒せば出世する。それなら、俺が倒してやる」


イレイスは自信満々のようだけど・・・。


「構う事はない。アークルインと戦い消耗している所を一気に叩く。それが最も効率的だ」


ガストはまったく抜け眼がなく・・・。


「勝てるか分かりませんが、一度手合わせをしてみたいと思っていました。良い機会ですね」


コウキは何とも相変わらずというか・・・。


「・・・私達は私達の戦いをする。それが師匠の求める答え」


「・・・そうね。そうしましょう」


私もそう思う。


そして、私はロザニィと共に前方にいる敵を薙ぎ払った。


自分ができる最善の事をする。


今現在、カリスに私達を認めさせる方法はそれだけよ。


~SIDE OUT~










戦場に飛び込んだカリス。


ユリウスの言葉もあり、次々とカリスに襲い掛かってきた。


その誰もが上級兵士以上であり、各部隊の実力者達であった。


「ファイヤーボール!」


発動された魔術。


カリスはそれを確認すると背中より大剣を抜き、横に振り切った。


「ハァ!」


一撃で消え去る炎の弾。


そして、唖然とするマジシャンに向かったカリスは突っ込む。


タッタッタッとマジシャン達の杖を切っていくカリス。


マジシャンにとって杖は最後の防衛線とも言えるものであり、失えば戦う術を失くす。


マジシャンと対する時は杖をなくしてしまえばいいのだ。


また、マジシャン達が群がるのなら、その中に飛び込んでしまえば良い。


そうすれば、互いの距離が近い為、魔術を行使する暇ない。


また、もし詠唱に成功しようとも味方に当たってしまう可能性がある為に断念するしかない。


カリスの狙いはそれにあった。


カリスはマジシャン達が群がる場所に向かって次々と突っ込み、その杖を薙ぎ払っていく。


最早、手のつけようがない。


マジシャンにとって懐に入られた時点で既に敗北が決まったようなものだ。


それ程、マジシャン達の近接戦闘能力は低い。


それがカリスのような近接特化の武人なら尚更だ。


「・・・凄まじいですね」


「ああ。いざこのような場で対面するとその凄さが分かる」


「ふん。周りが雑魚なだけだ。俺が相手をしてくる」


そして、イレイスがカリスの前にやって来た。


「アークライン! 覚悟しろ!」


「アークルインだと何度も言っているだろう」


カリスは周辺にいる兵士達を倒しながらイレイスの言葉に答えた。


「俺が相手だ。かかってこい」


「すまないが、お前一人を相手にしている暇は俺にはない」


言葉通り、カリスには次から次へと敵が群がってくる。


イレイス一人を相手にする事は出来ないだろう。


「ふん。そんな事で逃したりはしない。行くぞ!」


だが、それで諦めるイレイスではない。


イレイスは群れの中に躊躇なく突入した。


「私も行きましょう」


そして、コウキもまた群れの中に突入していった。










「ハァァァ!」


数多の兵を同時に相手にするカリス。


対多数の戦闘は彼にとっては慣れたもの。


縦横無尽に駆け回り、敵の視界の外から次々と意識を刈り取っていった。


今回、演習である以上、殺しはご法度だ。


怪我は当然するだろうが、それは戦闘後に巫女達が全体を治癒する事になっている。


それ故、多少の怪我では誰も退かない。


その為、カリスは意識を失わせるか、武器を破壊するかのどちらかで敵を戦闘不能にしていた。


カリスの太刀筋では身体ごと断ち切るのは容易。


だが、それをする必要性は皆無。


カリスの周辺には意識を失った者が山のように積み重なっていたり、武器破壊された者が立ち尽くしている姿があった。


「アイシクル・・・」


「魔術を行使させる暇を与えるとでも?」


ダッと魔術を行使しようとするマジシャンを吹き飛ばすカリス。


そのマジシャンは衝撃で意識を失った。


「ここで魔術を行使すれば他の者にも被害が及ぶだろうに」


「タァ!」


「おっと」


背中から切りかかってくる兵士をカリスは危なげなく避け、逆に吹き飛ばす。


「迷いが太刀筋を鈍らせる。斬ると決めたら最後まで気を抜かない事だ」


「こういう風にか!」


ガキンッ!


