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第八話 部隊設立





「・・・そうか。天空騎士団の特殊部隊を任されたか」


「はい。表向きは傭兵部隊という形にして、騎士団で活動する際に生じる手続きを簡略化することが目的のようです」


王家への謁見、ミハイルとの邂逅を終え、カリスは主都アゼルナートにあるアナスハイム家への屋敷へと戻ってきた。


戻ってきたというのはカリスが王家との謁見へ行く前に、一度この屋敷に寄っていたからだ。


カリスはこの謁見を機会にと、亜人であるミストとローゼンを主都へと連れて来ていた。


そして、家族達に仲間を任せ、カリスは一人王城へと向かったという訳だ。


「まぁ、お前が選んだんだ。反対はしない」


「ありがとうございます」


屋敷へと戻ったカリスは早速と家族や仲間達に顛末を語る。


「それにしても、特殊部隊かぁ・・・」


「今までにない発想ですね。確かに、軍という組織は一つ一つに時間がかかりますから」


「ああ。それを解決する為に表向きを傭兵部隊として、そこに依頼する形で迅速な対応を取るという訳か。確かにそれなら迅速な対応が出来るだろう。流石だな」


ミハイルの考えに感嘆の息を吐くエルムスト達。


「僕は参加しますよ。カリスさん」


「ロラハム。・・・そうか」


カリスが率いる特殊部隊の隊員はカリスに一任されている。


カリス自身、いざとなれば一人で任務をこなそうとしていたぐらいだ。


そんなカリスにとって、ロラハムの言葉はありがたいと同時に少し考えさせるものだった。


「無理しなくていいんだぞ。お前達に強制するつもりはないからな」


「無理なんてしてませんよ。僕はカリスさんのお手伝いをしたいだけです」


ロラハムの意思は固い。


それは強い意思のこもった瞳を見れば分かる。


「そうか。それなら、お前にも手伝ってもらう。頼むな」


「はい。任せてください」


カリスの言葉を受け、ロラハムが力強く頷く。


「カリス様。私でもお役に立てるでしょうか?」


「そうだな。ローゼン。お前にも手伝ってもらいたい」


「はい! お任せください」


ロラハムが入隊した以上、ローゼンを拒む必要はない。


むしろ、信頼しているローゼンの参入はカリスにとって心強いものだった。


また、ローゼンにとって、カリスの言葉はローゼンの問いに対する何よりの肯定であり、ローゼンの顔には喜びの表情が浮かんでいた。


『主に頼りにされること程、臣下にとっての喜びはない』


そう言わんばかりの笑顔であった。


「・・・私にも手伝わせてください」


ロラハム、ローゼンが次々と入隊を決めていく中、今まで黙っていたミストが口を開く。


「ミスト。いいのか? 突然の任務が入る事もあるんだぞ」


「・・・大丈夫です」


「もしかしたら、人を殺す任務が入るかもしれない。それでもいいのか?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


