『水もしたたるいい男二人とかわいい女とキュウリのプレスマン』
川井村というところの帯の淵と呼ばれる淵のあたりを、ある娘が歩いていた。多分、かわいい娘である。むしろ、そうでないと、せっかく川井村なのに、気の毒である。
淵から、実にいい男が出てきて、手招きをする。いい男は嫌いではないので、かわいい娘が近寄ると、いい男は、すまないが、この手紙を、業の淵に届けてはくれまいか。業の淵に着いたら、手を三つ打つと、男が出てくるから、その人に渡しておくれ、と言った。本物の、水もしたたるい男、である。
かわいい娘は、そう大したことでもないので引き受けた。業の淵へ向かって歩いていると、一人の修験に行き会った。修験が、手に何を持っているか尋ねるので、事情を説明すると、ちょっと見せてくれと言う。見せるくらいならいいかと思って、手紙を見せると、なるほど、思ったとおり、速記で書いてある、などとつぶやいて、辞書のようなものを何度か引いて、娘よ、これは大変な手紙だ。お前さんが青尻で、とてもうまそうだから食べてみろと書いてある。わしが書き直してやろう、と言って、そのへんの草を抜いて、その汁で、さらさらと何か書いたかと思うと、手紙を返してくれた。
かわいい娘が、青尻とは何かと尋ねると、修験は、尻が青いことだと答えた。かわいい娘が、自分の尻は青くないと思う、と言うと、尻が青いというのは若いということだ、と教えてくれた。ついでに、若い女は、尻子玉が柔らかくて、川の妖怪からするとおいしいのだ、とも。
かわいい娘が、どのように書きかえたのか尋ねると、この娘は、尻が青い若輩者だが、見どころがあるので、キュウリのプレスマンをやってくれ、と書きかえた、と答えた。キュウリのプレスマンとは何のことか、とかわいい娘が尋ねると、修験は、業の淵の妖怪は、そこで考え込むはずだから、そのすきに逃げろ、と教えてくれた。
かわいい娘は、もっといい書きかえ方がありそうな気がしたが、まあ、せっかく力を貸してくれたので、礼を言って、手紙を業の淵に届けに行った。
業の淵に着いたかわいい娘が、手を三つ打つと、これまたいい男が淵からあらわれた。水もしたたるいい男第二弾、である。かわいい娘は、このいい男が、実は妖怪であることを残念に思いながら手紙を渡すと、水もしたたるいい男の妖怪第二弾は、手紙を読んで、キュウリのプレスマンとは何のことだ、あ、そういうことか、と、ほとんど悩まなかったので、かわいい娘は逃げる時宜を失ってしまった。仕方がなく、そのまま待っていると、水もしたたるいい男の妖怪第二弾は、緑色のプレスマン三本一袋入りを娘にくれた。なるほど、キュウリのプレスマンと呼ぶにふさわしい。
かわいい娘は、そんなこんなで、妖怪に食べられずに済んだので、緑色のプレスマンを使って速記の練習をし、いつかまた、水もしたたるいい男の妖怪から手紙を託されたら、家来になってやれ、とか、淵を明け渡せ、とか、友達を集めて飲み会を開いてやれ、とか、好きに書きかえてやろう、と、夢を膨らませるのだった。
教訓:赤いプレスマンは、鷹の爪のプレスマン、などと呼ぶのがよい。