背後から勢い良く斬りかかって来るイレイス。


カリスは剣を頭上にあげ、後ろ向きのままそれを防いだ。


「そう。それでこそやり甲斐がある」


「へっ。言ってろ。ファイヤーエンチャント。ウィンドエンチャント」


イレイスが剣に火炎と疾風を纏わせ、再度カリスに斬りかかった。


カリスは今度こそ完全に身体を反転させ、正面から受け止める。


だが、そのエンチャント効果からか、カリスの身体は衝撃で吹き飛ぶ。


カリスは吹き飛ばされるも踏ん張り、倒れる事なく耐え切った。


「ふむ。お前のエンチャントもそれらしくなってきたじゃないか」


「甘く見るんじゃねぇ!」


突っ込んでくるイレイス。


「だが、二度喰らう程、俺も甘くない」


斬りかかって来るイレイスを今度はカリスが吹き飛ばす。


「爆発力と切れ味の付加効果。エンチャントの効果は凄まじいな」


剣越しに吹き飛ばした際、エンチャント効果の火炎と疾風でカリスの腕に傷が付く。


その傷を治癒しながら、カリスがそう呟いた。


「ふん。俺はこのエンチャントを極め、お前を倒してみせる」


「見せてみろ。俺はその更に上を行く」


互いに構えるカリスとイレイス。


そして、同時に駆け出す。


「ハァ!」


「ハッ!」


すれ違う二人。


倒れるは・・・。


「流石だな。それでこそ超える価値がある」


「また挑んで来い。イレイス」


イレイスだった。


斬られた腹からは夥しい血が流れ出る。


「治癒はしておくが、お前はここでリタイアだ」


「ああ。往生際が悪いのは情けないからな」


パッと手をあてて、傷口を治癒するカリス。


「もういい」


サッと立ち、去っていくイレイス。


「じゃあな」


立ち去るイレイスを見送っていると、背後に気配を感じる。


「・・・コウキか」


「ええ。次は私の番です」


振り返るカリス。


そこにはコウキの姿があった。


「私はカリス殿、貴方と単純に剣術で勝負がしたい。どちらがより優れた剣術使いか。それをここで決めましょう」


「ああ。構わない」


身丈程の大剣を構えるカリスと身丈の半分程の刀を構えるコウキ。


リーチの長さではカリスが優れ、小回りではコウキが優れている。


「では、行くぞ」


「コウキ・マエヤマ。推して参る」


ガキンッ!


同時に振りかぶるカリスとコウキ。


鍔迫り合いになり、剣の腹同士で互いを押し合う。


「グゥゥ・・・(何て力ですか。押し返せる気がしません)」


「・・・・・・」


唸るコウキと無言のカリス。


「どうした? 攻めて来い」


「ええ。言われなくても」


カリスの剣を吹き飛ばし、最短コースで刀を突き刺すコウキ。


カリスは冷静に剣の腹でそれを押し、軽い力で外へと弾いた。


「まだまだ」


体勢をすぐさま立て直し、コウキは連撃に移る。


「ハァァ!」


一歩踏み込むと同時に刀を振り切る。


それを途絶える事なく続ける。


カリスはコウキの踏み込みと同時に後退し、冷静に太刀筋を見極め、的確に剣先で逸らしていく。


ガキンッ。


ガキンッ。


とその度に剣同士の接触音が聞こえてくる。


「・・・・・・」


スーッと細められる瞳。


連撃を続けるコウキはその瞳に見詰められた瞬間、全身に鳥肌が立った。


止めればやられる。


そう確信し、コウキは更に連撃の力を強めた。


だが、それが焦りを呼んだのか、太刀筋は鈍る一方だ。


「お前らしくないな。コウキ」


防戦一方でありながら、余裕を見せるカリス。


「戦闘中に話しかけるとは随分余裕ですね」


「太刀筋が鈍っている。そのような太刀筋では当てる事はおろか、こうなる」


ガンッと振りかぶられた剣が逆にカリスによって吹き飛ばされる。


どうにか手放さずには済んだが、身体の体勢は崩されてしまった。


「一撃一撃を迷いなく鋭く打ち込む。それが武術だろう? 焦りから来る太刀筋程、対処が容易なものはない」


「そうでしたね。フーーーハーーー」


深呼吸して気持ちを落ち着かせるコウキ。


「では、再度、挑ませていただきます」


「・・・来い!」


横から振りかぶるコウキ。


カリスは上体を逸らす事でそれを避ける。


そして、すぐさま反撃に移る。


だが、コウキとて甘くない。


カリスの鋭い突きを強引に身体を捻る事で避ける。


「私を甘く見てもらっては困ります。それぐらいの突きで・・・」


「いや。終わりだ」


「え?」


カリスは身体を回転させ、大剣を即座に引くと、大剣の柄の部分で腹を突く。


鳩尾への一撃はコウキの意識を狩るのに充分の威力だった。


「油断は禁物だな。コウキ」


崩れ落ちるコウキを前にカリスがそう呟いた。


「・・・そう・・・ですね」


コウキもまた苦笑してそう返すのだった。


そして、意識を失う。


「さぁ、次は誰だ?」


群がる敵はまだ多い。


カリスは剣を構え、周囲を見回した。










~SIDE ロザニィ~


「・・・やはりアークルインを相手にするには数では駄目だな」


敵兵を倒す私達の後ろで、ガストが呟く。


今の私達からでは位置的に見えないが、敵、味方合わせて一箇所に群がり過ぎだ。


群がるという事は師匠はまだ倒されていないという事。


あれだけの数を前に倒される事なく、逆に返り討ちにしている師匠は相変わらず化け物だと思う。


「カリスを倒すには数ではなく質で立ち向かう必要があるという事ね」


「ああ。どれだけ数がいようと時間稼ぎにすらならん。少数精鋭で挑むべきだ」


「まるで竜に挑むかのような言い草ね」


「・・・竜より性質が悪い」


「・・・確かに否定できん」


竜の方が何倍もマシ。


師匠みたいに消えたりしないし。


「広範囲の攻撃方法がない中、これだけの大規模を相手に出来るとはな。俺には奴の限界が見えんよ」


「カリスが魔術を行使できたらそれこそ手のつけようがないじゃない。いいのよ。あれだけで」


「・・・それでも性質が悪い」


「・・・否定できないわね」


本当に性質が悪い。


「・・・たとえ傷付いても師匠には聖術がある」


「・・・そうだったな」


「私はもうどうしようもないと思うわ」


ため息を吐くキャル。


その気持ち、痛い程分かります。


「さて、アークルインを目立たせては俺の名が廃る。攻めさせてもらおう」


その言葉と共に混合魔術ファイヤーストームを放つガスト。


・・・案外、負けず嫌いなのかも。


「そうね。私達も負けてられないわ。ロザニィ」


ロザニィが私を呼ぶ。


「・・・ええ」


私とてやる気がない訳じゃない。


イレイスじゃないけど、私達だって名を挙げたい。


ここはそれの絶好の機会。


「・・・ハァ!」


キャルの援護を受けて、私は敵陣へと飛び込んでいった。


・・・終了の合図が出されたのはそれからすぐの事。


何とも間が悪いわね。


~SIDE OUT~




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