心配そうな、不安そうな、悲しそうな。


そんな表情でミストを眺めるカリス達。


「・・・大丈夫です」


「・・・そうか。分かった。ミスト」


下から見上げてくるミストの瞳には意思がこもっていた。


その意思を無碍にする事は出来ないとカリスは了承する。


ミストを心配する気持ちは隠せないが、自分の意思をこうまで伝えられるようになったミストにカリスは内心で喜んでいた。


今までのミストは、喜びの感情を浮かべる事はあっても、自分からこうしたいとカリス達に告げたことは皆無に等しかった。


その為、部隊への参加という物騒なものだが、自分から参入を決め、それを主張してくれたミストの成長がカリスには嬉しかったのだ。


ただ流されるだけだったミストが自分から決めた事。


これを否定する事なんてカリスには無理な事だった。


「・・・いえ。カリスさんの為にもなりますから」


「ありがとう。ミスト」


カリスが微笑みながらミストの頭を撫でる。


その瞬間、強い意思が込もっていた瞳は瞬く間にトロンとした緩い瞳になり、ミストは気持ち良さそうに頬を緩ませた。


その光景は微笑ましい気持ちにさせてくれる和やかなものだった。


「これで、カリス隊長が率いる特殊部隊は俺を含めて五人になったという訳だな」


「隊長はやめてくれ。お前が言うと違和感しか覚えない」


セリスの言葉に苦笑を浮かべながらカリスがそう告げる。


「おいおい。まぁいいか。部隊の事だが、流石に五人では少なくないか?」


「俺としては人数はあまり必要としていない。寧ろ、今のメンバーなら互いの事も知っているし、やりやすいしな」


「それもそうか」


カリスの言葉に同意するセリス。


「とりあえず、ラミットを誘おうと思うが、どうだ? 嫌なら拒否してくれて構わないが」


「あれ程の実力者だ。俺としては歓迎する。知らない仲でもないからな」


「そうか。それなら、今度アナスハイム領に連れて行く。特殊部隊として動くならそっちにいた方が良いだろうからな」


「了解した。手配しておく」


ラミットの了承を得る事無く、ラミットの入隊は決まった。


セリスとしては、ラミットが断る事はないと確信している為、既に決定事項であった。


こうして、現時点でのカリス率いる特殊部隊の人数は六人となった。










「いいなぁ・・・。私も兄さんの部隊に入隊したい」


トリーシャが呟く。


その顔にはその言葉を表すように羨望の表情を浮かんでいた。


「おいおい。お前は宮廷魔術師団に所属しているだろう? あそこは入るのが大変なんだから、一度抜けたら戻るのに苦労するぞ」


「そんな事分かってるよ。でも、兄さん達の部隊楽しそうなんだもん」


トリーシャの言葉にエルムストとシズクは苦笑する。


「まぁ、分からなくもないがな。だが、お前、何時の間にカリスの仲間達と打ち解けたんだ」


「私ね。間違っていたかもって思うんだ」


「間違っていた?」


「うん。幼い頃から聞かされてきたエルフや亜人。でも、実際の亜人、ミストちゃんやローゼンさんはそんなのとは全然違った」


「・・・・・・」


トリーシャの言葉を黙って聞き入れるエルムスト。


「先入観って怖いね。怯えなくていいものに怯えて。争わなくていいものと争って」


「・・・そうだな」


「ミストちゃんと接していた分かったんだ。この子も感情を持ち、恋をして、好きな人と一緒にいたいって思ってるんだって」


「俺達と何も変わらないってことか?」


「うん」


「そうか。それが分かればお前はまた一つ成長したって事だ」


エルムストはトリーシャの頭に手を置きそっと撫でる。


その顔には妹を慈しむ兄の表情がまざまざと表れていた。










その後、家族達と別れ、カリスは主都の町並みをミストとローゼンを連れて歩き回った。


二人は初めて見るアゼルナートの町並みに感嘆の息を吐いていた。


その表情を見て、カリスは満足したように笑みを浮かべていたという。


カリスは今日という日を有意義に過ごした。










~SIDE ロラハム~


「遅いですねぇ・・・。ラミットさん」


カリスさんが特殊部隊を率いる事になった日に、ラミットさんも参加すると言ってきてくれました。


ご両親であるジャルストさんやマズリアさんも了承し、領内に特殊部隊専用の宿舎も建てられ、僕達はそこを拠点に活動する事になりました。


まぁ、建てられたといっても、使われていなかった屋敷の別荘みたいなものを改修したものなんですけどね。


「んなら、俺からも紹介したい奴がいる。何日か待っててくれないか」


初めて宿舎にやって来たラミットさんがそう告げてから幾日が経ちました。


そろそろ戻ってきても良い頃なんですけどね・・・。


「まぁ、仕方ないだろ。傭兵だったラミットが紹介したいというんだ。きっとそいつも傭兵なんだろう」


「傭兵は活動が範囲が広いの。だから、連絡を取るのですら苦労するはずだわ」


カリスさんもローゼンさんも落ち着いていますね。


「ん? 誰か来たみたいだな」


えっ?


何で分かるんですか?


「・・・そのようですね。ロラハム。外に出るわよ」


「あ、はい」


僕は慌てて返事をします。


僕に声をかけた後、ローゼンさんは瞬く間に獣形態へと姿を変えます。


ラミットさんが連れてきた人が亜人に寛容な人かは分かりませんからね。


流石、ちゃんと考えています。


あ、考え事をしていたらカリスさんもローゼンさんも部屋から出て行ってしまいました。


い、急がないと。


「・・・・・・」


いつの間にかミストも準備を終え、カリスさん達を追っていました。


ぼ、僕が最後になってしまいました。


「・・・・・・」


よし、行きましょう。


「・・・ん」


扉を開けた僕の眼に映ったのは、太陽とその光を浴びて影になっている何かの姿でした。


見上げる形で眺めている僕達の前に、その影が降りてきます。


「待たせちまったみたいだな」


「遅いぞ。ラミット」


姿を現したのは、白く輝き神々しさを感じさせるペガサスに乗っているラミットさんととある女性でした。


「わりぃわりぃ。こいつ捕まえるの時間がかかってよ」


「わ、私のせいですか? 酷いです。ラミットさん」


「この方は?」


「ああ。こいつが俺が紹介したかった」


「アリア・ルナーゼンと申します」


アリア・ルナーゼンさん。


セイレーンに多く見られる水色系の髪をした綺麗な女性です。


とても傭兵には見えません。


でも、所々にある擦り傷、切り傷が、彼女が傭兵である事を示していました。


「こいつは家族の反対を押し切って傭兵になった変わり者でな。まぁ、よろしくしてやってくれ」


「変わり者って・・・。酷いです」


ラミットさんと仲が良いみたいですね。


何だか、弄られているようにも見えますが・・・。


「ラミット。彼女は了承してくれたのか?」


「ん? おぉ。こいつは強くなる為に傭兵やってるからな。特殊部隊なんて絶好の機会だろう? だから、一つ返事で了承してくれたよ」


「お世話になります。ですが、本当に私も入隊してよろしいんですか?」


「ん? どういう意味ですか?」


「あ、はい。もしかしたら、使い物にならないかもしれないんですよ?」


「ラミット。彼女の実力は?」


「あぁ。俺が保障してやるぜ」


「それなら、大丈夫です。ラミット程の実力者が保障するなら、貴方も相当の実力者でしょうから」


確かにそうですね。


この前模擬戦をした時に分かったんですが、ラミットさんは確かに一流の剣士です。


カリスさん程という訳ではないですが、戦場に出たら大活躍する事でしょう。


「そうですか。あ、それと敬語は使わなくて良いですよ。私の上司になる訳ですから」


「そうか。分かった」


「はい」


どこか安心した様子のアリアさん。


「どっちにしろ模擬戦でもして実力は確かめておいたほうが良いんじゃねぇか?」


「もちろんそのつもりだ。覚悟しておけよ。アリア」


「えっ? あ、はい。・・・やっぱりそうなりますよね」


アハハとアリアさんは苦笑いを浮かべています。


何だか、アリアさんとはすぐに親しくなれる気がしました。


~SIDE OUT~










~SIDE アリア~


「・・・・・・」


ラミットさんに連れられてやってきたのはアナスハイム領?・・・でしたっけ? そこに拠点を構える特殊部隊の宿舎でした。


ラミットさんに『強くなれる』と言われやってきたのですが、どういう意味でしょうか?


「アリア。お前は誰と模擬戦をしたい?」


早速ですか・・・。


でも、誰と聞かれても誰がどんな人でどんな戦闘をするかなんて分かりませんから選べませんよ。


「・・・・・・」


私の前にいるのは隊長になるらしいとても容姿の整った男性、帽子を被った可愛らしい女の子、銀色の狼、まだまだ少年の域にいる男の子の四人です。


・・・というか、あれって銀狼ですよね。


「あの・・・そこにいる方は銀狼ですよね」


「ん? ああ。そうだが」


「それなら、別に獣状態でなくても良いですよ。銀狼が亜人だって知ってますから」


「へぇ。そうなのかい? 知らなかったぜ」


ラミットさん。


相変わらず反応薄いですね。


「・・・良く知ってるな」


驚いた顔で隊長さんがこちらを見ています。


銀狼さんは・・・こっちを睨んでいますね。


疑われているのでしょうか?


弁解しておきましょう。


「私はセイレーンの生まれでして。銀狼と接する機会があったんですよ」


「銀狼と接する機会? 銀狼が街中にいる事なんてないと思うが?」


「あ、二、三年程前に、王宮が銀狼を保護するという事があったんです。その時に預かる事になりまして」


「・・・アリア。感謝する」


「えッ?」


突然頭を下げられました。


ど、どういう事でしょう?


まるで状況が掴めないのですが・・・。


「私からも感謝するわ。保護してくれてありがとう」


いつの間にか人型になっていた銀狼さんにお礼を言われました。


それにしても・・・綺麗な人ですね。


整った顔立ちで、風に靡いた長く綺麗な銀髪が神聖な印象を与えます。


「あ、いえ。いいんですけど、何で隊長さんも頭を下げるんですか?」


「密漁団から私達銀狼を救って、王宮部隊に保護を依頼したのがカリス様だからよ。ホントはカリス様が頭を下げる必要はないんだけどこういう方なの」


立派で律儀な方ですね。


隊長さんは本来なら王宮部隊が行う事をして、それでなお保護してくれた事に感謝しています。


人が良いと言った方が良いかもしれませんね。


「密猟という悲惨な目に遭った銀狼を保護してくれたんだ。感謝するのは当然だろう」


「カリス様。ありがとうございます」


笑顔で銀狼さんが隊長さんにお礼を言います。


当然のように、自分達の事を考えてくれている事が嬉しいんでしょうね。


隊長さんは良い人です。


「それにしてもだ。王宮が保護した貴重な存在である銀狼を預かるだなんて、アリアはの家は相当格式の高い貴族なんだな」


あ、バレちゃったみたいです。


まぁ、事情を知っている人が銀狼を預かったなんて聞いたらバレちゃうのも当たり前ですよね。


「だが、ルナーゼンなんて家名は知らないな。銀狼を預かってくれた貴族の家名は全て教えたもらったはずだが・・・」


教えてもらった?


どういう事でしょうか?


っと、その前に説明しないていけませんよね。


「あ、私、傭兵やるのに貴族だってバレたら困るので偽名を使っているんです。本名はバートンと言います」


「バートン?」


なんか、隊長さんが怪訝な顔をしています。


何かバートンで思い当たる事でもあったんでしょうか?


「バートンといえば、カルチェさんの家名だな」


カルチェ?


「兄様を知っているんですか?」


「そうか。カルチェさんの妹だったのか」


「意外と世間は狭いものですね。カリスさん」


「ああ。そうだな」


男の子の言葉に隊長さんが同意します。


二人ともどこか苦笑いを浮かべているようにも感じますね。


「兄様とはどんな関係ですか?」


兄様はセイレーンで外交官を務めています。


だから、他国に知り合いは多いはずですが、所詮は仕事上の関係なので、友人と言える方は少ないです。


兄様自身もそう言っていましたし。


でも、隊長さんは兄様を友人のように言っていました。


数少ない他国の友人。


一体どのような知り合って、どのように接してきたのか。


やっぱり気になりますよね。


「以前、俺がセイレーンにいた時に知り合ったんだ。カルチェさんには色々とお世話になった」


兄様がお世話をしてた。


も・・・もしかして!


「あ、あの、お名前をお聞かせ頂けませんか?」


「どうしたんだ? 改まって」


「ラミットさんは黙っていてください」


「おいおい。扱いが悪いな」


今はそれどころではないんです。


「ああ。俺はカリス・アナスハイム」


アナスハイム?


それはそうですよね。


ここはアナスハイム領なんですから。


・・・どうやら人違いのようです。


「セイレーンでなら、カリス・ラインハルトだな」


え?


ラインハルト?


・・・や、やっぱり!


ひ、人違いなんかじゃありませんでした!


「し、失礼しました。ラインハルト様だなんて思わず、数々のご無礼を」


私は慌てて頭を下げます。


「どういう事だい? カリスのダンナ」


「多分、あの事だろうな」


「あの事? おい、アリア。説明してくれ」


「とりあえず、頭を上げてくれ。そんな畏まる必要もないしな」


頭を上げるだなんて!


そんな事!


「だから、説明してくれって」


静かにしていてください。


ぶ、無礼ですよ。


「だそうだ。ラミットさんに説明する為にも頭を上げてくれ」


・・・いいんでしょうか?


「同じ部隊になるんだ。あまり変な意識はしないでくれ。戦場に立つ部隊としては不謹慎かもしれんが、楽しくやっていきたいからな」


「・・・分かりました」


そう言われてしまった頭を上げないわけにいきません。


私も同じ部隊になるのですから、楽しくやっていきたいですし。


「んで、どういう事だ?」


「はい。ラインハルト様は姫様を窮地から救い出した英雄としてセイレーンでは有名な存在なんです」


姫様は私達セイレーンの国民にとって神聖な存在であり、信仰する存在でもあります。


それは貴族であろうと平民であろうと変わりません。


姫様が亡くなる事は私達に影を落とす事になります。


国民の全てから愛されている姫様を救ったのです。


英雄と呼ばれるのは当たり前ですよね。


「救い出したってのはどういう意味だ?」


「姫様は時折平民の格好で各領地を視察していたみたいなんです。何でも国民と触れ合って、国民の視点からも国を眺められるようになりたかったとか」


「へぇ。立派な姫さんだな。良い指導者になると思うぜ。んで?」


「はい。危険な目にあうこともなくその視察が長く続いていたので、周りも安心して護衛の数が少なかった事に気が付かなかったみたいなんです」


「少なかった? 意図的に減らしていたという事か?」


「いえ。そういう意味ではなく、姫様の護衛にしては、質も量も足りなかったというわけです」


「なるほどな。姫様っていう事は国にとっての最重要人物の一人だ。護衛の数は多すぎても足りないぐらいだわな」


「はい。そんな矢先、姫様を盗賊団が襲ったんです。もともとは豪華な馬車で金目の物を奪う為だったらしいんですが、運悪く・・・」


本当にこの話を兄様から聞いた時はハラハラしました。


兄様は姫様から直接話を聞いたらしくて、臨場感溢れる語りでした。


ホント、兄様は人が悪いです。


「そんな所に現れたのがラインハルト様です。ラインハルト様は颯爽と現れ、単身で盗賊団を壊滅させてしまったそうです」


「へぇ~。そんな事が。流石はダンナだな」


「偶然その場にいただけだ。それに、誰だってそんな場面に出くわせば助けるだろ?」


当然のように言いますが、盗賊団に飛び込める人は中々いませんよ。


「その後、ラインハルト様は姫様の護衛部隊として、今後の視察に同行したそうです。妹姫様もその視察に同行されるようになり、二人を常に守護していたとか」


「姫様達はどうしても視察に行きたいと言っていたからな。聖巫女様にもお願いされたし、俺自身、興味もあった」


「護衛部隊に所属しているのはセイレーンの重鎮ばかりです。その中に名を刻んでいるラインハルト様もセイレーンにとっては重要な方なんですよ」


「そんな事はないと思うんだがな・・・」


いえいえ、そうなんです。


護衛部隊に所属しているというだけで、国民からは崇められるんですから。


それにしても・・・。


「・・・かの有名なラインハルト様がアゼルナートの方とは知りませんでした」


護衛部隊に所属するのは、国にとっての重鎮。


すなわち、セイレーン聖教国の根本を支える人という事になります。


そんな重要な役割を他国の方が担っていただなんて・・・。


少し信じられないです。


「まぁ、そう思うかも知れんな」


苦笑しながらラインハルト様が言います。


ラインハルト様もありえない事だって分かっているんでしょうね。


「だが、まぁ、安心してくれ。セイレーンにとっての他国に触れてはいけないような情報に関しては何も知らされていないからな」


「あ、ハァ・・・」


いえ、別にそれを心配していたわけではないですから。


ラインハルト様は仁義を貫く清廉潔白な方だと兄様からも聞いてますし。


もし、情報を知っていても、セイレーンがまずくなるような事はしないと思います。


今日会って、兄様が言っていた事も納得できましたし。


「俺としては、アリアがセイレーン貴族だという事の方が気になるがな」


あ・・・ですよね。


普通の貴族はそんな事しませんよね。


「カルチェさんの妹という点は、まぁ、気にしなくてもいいが、貴族が自ら傭兵業を営んでいるなんて中々聞かないからな」


「はい。まぁ、あの、ちょっとした理由がありまして」


「・・・理由。なるほどな」


ラインハルト様が黙り込みます。


「それで、アリア、誰と模擬戦をするんだ?」


「へっ?」


黙り込んだと思ったら、いきなりラインハルト様が口を開きます。


ですが、その内容が予想していたものとは大きく違い、私は間抜けな返事をして今いました。


・・・恥ずかしいです。


「だからだな、アリアは誰と模擬戦をするんだ? って聞いているんだ」


「あの・・・理由は聞かないんですか?」


私は理由が聞かれると思っていました。


それなのに、模擬戦の話をいきなりされたので、吃驚してしまったんです。


「特別な事情でもあるんだろ? まだ知り合ったばかりなんだ。今は聞かないさ」


「ラインハルト様・・・」


「だからな、俺達に話しても良い。そう思ったときにお前の戦う理由を聞かせてくれ」


「・・・はい。分かりました」


兄様の言っていたとおり、ラインハルト様は人の意思を尊重し、人の事を考えてあげられる優しい方でした。


私はこのような方が隊長の部隊に入隊する事が出来て嬉しく思います。


「・・・・・・」


ラミットさんもいますしね。


・・・よし!


まずは、この模擬戦で皆さんに認めてもらいましょう。


頑張れ、私。


~SIDE OUT~










~SIDE ローゼン~


「では、その・・・この中で弓が使える人はいますか?」


私の目の前で、アリアと名乗った女性がそう告げます。


彼女は私の仲間達である銀狼を保護してくれた家の娘。


感謝しても感謝しきれないわ。


「弓矢・・・ですか。僕は少しかじった程度ですから、相手にならないと思います」


ロラハムはカリス様から武術を教わっているわ。


そして、カリス様の修行は全ての武器の基本を一通り学ばせる事から始まるの。


武器を知ることでその対策が立てられるとか何とか。


だから、私も一応、全ての武器の基本は教わったわ。


まぁ、私は素手での活動が一番性に合ってるから何も使わないんだけど。


「・・・使えません」


まぁ、仕方がないわよね。


ミストは後方支援に特化しているし、何より元々戦わせるつもりはなかったから、カリス様も武術の修行はしていないわ。


精々、自分の身は護れるようにと棒術の基礎とちょっとした応用を教えてあげただけ。


それに、カリス様にしても、私にしても、ミストを危険な身に晒さないと固く誓っているの。


だから、日々の修練だって欠かさずに行っているんだから。


まぁ、理由はそれだけじゃないんだけど。


「私もかじった程度よ。ごめんなさいね。相手できなくて」


「い、いえ」


ごめんなさいね、アリア。


アリアに申し訳ない気持ちを抱えながら、私はカリス様を見る。


「分かってると思うが、俺は剣しか使えねぇからな」


面倒くさそうに告げるラミット。


となると、やっぱりカリス様しかいないわよね。


「それなら、俺が相手をしよう。ロラハム。すまないが、宿舎から弓と矢を持ってきてくれないか」


「あ、はい。分かりました。ちょっと待っていてください」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


ロラハムが宿舎へ走っていくのを見送っていると、突然アリアが慌てて声を発する。


「どうしたんだ? アリア」


「わ、私がラインハルト様と模擬戦だなんて、そんな恐れ多い」


あぁ、そういう事。


確かに、セイレーンでのラインハルトという家名の持つ力は凄まじいわ。


でも、今は模擬戦であり、隊長はカリス様自身よ。


模擬戦をする上でこれ以上ない相手だと思うけど?


「アリア、ただの模擬戦だ。それに、直接判断できるから、俺としてもやりやすい」


そうですよね。


カリス様。


「・・・分かりました。それなら、お相手お願いします」


アリアがそう答えるのとほぼ同時に、ロラハムが戻ってきてカリス様に弓矢を渡したわ。


カリス様の弓は他の弓と形状が違い、近接攻撃にも耐えられるよう頑丈で大きめに作られているの。


それに対し、アリアのは通常の弓と形状は同じなものの、それを構成する材料に高級さが表れているわ。


恐らく、武器としての性能は他を圧倒しているでしょうね。


アリアがそんな武器を如何に使いこなしているか。


それがこの模擬戦で明らかになるわけね。


楽しみだわ。


~SIDE OUT~










~SIDE ラミット~


「相変わらず流石としか言いようがねぇな。ダンナは」


俺の視線の先には互いに弓矢を手に持ち、相手に射続ける二人の姿がある。


方や直線的スピードに優れ、無茶な旋回も乗り主さえ付いてこれれば可能である竜。


方や舞うように空を駈り、グリフォン程ではないが細かい動きが可能なペガサス。


この戦いはそれぞれの乗っている生物の特性を活かし、なおかつ、敵の行動を妨げたものが勝利であると言えるな。


しかし・・・カリスのダンナは動きが大胆だな。


空中で一回転したと思ったら、急下降して相手に標準を合わせないし、距離を取ったかとを思えば、瞬時に方向転換して、一瞬で距離を詰める。


良くあんな機動に耐えられるよな。


傭兵として長い事戦場に立ってきたが、あんな機動見たことねぇや。


でもよ、アリアだって負けてねぇぜ。


ペガサス特有の駆るような機動や細かい動きでダンナを上手く翻弄している。


それに、ペガサスは空を飛べる種族で唯一戦場で活躍できるほどの陸機動が可能だからな。


陸に空にと好き勝手に駆け回ってやがる。


地上すれすれを飛ぶような真似をしなくても、地上を駆け回れるペガサスの機動はなかなか捉えづれぇもんだ。


陸にいると思ったら、突然飛び始めるんだからな。


それに、アリアの弓の腕前はかなり高い。


ダンナにしても割りと苦労しているだろう。


まぁ、あいつはあいつなりに努力していたみたいだからな。


全く、自ら傭兵になるってんだから、物好きな貴族だよな。


まぁ、それはダンナにも言えるみてぇだけどな。


物好きっていうか、なかなか見ない珍しい貴族だよな。


他国にまで、しかも、王家に繋がりがあるってんだから。


しかも、亜人は連れてるわ、平民から純粋な尊敬の念を受けてるわとそりゃもう多種多様。


言い方を変えれば、気違い貴族だよな。


まぁ、俺は嫌いじゃないがな、そんなとこ。


んで、そのダンナだが、ダンナはダンナでアリアに負けず劣らずの弓の腕前を持ってやがる。


はぁ・・・まったく。


信仰している訳じゃねぇから何とも言えねぇけどよ、ファレストロードってのは、カリスのダンナに優し過ぎるんじゃねぇのか?


ダンナの得意な得物はハルバードだろ。


何で、他の得物まで一級品の技術をもってやがるんだ?


・・・今度ダンナと剣で勝負してみるか・・・。


まさか・・・剣でまで負けねぇよな? 俺。


・・・まぁいいか。


今は眼の前の勝負に集中しないとな。


そろそろ佳境にでも入ったか?


~SIDE OUT~










~SIDE アリア~


「ハァ・・・ハァ・・・」


これが・・・ラインハルト様の実力。


まるで未来が視えているのではないかという程、こちらの動きを的確に先読みする眼力。


そして、その場所を正確に射抜く弓の技術。


その攻撃の前に、私は当たらないよう避けるだけで精一杯です。


ましてや、こちらから攻撃するにも、ラインハルト様の独特かつ高速な機動の前では狙いがまるでつけられません。


当たる!


そう思ったものでさえも、最小限の動きで避けられてしまいます。


高機動で移動しているのですから、ラインハルト様には迫ってくる矢がかなりの速度に感じるはずです。


それなのに、そんな事を微塵も感じさせない動き。


その動きに私は鳥肌が立ちました。


でも、何故でしょうか。


そんなラインハルト様を見ていると、気分が高揚してくる自分がいます。


文字通り、『一矢報いてやる』とそう強く思ったんです。


だから、私は諦めません。


ラインハルト様の胸を借りるつもりで、今出せる最大限の力を出し切ってみせます。


見てて下さいね。


ラミットさん。


~SIDE OUT~










「ご苦労だったな。アリア。俺としてもアリア程の実力者が入隊してくれるのはありがたい。力を貸してくれ」


カリスとアリアの模擬戦は結局、カリスの勝利に終わった。


弓の腕前は甲乙付けがたいものだったが、ライダーナイトとしての能力や乗っていた生物の能力が勝負を分けた。


ルルと常に旅をし、触れ合う機会も実戦経験も豊富なカリスとルルのコンビには流石のアリア達でも敵わなかったという事だろう。


更に言えば、ルルは竜の中でも最高級に近い巨体と能力を持った竜だ。


使いこなせなければ、その能力も発揮できず、振り回されるだけだが、カリスにはルルの能力を限界以上に引き出すだけのドラグーンとしての能力があった。


そのドラグーンとしての能力が勝負を決めたという事だ。


もし、カリスがルルの力を上手く引き出していなかったら、ここまでの明確な決着はつかなかっただろう。


負けはしないものの、もっと苦戦していた筈だ。


それ程、アリアとアリアのペガサスのコンビは優れていた。


まぁ、カリスの本気と比べれば、まだまだなのだが・・・。


何といっても、あくまでカリスの最上の得物はハルバードであるからだ。


カリスのドラグーンとしての実力はハルバードを用いた時にこそ最大限発揮される。


いずれ、ハルバードを使ったドラグーンとしてのカリスの実力をアリアも見ることとなるだろう。


「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。ラインハルト様」


カリスの言葉に、アリアは笑顔で応える。


完敗であったかも知れないが、アリアの中では非常に満足の出来る内容であった。


また、自分の目指すべき目標も見つかり、アリアは心の底から喜んでいた。


この部隊にいれば、絶対に強くなれる。


そうアリアが実感した瞬間であった。


「様付けはやめてくれな。これからは同じ部隊で活動する事になるんだ。もっと気楽に接してくれ」


「は、はぁ・・・」


「カリスのダンナもそう言ってるんだ。もっと気楽にやりな」


「わ、分かりました。頑張ってみます」


ラミットの言葉に、アリアは困惑しつつも肯定の言葉を返した。


「俺。ロラハム。ローゼン。ミスト。セリス。ラミット。アリア。計七人だな」


「カリスさん。メンバーはこれだけで良いんですか? 少なくないんですか?」


「いや。能力的にも俺は充分だと考えている。それに、少数の方が行動に移しやすいしな」


「そうですか。カリスさんがそう考えているなら、きっとこれで大丈夫なんですね。カリスさんの期待に応えられるよう頑張ります」


「ああ。期待しているぞ。ロラハム」


カリスの言葉に、ロラハムは笑顔で返す。


「移動の際には、ルルにローゼン、ロラハム、ミストを乗せる。ラミットはセリスのグリフォンに乗ってくれ。アリアはそのままペガサスに乗ってくれて構わない」


「分かりました」


「よし。それなら、俺達はセリスからの連絡が入るまで各自待機となる。各々自由に過ごして構わないが、なるべくすぐに連絡が取れるようにしておいて欲しい」


「分かったぜ。んで、俺達もあの宿舎を使っていいんだよな?」


「ああ。もちろんだ」


ラミットの問いに、カリスは苦笑しながら答える。


まるで緊張感のないラミットに、カリスのみならず、周りの者達も苦笑していた。


『あぁ、こんな奴なんだな』と。


「んなら、さっさと荷物を運んじまおうぜ。アリア」


「あ、はい」


「部屋は?」


「空いている所を好きに使ってくれ」


「はいよ。んじゃ、また後でな」


アリアを置いて、一人宿舎へと歩き出すラミット。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ラミットさん」


そんなラミットを慌てて追いかけるアリア。


「・・・慌しいですね」


「ハハハ。そうだな」


「まぁ、賑やかになるのは悪い事じゃないわよね」


「・・・楽しそうです」


そんなちょっとした寸劇に、周囲は唖然とした後、微笑みながらそう語る。


こうして、頼もしい仲間を得たカリス率いる特殊部隊。


今後、彼らはどのような活躍をしていくのだろうか?


だが、間違いなく、この部隊は名を轟かせる事となるだろう。


アナスハイムの名がより国中に知れ渡る日はそう遠くない。

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